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メディア新世界へ止まらぬデジタル化、進化するビジネスモデルとは:『5年後、メディアは稼げるか』

樋口純平

2016/01/19(最終更新日:2016/01/19)


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メディア新世界へ止まらぬデジタル化、進化するビジネスモデルとは:『5年後、メディアは稼げるか』 1番目の画像
出典:www.rudebaguette.com
 情報化社会である今、メディアが私達に与える影響はかなり大きい。メディアのデジタル化に伴って、雑誌媒体の数が減少傾向にある中、日本の新聞は今も高いコンテンツを維持しており、世界トップ5の内4紙が、日本の新聞社である。このように、日本のメディアは圧倒的な地位を占めており、メディアビジネスも上手くいっているように見える。

 しかし、今のビジネスモデルでメディアは生き残ることができるのだろうか。メディア業界は今、メディアのデジタル化を含む、大きな変化の流れの中にいる。つまり、「メディア新世界」と呼ばれる新たなメディアのあり方へと移行しているのだ。メディア新世界へ移行していく過程で、メディアはどのようなビジネスを展開していき、そのビジネスが私達に与える影響はどのようなものなのだろうか。

 そこで今回は、NewsPicksの編集長である佐々木 紀彦氏の『5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die?』から、メディア新世界とはどのようなものなのか、そして、メディア新世界におけるメディアの新たなビジネスモデルとはどのようなものなのか学んでいくとしよう。

メディア新世界で起きる3つの変化

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出典:www.romancatholicman.com
 今現在、日本で大きな影響力を持つメディアは紙である。新聞社や出版社がメディア業界のビジネスの中では主役の立ち位置におり、まだデジタルメディアは脇役のような立場だ。しかし、デジタルを主役にすることで、広告やイベントの戦略を考えるという新たなビジネスへと急速にシフトしていくことが予想される。今後のビジネスにおいては、紙媒体ではなく、デジタルメディアの方がメインになってくるだろう。

 今現在の紙媒体は、個性よりも紙媒体全体のトーンや世界観が重視される。そのため、読者を意識したものであるというより、発行する会社内の評価を意識したものに偏ってしまうのだ。それに対して、デジタルメディアは個性が重視される。ウェブの世界においては、メディアビジネスの競争相手が多種多様に存在する。そのため、主観を抑えた記事よりも、個性がたくさん出ている記事の方が読まれやすいのだ。

 紙媒体における筆者は、新聞社や出版社の記者であり、その競争相手となるのもまた他社の記者だ。スクープを奪うことこそがメディアビジネスの成功であったが、メディア新世界ではそうもいかない。メディア新世界においては、読者も企業も筆者となることができる。そんな新しい筆者の書くものはオリジナリティに溢れており、中立的な記事を書くジャーナリストとは異なったものである。このように、メディア新世界では、情報の発信者も多様化する。

メディア新世界に向けた米国メディアのビジネスとは

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 メディアのデジタル化の潮流に乗って、米国を代表するニュース週刊誌『ニューズウィーク』が2012年をもって、紙媒体を完全に止めて、オンラインでの発行へビジネスモデルを移行したのだ。他の新聞社や出版社もデジタル化に伴って、発行部数がどんどん減っていき、経営を維持するためにリストラを行ったりした。日本の紙媒体には、このようなことは起きないという意見も存在するが、油断はできない。新たな技術を取り入れたビジネスが展開されれば、日本の紙媒体も安泰とは言えなくなるからである。

 メディア新世界に対して、先進的なビジネスモデルを取り入れたフィナンシャル・タイムズ(FT)を見ていこう。FTの購読収入をアップさせた、先進的なビジネスモデルというのが、メーター制である。メーター制とは、ウェブ上での有料課金システムの一種で、無料と有料をうまく組み合わせたフリーミアムモデルという、ビジネスモデルの一種である。つまり、無料会員だと制限付きでの利用しかできないが、有料会員になれば、無制限に利用できるというビジネスモデルだ。

 米国で最も有名なメディアといえば、ニューヨーク・タイムズであるが、あのニューヨーク・タイムズもメディアのデジタル化に伴い、リストラを何回か行わざるをえなかった。その後も記事の無料化といった、新しいビジネスモデルを試行錯誤するも、上手くいかなかった。しかし、メーター制を導入すると、経営状況は大きく好転したのだ。現在も新たな成長を目指し、メディアビジネスに取り組んでいる。

求められる新たなビジネスモデルと次世代ジャーナリスト

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 FTやニューヨーク・タイムズのように、有料化ビジネスを成功させるには3つの条件がある。1つ目は、メディアが経済系かエリート系かデータ系であるということ。2つ目は、そのメディアが持つブランド力。3つ目は、無料サイトにおける実績である。この3つの条件を満たした場合のみ、メーター制のような有料化ビジネスが成功するのである。決して簡単ではないということだ。

 メーター制のようなビジネスモデルを作るのに、必要なのはアイデアだけではない。そのアイデアをすぐ行動に移せる組織形態や文化が必要なのだ。そして、そこでトライアンドエラーを繰り返すのだ。例えば、組織内にデジタル部署を設置したり、デジタル時代に適合した企業を買収するといった方法が存在する。こうした取り組みを経て、メディア新世界でも、ビジネスを成功させようとするのが重要なのだ。

 ビジネスモデルだけでなく、メディア新世界ではジャーナリストも新しく生まれ変わらなければならない。本書で筆者は、次世代ジャーナリストに必要な7つの能力を取り上げている。

 ①媒体を使い分ける力
 ②テクノロジーに関する造詣
 ③ビジネスに関する造詣
 ④万能性+最低三つの得意分野
 ⑤地域、国を超える力
 ⑥孤独に耐える力
 ⑦教養

 最後の教養の身につけ方だが、これはオーソドックスな方法であるが、読書が最も有効である。メディア新世界を生き抜くためにも、この7つの力を養うべきだろう。


 メディアだけでなく、今社会全体が新たな社会へと動き出している。その変化の潮流の中で、生き残っていくために、新たなビジネスモデルを考えたり、新たな力を身につけなければならなくなるだろう。未来の新世界で、自分ないし自分の組織が生き残っていくためには、何が必要なのか、考えてみてはいかがだろうか。


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