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藤田ニコルはなぜ売れた? Popteen編集長が語る「生き残るモデル、生き残れないモデルの法則」

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2016/02/19(最終更新日:2016/02/19)


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おバカキャラ、天然キャラが話題を呼び、バラエティで活躍するPopteenモデルの『藤田ニコル』。強烈キャラの彼氏『りゅうちぇる』と共に、独自の世界観を発揮する同じくモデルの『ぺこ』。

若い世代から圧倒的な支持を得ている彼女たちを仕掛けた雑誌Popteen。そんなPopteenの編集長である森茂穂さんに、Popteenの編集長に就いてからのエピソードや、人気モデルの秘められたストーリーについて話を伺った。

森茂穂 プロフィール

もり・しげほ/Popteen編集長 

1978年福岡県出身。2001年に早稲田大学第一文学部を卒業。 
「東京ウォーカー」や「月刊ザテレビジョン」など情報誌の編集者としてキャリアをスタート。2010年にインフォレスト社の女性誌「Happie nuts」編集長に就任。“EVERYDAY 黒肌宣言!可愛いだけのHappieはもう卒業。”をコンセプトにギャルブームを創り続け、休刊の危機にあった同誌をV字回復させた手腕を評価され、2014年から角川春樹事務所発刊のティーンエイジャー向け雑誌「Popteen」の編集長を務める。藤田ニコル、オクヒラテツコなどティーンに人気のアイコンを次々と生み、10代のKawaiiカルチャーの新たな発信源に「Popteen」を成長させ、編集長就任1年で約4万5千部の実売アップに成功している。

「Popteen」は“ファッション誌”ではない。

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出典:www.pakutaso.com
———Popteenをはじめ、流行を切り取る様々な雑誌をどう考えていらっしゃいますか?

JK(女子高生)・JC(女子中学生)と呼ばれる若い女のコたちが好むものの変化は目まぐるしい。それは、服装だけでなく、髪型やメイクや持ち物などすべてにおいて同じです。僕は学生時代、渋谷という若者が集う街にいて、そこで色んなものが生まれてくるのを見てきました。

大人が良いっていうものはダサい。だから自分たちが欲しいものは、自分たちで作っていく。同世代の愛すべきクソガキたちが、新しいカルチャーを次々に生み出し、それに共感し酔いしれていった実体験があります。

Popteenはそんな若者のカルチャーに寄り添った雑誌。だから常に変化し続けなければならないと思っています。「いつも新しいことに挑戦していなければ終わる」という不安と戦う日々ですね(笑)。少なくとも僕は、Popteenのことを“ファッション誌”だと思って作っていません。 “カルチャー誌”だと思っています。

新しいものが生まれる瞬間。正確に言えば生まれるその前夜に気がついて、いち早く取り上げて行かなければならない。何かがヒットしても、それは次のヒットの予測の種にはならない。成功体験が次の瞬間まったく通用しなくなるのが、こういうカルチャーを取り扱う雑誌のこわくて面白いところです。

Popteenのモデルで特に大事なのはオリジナリティですね。

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by kalcul
———売れると思うスターモデルは、どのようにして見定めているのですか?

正直、僕は才能ないんでわからないです(笑)。見ただけでわかるっていうスゴい人もいるみたいですけど、僕自身20年以上、目まぐるしく変わるカルチャーの中にいて、有名になっていくコをたくさん見てきましたが、そこに一貫性がないからどんなコが売れるかは最終的にはわからない。

わかるのは、このコ売れそうかも……っていう漠然としたもので、その中で売れるコもいれば、まったく売れないコもいます。ただ、一応、雑誌に掲載すれば可能性がありそうなモデルは浮き上がって見えるので、そのコたちの魅力を引き出していく作業を、誌面をとおしてひたすらしていきます。そうしていくうちに売れるコは街頭調査の中で「にこるんと同じスカート買った」とか「ゆらゆらチャンのカッコに憧れてる」とか具体的なモデル名がでてくるようになる。

幸いPopteenの編集部員にはそういう“売れるサインを”抜け目なくハンティングするノウハウがしっかりあるので、「読者の中で誰が人気か?」はちゃんと把握できるんです。そういうコに既存の人気モデルにはない新しい「可愛い」があれば、そのモデルは売れるチャンスありですね。

———最初から『藤田ニコル』でいこうと思っていなかったんですか? 

ニコルの例でいうと、あのコだけで売れたわけではないと思うんですよ。TVに出ていってからのニコルはちょっとおいといて、ティーンモデルとしての藤田ニコルがブレイクするには、同世代Popteenモデルの存在が大きかった。

自己プロデュースの天才ゆらゆら(越智ゆらの)や「ピンで表紙を飾りたい!」と宣言し、それをつかみ取る芯の強いみちょぱ(池田美優)がいたから、ニコルも「ウチも表紙モデルになりたい!」「他のコがやってないこういうファッションを流行らせたい!」って宣言できたと思うんです。この3人の誰かがブレイクしたら良いなぁって思って仕掛けていましたが、誰が売れるかなんて予測できるわけがなかった。偶然です。そういう意味で僕はホントに運が良い(笑)。

生き残る人、生き残れない人、両者にはハッキリとした法則がある。

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———今新しく売りだそうとしている若い世代のモデルで、残っていくモデルの共通点などはありますか?

特に大事なのはオリジナリティですね。先輩モデルのマネをしても、それはマネにしかならない。好きなものが被るのは仕方ないけど、被る以上は一番にならないといけない。そのジャンルで一番にならなければ、それはモデルではなく読者と同じですから。

そういうコは残念ながら最終的にスターにはなれないです。先ほど名前をあげたゆらゆらにしても、みちょぱにしても、ニコルにしても、このジャンルじゃ絶対に負けないってプライドを持っていますし、事実、こちらがどんなに同じジャンルの対抗馬を仕掛けても負けないですからね。もっと言うと「この対抗モデルいります?」ぐらいの勢いで怒られるときもあります(笑)。 

———とても貪欲なんですね? 

そのくらい自分のやっていることにこだわりがあるってことだと思うんです。こういうモデルは売れますよね。逆に「人気のモデルと一緒に表紙を飾りたい」みたいなモデルを、僕は絶対に表紙モデルには起用しません。表紙はモデルであれば誰もが目指す場所。それは与えられるものはなく、勝ち取るものだと僕は思いますので。その貪欲さがなければ残念ながら勝ち残ってはいけない。

人の足を引っ張るのは違いますが、良い意味で他のコには絶対に負けたくない!って気持が、そのモデルを可愛くしていく原動力になっていきます。前に紙面で取り上げたんですが、ニコルなんて『願いが叶うならなにがしたい?』という質問に「Popteenの編集長になって、新しいモデル入れない」と答えているんです(笑)。そんな格好つけずに貪欲なトコロも彼女の魅力でしょうね。
 
———競争させている子の中には挫折するモデルもいるんですよね? 

Popteen編集部がつくれるのは、普通の女のコがティーンモデルのヒロインに駆け上がっていくシンデレラストリーリーであって、魔法使いのように誰でもシンデレラにできるわけじゃない。だから、物語の中でどういう配役をつかむかはモデルの努力次第。当然逃げ出したり、つぶれちゃったりする子も出てきます。ただそれはしょうがない。

Popteenという雑誌は約13万人の読者全員が、できれば雑誌に載りたいと思っています。だからモデルになった後も競争があるのは当たり前。ポテンシャルはあるわけですから、どうやれば自分が時代のヒロインになれるかを考えられるのは、編集部じゃなくモデル自身なんです。オトナが考えたものはつまらないですからね(笑)。 

———年頃の若い女の子のモチベーションを保たせてるのも大変じゃないですか?

「マンネリしないこと」「楽をさせないこと」「競争させること」この3つを軸に、モチベーションを保たせたりしていますが、モデルたちは嫌がりますね(笑)。もちろん、僕があおっている競争は、何より彼女たちのためにやっていることなんですけど、そんなの10代の女のコにわかるわけないですよね。

彼女たちの気持ちをできるかぎりフォローしながら、モチベーションを維持させるのは僕の仕事だと思っているので、たまには追い込んで、競争心や彼女たちの頑張る状況を作りだします。

当然、彼女たちは思春期真っ只中なので傷つきやすく繊細なところもあります。そこは気を遣いますね。例えば3人のモデルで、2人だけ表紙を飾った場合、残った子には、別の特集ページを組んだりしてフォローします。ただあからさまなやり方だとダメで、かといってさりげなすぎても通じない。完全に通じなくても良いけど、肌で感じてもらえるようにやっているつもりです。

雑誌Popteenがヒットを飛ばし、築き上げてきたモノを、今度は捨てて行かなければならない。

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出典:pixabay.com
先ほども言いましたが、雑誌は変わっていかなければならないと思っています。2014年までは少なかったカラフルなカジュアルスタイルで遊ぶ若い女のコが街中に増えた。これはPopteenが狙って仕掛けていった結果です。これには一定の満足感がありますし、その原動力となったモデルたち、そして実際にムーブメントを作っていった現場の編集部員には本当に感謝しています。

しかし、編集長である僕の今の一番の仕事は、この流行を誰よりも早く捨てること。同じものを提案し続けてもきっと読者は「また同じことやってる」って思うだけですから。読者も気づかないところで毎月・毎月、実は新しい変化を加えていっているんです。

それがいつか大きく花開くと信じて。オリジナルなアイデアで時代を変え、トレンドを作っていくすごい編集長はたくさんいて本当にうらやましいんですが(笑)、僕は残念ながらそれができないので、僕は僕のやり方で、ひたすらいろんなことを試してみて、読者に提案し続け、そこから出る彼女たちの「それ可愛い!」のサインを見逃さず、また新しいものが生まれる瞬間を切り取りたいです。

Interview/Text: 吉原博史


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