1. 誰もが「発信者」になれる時代に――。“美魔女ブーム”を巻き起こした敏腕編集長が語る「編集力」とは

誰もが「発信者」になれる時代に――。“美魔女ブーム”を巻き起こした敏腕編集長が語る「編集力」とは


インターネットでは膨大な量の情報が蓄積され、いつでも好きなときにほしい情報を取得できる環境が整っています。 その一方で、信ぴょう性に欠ける情報も氾濫。 「このメディアは本当に信頼できるのか?」「このニュースで語られていることは正しいのか?」、各個人が情報を精査する力が必要な時代だといえるのではないでしょうか。

そうした時代において、情報を発信する側、そして受け取る側双方に求められる“編集力”について、美魔女ブームの立役者でもあり、雑誌『DRESS』の編集長である山本由樹氏に伺いました。

山本由樹 プロフィール

やまもと・ゆき/株式会社gift代表取締役社長、『DRESS』編集長。1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後2002年「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年まで同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、2010年から「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に㈱giftを設立すると共に、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は20以上の部活数、1万8000人以上の部員が集っている。

編集とは「誰に」「何を」「どう伝えるか」


――『STORY』や『美ST』といった名だたる女性誌で編集長を歴任、現在アラフォー世代の女性を応援する雑誌『DRESS』編集長を務められる山本編集長ですが、編集者としてのキャリアは、週刊誌『女性自身』が始まりと伺いました。当時はどのような仕事をされていたのでしょうか?

山本:
入社して最初に配属されたのがニュース班でした。週刊誌のなかでもとくに『女性自身』は、ピラミッド型のシステムがしっかりしていて、編集長から現場の編集まで縦のラインが完成していたんです。 

もちろん大学出たての僕は、編集者としては下っ端でしたが、ベテランのライターに仕事を発注する立場なので、はじめは苦労しました。当時は70年代安保世代で大学をドロップアウトしたような人たちが、ライターとして活躍されていたので、それはそれは過激な世界でしたね。

――そういったベテランライターの方々をどのようにまとめられたのでしょうか?

山本:
まとめようとしても、まず言うことを聞いてもらえないんですよね(笑)。たとえば、「こういうタイトルでこういう記事を作りたい」と思っても、取材に行ったら必要な話が聞けないなんてことはよくありますよね。 

でも、現場経験もろくにない僕みたいな若造が、「なんで取材できてないんですか。もう1回行ってきてください」って言うわけです。 新入社員にそんなこと言われたら、頭にきますよね。それで、大喧嘩になったことが何度もありました。

――でもそれだけ、ひとつの記事に対する熱量がすごいということですよね。

山本:
そうですね。情報の集め方も徹底していました。 

下っ端の編集者は何か事件があったら、新聞からとにかくたくさんのデータを集めます。写真も会議室の床がいっぱいになるくらいに並べて、デスクと共に全部に目を通します。 ものすごい量があるので大変ですが、情報を集め、整理し、それをどう伝えるかというところまで妥協せずに作っていましたね。タイトルがなかなか決まらなくて、徹夜で悩んだこともありました。

――そうしたこだわりが、編集に対する考え方の基礎になったのでしょうか?

山本:
僕は編集って「誰に」「何を」「どう伝えるか」だと思っているんです。それは16年間の週刊誌時代に養われた考え方ですね。 

たとえば、大きいニュースだと大勢のライターが一斉に動き、大量の原稿があがってきます。それを全て読んで使える部分を切り出し、構成し、どんなタイトルをつけようかと考えながら全体をまとめる。いわば現場を仕切るディレクターのような存在が編集者なんだろうと思います。

――いまも週刊誌の記事はそのように作られているのでしょうか?

山本:
基本は同じですが、昔ほど人手をかけていないですよね。そのため、おそらく集められる情報は薄くなっているだろうなという気はします。 

たとえばですけど、原稿の最後の一行に、「振り返ると山は赤く燃えていた」っていう表現が使われていて、「あそこから山ってどう見えていたかな?」と疑問に思ったとします。当時であれば、山がどうやって見えるかどうか、現地へ確認に行ったかもしれません。小さな疑問があればそれを徹底的に調べに足を運ぶ。それくらい人手とお金をかけていましたね。 

昔、阿部定の生涯を追いかけたことがあったんですが、足掛け4年取材したこともあります。結局7ページの記事になったのですが、その時の取材データを分厚い書籍にしたこともありましたよ。

誰もが発信者になれる時代にこそ、持ちたい“疑いの目”


――いまは毎日ネットニュースやブログ記事など、大量の情報が配信されています。一個人でも簡単に情報が発信できる時代になりました。その辺りの良し悪しについてどのように感じられますか?

山本:
プロが独占していたものが、世の中に開放されてきたことはいいことだと思いますね。ただ、マイナス点を挙げるとすると、記事にするということは、ものすごい量の情報からその真偽を精査して切り取ることです。自分が直接仕入れた現場情報、つまり“一次情報”ってそうやって作るもの。 

しかし、いまネットには主観的な情報が溢れていて、真偽も定かじゃないものがたくさんあります。主観は「自分はこう思った」ということですから、真偽は関係ないわけです。結果としてネットの世界は、主観的で感情的な情報にあふれています。 

特にSNSは巨大なクチコミのようなものだと感じますが、人間はクチコミ情報に弱いので危険だなと思います。何かを判断するときには、「これは本当かな」とまずは疑ってかかることです。

――それは、情報を発信しようとしている人、受け取る人、双方が肝に命じておかないといけないことですね。

山本:
ネットニュースの中には嘘八百を平気で流しているようなサイトもあるじゃないですか。なので、全部を鵜呑みにするのではなく、ホントかよって疑いの目でみないと危険ですよね。編集者もジャーナリストも一緒だと思いますが、本当かどうかとまず疑ってかかる姿勢って大事なんですよ。分かりやすくて、もっともらしい顔をしている人やものほど疑ったほうがいいです。

ブームを起こす秘訣は、共感と賞賛と「なんだそれ?」


――山本編集長が『美ST』を手掛けられた頃に生み出された、「美魔女」という言葉は一躍ブームになりました。そうした話題を呼ぶ言葉を生みだすにも編集力は必要なのでしょうか?

山本:
まず、言葉から発想するのではなくて、メッセージを提示することが大事です。「私もそうなりたい」「私も憧れている」と思わせるような、つまり“共感と賞賛”を得るためにどうすればいいかを考えます。

たとえば、企業が消費者にスマホを買ってほしいと思ったら、どこに共感し、憧れ、手にとってもらうか思考しなくてはいけません。同じ物をアラフォーの女性に伝えるのと、50代の男性に伝えるでは全然違うわけです。マーケティングの考え方になりますが、物が持っている長所短所を整理し、誰に向けてどうやって伝えるのかという点は、編集と共通することなんです。

また、当事者にとっては共感と賞賛が大切ですが、当事者ではない人たちにとって、「なんだそれ?」っていう、ちょっと違和感がある表現で巻き込むことも必要です。

オーディエンスには積極的な人と、消極的な人がそれぞれいます。「美魔女」になりたいと思っている積極的な人は共感と称賛で引っ張ってくる。一方で消極的な人、たとえば『美ST』読書である女性のご主人。その人が、たまたま雑誌をちらっと見たときに「美魔女」って書いてあったら、「なんだ美魔女って?」と思いますよね。そう思った瞬間に、彼は積極的オーディエンスに変わっていく。そうすると社会現象に変わっていきます。言葉ってそういう武器になるんですよね。

Interview/Text: 末吉陽子
Photo: 保田敬介

U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう
この記事を報告する