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「DRESS」編集長を退任した・山本由樹が感じている、今読者を熱狂させる「“上質”に代わる価値」

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2016/01/20(最終更新日:2016/01/20)


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雑誌『DRESS』の編集長を退任し、新会社『編(あむ)』を立ち上げた編集者の山本由樹氏。SNSを駆使して誰もが発信者となりうるデジタル時代を迎え、常に新時代を築いてきた敏腕編集者は何を目指すのか。 

前編に続き、これからの編集者の姿について話を伺う。

山本由樹 プロフィール

やまもと・ゆき/株式会社gift代表取締役社長/『DRESS』編集長 
‘86年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後2002年「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年まで同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、2010年から「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に㈱giftを設立すると共に、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は20以上の部活数、18,000人以上の部員が集っている。

「上質」に変わる価値は「共感」

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————前編の最後に、『編(あむ)』という会社では、編集者が一般の人たちを巻込む形でビジネスを始める、というお話がありました。これは具体的に言うと、どのようなことでしょうか?

山本  『編(あむ)』でやりたいと思っていることのひとつは「共感性」をキーワードにしたメディアを作る、ということです。 

紙の編集者が考えがちな「プロが考える上質」はもう反響を得られず、今は一般の人たちのほうが強い発信力を持っている時代、と先にお話ししました。じゃあ読者の反響を呼ぶために、上質の代わりとなるものはなにか、というと僕は「共感性」だと思っているんですね。 

読者と同じ共感性を持った人物を表現者の側に組み込んでいけば、プロの僕からは出てこない「共感を得るキーワード」がメディアの中に散りばめられていく、そういう発信の仕方に挑戦してみようと。そのとき、発信者はプロじゃないほうがよいのですが、プロデュースする人間はプロであるほうがいい。 

たまたま人気が出ちゃいました、というやみくもな方法ではなくて、プロの編集者が構築したメディアプランニングの方法論に乗せていくわけです。

編集者の佐渡島庸平さんは、紙の時代が追いかけてきた「質」に変わる、あるいは質にプラスする価値観はなんなのか、という話題に対し「親近感」と言ったんですね。その意見には同感で、どれだけ身近な話題であるか、というなかに質を加えていったとき初めて、生み出したものに共感という価値が生まれ、読者がついてくる。

一般の人たちが持っている発信力や感性をプロが上質な形でプロデュースすることで、共感性を持って読める新しいメディアが生まれる、そんな可能性を感じています。

メディアは媒体から、企業が作る時代になる

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————共感性に着目した新しいメディア。今までの雑誌やウェブメディアのように広告収入を得て運営をしていく、ということでしょうか?

山本  僕はもう媒体社がメディアを作る時代ではなくなり、編集的な視点を持った人間が企業に入って、企業がメディアを作る時代になっている、と考えています。 

これだけマスメディアが影響力を失っている以上、紙やウェブに広告を出すよりも、力のあるオウンドメディアを持つのが一番お得なのではないか、と。 

共感性に着目したメディアの話も含め、『編(あむ)』ではオウンドメディアのプロデュースをしていくつもりです。

————媒体社ではなく、企業が自身のメディアを作り、育てていくためにこれまで培った編集力を活かしていく、と。

山本  これからのメディアビジネスは、コミュニティを作ることとセットになっていないとダメだと思うんですよね。通りすがりのお客さんを捕まえるのではなく、ちゃんとファンを作り、強いコミュニティを生み出すことができれば、企業が生み出す利益はものすごく大きくなります。

僕が『DRESS部活』をやった理由のひとつはCRMを取ること、と前回お話しましたが、それはマーケッターとしての視点。編集者としての視点では、ターゲットである独身アラフォー女性の人生を豊かにすることを考えていたんですね。 

独身アラフォーが抱えている不安は三つ、それは「お金」「健康」「孤独」です。そのなかの「孤独」の問題を解決する方法として、趣味や好きなものでつながれるコミュニティがあれば、彼女たちの人生は楽しくなるのでは、と考えたわけです。

結果として、『DRESS』本誌は苦戦を強いられていますが、コミュニティである『DRESS部活』のほうは安定した人気を保っています。最近は全国各地でも『部活』が開催されるようになり、先日もそのパーティに参加するため、名古屋と新潟に行ってきました。面白い偶然で、どちらのパーティでもドレスコードは「キラキラ」。 

そこで「今の気分は『キラキラ』なんだな」と思うんですが、名古屋の「キラキラ」と新潟のそれでは全く違うんです。新潟はヒールが少し光ってるとか、「どこがキラキラなの?」って聞かないと分からないくらいですけど、名古屋ではキラキラを通り越して「ギンラギラ」という感じで(笑)。狭い日本でも地域でこんなに違う、というこの肌感覚は体験しないと分かりません。

「今の時代のメディアは、コミュニティを作らないと意味がない」というのは角川歴彦さんの言葉ですが、僕自身、読者と直接触れ合うことで生まれる気づきが無数にあり、そこで日々新しいアイデアが生まれています。企業の人たちがこれをリアルに体験できれば、ものすごい財産になっていくのではないか、と思いますね。

編集者はコンテンツマーケティングのエキスパートになれる

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————企業に対して「編集力」を発揮していく、という方法論なら、紙の編集者が培ってきたスキルでできることはたくさんありそうですね。

山本  ただ、ほとんどの紙の編集者はそこにシフトできないと思いますよ。というのも、紙というものが上位概念にある限りダメなんです。

一度、過去の経験をすべて解体して、本質的にいま何が必要とされているのかちゃんと見つめなおさないと「いいものを作る」発想に流れてしまう気がしますし、教える側に立ったりするとなおさら「何が上質かを教えないと」のような方向に行きがち。

様々なメディア媒体は「情報を伝えるのが仕事」と思っていますが、その構図すらもう崩れているわけです。まずはそこを自覚するところから自己解体を始めないと生き残れないですよね。

————紙媒体で、数々の輝かしい実績をあげてきた山本さんが「過去の経験を解体しなきゃダメ」という言葉には重みを感じます。

山本  僕は自分で、というより解体されたんで(笑)。編集者にとって質を高める作業って、実は本当に楽しいんですよ。でも『DRESS』に一生懸命取り組んで、これカッコいいよな、今までで一番いいよな、と思って出した雑誌が売れないという経験を重ねていくうち、自分がこだわってきた「上質さ」はこの時代においてあまり意味がないんだ、と自然に解体されてしまった。

苦しかったですよ、『仮面の告白』(※)じゃないですけど(笑)。

もし僕が大手出版社に勤務する編集者で、より地位が守られる立場でしたら「時代が悪い、この良さを分からないほうが悪いんだ」と思っていた可能性もあります。独立した資本で、赤字黒字を意識しながら一生懸命やっていたので、リアルな市場を前にして「これがいい」と言い張る環境でもなくなった。だから気づけた、というのはありますよね。

もちろん、今だって学びながらやっていますよ。雑誌の編集者だった時代とやっていることは変わらず、「へえ、今そんなことが流行っているんだ」とか一生懸命メモを取りながら若い世代に話を聞いて、時代の感覚をオジサンながら一生懸命取り入れているんです(笑)。

※三島由紀夫の自伝的作品。成功をおさめた主人公が、自らの性的嗜好に悩み、己を苦しみながら読み解いていく告白小説。

————今まで企業のオウンドメディアは、広告制作のブレーンが手がける形式が多かったような印象もあります。雑誌で経験を積んだ編集者が競争に参入すると、面白くなりそうですね。

山本  もし、雑誌の編集者が先ほど述べた自己解体に成功し、本来持っている「何を、誰に、どう伝えるか」というスキルに柔軟な発想が加わったとき、コンテンツマーケティングのエキスパートになれると思うんですよ。

もともと雑誌作りというのは、世界観にこだわり「あなたは読まなくていいです」と間口を狭くして「排除していく」ことで際立った個性を生み出す作業なんですね。でもコンテンツマーケッターになるには、どんなものでも「受け入れる」幅の広さを持ちながら「この商品をプロモーションしたいんです」と言われたときに、じゃあこういう方法はどうか、とキュッと「絞り込む」柔軟な感性が必要になります。「排除していく」雑誌づくりに対し、「受け入れて、絞り込む」のがコンテンツマーケティングに求められる編集力だと思います。

————とはいえ、SNSでのコミュニティづくりやオウンドメディアには、すでに着手している企業も多いはず。新規参入に勝算はあるのでしょうか。

山本  いろんなコンサルタントがやってきて「SNSを活用しましょう」とか言うんですよ。僕が知っているある流通系の会社は、SNSのアカウントだけでも20個くらいあって(笑)。たしかにやってます。頑張ってやってます。でもそれは「伝えている」だけで「伝わっていない」。そのメディアにどんな「伝わるコンテンツ」を乗せるかが一番大事なんです。そこにコンテンツマーケッターとしての編集者の生きる道があると思います。

編集者の嶋浩一郎さんが「優れた編集者とは、いろんな乗り物を乗りこなすことができる人たちだ」と言っていましたがまさしくそうで、コーヒー一杯の美味しさを伝えるにも、紙のメディアか、SNSか、CMなのかと乗り物によって伝え方が違うはずなんです。 

伝えたいコンテンツを、どの乗り物にどう乗せるのか、企業がうまく乗りこなせていない現状があるそここそが、編集力が問われる場所であり、僕たち編集者の生きるスペースがあると思います。

————お話を伺っていると、企業内で編集視点を教える人材育成に携わるとか、編集スキルを持った人材が重宝される時代が来た、とも感じますね。

山本  僕のコミュニティのひとつである「編集塾」では、プレミアム会員と面談する機会があり、自分の書いた企画書やプレゼン資料をブラッシュアップするための意見を求められることがあります。 

本人は自分の言いたいことを全部伝えたつもりで作っている資料が、読む側にはまったく伝わらないであろうものになっている、そういうことはよくあるんです。興味がない人に対してどう興味を持たせ「面白いね、ぜひ実現しましょう」と思わせられるか、それは編集力にかかってくる。メール一本送るのでも、今は個人に膨大な量のメールが届く時代ですから、自分が送ったものが必ず読まれる保証すらありません。 

じゃあ、読まれるためのタイトルをどうつければいいのか、というのも編集的な発想が必要になってきます。「誰に、何を、どう伝えるか」という編集力は、どんな職種においても必要な基本的スキルになっているはずなのに、伝える力についてはまだ身につけていない人が多い。そういう現状を考えると、編集力を持った人材が必要な場面はこれからますます増えていくだろうとは思いますね。

————業界不況の話題にさらされてきた編集者にとっては「まだまだ活路がある」という明るいニュースかもしれないですね。

山本  そうですよ、ものすごく明るいニュースです(笑)。 

編集という仕事にはまだまだ可能性があるし、僕は編集者によるコンテンツマーケティングのゴールドラッシュが来るのではないか、と思っていますから。同時に、変化の波に乗れなかった編集者にとっては、ここがキャリアの分岐点になってしまうかもしれません。

僕は今、企業に対して100本ノックみたいに様々な提案を投げている最中です。抱えている問題や課題に対し「こういうクリエイティブな提案をすれば新しい事業展開ができるのでは?」「社会に対して違う見え方に映るのでは?」と企画にまとめて。 

100本ノックですから、暴投になることもあるし、打ち返されることも当然ありますけどね(笑)。それでも柔軟な発想でいろいろなクリエイティブが提案できるのは、ものすごく楽しい作業である、と断言できます。

『編(あむ)』という社名ですが、漢字の「編」にはそもそも縦糸と横糸を象形文字として表した、というルーツがあります。どういう糸を縦と横に合わせ、どういう織物を織るのか、それこそが編集のやることだと思ったんです。 

何を、誰に、どう伝えるか。そんな編集の原点に立ち返る思いを込めて、2016年は新たな一歩を踏み出そうと思っています。

Interview/Text: 木内 アキ
Photo: 森弘 克彦


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