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和菓子で日本の“72の季節”を届ける「一幸庵」水上力:究極の和菓子を世界へ発信するその美学とは

樋口純平

2016/02/13(最終更新日:2016/02/13)


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和菓子で日本の“72の季節”を届ける「一幸庵」水上力:究極の和菓子を世界へ発信するその美学とは 1番目の画像
出典:www.toki.tokyo
 近年、日本の和食がユネスコの世界文化遺産に認定されたことに伴い、世界的に日本食ブームが起きている。寿司などが世界で広く食べられる一方で、和菓子は日本食ブームに乗り切れていない。しかし、洋菓子は世界的に多くの人気を集めており、日本でもスイーツ女子と呼ばれる女性達が有名パティシエの経営する洋菓子店に足を運んでいる。

 和菓子が世界へ広がっていくことができない原因のひとつは、後継者不足だ。この危機に立ち上がった男が和菓子店「一幸庵(いっこうあん)」の店主である水上力だ。水上力は、和菓子の魅力を多くの人に伝えることが重要だと考え、和菓子の魅力を積極的に世界へ発信しようと日々活動している。

 今回は、2/14(日)のバレンタインデーにTBSで放送予定の『情熱大陸』に合わせて、一幸庵店主・水上力が語る和菓子の魅力と美学を紹介しつつ、水上力が和菓子の魅力を世界へ発信するために行っている活動を見ていこうと思う。

和菓子の魅力が光る、食べログ4つ星の和菓子店・一幸庵とは

 店名:一幸庵(いっこうあん)
 店主:水上力(みずかみ ちから)
 所在地:東京都文京区小石川5-3-15
 営業時間:10時~18時
 定休日:日曜・祝日
 創業:1977年

 和菓子屋・一幸庵は東京・小石川に店を構えており、常連客も多く訪れる人気店だ。何より常連客を楽しませるのは一幸庵が生む季節の味だ。現代社会になっても、無意識に季節ごとの自然の変化を愛する日本人の感覚は、昔から受け継がれている。和菓子の魅力も季節を感じさせる日本伝統の味だ。特に一幸庵では、四季よりさらに細かい72候に合わせた和菓子を作っている。72候とは、四季を夏至や立春などに分けた二十四節気をさらに細分化したものだ。一幸庵・水上力が手掛ける72候の和菓子を一部ご紹介しよう。

和菓子屋・一幸庵が世界へ誇る72候の和菓子

 一幸庵で最も人気のある和菓子が『あざぶ最中』である。最中の餡には丹羽大納言小豆を使用しており、豊かな風味を楽しむことができる。また、最中の皮はパリっとした食感で、口の中に焦がしの香りが広がっていく。

 『あざぶ最中』は3個で660円で販売されている。温かい日本茶と合わせて飲むことで、一幸庵が大事にしてきた和菓子の季節を感じさせる魅力を味わうことができる。

 『あざぶ最中』に次ぐ人気を誇るのが、一幸庵に限らず、和菓子の中では人気の高い『わらび餅』だ。一幸庵のわらび餅は水上力のこだわりを強く感じることができる商品だ。

 原料は貴重な鹿児島産本わらびを使っており、水上力が一心不乱に練ることで生まれる柔らかさとコシが、食べる者全てを魅了する。餡の小豆は十勝産ふじむらさきを使っており、良い甘味を引き出すことができる。このわらび餅は380円で販売している。

 以下の動画は、2015年2月12日にBS JAPAN『日経おとなのOFF』で放送されたもので、一幸庵の水上力が作るわらび餅を紹介している。わらび餅を練る水上力の姿を見れば、水上力が「和菓子は格闘技」と語る意味を理解できるだろう。

世界へ和菓子の魅力を届ける、一幸庵・水上力の美学とは

水上力の経歴

 1948年:和菓子屋の四男として東京で生まれる
 1971年:京都で丁稚奉公から和菓子職人としての修行を開始
 1976年:名古屋で和菓子職人としての修行を終える
 1977年:一幸庵開店

一幸庵・水上力が語る、和菓子の魅力と美学

和菓子を口にして、甘さの余韻が残るうちに茶を飲むと、茶の渋みが旨みに変化して菓子の甘みが消える。茶がおいしいと感じたその瞬間、何を食べたのかわからなくなるような存在が私の菓子の理想。たとえば江戸時代の武士道にある“忠臣は二君に仕えず”や“武士道とは死ぬことと見つけたり”という一文に、私が目指す美学と同じものを感じます

出典:『情熱大陸』出演の和菓子職人「一幸庵」水上力氏ってどんな人?【2016 ...
 和菓子屋で生まれた水上力が長い時間、和菓子と向き合って生まれた美学は「小さくも美しい、季節が凝縮されたものこそが和菓子の魅力」である。水上力の美学を具体的に表したものが、お茶との相性である。古来より日本人が親しんできたお茶との相性が良ければ良いほど、日本の伝統をより濃く受け継いだ和菓子の一品となるのだ。

一幸庵・水上力の世界へ和菓子を発信する活動とは

洋菓子と比較すると、値段的にも嗜好的にも、明らかに周回遅れの和菓子。将来の夢に和菓子職人と書く子供は、まずいないです。日本でガラパゴス化した和菓子は海外に見せることも大事だと思い、7年前に初めてパリにいきました

出典:『情熱大陸』出演の和菓子職人「一幸庵」水上力氏ってどんな人?【2016 ...
 水上力は、和菓子が日本国内でしか食べられていないことを問題視し、水上力自ら国境を越えて世界へ和菓子の魅力をPRしている。世界各国の食の展示会や有名パティシエが集まるイベントに足を運び、実際に海外の人の口へ和菓子を届ける活動をしているため、水上力は世界から和菓子職人として認識されている。

 水上力は、自分が足を運ぶよりも効率的に世界へ和菓子の魅力を伝えるため、日本語・英語・フランス語の三か国語に対応した本を出版した。その本の名は『IKKOAN』で、水上力が経営する一幸庵を英語表記にしたものだ。

水上力の和菓子の美学が込められた至極の一冊『IKKOAN』

 本の内容は、見開き1ページに一幸庵の72候の和菓子が一品ずつ写真で掲載されており、小さく美しい和菓子の魅力を感じることができる。本の出版するためにクラウドファンディングを行った結果、多くの人が水上力が持つ和菓子業界の危機意識に共感し、出版資金を寄付してくれた。

 本の出版によって、ますます日本の和菓子の魅力は世界中に広がっていくだろう。しかし、本を出版してもなお、水上力は一幸庵の定休日を利用して講演会を開いている。水上力の和菓子を世界へ発信するという夢への本気がうかがえる。


 時代の経過とともに、存続が難しくなっていく日本の伝統技術。いくら美味しくても和菓子の真の魅力を理解することができない限り、後継者問題は解決することができない。水上力は、一幸庵で作る和菓子で私達を魅了するだけでなく、自主的に和菓子業界を救おうと動いている。日本古来の質の高い技術を未来へ残すためには、魅力を知る者が次世代へと啓蒙していくことが求められるのだ。


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