1. 山本由樹/佐渡島庸平/嶋浩一郎が考える、これからの時代に残る「編集者の条件」:名物編集者が斬る!

山本由樹/佐渡島庸平/嶋浩一郎が考える、これからの時代に残る「編集者の条件」:名物編集者が斬る!

お笑い芸人・ピースの又吉直樹のデビュー作にして、第153回芥川賞を受賞した小説『火花』。この小説が生まれたきっかけは、あるひとりの女性編集者の言葉だったという。

ここに、会社を辞めて独立したある3人の名物編集者がいる。 
ひとりは、「美魔女ブーム」を起こした山本由樹氏 
ひとりは、大ヒット漫画「宇宙兄弟」を手掛けた佐渡島庸平氏。 
ひとりは、「本屋大賞」の立ち上げメンバーである嶋浩一郎氏。

彼らが話す、これからの時代に残る編集者とは一体どういう人物なのか?

編集者とは?――「情報や人の組み合わせを考える人」(佐渡島)

佐渡島  本はどうやって売れるのかを考えた時に、どこかで話題になって人々が広告などを見て興味を持って書店に行って表紙を見て、みたいな流れで、買うかどうかを決めると思う。 

しかし、それぞれの段階で、見る場所と状況がひとりひとり違う。それを踏まえて、どういう情報を出していったら効果的なのか?ということをコントロールしていって、本の内容やストーリーといったものを最初から最後まで読ませるためには、どういう情報を出していくべきなのか?を考えるのが一番重要。 

出す順番を考えるのも大事だが、誰と誰をマッチングして、というような「この作家に対してこのデザイナーを組み合わせる」とかっていう「人の組み合わせのタイミング」を考えるのも編集だと思うんです。

「情報に視点を入れて、自分なりの見方を作れる人」(嶋)

嶋  ネット上に一個一個スライスされて置かれたものは単なる「情報」にすぎなくて、そこに「視点」はないじゃないですか。だから、異なる情報A,B,C,Dというものを一緒にして見せることで、今世の中でこんなことが起こっているとか、こういう世の中の見方をすると面白いみたいな現象や視点の提示ができる人が編集者だと思っています。

あと、僕自身は世の中にとって「無駄」がとても重要な役割を果たすと思っていて。ずっと広告の企画などを考える仕事をしてきたわけですが、無駄なことが結構いい企画のヒントになるんですよ。 

リアルな本屋を経営しているわけですが、僕は本屋に置いてある本は“無駄でいい”と思っています。つまり、本屋は無駄と出会う場所。でも、最初無駄だと思ったことが意外に役立ったりするんです。 

雑誌も同じだと思いますよ。だって、雑誌って「雑」って漢字をつかうわけですから。「このページを読もう」と思っていたのに、全然関係ないページの記事を読んでしまう。みたいなそういう情報の取り方っていいんですよ。 

だから、いかに“一見無駄なものを世の中に配り続けるか”っていうのも僕自身のテーマだったりしています。

「ものを伝えることに対してプロフェッショナルである人」(山本)

山本  自分のジャンルを持っている編集者ってとりあえず強いですよね。僕は実は週刊誌の経験が長くて、『女性自身』という雑誌を16年以上担当していたんですよ。 

その当時「人の欲望知る」ことをすごく意識する毎日で、編集者として「欲望を言語化」して共感を得るような形で伝えることが、一番大切だと学んだんです。その延長に「美魔女」というものが生まれたり、今の雑誌があったりするんですけど。
 
編集者とは欲望を捕捉して、言語化して伝えるプロフェッショナルだと思います。でも今は「欲望」がなかなか可視化できなくて、編集者は難しい時代でもあると思うんです。

「出口がないのに、大量にものづくりをしているという現状」(佐渡島)

――今の時代、先を見据えて、今後求められる編集者ってどういう人でしょうか?これからの編集者としての戦略を教えてください。

佐渡島  出口が用意されているところで、ものをつくるのか、ものをつくってから出口を探すのかによって全然違って。 

どうしてもコンテンツをつくる場合って、コンテンツづくりに興味があるから、出口への興味がほとんどなかったりとかっていうふうになってしまうし、そもそも出版社自体とか、テレビ局とか、映画とか、出口が確立した業界だったんですよ。 

それが、書店へ行く人たちが減ってしまったうえに、出版件数が増えて、作品が見つけにくくなっている。僕らが全く出口が見えにくいところで発表をしている。 

インターネットって、簡単にページが作れて出口になりえるかと思いきや、インターネットの方が無限の荒野が広がっていて、見つけてもらうのは難しい。インターネットは簡単に出口にはなりえないんです。だからインターネットの中でもしっかりと出口を作るっていう作業をやらないといけない。 

それで、その出口をどういうふうにしてつくるのかっていう時に、答えがコミュニティだろうなと思って、いまさまざまなトライをしています。コミュニティづくりがすべての先にあるなと考えています。
  コミュニティをつくるっていうのは編集者の一つの能力だと思います。コミュニティをつくることに広告クライアントはものすごく注力しているわけで、マネタイズもできる。コミュニティ形成だけでなく、未来型の編集者が持たなければいけないスキルはマネタイズ能力だと思います。 

先ほど佐渡島さんがおっしゃっていたように、今までの出版システムや広告システムはそれなりにマネタイズができる仕組みだった。だから、それにのっかている人はあまりマネタイズのことを考えずにコンテンツを作ってこれた感がある。いま、そのシステムが疲労しはじめているわけですよね。
山本  さまざまなメディアとかデバイスにあわせて表現を変えられるような人が未来型の編集者だと思います。未来型の編集者がデバイスに合わせて、メディアに合わせて、コンテンツを、表現を変えていくっていうことって、一見すごく難しいことのように思えるじゃないですか。 

でも、情報の受け手サイドから考えてみると、メディアそのものが体験と考えればいいと思うんです。情報に接すること自体がある種の体験だと。だから、メディアやデバイスによってどういう体験を提供すればいいのかを、考えることから始めればいいんだと思うんです。 

情報の送り手とは逆の受け手から発想をしていくと、よりわかりやすくなるのかなと思ったんですよ。そしてどういう情報をどんな伝え方で提供すれば、その人が「よかったな」と思ってもらえるのか、そんな発想ができれば編集者は未来の状況にも適応できると思うんです。

「コンテンツを作るってすごくセクシーな仕事だと思う」(嶋)

  日本の編集者の中で読者の欲望をしっかり言語化できる人の代表が山本さん。山本さんが「美魔女」っていうコンセプトを掲げた時、どんだけそんな人がいるんだろうと正直思ったけれど、「アラフォーになっても自由に生きたいの」って思う女性は結構多かった。読者がそういう欲望を持っているのを先回りして言い当てたわけですよね。「実はあなたそうしたかったでしょ」って。 

こういう技術ってすごく大事。なにしろ、人の欲望を言い当てるのって難しいんです。なぜかというと、人は不器用で実は自分の欲望を言語化できる人はまれだから。 

欲望に関して「羊たちの沈黙」のレクター博士がいいことを言ってます。「欲望は自存するものではなく、目の前にそれが出現したときに発動するもの」だって。これは二つのことを言っているわけで、一つは「人って不器用でそう簡単に欲望を口に出せない」ってこと。 

もう一つは「人って都合がいい生き物だ」ってこと。だって、それが目の前に出現すると、あたかも前から欲しかったように「そうそう、わたしそれが欲しかったの」って思うから。 

山本さんが「美魔女の生活どう?」って呼びかけを雑誌の『STORY』でした時、読者の人はその欲望を言語化していたわけではないけれど、その記事を見たとたん、「そうそう、わたし、そういう生活がしたかった」って思ったわけですよね。

このことに関してもう一つ重要なことがあります。すでに言語化された欲望に応えてあげても、人ってあんまり感謝してくれない。だけど、自分が気付かなかった欲望を他人に教えてもらえると、そうしてくれた人にスゴク感謝するんです。 

たとえば、リアルな本屋に行って買うつもりのなかった本を買っちゃうことがあるじゃないですか。あれは、言語化できなかった欲望が本屋で言語化される瞬間なんですよ。 
で、そういうとき人は「なんで、この本屋は自分の好きな本があるんだろう」と感じる。で、「この本屋大好き」ってなるんです。 

雑誌も同じで「美魔女の生活いいでしょ」って提示してくる雑誌のことを、「なんでこの雑誌は私のやりたいことがわかるのかしら」と思ってくれる。そして、人はそこにお金を払うんです。

ビッグデータってすごいですよ。いろんなことがわかる。でも、これはすでにデータ化されてる欲望の整理整頓をする作業。新しい欲望を発見はしないんです。言語化できてない欲望を先回りして提示してあげることが編集者、今の時代のコンテンツを作る人の仕事。ビッグデータを扱う統計学者がセクシーだと言われますが、新しい欲望を言い当てる人はもっとセクシーなんじゃないですかね。

「人生が変わるほどの『幸せな経験』を提供していきたい」(山本)

山本  情報は情報としてしか扱えない時代っていうのは不幸だと思うし、すごくこじんまりしていると思うんですよ。嶋さんが書店にこだわっているのって、そこに出会いがあるからじゃないですか。で、その出会いというのは、自分を乗り越えていくチャンスなわけじゃないですか。 

今の自分がある本との出会いによって、どこかにジャンプアップするかもしれない。あるいは、別の道を見つけるかもしれない。いろんな人生の選択がそこにあるかもしれないっていうことが、単純に情報だけに触れていると起こり得ないと思うんですよね。何かこう、ある意味魂のこもったようなものと出会った時に、すごく豊かな経験が起こると。 

で、その経験っていうものを、幸せな経験を提供するのが、多分編集者の仕事だし、そういう仕事をこれからも続けていきたいなと思うわけです。



ソーシャルメディアが発達している中で、誰もが情報を発信できるという点では、現代は誰でも編集者になりえる時代である。3人の話を参考に、あなたも「未来型の編集者」を目指してみてはいかがだろうか。
山本由樹のインテグレーテッドエディティングサロン 
インテグレーテッドエディティングとは「情報統合型の編集」を意味します。

あらゆる場所で情報が溢れかえっているいま、これから最も重要とされるのは編集の本質を知り、適切な情報を適切に切り取り、繋ぎ合わせる「編集力」です。「編集」とは雑誌や映像に限ったことではありません。日常のコミュニケーション、恋愛、ビジネスなどいたる所で「編集」は必要とされています。

ともに編集の本質を学び、編集力を磨きましょう。そして価値あるコンテンツを世に提供しましょう。

山本 由樹 プロフィール

やまもと・ゆき/1986年、光文社に入社。『STORY』『美STORY(のちの美ST)』の編集長として、2010年に「国民的美魔女コンテスト」を主催。メディアの垣根を超えた「美魔女」ブームを仕掛ける。2012年7月に光文社を退職し、9月に株式会社giftの代表取締役社長兼雑誌『DRESS』の編集長として、女性が自由に輝いていける社会を実現するための発信をしている。

佐渡島 庸平 プロフィール

さどしま・ようへい/2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『ドラゴン桜』(三田紀房)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)など、数々のヒット作の編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社である株式会社コルクを設立。漫画家・小説家などのクリエイターのエージェントを行っている。

嶋 浩一郎 プロフィール

しま・こういちろう/1993年に博報堂入社。企業の広報・情報戦略に携わりながら、若者向け新聞「SEVEN」の編集ディレクターや博報堂刊『広告』の編集長を務めた。2004年に「本屋大賞」を立ち上げに参加、現在NPO本屋大賞実行委員会理事を務める。2006年に博報堂ケトルを設立。2011年から雑誌「ケトル」編集長。2012年東京下北沢にビールが飲める本屋B&Bを開業。既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施している。

Interview/Text: 飯村 泉
Photo: 保田敬介

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