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教科書に載っていない、中国「一人っ子政策」の大きな問題点:36年で生まれた“老いゆく中国”の闇

かわまり

2015/12/16(最終更新日:2015/12/16)


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教科書に載っていない、中国「一人っ子政策」の大きな問題点:36年で生まれた“老いゆく中国”の闇 1番目の画像
出典:commons.wikimedia.org
 2015年10月、中国政府が一人っ子政策の廃止を発表した。1979年から開始されて以降、多くの批判を受けながらも36年もの間続いてきた一人っ子政策だったが、とうとう終止符が打たれたのである。

 一人っ子政策は、数々の問題点を中国社会に生み出した。その内容は無戸籍児・人身売買の増加、急速な少子高齢化による社会保障の不足など、非常にシビアなものだ。

 今回は、教科書にも載っていないものを含め、一人っ子政策によって生じた問題点がどのようなものであったのか、述べていく。

一人っ子政策の問題点1:黒孩子(無戸籍児)の増加

 一人っ子政策には、既に子どもが1人いる夫婦が2人目の子どもを授かった場合、様々な懲罰金が課せられる規定がある。その主な内容は、以下の通りだ。

・「超過出産費」の徴収
・夫婦双方の賃金カット
・社会養育費(託児費・学費)の徴収
・医療費と出産入院費の自弁
・夫婦双方の仕事においての昇給や昇進の停止

 上記の通り、大変厳しい内容だ。一人っ子政策が長く続いた要因として、こうした懲罰金が中国政府の大きな収入源となっていたことも挙げられている。この一人っ子政策の懲罰金は、よほどの富裕層でなければ家計を大きく圧迫するものになる。一人っ子政策のこのような規定によって、2人目の子どもを授かった貧しい夫婦の多くが2人目の子どもの出生届を出さないという事態になった。
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 一人っ子政策による影響で無戸籍になってしまった子どもは、黒孩子(ヘイハイズ)と呼ばれる。一人っ子政策によって黒孩子となった子どもの数は、数千人から数億人いると言われているが、実際の人数ははっきりしていない。黒孩子は戸籍上は存在しないことになっているため、学校教育や医療などの行政サービスを受けることができず、就業困難などの多くの問題を抱えている。

一人っ子政策の問題点2:中絶、人身売買の増加

 中国の農村では、現代でも跡継ぎ・労働力になる男児を重宝し、女児を「お荷物」として扱う親が後を絶たない。そのため、男児の出産を切望する夫婦が多い。そんな一人っ子政策が実施されている状況で、1人目に授かった子どもが女児だと分かったら、どうなるだろうか。
 
 一人っ子政策が実施されて以降、妊娠した赤ちゃんが女児だと判明すると中絶をしたり、生まれてから密輸業者に売り飛ばしたりという選択をする夫婦が増加したという。烏龍茶の代表的な生産地である福建省の北部では、80年代から90年代にかけて、一万人以上の乳幼児が売られたとされている。その大半が女児だったようだ。
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  そして中国のインターネットには、不特定多数の相手とチャットすることのできる「テンセントQQ」というサービスがあり、そこには生みの親を探す女性たちが集まるコーナーがあるという。一人っ子政策による負の産物は、こうした日常の中で見え隠れしている。

一人っ子政策の問題点3:いびつな男女比による花嫁不足

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by Giles Colborne
 上記に通じることだが、一人っ子政策によって、中国国内の男女比は大きく変化した。中国の新生児の男女比率で、女児100人に対して男児が何人かとの統計をみると、1982年の108.5人が2000年には111.3人に、2008年には120.6人まで増えたという。その結果、現在の中国では男性の数に対して、花嫁不足という事態が起こっている。

 このいびつな男女比は、さらなる少子高齢化を生み出す可能性がある。

一人っ子政策の問題点4:あまりにも急速な少子高齢化

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  一人っ子政策による少子化と医療の発展による高齢化により、中国はとてつもないスピードで少子高齢化が進んでいるが、この状態に社会保障制度が追いついていないという。この事態が、中国政府に一人っ子政策の廃止を決断させたと言われている。

一人っ子政策の問題点5:わがまま世代の“80後(バーリンホウ)”

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  “80後(バーリンホウ)”は、中国の1980年代生まれを表す言葉。高度経済成長期と一人っ子政策が開始されたばかりの時期に生まれ育った世代だ。そのため、経済的余裕のある両親、祖父母から一身に愛情を受け、特別扱いされることや欲しいもの与えられることを当たり前として育ってしまった人が多いとされる。

  そういった一人っ子政策の影響によって、考えが利己的になりがちで他者とのコミュニケーションを上手く取れない――いわゆる「わがまま」な若者が増えてしまったとされる。


 以上、一人っ子政策によって生じた問題点について述べた。一人っ子政策は廃止されたものの、これらの問題点が解決されるまでにはかなりの時間を要するだろう。一人っ子政策が実施される前からこうした問題点が生じることは予測され、国際社会から批判が相次いでいたが、結局一人っ子政策は36年もの間続いた。人口抑制の手段は一人っ子政策しかなかったのだろうか――。

 それでも、一人っ子政策の廃止というのは健全な社会への大きな一歩でもある。中国における無戸籍の子どもの増加、望まない中絶、人身売買などがなくなることを願ってやまない。

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