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なぜ大相撲に外国人力士が生まれ、増え続けているのか? 大相撲が孕む「外国人力士を巡る大きな矛盾」

樋口純平

2016/02/08(最終更新日:2016/02/08)


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by David Z.
 2016年1月24日、大相撲・琴奨菊が優勝を決め、実に10年ぶりの日本人力士による栄冠となった。2006年の大関・栃東(現玉ノ井親方)の優勝以来、横綱・白鵬をはじめとする外国人力士の強力な壁の前に膝をついてきた日本人力士であったが、ついに外国人力士の壁を琴奨菊が破ったのだ。優勝が決まった大関・豪栄道との大一番、全国の大相撲ファンがこの瞬間を待っていた。

 あまり大相撲を知らない人にとって、「なぜ日本の国技である大相撲で、外国人力士がこんなに強いのか」という疑問は浮かんで当然だろう。中には「大相撲は日本の国技なのだから、外国人力士が多いのは納得がいかない」と考える人もいるだろう。しかし、実は大相撲力士のなかで外国人力士は総数の約6%ほどしか存在しない。ただ、現横綱・白鵬や元横綱・朝青龍など、外国人力士の中でもモンゴル出身の力士は別格に強く、強いインパクトを残している。

 今回は、大関・琴奨菊が10年ぶりに日本人力士として優勝したことに合わせて、外国人力士がなぜ日本の国技である大相撲に参入するのか、そしてなぜモンゴルをはじめとする外国人力士がこれほどまでに強いのか迫っていこう。

大相撲に参入する外国人力士の多くの理由は、親孝行

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出典:www.youtube.com
 外国人力士の66%を占めるモンゴル出身の力士は親孝行のため、身体能力を活かして日本でお金を稼ごうと考えて大相撲に参入するケースが多い。モンゴルの国民の平均年収は400ドル(約4万8千円)にも満たない額であるのに対して、大相撲の横綱の年収は3600万円弱、十両で1200万円で、それ以下の幕下は無給だが、所属する部屋からお小遣いが支給される。またこれらの年収に加え、さらに有名になればCM出演料など収入が大きくなる可能性は未知数だ。

 「自分を生んでくれた親に豊かな暮らしをさせてあげたい」という思いから、愛する母国を離れて一人過酷な相撲部屋で日々稽古に取り組んでいるのだ。また、大相撲への参入を考えるもう一つの理由は、モンゴルの文化が大相撲に参入しやすいからだ。モンゴルでは、レスリングやモンゴル相撲が盛んであるため、大相撲の激しいぶつかり合いにも抵抗感が生まれにくいのだ。

 モンゴル以外の外国人力士も母国での生活は日本よりも貧しい。小錦・曙をはじめとするハワイ出身の外国人力士は例外だが、多くの外国人力士は大相撲の力士の高い報酬金に魅力を感じて、日本の大相撲への参入を決意するのだ。

なぜ優勝する力士は母数の少ない外国人力士が多いのか

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by chrissam42
 そもそも外国人力士の強力な力を見せるようになったのは、1990年代のハワイ出身外国人力士の活躍に始まる。高見山・小錦・曙・武蔵丸といった屈強なハワイ出身力士が外国人力士時代の基礎を築き、2000年代に入ると朝青龍や白鵬をはじめとするモンゴル出身の外国人力士が栄華を築き、現在ではブルガリアやエストニアからも外国人力士が大相撲に参入している。

 外国人力士が自ら日本の大相撲に来たことがはじまりではなく、日本人が外国人力士を日本の大相撲にスカウトしたことが、外国人力士誕生のきっかけだ。当時、過酷な大相撲では新弟子が不足しており、なかなか実力のある弟子を持つことができなかった相撲部屋は、一刻も早く関取を自分の相撲部屋から輩出したかったという事情があった。なぜなら、相撲部屋から関取が輩出すれば、名も上がり相撲部屋のステータスが上がるからだ。

 日本人より体が大きい外国人を相撲部屋に迎えれば、日本人力士よりも短い時間で関取になり、良い成績を残すことができると考えた相撲部屋の親方は、外国人力士のスカウトに取り掛かったのだ。いわゆる促成栽培と言われる力士育成法だ。つまり、各相撲部屋が名を上げたいという背景から、外国人力士は生まれたのだ。その後、大相撲で活躍する外国人力士の姿を見て、自ら大相撲へ参入する外国人力士も現れる次第となったのだ。

外国人力士を巡る賛否の声

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by mount
 外国人力士を巡る賛否の声が相撲界で飛び交っている。問題は2つあり、1つは、外国人力士が強くなりすぎてしまったこと。もう1つは、一部の外国人力士が日本の国技である大相撲で重視すべき「礼儀や振る舞い」を疎かにしているということだ。これらの問題から外国人力士の人数制限が制度化され、外国人力士は1部屋1人までと規制された。この制度に対して、日本国憲法に反している可能性や外国人への差別ではないかという声も上がっており、今後も検討されるべき問題だ。

 外国人力士が強力であることは先ほど述べた通りだが、外国人力士が大相撲で重視すべき礼儀や振る舞いを疎かにしているとはどのようなことなのだろうか。2002年から2010年にかけて、外国人力士である元横綱・朝青龍は問題児と呼ばれた。なぜなら、朝青龍は暴力問題や問題発言、無断欠席など大相撲の力士として、何より横綱としてあってはならない振る舞いを繰り返し、相撲協会から問題視されたからだ。

 朝青龍以外にも外国人力士が度々、日本の国技である大相撲に相応しくない振る舞いをしたことが問題視され、相撲協会が抱える“外国人力士アレルギー”を強いものにしてしまった。外国人力士が力士である以上、私達は日本の文化を受け入れて実践することが当然と考えてしまいがちだが、外国人力士が日本の大相撲に参入したきっかけに着目してみると、相撲部屋の指導者の責任であることも忘れてはならない。


 日本が誇る伝統的な国技として今後も栄えていってほしい大相撲だが、外国人力士に対する目が厳しくなっていく現状を考えると、今後どうなっていくのか不安というのが正直なところだろう。「郷に入れば郷に従え」という言葉があるが、外国人力士が今後も日本で活躍していくためには、圧倒的な結果を残すことよりも、格式高い大相撲の一人の力士として相応しい行動をとっていくことが必要不可欠だ。

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