1. なぜ佃製作所は大企業に勝利することができたのか:中小企業の王道をいく佃製作所の勝ちパターン

なぜ佃製作所は大企業に勝利することができたのか:中小企業の王道をいく佃製作所の勝ちパターン

by Linnoinen
 前回は、SWOT分析の紹介と使うときのポイントを押さえてきた。今回は、いよいよSWOT分析で「下町ロケット」のストーリーを読み解いていきたいと思う。

部品供給は思いつきではなかった!?

 今回は、ロケット編初期とガウディ計画編初期の佃製作所のSWOT分析を行ってみた。

 もしかしたら、影の立役者である殿村経理部長も佃製作所を危機から脱出させるべく、こんなSWOT分析をしていたかもしれない(あくまで想像だが)。

 まずは、ロケット編初期のSWOT分析だ。物語の序盤では、主要取引先からの取引停止、白水銀行からの融資打ち切り、ナカシマ工業からの特許訴訟、そして帝国重工からの特許買い取りといった脅威となる出来事が次々と襲いかかる。

 そういった外部環境を受けて、社内でも反乱分子が発生してしまい、後々バルブすり替え事件が発生してしまう。

佃製作所のSWOT分析~ロケット編

 物語初期のクロスSWOTでは例えば以下の戦略オプションが考えられる(クロスSWOTの説明は前回参照)。

物語初期の戦略オプション

  • ①強み×機会...特許や熟練工による精度の高い技術で帝国重工のロケット開発に関わり、国産ロケットを実現する
  • ②強み×脅威...技術力や丁寧さ、中小ならではのスピード感で帝国重工の特許買い取り圧力をチャンスに変えていく
  • ③弱み×機会...帝国重工との取引実績をつくることで、営業力の強化を行い、赤字を改善していく
  • ④弱み×脅威...ナカシマ工業と和解し、傘下に入ることで、営業力を強化する。反抗的な社員に対して安定的な生活も提供する
 さて、佃製作所はどのような戦略を取って行ったのだろうか。まず、佃社長は自身の夢もあり、(①強み×機会)の戦略を選択したものの、その後、帝国重工の部品供給テストでさらなる圧力を受ける。

 しかし、技術力や丁寧かつスピード感のある対応でピンチをチャンスに変えていく(②強み×脅威)。ナカシマ工業との特許訴訟では、一度は、ナカシマ工業の傘下に入ること(④弱み×脅威)を検討するが、救世主とも言える神谷弁護士の機転により、逆訴訟を行い、結果的に和解金を得て資金繰りを改善し、帝国重工への部品供給に弾みをつけた。

 そして最終的には、帝国重工との取引実績をつくることに成功し、営業力を強化することに成功した(③弱み×機会)。

佃品質・佃プライドでロケットも人工弁も

 次にガウディ計画編。物語は帝国重工への部品供給が実現し、ロケット打ち上げが成功した後からはじまる。日本クラインからの人工心臓部品の開発依頼を機会と捉え、量産見込みの見積で引き受けるが、結果的にサヤマ製作所に奪われてしまう。

 また、帝国重工のバルブシステムもサヤマ製作所が登場したことで、コンペに切り替えられてしまう。さらに、人工弁の開発もサヤマ製作所と繋がりのあるアジア医科大学の貴船教授が裏からPMDA(医薬品医療機器総合機構、TBSドラマではPMEA)に手を回したことで、審査を引き延ばされてしまう。

 一方で、ロケット編を通して、神谷弁護士や帝国重工の財前部長との信頼関係が構築され、強みとなった。また、帝国重工への納入実績が評価され、他社との取引も増えたことで業績も好調。しかし、巨額投資を実施したことで、財務状況は悪化しているようだ。再び危機的状況に陥った佃製作所はどのような戦略をとったのか見ていこう。

佃製作所のSWOT分析~ガウディ計画編

 ガウディ計画編での戦略オプションの一例は下記のようになる。

ガウディ計画編での戦略オプション

  • ①強み×機会...佃品質・佃プライドで人工心臓や人工弁などの高耐久性・高精度な部品に対応し新規事業に参入する
  • ②強み×脅威...財前部長との関係性を活かしながら、技術力をもって帝国重工のコンペに勝ちサヤマ製作所の攻勢を退ける
  • ③弱み×機会...ロケットバルブ開発と人工弁開発を成功させることで財務状況を改善する
  • ④弱み×脅威...賠償責任リスクの高い人工心臓や人工弁の開発から撤退し、帝国重工のコンペに集中する
 佃社長は、当初は、人工心臓や人工弁の開発から撤退する戦略(④弱み×脅威)を取ろうとするが、サクラダに訪問し、桜田社長の亡き娘への想いに触れることで、人工弁の開発および新規参入(①強み×機会)を決意する。(②強み×脅威)については、サヤマの椎名社長の手腕が一歩上で、帝国重工・石坂調達部長との関係性を活かしながら、佃に技術では劣るものの、共同研究を持ちかけたことで、佃はコンペに負けてしまう。

 その後も佃はめげずにガウディの開発を進めるのだが、ここで転機となるのが、人工心臓の臨床試験での失敗、そしてジャーナリスト咲間の登場だ。原作とTBSドラマで咲間の行動が若干異なるが、佃は、外部環境の変化、助っ人の出現を追い風にする。サヤマの失態により帝国重工のロケットバルブが採用され、さらにはガウディ計画への出資を取り付け、ロケットとガウディ両方の開発を成功させた(③弱み×機会)。

中小企業の王道をいく佃製作所の勝ちパターン

 佃社長は、「技術は嘘をつかない!」という名言を残しているが、佃製作所を研究開発型企業と捉え、技術を中心に据えて物事を判断していることがわかる。技術を強みとする企業は、その技術を機会にあてていく戦略(①強み×機会)をとる。佃製作所も例に漏れず、狙っているかどうかは別として、同様の戦略をとっている。

 一方で、資源の限られる中小企業らしく、(④弱み×脅威)は弱みや脅威を軽減する方策よりも、いっそ撤退してしまうことを優先している。下町ロケットが面白い点として、偶発的に外部の協力者が現れることで、撤退から免れ一発逆転していくことが挙げられる。

 しかし、実はここも技術力があったからこそとも考えることができるだろう。勝率8割の神谷弁護士も、国産ロケットを飛ばす夢を持つ財前部長も、ガウディの開発に行き詰った一村教授&桜田社長も、データ偽装を解明しようとした咲間も、佃製作所の技術力と技術への情熱があったからこそ、佃に惚れ込み、協力を惜しまなかったのではないでだろうか。

 最後に、佃社長の経営手腕という視点で見てみよう。佃社長は、ロケット編初期では、まだ技術者であり夢追い人であり、(①強み×機会)の戦略一択で突き進んでしまいっている。それゆえ社員から反発を買ってしまうことになる。訴訟も資金繰りも殿村経理部長や神谷弁護士の助けがなければクリアできなかっただろう。

 しかし、ロケット編を乗り越えた佃社長は経営者として成長している。ガウディ計画編では、同じ(①強み×機会)を選択するにしても、最初から(④弱み×脅威)というオプションを考慮に入れながら、会社のことを考えつつ夢の実現に向けて進んでいるのだ。


 SWOT分析は、この最初からさまざまな戦略オプションを立案することにとても有効である。佃社長のように選択を迫られた際には、SWOT分析/クロスSWOTを活用されることをお勧めする。


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