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情報化社会の行く末。“1クリックで人生が変わってしまう”『勝手に選別される世界』

Naoya Shishido

2016/03/12(最終更新日:2016/03/12)


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情報化社会の行く末。“1クリックで人生が変わってしまう”『勝手に選別される世界』 1番目の画像
by richard.scott1952
 社会の情報化が進む中で、私たちの生活は確実に豊かになった。SNSを使えば遠く離れた友人とコンタクトを取ることができ、ECサイトを利用すれば家にいながらたいていの物は手に入ってしまう。しかし、情報化が社会にもたらす影響は、果たして良いことばかりなのだろうか

 今や情報は、いかようにも保存しておくことができる。1テラバイトで図書館と同じ情報。1ペタバイト(約1000テラバイト)であれば、国家のすべての情報を保存できると言われている。あるデータ記憶システムの能力はアメリカの全人口約3億人、1人ずつについて1.5ギガバイト(高画質の長編映画1本分)の情報を記録しつくしてもまだ余裕があるという。つまり、あなたのクレジットカードの使用履歴からSNSで流した画像や戯れ言まで、すべての情報が簡単に保存されてしまうのだ。

 本書『勝手に選別される世界 ネットの「評判」がリアルを支配するとき、あなたの人生はどう変わるのか』では、高まり続ける情報の価値と著者が予見する情報化社会が進んだ先に待っている社会の姿を明示して、警鐘を鳴らしている。ここでは、著者が予見した情報化社会の行く末をいくつか紹介していく。

#1 情報化社会では1クリックが人生を左右する

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出典:www.foodbeast.com
 PCやスマートフォンで広告を目にする機会は少なくない。多少興味のあることであれば、クリックしたことがあるという人もたくさんいるだろう。しかし今後、情報化社会が進めばそんな何気ない1クリックがあなたの人生を左右することになりかねない。

 ダイエットサプリの広告を例に話を進めよう。広告をクリックした理由が、純粋に興味があったからだろうが、うっかりクリックしてしまったからだろうが、ありえないほどの効果を謳った広告をクリックしてしまったことで、あなたには広告に影響を受けやすい人という情報が付されてしまうのである。これはほんの一例であるが、あなたがネット上で行うすべての行動が、情報として蓄積され、あなた個人の情報として扱われるのだ。

 この影響はあなたの社会生活にまで及ぶ。収支ぎりぎりの生活をしているのに、衝動買いの記録情報が銀行に知れたら、低金利の融資を受けるのはまず無理だろう。判断力の欠如ととられて転職の可能性を潰してしまうかもしれない。
  
 現実的には、1度の広告クリックであなたの社会的立場が変わることはほとんどないだろう。しかし、過度の効果を謳うような広告を何度もクリックしていれば、銀行や企業の潜在的なアルゴリズムを作動させてしまい、魅力的な候補者のグループの中から自動的にはじき出されてしまうかもしれない。あなたが全く知りえないところで。

#2 情報化社会ではすべてが点数化される

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出典:blog.automizy.com
 コンピューターはひどく想像力に欠ける機械だ。ほぼ無限の文字列をミリ秒で計算することはできても、人の感情を理解することは決してない。それを念頭に置けば、コンピューターがあなたのことを数字でしか評価しようとしないのは、意外でも何でもないだろう。コンピューターは人間と同じように判断は下せないが、ある数値がもう1つの数値に比べて、高いか低いかの“計算”はできる。

 例えば、ある人が行ったと報告されている寄付金の数値を足した後に、今までに科せられた罰金などの数値を引き、SNS上で報告されている不正や欺瞞への言及数を数えて、その人に「倫理スコア」を付することはできる。このスコア情報は、あなたが社会生活を送るうえで重要な意味を持っている。冒頭で述べた家のローンや、賃貸の可否などが、このスコアをもとに判断されるようになるからだ。

 誰もが測りたいと思っている特質について数値スコアが付される日が、そのうちやってくるのは避けられないだろう。さらに困ったことに、コンピューターのデータ処理、解析、統合の技術が格段に進歩した。この悪夢のような世界を実現する技術的環境は、すでに整ってしまっている。

#3 リアルタイムで情報が反映される社会になる

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出典:www.startupist.com
 スマートウォッチなどのウェアラブル端末の普及で、情報化社会は一層進むことになる。多くの人がそれらを身に着けるようになれば、それらを介して、あなたの周りの環境で起こったことが、瞬時にあなたの情報を上書きしていく。

 上司からの思いがけない褒め言葉は、すぐさまあなたの情報を上方修正し、SNSに投稿してしまった暴言は、すぐさま情報を下方修正する。午前中にレンタカーを汚いまま返却すれば、午後には部屋を借りる能力が低下し、午後に思わぬ善行をすれば、夕方には、乗るはずだった飛行機がファーストクラスへアップグレードされる。こういった出来事には業のようなものを感じることもあるだろう。

 また、あなたの評判に関する情報は瞬時に入手可能になるだけでなく、広く公開され、透明になりつつある。あるレストランの評判を地に落とすには、無礼なウェイター1人、冷めたメインディッシュ1皿、あるいは生ぬるいビール1杯で充分かもしれない。あなたはそんな情報をスマートフォンやスマートグラス1つで入手可能になる。


 本書『勝手に選別される世界 ネットの「評判」がリアルを支配するとき、あなたの人生はどう変わるのか』では今回紹介した3つの事例以外にも、著者が予見する情報化社会の行く末がいくつか描かれている。情報化が進むことによって、得をすることも、損をすることも、平等に訪れるのではないかと筆者は本書を読んで感じたが、いずれにしても個人の力だけで情報を守れる限界は、すぐそこまで来ているのかもしれない。

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