HOME日本のおもてなし文化は、間違いだらけの戦略。世界一“観光客が多い国”の作り方:『新・観光立国論』

日本のおもてなし文化は、間違いだらけの戦略。世界一“観光客が多い国”の作り方:『新・観光立国論』

蓮見彩

2015/10/29(最終更新日:2015/10/29)


このエントリーをはてなブックマークに追加

日本のおもてなし文化は、間違いだらけの戦略。世界一“観光客が多い国”の作り方:『新・観光立国論』 1番目の画像
by pedrosimoes7
 日本の観光客数(外国人訪問者数)ランキングは、世界の中で何番目かご存知だろうか。

 答えは、世界第22位アジアでは第7位。日本政府観光客の訪日外客数の統計(2015年9月のデータ)によると、日本の訪日外客数は1,448万人ほどで、年間8,200万人も外国人観光客が訪れるフランスと比べると雲泥の差である。

 日本は豊かな食文化と多くの歴史的建造物を保有しているので、日本の観光客数はもっと上位だと予想した方も多いと思うが、このランキングを見ると日本はまだ「世界有数の観光大国」と呼ぶにはほど遠い。

 今回は、テレビ東京の「カンブリア宮殿」でも紹介され、大きな話題を集めたデービッド・アトキンソン氏の『新・観光立国論』をご紹介する。観光客が集まる条件と照らし合わせながら、なぜ日本の観光客は増えないのか、今後日本が「世界一の観光大国」を目指す上で、どういった戦略を取るべきか考えていきたい。

「観光立国」になるために必要不可欠な“4つの条件”

 まず、多くの観光客が集まる「観光立国」になるための4つの条件について考えてみる。

①気候

 1つ目の条件は「気候」。観光客が倦厭するのが、極度に熱い国や寒い国である。こういった国へ観光に行く場合は十分な事前準備が必要となるために、旅行先として選ぶ上でのハードルとなる。また、ゆっくりと余暇を楽しもうとしている場合は、比較的穏やかな気候の国へ訪れた方が心身共に休息が取れるというものだ。

②自然

 2つ目の条件は「自然」である。特に、都市化が進んでいる先進国の人々や緑が少ない地域に住む人にとっては、自然溢れる国は観光してみたいと思うスポットだ。また自然が多いところには動物や植物が生息しているため、多くの観光客にとって魅力的に映るだろう。 

③文化

 3つ目の条件は「文化」である。国というより、有名な歴史的遺産や建物を目的に訪れる観光客は多いはず。もちろん文化とは歴史的なものだけを指しているのではなく、現代的なファッションやエンターテイメントも指している。

④食事

 4つ目の条件は「食事」である。国によってこの味つけが好きだという好みはあるが、万人が美味しいと思う料理が豊富にあるのは観光客を誘致する上で強靭な武器になる。

 ここまで述べてきた新観光の4つの条件を満たしている国は、多くの観光客を呼ぶことができると言われている。しかしこの4つの条件、実は日本は既に全部有しているのだ。

 春夏秋冬がある日本の「気候」は、観光客にとって過ごしやすい環境であり、「自然」に関しても部分的になるが、雄大な自然が広がっている地域がある。また、日本は京都に代表されるような歴史的遺産を複数持っており、現代でいうと「アニメ・漫画」というサブカルチャーの火付け役となっている。最後の「食事」においても、日本の食事は世界からも大きな注目を集めており、海外セレブの間では空前の「日本食ブーム」が巻き起こっている。

 では「観光立国」になるための条件を日本は充分に満たしているというのに、なぜ世界各国から多くの観光客を誘致することができないのだろうか

日本のアピール戦略が落とし穴

 日本が観光客を誘致するための4条件を満たしているにもかかわらず大きな成果を上げられていないのは、日本のアピール戦略に大きな勘違いがあったからだ。

日本のアピール戦略勘違い① 交通アクセスを整えればいい

 日本は「交通アクセス」に重点を置いており、交通の整備をすると観光客が誘致されやすいと錯覚を起こしている部分がある。しかし、そもそもどんなに交通が不便なところにあろうとも、そこに見たいものがあれば観光客は自然と足を運ぶもの。例えば、ペルーにあるマチュ・ピチュまでの道は決して整備されてはいないが、年間40万人以上もの観光客が訪れる人気の観光スポットとなっている。

日本のアピール戦略勘違い② 日本の「お・も・て・な・し」文化

 東京オリンピック誘致時に、東京オリンピック招致のアンバサダーに任命されたアナウンサーの滝川クリステルが「お・も・て・な・し」という言葉を使ったことは、世間やお茶の間を騒がせたことかと思う。

 この言葉に集約されるように、日本は「おもてなし文化のある国」で、それを売り出せば観光客が集まると一般的に思われているようだが、これは大きな勘違いなのだ。なぜなら、「おもてなし」の感覚や価値判断は国によって異なるからだ。

 海外では、レストランに食事に来ている観光客に「サービスに不満はありますか?」と訪ねるらしいが、それは日本にはない習慣である。その習慣の根付いている国から来た観光客は、もしかしたら日本は「おもてなしの心」がないと感じるかもしれない。それほどまでも、「おもてなし」という概念は曖昧で、日本で大々的に打つアピール戦略としてはふさわしくない。

外国人観光客誘致をするための、2つの提言

日本のおもてなし文化は、間違いだらけの戦略。世界一“観光客が多い国”の作り方:『新・観光立国論』 2番目の画像
by Chi King
 日本が間違ったアピール戦略を行っていたことはここまで述べた通りだが、では実際に多くの外国人観光客を取り入れるために、どういった戦略をとっていくべきなのだろうか。

観光客を細かいセグメントに分け、狙い打ちせよ

 近年では在日外国人も増えてきたが、日本は単一国家・単一民族という長い歴史を持っていたことから、未だに外国人を一括りなセグメントにする傾向にある。「外国人観光客をターゲットにする」のでは戦略の意味合いが広いので、「日本には台湾人観光客が一番多く訪れるから、台湾人が来るような戦略を考えよう」というように、ターゲットを絞った戦略展開が必要となってくる。

 特に日本は富裕層観光客に目を向けた戦略が少ないので、海外の富裕層が集まるような施策を打ち上げるべきだ。例えば、その一例がホテルである。最近の日本では安価で宿泊できるホテルが増加しており、サービス・設備・価格ともに一様化してしまっている。富裕層観光客を誘致するためにも、日本のオリジナリティある高級ホテルを用意するべきだ。ホテル以外にも、電車やテーマパークなどにVIP席を設けるなどの工夫もできるだろう。

文化財産の整備に重点を

 多くの文化遺産を抱える日本だが、意外にもそれらの修理に時間と費用を投資していない。「わびさび」溢れる日本の建造物は観光客の見る目によく映るが、それにも限度がある。老朽化が進んでいる建造物は、優先的に修理していかねばならない。


 2015年に東京オリンピックが控えている今、日本の観光客が少ない現状は深刻だ。多くの外国人観光客が訪れるような状況を作るには、これまでの誤ったアピール戦略及び政策を改め、より具体的でターゲット化した戦略展開に注視していくべきだ。この記事を読んだあなたにも、今一度日本の観光問題を見直してほしいと呼びかける。


hatenaはてブ


この記事の関連キーワード