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トヨタの現役相談役が語る、ムダをなくすモチベーション向上術:『トヨタの自工程完結』

樋口純平

2015/12/27(最終更新日:2015/12/27)


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by mtungate
 モチベーション(やる気)とは人間が活動する上でエネルギーとも言える原動力。このモチベーションが高いか低いかで、活動の成果は全く違ってしまうほど、モチベーションを高く保つことないし向上させることが重要視されている。そのため、様々な団体でモチベーションの向上を図る取り組みが行われている。特に従業員のモチベーションが業績に直結する企業では、モチベーションを向上ないし維持するための理念を共有することがある。

 しかし、モチベーションを向上させることは意外とやってみると難しいと感じる人はかなり多いのではないだろうか。モチベーションが上がらない原因が分からなかったりすることもあるため、どうしていいか分からず困惑してしまうだろう。

 そこで今回は佐々木 眞一氏の『トヨタの自工程完結』からトヨタという日本が誇る世界トップ企業で取り組まれている自工程完結という考え方からモチベーションを向上させる方法を見つけよう。

基本的なことができていないという認識を持つ

 上司に任された仕事を一生懸命やったのに、上司から満足できる評価を得ることができなかったという場面は、多くの職場で見受けられるもの。そういった場面で、多くの人のモチベーションが向上するどころか下がってしまう。また、モチベーションが下がるだけではなく、仕事の生産性を大きく下げたり、時間を多くロスしてしまったりする。

 トヨタでは、仕事の質を向上させるために、「実は基本的なことができていない」という認識を持つことを重要視し、その認識から自工程完結という新しい考え方を取り入れ、全社でこの考え方を共有する取り組みを進めることでモチベーション向上を促している。

 「上司は細かい指示ができていなかった」「部下はちゃんと確認しなかった」という基本的なことができていなかったということが、モチベーションを損ねる状況を生んでいることを認識し、仕事の質を向上させようという発想は、当たり前のようで実は気づきにくい盲点ではないのだろうか。

心がけだけではダメ

 多くの職場でモチベーションを損ねる状況が生まれてしまっているということもあり、「次は細かいところまで指示するようにしよう」「次はミスをしないように確認しよう」と自分に言い聞かせている人も少なくないだろう。また、実際にそのような状況は減っているかもしれない。しかし、どうしても起きてしまうことが現実だ。

 では、どうしたらこのようなモチベーションを損なう状況を起こさないことができるのだろうか。トヨタの出した答えは、より科学的に仕事を進めるというものだった。実際にトヨタでは、品質管理検査でどうしても起きてしまうとされていた不具合が起きなくなったという実例がある。

 熾烈な競争を繰り広げている自動車業界の中でも、常にトップの座を守っているトヨタは、毎年生産性を向上させる具体的な目標を持っていて、省人化や省エネ技術の開発に取り組むなどしている。自工程完結も生産性を向上させるための取り組みだ。生産性を向上させることは、モチベーションを向上させることに繋がるのだ。

一方で、時間をかけて考えたり仕事をしたほうが、部下を評価するといった企業も存在するようだ。つまり、ただ単純に部下を頑張らせるように仕向けることが、上司の仕事だと思っている人がいるということ。部下が反骨精神でモチベーションを上げると思っているのだろうか。これでは生産性は言うまでもなく低いだろう。だから日本の多くの職場ではモチベーションは向上しにくい。

暗黙知が生むムダ

 海外の職場とは異なり、日本の職場では上司から部下への権限委譲が進んでいないことが現実。部下が仕事をするにあたって、常に上司の顔色を伺わなければならない現状が部下に必要以上の仕事をさせ、疲弊させてしまう。これではモチベーションが向上しないのは当たり前である。上司も意思決定力が低く、時間をかけて結論を出そうとする。その結論を出すための材料をまた部下に用意させる。

 日本にとっては革新的な発想であるが、誰でも意思決定できるだけの情報があれば、上司などいらないという考え方がトヨタにはある。確かに、この考え方に沿って仕事をしていけば生産性は抜群に向上するだろう。さらに、一人ひとりが伸び伸びと仕事をすることができ、モチベーションの向上にも繋がる。

 とにかく日本では、仕事における情報の共有ができていない。多くの職場で、情報が共有されていないため、暗黙知というものが存在する。「あの人にしかできない」が価値になってしまっているのだ。この暗黙知が一番大きな無駄を生む場面は、人事異動だろう。やっとマスターした仕事から離れ、また別の仕事をゼロからスタートしなければならない。これではモチベーションが向上するはずもない。


 日本企業内で見るとトヨタの生産性へのこだわりは異常なようにも思えるが、異常なように思えてしまうほど、現在の日本の職場ではモチベーションを向上させることのできないシステムが根付いていて、日々私達のモチベーションを下げているのだろう。この異常なこだわりこそが、トヨタが世界での熾烈な競争においてもトップでいられる所以なのだ。


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