1. 多数決と暴力は何が違う? 世界のあり方を決める「多数決=民主主義」の危険性『「決め方」の経済学』

多数決と暴力は何が違う? 世界のあり方を決める「多数決=民主主義」の危険性『「決め方」の経済学』

by A ONE-MAN ARMY RETURNS TO NO-MANS' LAND
 幼い頃から多くの場面で、集団における選択を迫られた際に「多数決」を使ってきた人がほとんどだろう。「多数決」は子供から大人まで、プライベートからビジネスまで今日も使われている。なぜなら、あらゆる意思決定の方法の中で、多数決が最も平等で妥当な「民主主義的方法」だと、人々が思っているからだ。

 日本時間2016年6月24日、世界経済に激震が走った。イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票で、離脱が過半数を超えたのだ。この日まで残留派と離脱派の世論はちょうど半分に割れていたが、離脱派が最終的に上回った。イギリスのEU離脱から、私たちは「多数決の危険性」を改めて理解する必要がある。そして、真の民意を反映させる民主主義的な意思決定法とは何なのか、私たちは考えなければならない。

 そこで今回は、慶應義塾大学経済学部教授である坂井 豊貴氏の『「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する』から、「多数決の危険性」と「民主主義」について見ていく。そして、私たちはどう民主主義を実現させるべきなのか考えていくとしよう。

民主主義の象徴「多数決」の持つ危険性とは

by SandoCap
 「多数決」の危険性について最も考えなければならないのは、私たち日本人である。もちろん、どの国の国民も多数決が本当に民主主義なのかは疑う必要があるが、特に日本は単純な多数決による意思決定が多いのだ。国の政治を大きく左右する選挙においても、投票できるのは候補者から1名だ。さらに、大阪都構想などの政策も是か否の二択を問うものばかりだ。

 民主主義において、真の民意を汲み取るということは必ずしも大多数の意見を尊重することではない。つまり、多数決を行うことは民主主義を実行するということにはならないのだ。もっと言えば、二択を迫られることが真の民意だろうか。「本当はその二択の妥協案を提案したい」というのが真の民意ではないだろうか。多数決はこうした民意を除外してしまう危険性があるのだ。

 さらに、多数決は有権者全員の民意を反映したものではなく、投票した有権者の民意だけを反映したものである。例えば、今回のEU離脱で「多数決の危険性」が訴えられている背景に、投票率が72%ということが挙げられる。残り28%の人々は「まさか本当に離脱するとは」「あまり関心がない」と思っていた若者が中心であった。そのため、イギリスでは国民投票の再投票を求める動きが活発化している。民主主義を実現するのに、多数決だけでは欠陥があることが分かっただろう。

真の民主主義の実現へ、多数決の3つの使用条件とは

 多数決の危険性は先ほど述べた通りだが、多数決が全く有効ではないということではない。要するに、多数決はあくまで意思決定の方法の中の一つであり、多数決を使用する条件さえ整っていれば、民主主義を実現することができるのだ。多数決を正当化することができる3つの使用条件をご紹介しよう。

①多数決の対象に、皆の共通の目標がある時

 例えば、陪審における多数決の対象は罪人であり、共通の目標は罪人の有罪・無罪を判断することだ。もし、罪人を有罪にすることで陪審員それぞれにメリットがない場合、公平な多数決が成立させられるため、多数決は有効だと言える。つまり、「私的な利害」が大きく影響しない場合には、多数決は民主主義の実現には繋がるのである。

②自分の判断が正しいという自信がある有権者である場合

 例えば、自分の判断が正しい自信がある有権者による多数決は、有権者が多ければ多いほど正しい結果に近づく。逆に正しい自信がない有権者による多数決は、有権者が多ければ多いほど正しくない結果に近づくのだ。正しい自信がない有権者による多数決は滅多にないが、関心はあるが知識はない有権者もそれに該当するのだろう。

③有権者が各自で判断する時

集団のなかに1人の「ボス」がいて、皆がそのボスの判断に従うとき。

出典:「決め方」の経済学ー第9章136ページ

 もし、有権者が各自で判断しなければ、誰が判断するのだろうか。それは、有権者の集団の中でボスと言えるポジションの人である。ボスの決めた意思に「なんとなく従う」「勝ち馬に乗ろう」と有権者が思考を介さない場合、多数決の意味を失ってしまう。有権者一人ひとりが判断するからこそ、多数決が意味を成すのである。

多数決を正当化できる3つの使用条件

  • 多数決で決める対象に、皆の共通の目標がない時
  • 自分の判断が正しいという自信がある有権者である場合
  • 有権者が各自で判断する場合

民主主義を実現する多数決へ、ボルダルールとは

出典:money.usnews.com
 多数決の欠陥の代表例が、1番有効と思われるものだけを選出するということである。例えば、3人の候補者から1人を選出する際、「Aには投票しないけど、BとCのどちらか迷う」という意思があったとしても、選ばれなかった方はAと同じ評価ということになってしまう。

ボルダルールは満場一致に近い決め方である

出典:決め方の経済学ー第2章44ページ目
 こうした多数決の欠陥を埋める改良版の多数決が「ボルダルール」である。ボルダルールは1番には3点、2番には2点、3番には1点というように、1番以下の投票全てが有効となる多数決だ。ボルダルールは、従来の多数決よりも緻密な民主主義を実現するだろう。

 ボルダルールの特徴は、「幅広い支持を獲得した対象」が採用されるということである。例えば、有権者全員が2番手に投票した対象があるとすると、多数決では0票であるが、ボルダルールでは1番を含む上位に食い込むことが予想される。さらに、ボルダルールは満場一致に最も近い結果を生むことができる。つまり、「大多数有利」の民主主義ではなく、「みんなのため」の民主主義が実現できるのだ。

 しかし、ボルダルールにもリスクはあり、組織力の高い集団による他の候補者に似た存在である「クローン候補」を擁立して上位を独占することができるのだ。この危険性をクローン問題と言う。クローン問題が起こり得ない場合には、ボルダルールが多数決よりも優良な民主主義の実現を可能にするだろう。


 私たちは日々、集団における選択を多くの場面で迫られている。だからこそ、民主主義を実現するために使われてきた多数決が、「数の暴力」という危険性を持つことを意識しなければならない。ボルダルールは「数の暴力」を排除した一例である。どんな選択方法が良いのか考えることも重要だが、何よりも民主主義とは何かを考えることが重要なのだ。

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