1. 蔵の全壊から「日本一美味しい日本酒」へ:“新澤醸造店”が紡ぐ、伝統の140年間と復興の5年間

蔵の全壊から「日本一美味しい日本酒」へ:“新澤醸造店”が紡ぐ、伝統の140年間と復興の5年間

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 出品酒世界最多、日本一美味しい市販酒が決まる、唯一日本酒だけのコンペティション「SAKE COMPETITION 2016」が先日開催された。今年は「消費者が本当においしい銘柄に巡り合えるように」との意味合いを込めて、5部門ごとの表彰となった。その中の純米酒部門で1位を獲得した酒蔵が、宮城県の“新澤醸造店”だ。2011年の震災から5年、新澤醸造店がどのようにして復活を遂げたのかについて紹介する。

震災による酒蔵の被害

 新澤醸造店本社の所在地は、宮城県大崎市三本木。合併前の三本木町の地で、140年にわたって酒造りをしてきた酒蔵だ。

 大崎市三本木は、宮城県の海側に位置しているが海沿いではない。しかし、震災の強い揺れの影響で、明治6年建造の三本木の蔵は全壊判定を受けた。蔵全体が倒壊こそしなかったものの、柱の傾きによる全体の歪みや土台のずれが生じたのだ。
 “日本酒”そのものの被害も大きかった。仕込んだばかりの酒瓶数万本が損傷。さらに、大型タンクで熟成中だった日本酒6,000リットルは、停電による管理不足でほとんどが廃棄処分になってしまった。蔵に寝かせていた1年分の売り物の7割が、廃棄となったのだ。

 建物、日本酒、どちらとも大きな被害を受けて、歴史ある蔵は「取り壊す」という選択を余儀なくされた。

どのようにして復活をしたのか?

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 新澤醸造店の社長である新沢巌夫氏は、蔵の建て替えか移転か、という2つの選択肢に迫られた。全壊認定をされた蔵の貯蔵所で酒造りをしていたが、余震のたびに砂ぼこりが舞い、とても補強でどうにかなる状態ではなかった。

「蔵全体を建て替えるとなると数億円の資金が必要とのことでした。しかも工事期間中は何もできない。一方で、地元との繋がりを断つことはできないというジレンマもありました」

出典:創業140年の蔵を離れて、新たなる挑戦~新澤醸造店・川崎蔵 前編 ...
 蔵の従業員も、ほとんどが地元三本木で暮らしていた。社長が、蔵を地元に残すか移転するかで葛藤していたとき、三本木から70km離れた川崎町で売却物件となっている蔵を発見した。山形県との県境にある川崎蔵は、きれいな水もあり、新しい設備を作ることのできる規模を誇るものだったのだ。

川崎蔵への移転後

 2011年11月1日から川崎蔵へ移転。しかし、受注・発注を行う本社機能は三本木に残した。これによって社長のジレンマを解消することができた。

 酒造りに欠かせない水・環境・人材、すべてを一新しての再出発となった。新澤醸造店は移転について、“被災によるやむを得ない選択”ではないとしている。川崎蔵の規模、良質で豊富な天然水……これらによって、「新・新澤醸造店」として好スタートをきることができたのだ。

純米酒部門1位「あたごのまつ 特別純米」とは?

 SAKE COMPETITION 2016の純米酒部門1位を受賞した「あたごのまつ 特別純米」とは、どんな日本酒かについて紹介したい。

 米は、酒米ではなく宮城県産のササニシキを使用。さっぱりとした上品な味わいのササニシキを60%まで磨き上げている。ぶどうやメロンを思わせる香りが鼻腔をくすぐり、柑橘類のような爽やかな酸味が切れ味を出す食中酒だ。

 純米酒は“食中酒”として飲まれることが多い。食中酒は料理に合うような味わいになっており、刺身との相性は抜群である。

 新澤醸造店は「究極の食中酒」をモットーに、杯がすすむきれいな酒造りを目指している。今回受賞した「あたごのまつ 特別純米」は、そのモットーを具現化したお酒となっているので、ぜひ一度試してみてほしい。

新澤醸造店の他のお酒について紹介

 新澤醸造店が作っている他の人気銘柄についても簡単に紹介したい。
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 一つ目に紹介する日本酒は“伯楽星(はくらくせい)”。

 本社のある三本木地方では、伯楽(馬の目利き)が大切に育てた名馬は時がくると天に昇った、という伝説が名前の由来となっている。

  純米大吟醸で、酒米は最高ランクの兵庫県の秋津地区の山田錦だけを使用。写真のものは伯楽星の中でも最高峰のものだ。

 バナナやメロン、いちごを思わせるような香りで、ふくよかで柔らかな甘みが特徴。
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 二つ目に紹介するお酒が“超濃厚ヨーグルト酒”だ。

 新澤醸造店では、日本酒以外にも「和りきゅーる」づくりにも挑戦中。梅酒や紅茶酒など、個性的な日本酒ベースのリキュール酒の生産に取り組んでいる。

 乳牛のなかで、もっとも濃厚な牛乳を出すジャージー牛の生乳100%を使用している。甘さの中にも、ヨーグルトらしい爽やかさがあり、お酒が苦手な人でも飲みやすい味わいになっている。


 以上、新澤醸造店が震災から立ち上がっていく様子について紹介した。震災によって建物と商品を失うことになっても、粘り強く経営を続けた社長の新沢巌夫氏。困難にあっても挫けない様子から、地元の人への恩や酒造りへの思いを感じた読者もいるのではないだろうか。震災から5年が経過。未だに復興が進んでない地域もあるが、東日本の被災者の方も地場産業も、一歩ずつ復興へと歩みを進めている。

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