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「本物」の組織論を学びたい人へ。組織行動論の権威 MITの教授が語る『最強組織の法則』

Mikako Sekine

2015/12/14(最終更新日:2015/12/14)


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「本物」の組織論を学びたい人へ。組織行動論の権威 MITの教授が語る『最強組織の法則』 1番目の画像
by University of Exeter
  あなたは問題にぶつかったとき、どのように対処するだろうか。まずは、問題をバラバラにしてその問題が起きた原因を追求するのではないだろうか。そうすることで、複雑な課題やテーマも一見すっきりして、取り組みやすくなるからだ。

 しかし、実際、問題をバラバラにする解決法には落とし穴がある。細分化した個々の問題に気を取られ、全体が見えなくなってしまうのだ。いわゆる、「木を見て森を見ず」状態に陥ってしまう。

 本書『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か』では、世界が個別の、互いに関連のない力で成り立っているという「バラバラ問題(木を見て森を見ず状態)」を打破するアイデアが紹介されている。

 「バラバラ問題(木を見て森を見ず状態)」を打破すると、その先に「ラーニング・オーガニゼーション」を構築できる、と著者は語る。ラーニング・オーガニゼーションとは、その名の通り、“学習する組織”のことだ。学習する組織は、目標に向かって自由に羽ばたき、バラバラに何かを学ぶのではなく、「共同して学ぶ方法」をたえず学び続ける。学び続けることで、衰えず、常に進化する組織であり続けられるのだ。

  本書の著者は、ピーター・M・センゲという人物で、MIT(マサチューセッツ工科大学)の経営学部教授だ。同大学の「組織学習センター」の責任者でもあり、アップル、P&G、AT&T、フォードなどの企業に「ラーニング・オーガニゼーション」の理論と実践を紹介している。

 今回は、著者が紹介する「ラーニング・オーガニゼーションの5つの鍵」のうち、3つの鍵についてお話したい。この5つの鍵は、ラーニング・オーガニゼーションを構成する要素のことである。

ラーニング・オーガニゼーションの要素1:自己マスタリー

 マスタリーとは、高いレベルの習熟を意味する。そのため、自己マスタリーとは、個人の視野を常に明瞭にし、深めていく(習熟していく)ことを意味する。エネルギーを集中し、忍耐力を養い、現実を客観的にとらえる力のことだ。この力は、ラーニング・オーガニゼーション(学ぶ組織)の精神的な土台となる。

 しかし、社員の成長を奨励する組織は驚くほど少ない。その結果、会社の潜在能力が発揮されずじまいになる。さらに、自分自身で仕事の習熟度を高めようと努力する人も少ない。目先の処理したい事柄ばかりに目がいってしまい、長期的な目標がないためだ。

 「本当に肝心なことは何か」がわからず、無視してしまうと、ラーニング・オーガニゼーションの一員になることはできない。ラーニング・オーガニゼーションの一員になるためには、常に学び、努力しようという個々の姿勢が少しでもあることが重要なのだ。

ラーニング・オーガニゼーションの要素2:共有ビジョンの構築

 数千年ものあいだ、幾多の組織を導いてきたひとつの「考え」。それは達成すべき将来のイメージを共有することであると著者は主張する。何らかの偉業を成し遂げた組織は必ず、目標や価値観、使命が組織全体に浸透している。

 例えば、フォードなら「大衆向け交通手段」、アップルでは「コンピューティング・パワーを大衆に」と、共通のアイデンティティと使命感のもとに組織を結束させた。

 組織に本物のビジョンがあれば、人々は共に学び、力を発揮する。だからと言って、大きなビジョンを個人に無理矢理押し付けてはいけない。

 個人のビジョンを共通のビジョンに変容させることが重要だ。無理矢理ビジョンを押し付けると、逆に個人の生産性を阻害してしまう恐れがある。

ラーニング・オーガニゼーションの要素3:チーム学習

 ひとりひとりの管理職のIQが120を超えていたとしても、集団ではIQが63になってしまうことがあるそうだ。このことを考えると、チーム学習というものは効率の悪い学習方法なのではないか、と思うだろう。

 しかし、チーム学習はこのパラドックスに立ち向かうと著者は主張する。スポーツ、舞台芸術、ビジネスなど様々な分野でチームの知力が個々人の知力を上回り、素晴らしい集団行動を発揮する。個々のメンバーも、他では不可能なほど急速な成長を遂げる。

 こうしたチーム学習は「対話」で始まる。対話することで、チームで「共同思考」に入ることができるのだ。「共同思考」をすることで、個人では果たしえない発見に至る。チーム学習が肝心である理由は、現代の組織では、個人ではなくチームが学習の基礎単位だからだ。チームが学ばなければ、組織は学ぶことができない。

 このチーム学習は、個人の視野をこえたところにある大きな像(“木を見て森を見ず”の“森”)をグループで探る技術を高めることができるのだ。


 本書の原題は『The Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning Organization』だ。抽象的ではあるが、この5つのディシプリンが最強組織であるラーニング・オーガニゼーションをつくる要素となる。ディシプリンを実践するということは、生涯学び続けることであり、「ゴールに到達」することは決してない。ディシプリンと辞書を引くと、「規律」という意味が出てくるが、本書の場合は「訓練」が近い意味となる。

 本書を理解するには、何回も読み込まなければならない部分ばかりだが、小手先のテクニックやハッタリが並べてある自己啓発本とは訳が違う。「本物」の組織論を学びたい方はぜひ。

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