1. 「教師と児童の関係は、MCとひな壇芸人」――話題の“MC型”教師・沼田晶弘氏の授業に潜入!

「教師と児童の関係は、MCとひな壇芸人」――話題の“MC型”教師・沼田晶弘氏の授業に潜入!

子どもの知的好奇心をくすぐり、やりたいという気持ちを芽生えさせる独特の“MC型”授業が話題の小学校教諭・沼田晶弘氏

先生曰く「教師と児童の関係はバラエティ番組におけるMCとひな壇芸人に似てる」とのこと。もちろん観客のために授業を行っているわけではありませんが、その中身に興味を抱いている人はきっと多いことだろう。

そこで実際に授業を参観させていただいた。沼田先生が担任する6年生の子どもたちが前に立ってプレゼンをするという2時間の特別拡大授業。そして、その授業に至るまでの経緯についても語っていただいた。

沼田晶弘 プロフィール

ぬまた・あきひろ/国立大学法人 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭、学校図書生活科教科書著者、ハハトコのグリーンパワー教室講師。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、アメリカ・インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学附属世田谷小学校へ。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞「教育ルネッサンス」に取り上げられて話題に。教育関係のイベント企画を多数実施するほか、企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。「パッツン」「CM」「インパクトライティング」など、担当クラスでの斬新な授業が話題。

2時間ぶっ通し! 大人顔負けの白熱講義に圧巻!!

授業の内容は織田信長について発表するというもの。まず信長の一生を説明し、最後に信長が行った政策についてまとめあげるという構成だ。数人のグループが教室の前方に立ち、パワーポイントを巧みに使いこなしながら話す姿はまさに大人顔負け。かなり研究していないとできない、つまり半端ない勉強量だということはすぐに見て取れたのだが、特筆すべきはその話術!

例えば、朝倉・浅井軍をかくまったことから起こった1571年の比叡山焼き討ちの場面では……。
Aさん(発表者)  朝倉・浅井軍のリーダーたちは実は(比叡山延暦寺から)逃げたから死んでないんですよ。信長はお寺の中にいたお坊さんや、子どもや女の人を無差別に殺したの。

Bさん(生徒)  悪魔~!

Aさん  この時信長に、“神も仏も恐れない鬼の信長”ってあだ名がつきました。今で言う虐殺だよね。

Cさん(発表者)  “神も仏も恐れない”っていうと何を信じてたかっていうと、自分をすんごい愛してたの。自分ラブってこと。

Aさん  信長に条件を出されて脅されたお坊さんたちが、そんなに言うなら(焼き討ち)やってみろって言ったんです。そして信長は本当に焼きつくしました。信長がこんなに怖いって誰一人として知らなかったから。ほぼありえないパターンだけど、のび太がジャイアンに「殴ってみろ」って言われて本当にジャイアンがやられて帰ってく、みたいな。

生徒たち  えー(笑)。

沼田先生  はい! 信長ファンとして1点だけ補足。信長の肩を持たせてよ!……(ここから先生が諸説を説明)。
信長の激動の人生を、時にシニカルに、時に軽~く、そして情熱的にドラマ仕立てで話す。この絶妙な強弱に、参観していた大人たちも引き込まれて気づけば2時間。ここまでのプレゼン能力とモチベーションは、一体どうやったら身につくのだろうか。このとんでもなくレベルの高い小学生がいかにして出来上がったのか、純粋に先生に尋ねてみると……。


沼田  レベル高い、すごいって思うのは“しょせん小学生”フィルターがかかっているからでしょう。僕はそれをかけてないんです。子どもだからできないってことはなくて、あのくらいは積み重ねていけばできますよ。僕の中ではまだまだトークの技が低いなって思ってます。僕をお手本に見てるのにね(笑)。でも、正直なところものすごくレベルアップしてますよね、あの子たち。そのうち抜かれそう。

うちのクラスでは5年生の時に都道府県の観光大使をやったので、プレゼンテーションの練習はその時から積み重ねたものですね。今回の授業は8人か9人目の歴史人物なので、もう慣れているんです。

パワーポイントに関しては、生まれたころからデジタルに親しんでいる現代っ子なので、やりかたを覚えればあのくらい使うことはできます。ただ、パワーポイントを使ってプレゼンしたいと思ったことが今までなかったから触らせなかっただけ。スマホでも僕らが使えないことができたりするんです。だから、パワポはうちのクラスだからじゃなくて、使い慣れているかどうかだと思います。

気づけばMC型からひな壇型先生へ!?

————授業を行っている子どもたちは、先生やほかの子からの突っ込みや質問などにも、全く怖気づく気配がありませんね。

沼田  あの子たちはあそこでプレッシャーを受けて授業しているのを楽しんでいるんですよ。僕に突っ込み入れられて「あ、きたよ」みたいな。芸人さんの「押すなよ押すなよ」って言ってるけど実は押されたいみたいな。そこで、押される準備もできているんです。だからきっちり押してあげないと(笑)。まあ、もはや僕MCじゃなくてひな壇の方に座ってますけどね。

信長については、僕の突っ込みが物足りなかったみたいですよ。比叡山延暦寺だけは信長ファンとして許せなくなって意見しましたけど。でも、実はあれは、後で聞いたら僕が策にハマったらしいです。

————どういうことですか?

沼田  やたらあのシーンだけ信長の悪口言ったじゃないですか。あれは、ああいう風に言えば、僕が反論するのを分かっていたみたいです。子どもたちは信長っていう題材を通して、授業も勉強も、プレッシャーでさえ楽しんでいるんです
————子どもでプレッシャーを楽しめるってすごいですね。そもそも、子どもたちがあのように先生役になることは、何がきっかけで始まったのでしょうか?

沼田  最初は僕が投げかけていたんです。「卑弥呼について仮説を立ててよ」とか「弥生時代と縄文時代は何が違うのか」とか。そのうち誰かが、聖徳太子の授業をやってみたいって言い始めたんです。「授業とかしたら面白そうじゃない?」って。じゃ一回やらせてみっか、ってやらせたら、まあまあ面白くて。それでプロジェクトを組んでどんどん決まっていったんです。みんな授業はまだまだなんですけど、よく調べてあるし、勉強としては成立してるので、まあいいかな、って続けることになったんです。

「信長以外は全部やらせてやる、信長だけは俺にやらせろ」って思ってたんですけど、結局やらせることにしました。子どもは「よっしゃー!」って奪い取ったはいいけど、僕のことがちょっとかわいそうになったみたいで「先生もやればいいじゃん」って言ってましたね(笑)。

通常の授業の場合、一部の子だけが10点を取るといったように、ある一定の子が突出するのはしょうがないんです。でも、クラス全員でやれば少なくともみんな2点は取れる。 そう考えています。
沼田  このスタイルを続けることで、普通勉強したいと思わないのが、“やりたい”に変わってくれたらいいと思うんです。 
中には指導要領をとっくに超えてるものもあるので、教科書に載ってないんですよね。 
どこから情報を仕入れてるかというと、マニアでもない普通の小学生がいきなり「伝記買ってくれ」って家で言ってるみたいで、親御さんもびっくりされてました(笑)。

成功体験があるから失敗しても立ち直れる

————子どもたちの“自らやろう”という気を引き出すために、どんな工夫をしているのでしょうか?

沼田  「やる気をなんとか引き出そう!」ということは、特に考えてないんです。 
ただ人間って面白いのは、得意なところがひとつあると、苦手なところも後からやろうとするんです。反対に、苦手なところを直せって言われると、得意なところも練習しなくなるんです。漢字が苦手な子に漢字をバンバンやらせるよりも、作文得意だったらそっちをやらせたほうがいつの間にか漢字もできるようになる。作文を書かせる時に『これで漢字もできたらかっこいいのにな』ってポロッと言うと案外できるようになったりするんです。

子どもが授業をしたり、公募のコンテストとかに生徒自ら提出する、といったことを積み上げてきた結果、“みんなで失敗したら、それはそれでしょうがないよね”っていう環境がいいんだということが分かりました。ドロドロになって失敗してもまた立ち上がってきますもん。僕は成功体験推進派なんです。ちゃんとした成功体験があれば失敗しても平気。
沼田  そこはもちろん率いるグループで違いがあると思うんですけど、僕がいるのは“義務教育の小学校”というフィールドなので、スポーツクラブみたいな明確な目標があって入ってきたわけじゃない。ベースにあるやる気が違うんです。でも、だからこそ逆に何でもできるんじゃないかと思ってます。僕と子どもたちがやってるのはイレギュラーかもしれないけど、まあ、本人たちが楽しんでやってるからいいんじゃないですかね。

僕が今やってることが正しいかどうかわかるのは、これから10年、20年経ってからなんですよね。それこそ僕が定年して仕事を辞めたくらいの時、子どもたちが大人になってから評価が下されるわけですから。世の中を変えられるかどうかは正直わからないけど、悪い方に変えなければいいな、くらいに思ってます(笑)。

Interview/Text: 河辺さや香
Photo: 栗原洋平

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