1. 誰もが知ってるけん玉の、誰も知らない遊び方:けん玉パフォーマーが語る「ムーブメントを起こす極意」

誰もが知ってるけん玉の、誰も知らない遊び方:けん玉パフォーマーが語る「ムーブメントを起こす極意」

日本を代表するけん玉パフォーマンスユニット“ZOOMADANKE”のメンバーである、コダマンこと児玉健氏。明治大学で准教授を務め、ビジネスにも明るい経済学者・飯田泰之氏。世界中で”けん玉”が盛り上がりを見せている昨今、そのムーブメントの秘密を解明するべく、トークセッションを行っていただいた。有識者二人の熱いトークにより、けん玉だけに限らない、世の中を動かすブームやムーブメントの仕組みが明らかになった

児玉健 プロフィール

こだま・たけし/プロけん玉パフォーマー/人狼ゲームマスター 
1980年大阪府生まれ。リクルート系不動産会社を退社後、仕事を遊びに、遊びを仕事にするべく活動開始。大人がリアルに遊べるゲームスペース「ドイツゲームスペース@Shibuya」「人狼ルーム@Shibuya」を経営。また、舞台「人狼ザ・ライブプレイングシアター」のゲームアドバイザー、TBSテレビ番組「ジンロリアン~人狼~」やカードゲーム「はじめての人狼」の監修、リアルイベント「アルティメット人狼」「大人狼村」などを主催。 

けん玉の“難しさ”が普及に一役買っている。

——児玉さんもパフォーマーとしてご活躍されている“けん玉”ですが、3〜4年ほど前から大変な盛り上がりを見せています。今回はパフォーマーの視点と経済学者の視点から、その盛り上がりの秘密について解明できればと思います。まず、飯田さんはけん玉の盛り上がりの要因はどこにあるとお考えですか?

飯田:現在は“買ったその日からすぐに楽しめる娯楽”が人気を獲得する傾向にあると思います。携帯ゲームなんかは特にそうですよね。ガチャなど、すぐに楽しめる仕掛けが用意されています。対してけん玉は、買ったその日からすぐに楽しむことはできない。

囲碁や将棋と比べるとハードルは低いけれど、お手軽なゲームよりは高い。その絶妙なハードルの高さに魅了される人が多いのではないでしょうか。そう言った“最低限遊ぶのにハードルがある”娯楽が減っていたから、ちょうどはまったのだと思います。

児玉:確かに、けん玉はスキル・トーイというジャンルに属されます。同じものなのに、スキルが上がることでもっと楽しくなる。終わりがないんですよね。新しい技が世界中で発明されて、動画としてアップされる。

飯田:入るのに壁があるもの、始めるためにコストを払うものは離脱されにくい傾向にあるんですよね。けん玉は上手くなるのに時間がかかるけれど、その分一度習得したらそうそうは辞めにくい。また児玉さんのおっしゃるように、終わりがない。だからずっと続けていられる。それがけん玉の強みですよね。

インターネットの普及により、流行も世界規模で発生する時代

飯田:僕の世代ではヨーヨーが流行りました。ヨーヨーも、同じようなスキル・トーイと言えるかもしれませんね。当時は友達同士で見せ合ったり、ヨーヨー名人みたいな大人がテレビに出てきて難しい技を披露することで完結していた。しかし、今はネットがあります。世界中に発信することができる。見せたり、まねしたり、つながりがあることがスキル・トーイとしてのけん玉の魅力を高めていると思います。

一時期は衰退気味だと言われていた麻雀なんかもそうですね。ネットで対戦することができる。“ゲームをする程度の知り合い”という新しい関係性が生まれました。以前はリアルの友達同士で無くては出来なかったゲームを、それ以外の人と楽しめる。

児玉:けん玉は一緒に遊べるわけではありませんが、動画によって承認欲求を満たしてもらえる一面はありますね。家でやっていても誰も見てくれないけれど、ネットにアップロードすることでSNSに“いいね!”がもらえる。すごく嬉しいんです。そうすると、次はもっとうまい動画をアップしなくてはいけない。そうやってSNSがいい働きをして、プレイヤーのレベルがどんどん上がっていくんです。

飯田SNSの登場によって、薄く広くロングテールで存在しているファン同士がつながりやすくなったのは確かですね。ハイパーヨーヨーなんかが流行った時代は、クラスの皆がやらないとブームにはならなかった。ある一定の年齢層において占有率が2〜3割を満たさないとブームと呼べなかったわけです。

しかし五年生、六年生男子の2割だと、現在では数十万人程度のボリューム感しかない。ところが全年齢、全性別1%というと、日本国内だけで何百万人になるわけです。世界中の1%ならば、さらにその50倍。こう考えると、世界に広まったことで「密度は低いのに、絶対数では大ブーム」という現象が起き得るわけです。

現在のけん玉流行は“ブーム”ではなく“ムーブメント”

児玉:ブームとは何なのでしょうか?  僕はけん玉のブームについて訊かれることが多くあります。ブームって何なのだろう、と毎回思うんです。どこから・どこまでがブームなのでしょうか。ブームの定義はありますか?

飯田:明確な定義ではありませんが、「他者の欲望が自分の欲望になる」なっていることが需要の中心になっていたらブームと言ってよいのではないでしょうか。自分が欲しいからやるのではなく、「誰かが欲しがっているから、自分も欲しい」となったら、ブームといえるのでは無いかと思います。

児玉:みんながやってるから、自分もやりたい。ということですか?

飯田:そうです。他の人がやっているから自分もやりたい、と思ったらそれはブームですね。この場合、自分が欲しくてやっているわけではないので、いずれ、そして比較的早期にブームは去ってしまいます。しばらくすると沈静化する。みんなが欲しくなくなったら、自分も欲しくなくなってしまうんです。

けん玉が子供に流行った時代がありましたが、あれはブームだったと思います。対して現在は大人に流行っているので、そういった他者の欲望によってけん玉をやる方はいないと思います。そういう意味ではブームでなく、ムーブメントと言えるかもしれない。

児玉:確かに、大人相手にブームを作るのはすごく難しいですよね。例えばスノーボードがブームかといわれると、ブームではない。子供と違って、大人は嗜好品を自分で選べますもんね

誰もが知っているけん玉の、誰も知らない遊び方。

——では、けん玉が現在ムーブメントになってるのにはどういった背景があるのでしょうか?

飯田:それは児玉さんがおっしゃったように、「見てくれる人」の存在が大きいと考えられます。また身体を使うものなので、けん玉には言葉の壁がありませんよね。言語依存がありませんから、“ライク!”や“いいね!”で反応がわかるし、けん玉のパフォーマンス自体も見ただけでその凄さが伝わりやすい。

——大人は嗜好品を自ら選べ、中でも言語の壁がない娯楽。中でもけん玉が選択されるのはどうしてなのでしょうか?

児玉:けん玉と言うものを、日本人はみんな知っている。しかし世界の人は誰も知らない。それが受け入れられている理由の一つだと思います。海外では全く新しい遊びなんです。このご時世に新しい遊びなんてなかなかありませんよね。日本ではオールド・トーイですが、世界からすると画期的なおもちゃなんです。海外の方はけん玉には宇宙が詰まっていると言ったりします(笑)。日本で99%知られていて、海外では99%知らないものなんてあまり多くないですよね。

日本の広がり方と世界の広がり方には違いがあります。日本人にはけん玉にマイナスイメージを持っている人も多いと思います。子供が遊ぶもの、古い、上手くても少しダサいみたいな。そういう先入観が海外にはなかった。海外の人はけん玉が何かもわからないから、その楽しさを発見する喜びがある。先入観の有無はものすごく大きな違いですね。

飯田:確かに、それは日本の商品が海外に出ていくときにポジティブになる理由の一つですね。最近地方の中堅どころで、国内市場より先に海外に目を向けている企業が増えています。桃太郎ジーンズなんかがまさにそうですね。海外で流行した後に、逆輸入バージョンが日本に入ってくる。海外で売れることで、日本でも売れるようになるんです。

児玉:先ほどお話のあったブームの定義に近いところがあるかもしれませんね。海外の人が欲しがっているから、自分も欲しくなる。

バリエーションがビジネスの渦を生み出す。

児玉:けん玉には100年もの歴史があるのにもかかわらず、日本では同じようなプロダクトしか作られてこなかった。それが世界進出した途端に、様々なバリエーションが生まれたんです。昔は1500円のオーソドックスなものしかなかったのが、今では厳選された欅のみを使った1万円のものなど、様々な商品が出てきました。音や感触がそれぞれ違うんです。バリエーションが増えて、金額の幅が広がりました。すごくいいことだと思っています。その中から自分の好きなものを選択できるわけですから。

飯田:確かに、バラエティが出ないとなかなかビジネスになりにくいと言われています。機能性を越えて、ファッション性が現れ始めるとビジネスになります。誰かに見せびらかしたり、自慢したくなる。スノッブな消費が加わるんですね。けん玉が100年間もビジネスにならなかったのは、1種類しかなかったからですよね。バリエーションが増えたのは、商売的にすごく大きなことだと思います。


世界でけん玉がムーブメントとなっている要因が解明されたところで、ここからは残された課題、「国内での普及」について話が及ぶ。けん玉だけに留まらない日本独特の問題について。日本でムーブメントが起こる際の妨げになっている”ある課題”とは!?


Interview/Text: 石川ゆうり


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