1. 「三重県知事×クリエイティブディレクター」の対談から見えてくる、日本人が忘れてしまったものとは

「三重県知事×クリエイティブディレクター」の対談から見えてくる、日本人が忘れてしまったものとは

 2016年5月26日、27日に開催されるサミットを前に、世界中から注目が集まる三重県。

 今回は40代という若さでリーダーシップを発揮し、日本の魅力、地方都市の持つ可能性を世界に発信し続ける鈴木英敬知事と、日本の伝統産業を独自の目線でアップデートし続ける丸若屋の代表・丸若裕俊さんが対談。 

 日本を素材に新たな価値を作り出しているふたりが、21世紀における日本の可能性について話し合った。

 対談の前に、知事室の一角を借りて日本茶を淹れ始めた丸若さん。 従来の伝統的な日本茶の概念を変えようとイメージの刷新に取り組んでいる最中とのこと。 

 茶葉を煎り、湯を沸かし、部屋中にお茶の優しい香りが漂い始めたころ、知事が到着した。

鈴木 英敬 プロフィール

すずき・えいけい/1974年生まれ。東京大学経済学部卒。98年通商産業省(現:経済産業省)入省。 
2011年4月に三重県知事に当選。全国最年少知事となり現在2期目。 
首都圏での営業拠点「三重テラス」開業、企業投資促進制度「マイレージ制度」を創設するなど政治手腕を発揮する。 
16年5月26、27日に開催されるG7「伊勢志摩サミット」の誘致を牽引したことでも注目を浴びる。

丸若 裕俊 プロフィール

まるわか・ひろとし/丸若屋代表、クリエイティブディレクター。 
イタリアファッションブランド勤務などを経て、2010年に株式会社丸若屋を設立。伝統工芸から最先端の技術まで今ある姿に時代の空気を取り入れて再構築、視点を変えた新たな提案を得意とする。 
14年、パリのサンジェルマンにギャラリーショップ『NAKANIWA』を、16年1月にはパリのマレ地区にライフスタイル提案ショップ『アトリエ・ブランマント』をオープン。日本の手仕事の魅力を発信している。

東京に飽きてしまった若者たち

鈴木  対談相手にお茶を淹れていただくのは初めてです。美味しいお茶ですがこれは…

丸若  実は三重ではなく、あえて静岡のお茶をお持ちしました。 お時間を取らせず気軽に飲んでいただくにはほうじ茶がよい、と思い、いま美味しいと思うほうじ茶が静岡のものでしたので。

鈴木  なるほど。心がホッとする大変いいお味でした。 静岡はお茶の生産量が全国1位ですが、三重も静岡、鹿児島に続いて全国3位の生産量を誇ります。 

旨み成分のテアニンが豊富な「かぶせ茶」というのが有名で、よく飲んでいますから、静岡のほうじ茶のキリッとした味わいもまた新鮮に感じますね。

丸若  今日は知事と、日本や地方が持つ可能性についてお話できたらと思います。 僕は伝統産業を扱う仕事柄、産地や職人を訪ねて地方にもよく行く機会がありますが、最近は身のまわりの知人や友人の中でも地方に興味を持つ人が増えています。 

というのも、東京にはあらゆるサービスや情報が溢れていますが、東京の人間たちはそれにはもう飽きてしまっている。
 
仕事や子育ても含め、まだしたことのない経験ができるのは地方かもしれない、と若い世代が昔よりもはるかによいイメージを持って地方を見つめている側面があると思います。
鈴木  たしかに移住希望者は年々増えており、三重県の移住相談センターには700件ほどの相談が寄せられていますが、その7割が20~30代。 

大杉谷という山奥の廃校を利用して自然学校を運営しているNPOのもとには、都会の若者がたくさんやってきます。

米作りなど都会ではできない経験ができる、という楽しさもあるのでしょうが、聞いているとそれよりも「土鍋を使って、仲間と炊いた米は本当に美味しかった」とか、根本には自分で何かを成し遂げたという自己肯定感や達成感を得られた喜びのようなものがある。

丸若  人も情報も多い都会では、一人ひとりが達成感や肯定感を感じるのは、難しい現状がありますよね。

鈴木  過去に経済的にどんな実績をあげたとか、8カ国語しゃべれますとか、20代でベンチャー企業を立ち上げていますとか、そういう人たちがゴロゴロいる都会では承認欲求が叶いづらい。 

そういう物質主義、実証主義というのでしょうか。目に見える数字や成果で評価を出さないと生き残れない、という流れのひずみみたいなものも地方にいると見えてきます。

丸若  僕はパリにお店を構え、フランスの人たちと交流するなかで実感していることなのですが、20世紀まで日本は海外の物質主義を真似て、追いつけ追い越せと経済的に豊かになろうと努力してきた。

しかし21世紀になって今度は欧米が「精神的なことを大事に」と、かつて日本が大事にしており、いま忘れかけている部分に目を向け始めている。 

東京の人間が都会に飽きているのと同じで、物質主義的な価値観に世界全体が飽き始めている感覚はたしかにあります。
———地方にいても、海外と行き来をしていても、物質主義からの脱却のような動きは感じられる、ということでしょうか。

丸若  僕、日本人ってM体質だと思うんですよ(笑)。受け入れることに快感を感じるところがある、という意味ですけどね。だから欧米の新しい文化が入ってきたときに、これまでの自分たちを変えるのがきっと楽しかったんじゃないか、と。

鈴木  サミットをきっかけに海外31カ国のメディアが三重にやってきました。 最初は僕たちも「三重のこんないいところを伝えたい!」と、伊勢、伊賀、熊野とすべてを網羅したスケジュールを組んだらものすごく不評で(笑)。
 
むしろ自由時間をたっぷりとって、各々の関心に沿ったアレンジができるようインフォメーション機能を充実させるようにしたら、記事化されることが増えてきました。

たとえば、あるフランス人のシェフはとにかくコシヒカリのことが知りたい、と。三重は西日本一の生産量を誇りますし、なかでも伊賀のコシヒカリは5年連続で特Aの評価をもらっている。 

生産の様子や、おにぎり、和菓子などをゆっくり体験してもらったら非常にいい記事にしてもらいました。どれだけたくさん紹介するかという物質的な発想ではなく、そこでできる体験や物語性が求められているんですよね。

丸若  本来、そういう目に見えないものを重んじていた日本人が、いまそれを忘れかけているんですよね。 パリは長らく日本ブームですから、私たちの扱う焼き物などに興味を持つ方はたくさんいる。 

なのに背景にある物語を忘れて、とにかく日本のものを何でも紹介すればいい、というごり押しを日本人のほうがしがちな面が出てきてしまっているんです。

次世代リーダーの鍵は、「面倒」という価値を理解し選択できるかどうか

———これからますますグローバル社会の波がおしよせます。日本がこれから国際社会で生き残るために、何が求められるとお考えですか。

鈴木  日本の未来像、というところで考えると、三重県から日本や世界に提供できるヒントがあると思っているんですよ。以前、視察でヨーロッパを訪れたときに、取材を受けて伊勢神宮の式年遷宮の説明をしたんです。 

20年に一度、神殿を新造して神様にお遷りいただく、それを1300年続けているというと「じゃあ、1300年持つ石で作ればいいのでは?」と言われまして。 

物質主義的な効率発想でいくとその通りですが、じゃあ同じく1300年の時を経たギリシャのパルテノン神殿はどうなっているか、というともはや遺跡になっているわけですね。でも、かたや伊勢神宮は今も美しい姿のまま残っている。

丸若  なるほど。面倒くさいことが実は本質的な近道である、ということは往々にしてありますね。

鈴木  伊勢神宮を世界遺産に、という声もありますが、伊勢神宮側は「遺産ではないから」とお断わりをしているんですね。 

この手間をかけながらも、美しい状態を保ち続ける背景には、変化し続けることで永続性を保つ、という神道の「常若(とこわか)」という思想があります。 

常に若々しくいるためにも、変えるべきものは変え、変えてはいけないものは変えない。そしてそこには中間があって、変えてもいいもの、というのがある。 

実は、ここをどうするかが難しい。
鈴木  これからの日本、そして日本を担っていくリーダーは、変化し続ける社会のなかで大事なものを守りつつ、変えるべきところは変える。そして変えてもいい部分については、人と理解を深めてコミュニケーションを取りながら結論をちゃんと導き出せる人でなくてはいけない。 

どういう実績をあげたかよりも、なぜ変えてはいけないのか、という精神性や行動習慣にも目を向けられる人材が日本らしさを発揮できるリーダーと言えるように思いますね。

丸若  面倒なことを排除する、というのは効率を重んじる物質主義が最初に切り捨てたところです。 しかし実際は、かけた手間や人の思いなどの熱量のほうに人の意識は向いている。 

伝統産業を扱うときも、同じ問題が起こりがちで、僕は「アップデート」という表現をしていますが、変化をしないと生き残れないのだけれども、残すべきものは残していかなければいけない。 

その采配こそが、これから求められるリーダーシップ、という点は非常に共感します。


 新しいものを取り入れ、消費で成長してきた20世紀型の社会から、よりこころの満足感を求める動きへ。 リーダーシップにも数字的な成長だけでなく、目に見えない価値を理解し、人の心を潤す視点が求められてくる。

ふたりの話は後編へと続く。

Interview/Text: 木内アキ

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