1. ミシュラン一つ星店のパティシエが語る「好きなことを仕事にして、続ける方法」

ミシュラン一つ星店のパティシエが語る「好きなことを仕事にして、続ける方法」

出典:pixabay.com
「嫌なら職場を変えてもいい」

好きなことを仕事にし、それを続けてきたパティシエの中村樹里子さんは、さらっとこう言ってのけた。

ミシュラン一つ星店「TIRPSE」のシェフパティシエを務め、現在ランチタイムに1年間限定のデザートコース「KIRIKO NAKAMURA」を展開中。さらに2016年1月8日(金)には初の著書本「レストラン・パティシエールの働き方」が発売された中村樹里子さん。
 
自分を貫き活躍する姿に憧れを抱く同性は、きっと少なくないだろう。男性社会と言われる飲食業界で女性が生き残っていくこと、長く続けることの大切さ、そして苦しい時でもつぶれない秘策。 

激動だった修業時代を経て発せられたメッセージは、悩みながら働く女性へ向けて力強いエールになるはずだ。

女性がなりたい人気の職業なのに、10年後まで続けている人が「1%」という現実

————以前中村さんが、パティシエは小学生の女の子がなりたい職業のトップ3に入る人気職業で(ちなみに2015年「女子小学生のなりたい職業ランキング1位」)、パティシエになる女性は大勢いるけれど、そのうち活躍している人はほんの一握りだとおっしゃっていました。それは何が理由だと思いますか?

中村  まずは、憧れと現実とのギャップ、自分が思っていたものと違いすぎるという部分でしょうか。仕事ですから、当然、楽しいことばかりじゃないですからね。 特に飲食業界は男性社会。女性のほうが体力的にも大変だし、身体的にも不安定なのですが、それらは考慮されにくい。

では、女性が生き残っていくためにはどうしたらいいのかというと、上手く立ちまわる、つまり自分のポジション=居場所を作るれるかどうかがカギになると思います。男性社会においてはある部分で、「女性がやって当然」という雰囲気が作られることがあります。気づいたら女性ばかりが片づけや雑用をしているという状況にだってなりえる。でも、それをいい風に捉えていくんです。

————いい風に捉えるとは?

中村  私は、やっぱり女性だからこそできることがあると思っています。例えば小さなことに気づくこと。一般的に見ても、女性のほうがあれこれ小さいことに気づくことって多いですよね。 私がやればいいという“前向き”な気持ちでやっていると、職場的にも「改善につながる気づきは女性に任せよう」といった雰囲気が作り出されます。

新人の頃って能力で明確な差がつきにくいんです。だからこそ、気づいたらそれをどんどん伝えて、自分で動いたほうがいい。そのほうが重宝がられるし、ステップアップしやすいと思うんです。 

気遣いができる人って、一緒に働いているチームの中でも潤滑剤的な役割になれます。パティシエは経験が必要だから職場に入っていきなりメインにはなれるわけではないし、年数が必要な職業。だからこそ、できることは小さなことでもやるべきなんです。

ポジションや居場所って、職場から求められていることをこなすだけでは作れません。求められていることの一歩先の動きをし、結果を残していくことで、はじめて付いてくるものじゃないでしょうか。

頑張ることは悪いことじゃない。働く女性のロールモデルになれば

————中村さんがフランスで4年間修行された経験から見て、フランスの女性パティシエはどのような状況でしたか?

中村  フランスではパティシエール(女性パティシエ)が大活躍しています。それは、多分ワークライフバランスがいいからだと思います。休みもきちんと取れるし、時間に追われることもない。休憩時間に家に帰るのも普通のこと。そもそも働くことに対する文化が日本と違っていて、人生にかける時間がフランスの方が多いなと感じます。
 
それに粉も乳製品もフルーツも豊富で美味しいですから、パティシエにとっては最高の環境で、楽しく続けられる環境だと思います。日本ではプライベートの時間が取れないからやめてしまうという女性が多くいます。
 
また、上に立って下の子たちを引っ張っている女性パティシエも少ないから、頑張った先がなかなか見えないのかもしれない。 でも、日本だからダメだというのは悲しすぎる。そういう思いもあって、今ティルプスでランチデザートコースをやっているんです。
中村  女性が頑張れば、こうやって自分の名前でお店を引っ張れるんだよっていうことを少しでも伝えられたらと。本を出したいと思ったものそれがきっかけで、活躍する女性のロールモデルになれればと思って。
 
ティルプスのオーナー・大橋直誉さんをはじめ、チームで同じ思いを持って一緒に動ける環境で、今後も新しいことを仕掛けていけたらと考えています。

————中村さんのように、好きなことを続けていく秘訣ってなんでしょうか?

中村  私の例でお話しますと、ただお菓子が作るのが好きで、それが仕事だから辞める理由がないんです。主軸としては自分の手から生まれたものを幸せそうに食べてくれる人がいることが嬉しい。 社会的地位の向上や他人の評価に興味がないわけではないけれど、優先順位が違うんです。だから、自分が納得できないと思った場所は自分から離れていくという選択でこれまで続けてきました。

本当に辛かったら辞めてもいいと思うんです。続ける美徳があるのも理解できますけど、それで「好き」が「嫌い」になってしまったら元も子もないじゃないですか。 例えばパティシエは、パティスリーで働くことだけが選択肢ではありません。私のようにレストランにいて、チームの中で最善を尽くすというやり方もあります。また、最近では在宅の受注発注でお菓子を作っている人もいます。道はいろいろあるんです。

でも、これはパティシエという職業以外にも言えることじゃないでしょうか。 まずは自分が本当にやりたいことを大切にしてあげること。「好き」を持続させるために環境は変えたっていい。 女性は人生で選択する機会が男性より多くて、悩むことも多いと思います。 だからこそ、世の中の女性たちには自分に合った場所を見つけて、「好き」な仕事をやり続けて欲しいんです。
価格:1944円(税込)

Interview/Text: 河辺さや香
Photo: 森弘克彦(人物)

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