1. 社会問題と向き合い、NPOへの就職を考える君に読んで欲しい物語。『10000円のカレーライス』

社会問題と向き合い、NPOへの就職を考える君に読んで欲しい物語。『10000円のカレーライス』

 君はNPOへの就職を考えたことはあるだろうか。昨今NPOの存在感は高まり、NPOの意義が見直される中、NPOへの就職を考える若者の数が増えてきている。NPOという組織が、そもそも非営利組織であるため、一昔前であればNPOを就職先の選択肢に入れる若者はほとんどいなかった。

 しかし近年では、自分が稼ぐことより社会の役に立つことに自己実現を見出すような若者が増え、NPOを就職の選択肢に入れる者が増えているのだ。NPOは、社会問題を解決するための活動に取り組む団体である。そこには困った人が存在し、NPOに就職する魅力は、その人たちの役に立っているという実感がリアルにもてることにあるだろう。

 『10000円のカレーライス』は、NPOでの活動の中で生まれた、スタッフの心に残った出来事をまとめた短編集となっている。NPOに就職することを視野に入れている人はもちろん、NPOがどういった活動を行い、NPOの中ではどのような出来事が起きているのかに関心がある人はぜひ読んでほしい一冊となっている。

 ここで、本書からそのタイトルにもなっている「10000円のカレーライス」のエピソードを少しだけ紹介しよう。

NPO活動の中で生まれた心に残る出来事

NPOが企画した“いしのまきカフェ「 」(かぎかっこ)”

 いしのまきカフェ「 」(かぎかっこ)は、NPOや株式会社、財団との合同企画で始まったカフェだ。東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻で、地元高校生が運営するカフェなのである。

 大人はあくまでサポート役で、メニューも内装も店名も高校生が考えられるようにと「 」と空欄だったのだが、何でも入れられるという可能性の原点を大切に、高校生たちは空欄にしたままの店名で続けているカフェだ。

受験生メニューというシステム

by Hsuanya Tsai
 高校生たちはカフェを運営していく中で、試行錯誤を繰り返した。その過程で、目玉メニューとしてご当地カレーの開発に着手し、カフェで実際に客に試食してもらい、味の評価とアドバイスをもらって言い値を支払ってもらうという「受験生メニュー」というシステムを採用した。

 1000円近い値をつけてくれる人もいたが、多くは500円以下との評価で厳しい意見も少なくなかった。高校生たちは客を満足させ、石巻を元気にするためにどうすればいいかを必死に考えた。その模索の中でゴールが見えない状況のときに、一人の客が10000円の評価をくれたのだった。

 とまどう高校生にその客は、地元の復興のために地元の高校生が頑張っている姿に感動し、その頑張りに対してこの値をつけたのだと説明した。高校生はこの出来事を励みに努力を続け、納得のいくカレーの完成にたどりついたのである。

NPOで得られる感動とは

 NPOでは本書のエピソードのように、人と人とのコミュニケーションの中で深い感動が生まれる場面がある。それはNPOの性質上、そこには社会的問題や課題が明確になっていて、その活動はその問題によって苦しむ人々を救おうとする活動だからである。

 NPOとしての活動が人を救い、NPOの側のスタッフも人に救われる場面が多く生まれる。そこで得られる感動は深く胸に残るものになるに違いない。若者が社会の役に立ちたいと考え、その実感を得ることができるNPOへの就職を検討するのも理解できることなのである。

NPOへの就職は感動だけを体験できるわけではない

 しかし、NPOへの強い思いをもって就職した若者も、現実には多くが離職することになっている現実がある。NPOに就職したはいいものの、NPOに就職してから突きつけられる現実に耐えられなくなっていくのである。NPOに就職してからどのような現実が若者を失望させるのか、いくつか挙げてみよう。

NPOに就職してからの現実①:給与水準への不安

出典:www.flickr.com
 NPOを就職先に選んだときは、社会の役に立ちたいという強い気持ちをもって、給与のことは二の次で考えていた若者であっても、数年働いて、給与水準がいつまでも上がらず、一般的な給与水準に達しないままでいれば不安になるのは当然だろう。

 NPOと一口にいってもその規模は様々であるが、NPOの規模がどんなに大きくても、多くのNPOの給与水準は民間や公務員に比べて低いところが多い。NPOに就職すれば、その就職先のNPOがどんな団体であっても、給与について満足が得られることはほとんどない状態といっていいだろう。

NPOに就職してからの現実②:福利厚生への不安

 NPOに就職してから突きつけられる現実の一つに、福利厚生への不安がある。先ほども述べたように、NPOと一口に言ってもその規模は様々である。しかし、どんな大きなNPO団体に就職しても給与水準がそこまで高くないだけでなく、福利厚生の制度も整っていないのが現状なのである。

 若いうちはあまり考えることがなくても、NPOに就職してから数年が経ち、自らのライフプランについて考えるようになったとき、将来の安心が約束されないのは誰だって困るものである。

NPOに就職してからの現実③:組織の安定性への不安

 NPOに就職して、待遇における不安を抱えるだけでなく、組織そのものの安定性にも不安をもつことになる現実が多くある。NPO法ができたのが1998年ということもあり、多くのNPOの歴史はそんなに長くはないのである。

NPOに就職してからの現実④:キャリアとしての不安

 NPOに就職して、しばらく働き続けて不安になってくるのが自分のキャリアについてである。NPOに就職してから、具体的にどのような活動をするかは様々であるし、アピールの仕方によってはキャリアとして強みになることもあるが、一般的には企業に転職をしようとしたとき、そのキャリアが歓迎されないことも考えなければいけない現実があるのだ。

NPOに就職してからの現実⑤:仕事の実態への疑念

出典:www.flickr.com
 NPOに就職して、実際に働き始めて分かるのがNPOの仕事の実態である。社会の役に立ちたいという強い思いをもってNPO就職しても、実際の仕事が自分のイメージ通りのものとならないこともある。

 これが、利益を求めることが前提で企業に就職したのであれば、自分のイメージ通りの仕事ばかりでなくても、利益のためにはしょうがないと諦めがつく部分も多い。NPOを選択して就職している場合は、その活動に魅力を感じている部分が大きいので、仕事が就職してみてイメージと乖離していた場合の心のわだかまりは大きなものになるだろう。


 NPOへ就職するなら、組織や活動内容、待遇に関する現実をしっかり把握してから就職することをおすすめする。後半ではマイナスな面ばかりに焦点を当ててしまったが、NPOへの就職はつらいことばかりではない。むしろ、他では体験できないような心を揺さぶられる出来事も多く経験することができるだろう。重要なのは下調べをきちんとすることだ。

 『10000円のカレーライス』を読めば、それぞれのエピソードに深く心を打たれるに違いない。実際に自分がこういった経験を得られるのであれば、NPOに就職することも選択肢に入ってくるという人も少なくないのではないだろうか。

 ただし、NPOに就職するからには前提として、そのNPOが課題としている社会的問題について共通した問題意識をもち、それをなんとかしたいという思いを持っていることが重要である。そこに対してブレない気持ちがあれば、NPOに就職してからの活動に意欲的に取り組むこともでき、そこで得られた成果から生まれる感動は一層のものとなるだろう。

 いきなりNPOの世界にとびこまなくても本書がある。ぜひ、一読してその世界をのぞいてみてほしい。

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