1. “未来を創る男”イーロン・マスクが描くテスラのビジネスモデル:タイヤのついたコンピューターか?

“未来を創る男”イーロン・マスクが描くテスラのビジネスモデル:タイヤのついたコンピューターか?

 昨年、本人公認の伝記である『イーロン・マスク 未来を創る男』(アシュリー・バンス著)の日本版の発売でも話題になったイーロン・マスク。そのイーロン・マスクがCEOを務め、日本にも上陸した電気自動車(EV)のパイオニアとも呼ばれるテスラモーターズ(以下テスラ)のビジネスモデルを2回にわたり取り上げてみよう。

テスラのこれまでの道のり

出典:www.digitaltrends.com
 まずは、テスラのビジネスモデルをご紹介する前に、テスラのこれまでの道のりを簡単におさらいしておこう。

 創業は2003年、決済サービスPayPalで成功を収めたイーロン・マスクが翌2004年に出資、2008年には同氏がCEOとなり、2010年には自動車メーカーとしては約半世紀ぶりに上場(ナスダック)を果たした自動車メーカーだ。

 創業来、1期を除いて赤字続きであるものの、時価総額は約300億ドル(日本円にして約3.3兆円・株価は2015年11月を参考)にも上っているこれは、フィアットクライスラーとほぼ同じ、GMやフォードの約半分の水準となっている。

 最初のモデルはRoadster(2008年)であり、2,500台の限定生産であったものの、多くのハリウッドセレブがオーナーとして名を連ねている。ブレークのきっかけとなったのが次モデルであるセダン型のModel S。

 さらに、昨年2015年9月からModel Xの納車が始まり、2016年3月末には3.5万ドル前後の低価格モデルであるModel 3が発表された。

 とはいっても、自動車市場全体からみればEV市場は1%にも到達していない。このようなニッチ市場で赤字を続けているテスラのどこに、株式市場は大きな魅力を感じているのでだろうか?

 まずは、テスラのビジネスモデルから見ていきたいと思う。

テスラのビジネスモデル

 ビジネスモデルキャンバスを使ってテスラのビジネスモデルの特徴的なコンポーネントをさっそく見ていこう。

顧客セグメント

 テスラがターゲットとしている顧客セグメントは、現在のところ大きく分けて3つある。

 1つ目は、EVに期待を寄せる裕福なアーリーアダプター層またはスポーツカーを愛する自動車マニア層。Model3が出荷されれば、一般消費者もターゲットとして視野に入っていくだろう。

 2つ目は、特許を取得しているEV技術コンポーネントを販売している自動車メーカー。

 3つ目は、自動車以外の蓄電池システム市場(個人および法人含む)であり、このセグメントは今後テスラが狙っていく市場である。

 2つ目と3つ目の顧客セグメントに対するテスラの戦略に関しては、次回(後半)で詳述していく。

価値提案

 イーロン・マスクが掲げるビジョンは、「持続可能な輸送手段の普及」であり、環境への配慮、安全性、高パフォーマンス、イノベーティブなパワートレイン技術などが具体的なテスラの提供する価値提案である。

チャネル

 ガソリン自動車の販売とのコンフリクトを避けるために、直営のショールームまたは専属ディーラーを経由して販売している。ディーラーとしてはガソリン車を販売する方が容易なためである。

 一方、自動車メーカーをはじめとする法人顧客に対しては、直接的なB2B営業を行っている。

顧客リレーションシップ

 テスラのビジネスモデルの中で最もユニークな点の1つが、OTA(Over The Air: 無線通信を経由)によって車両に搭載されているソフトウェアのアップデートだ。
 
 年に数回、ナビゲーション画面に「ソフトウェアのアップデートがあります」と表示され、承諾するとソフトウェアの自動更新が始まる。

 昨年に、オートパイロット(自動運転機能)のアップデートを解禁するという発表がなされ、大きな話題を呼んだ。

収益の流れ

 主要な収益は大きく、自動車販売、ライセンス供与、OEMによるバッテリー販売だ。これは、前述の3つの顧客セグメントに対応するものである。

リソース

 主要なリソースは、工場や充電スタンドをはじめとするプラント(物理的リソース)、優秀なトップマネジメントチームとスタッフ(人的リソース)、500以上の特許技術(知的リソース)である。また、トヨタは資本提携(財務リソース)や技術支援によってテスラのビジネスを支えていたようだ

主要活動

 中核となる活動は、R&D、ハードウェアとしての自動車やバッテリーの製造およびソフトウェア(インフォテインメントシステム:情報と娯楽に関する機能を提供)の開発だ。

 また、世界各国に充電スタンドの設置を行っている。さらに、2017年を目標にパナソニックと共同で、ネバダ州にリチウムイオンバッテリー工場である「ギガファクトリー」の建設を進めている。

パートナー

 テスラは中核となる自動車のアセンブリは自社で行っているが、世界中で150以上のサプライヤーから2,000以上のパーツを仕入れている。

 代表的なパートナーとして、奇美実業(光学電子ディスプレイ)、ガーミン(ナビゲーションシステム)、パナソニック(バッテリーパック)、Google(アースマップオーバーレイ)、エヌビディア(グラフィックプロセッサー)などが挙げられる。

コスト構造

コスト構造の中で最も大きな部分を占めるのが、プラントに関するものだ。イーロン・マスク氏によれば、事業を急拡大していくために、短期利益よりも生産性を最大化するための設備投資を継続して行う必要があると説明している。

次回(テスラの戦略とイーロン・マスクの構想)

 今回は、テスラのビジネスモデルに関して簡単に説明してきた。しかしながら、現在において年間数万台のEVを製造販売しているという側面だけでは300億ドル(2015年11月9日時点)という市場価値を説明することはできない。

 次回後編では、テスラの採用している戦略やイーロン・マスクが掲げる大きな事業構想について触れていきたいと思う。


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