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目指すのは「サグラダ・ファミリア」のような店!? 恵比寿横丁の仕掛け人に聞く「空間作り」の秘訣\

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2015/10/22(最終更新日:2015/10/22)


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目指すのは「サグラダ・ファミリア」のような店!? 恵比寿横丁の仕掛け人に聞く「空間作り」の秘訣 1番目の画像

恵比寿横丁の他、有楽町産直飲食街など、独創的な繁盛店を多数リリースしている浜倉好宣さん

場所づくりにおいて一番に重要視するのは、「お客さんが自分らしくいられる空間であるか」だという。自分を飾らずに過ごせる場所を持つことの効用、そしてハジけることが苦手な日本人のスイッチの外し方など、独特な空間づくりについて詳しく伺った。

浜倉好宜 プロフィール

はまくら・よしのり/レストランプロデューサー。
1967年横須賀生まれ、京都育ち。高校卒業後、18歳の若さで京都駅にあった古びた飲食店のリニューアルを担当。はやくもプロデュース能力の片鱗をみせる。その後、いくつかの飲食業界勤務を経て独立、独創的な繁盛店を多数リリースしている。2009年には外食産業記者会主催「外食アワード2009中間流通・外食支援事業者賞」受賞、日本居酒屋協会副会長にも就任している。代表的なお店として、恵比寿横丁などがある。

背伸びせず、普段の自分でいられる場所を作りたかった

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――10年前に恵比寿横丁を作られたきっかけを教えてください。

浜倉:
僕、以前は六本木ヒルズの中で働いていたことがあるんです。今の恵比寿横丁の形態とは異なる、キレイな飲食店を作る仕事をしていました。ああいうところで働いていると、周りの人たちからは「いい場所に勤めているね」と言われるのですが、実際に働いている側からすると、ヒルズの中でご飯を食べることもなければ、時間があると少しでも地上に降りて深呼吸したくなるんですよ。

本来、人ってああいう空に近い非日常の場所ではなくて、地面や空気に触れていないとダメだなと感じていました。昼間のオフィス環境もキレイなビルがどんどん増えるのですが、かえって居心地が悪い。こうした想いが、恵比寿横丁のような人が“コミュニケーションを取れる場所”を作りたいと思うきっかけですね。

10年前は、キレイでおしゃれな飲食店が流行っていました。個室に区切られていて、しゃべっている内容も聞こえないようにプライベートも守られているようなね。そんな店におしゃれしてすかしたお兄ちゃんが、「予約取ったからデートしよう」って誘ったりしていたわけです。

当時はそういう時代でしたから、肩ひじ張って見栄を張るのもよかったんですよね。ただ、そうした店でカッコつける反面、素直な自分のままで存在できる場所も必要とされるようになった。憧れがありすぎて背伸びをしていた時代から、人として本来の姿に戻ってきたのかもしれない。

恵比寿も昔は気軽に飲めるお店がそこら中にあったのに、それがおしゃれなお店に変わってしまったので、自分たちの居心地の良い空間を求めていたんでしょうね。
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浜倉:
特に都内は核家族や単身で生活している方が多いこともあって、コミュニティのような空間で、肩書を気にせずに話ができる場所は少なくなりました。昔は町内会で祭や盆踊りがあって、違う世代の人とも交流を持てたりしたものですが、その普段性が今では下町を抜かせば都内ではほとんど失われていっていますよね。

誰かと友だちになる時って、休み時間に廊下に出て、自然と気の合う仲間が集まってきて……という感じだったじゃないですか。社会に出ると、そういう場がないですよね。

僕は「オトナの廊下」って呼んでいるんですけど、偉いとか偉くないとか関係なく知り合って、お酒を飲みながらコミュニケーションする場が求められているんじゃないかなと。だから「オトナの廊下」をテーマにして、背伸びしないで普段の自分でいられる場所を作ったんです。

目指したのは“通りぬけられて、ここにしかない出会いやきっかけが生まれる空間”です。お客さんとしてさまざまな世代、職業の方が来ているので、飲み交わすなかでいい出会いが生まれ、自然にいろんな人々が集まる“溜まり場”のようになっています。

――異なる世代がお店に集いやすくするために、どのようなことをされていますか?

浜倉:
今の20~30代くらいの人って、もしかしたら「ちんどん屋」や「流しの歌手」って見たことがない人も多いんじゃないかな? 僕は横丁には「流し」と猫が欲しいと思ったので、恵比寿横丁では、30代の「ちんどん屋」、「流しの歌手」に来てもらっています。彼らが30代なのは、その世代のお客さんに来てもらい文化を継承し、繋ぎたかったから。

スタッフがおやじ世代だけだったら、きっと若い人は入りづらいですよね。店員に関しては、各世代がいるようにしています。そうすることで、若い人から年配の方まで来やすい空間ができるんです。

スイッチが外れる空気感が大切

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浜倉:
最近、特に若い方を見ていると、コミュニケーションが足りない方が増えてきたなと感じます。たとえば今って、カップルでデートをしていてもしゃべらないですよね。僕は人間ウォッチングが好きでよくしているのですが、恋人同士でいるのにお互い携帯を触っていて……。せっかく一緒にいるのに、何をしているんだろうと。

他にも、あるお店で女子会をしているグループと席が近くなった時に、彼女たちはほとんどしゃべらずスマホで料理の写真を撮っていました。目の前にいる人との空間を楽しまない姿を見て、「君たち何してんねん、仕事か?」って思いましたね。
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――コミュニケーションを上手に取るには、どうしたらいいでしょう?

浜倉:
恵比寿横丁には、お酒を飲んで陽気になりやすいような環境があります。座席も座っているだけで隣に触ってしまうくらい、わざと狭くしているんです。トイレに立つのにも、周りの人に声をかけながら通らないといけないくらいに狭くして。そんな声の掛け合いから、気がついたら一緒に飲んでしまっている。物理的に人との距離を狭くすることで、心の距離も近づくんです。

恵比寿横丁は、それほど単価の安い店舗ではありません。それでもあえてあの空間を作りたくて雑多感を演出している。

コートかけがないので、冬になったら「これに上着を入れてください」って、ゴミ袋渡されますからね。普通、あの単価でそんなことしたら、「俺の上着はゴミちゃうわ!」って怒られますよ。でも、お客さんはみんな自然と、渡されたゴミ袋に上着をしまってイスの下に押し込んでくれる、そんな空気感をつくっているんです。だから、僕もそうなんですが、恵比寿横丁に行くと必ず朝まで飲んでしまう。どんどん知り合いが増えて、トイレに行くと、あちこちから声をかけられて帰れない(笑)。

もし、コミュニケーションがうまく取れないことで悩んでいる人がいるとしたら、一度スイッチが外れる環境でとことん飲んでみることをおすすめします。自分を出せないスイッチが外れるまで飲むと、今度ははじけるスイッチが入る。お酒を飲んで陽気になると、切り替わって変身するタイミングが必ずやってきます。

「サグラダ・ファミリア」のようなお店を目指す

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浜倉:
「キレイでもない」「サービスも良くはない」「安くはない」……。普通だったら、お客さん入らないと思うでしょう?

恵比寿横丁は、昭和の時代に使われていた、山下ショッピングセンターというビルの内の商店街跡をそのまま使っているから、お世辞にもキレイではない。赤ちょうちんにしては、値段も安くない。レストランみたいなサービスのマニュアルはあえて作らないから、店員のサービスがいいわけじゃない。

でも、今では毎日満席、年々お客様は増えています。これが今の時代に求められているものなんでしょうね。
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――今後の展望を教えてください。

浜倉:
いつも目標何店舗!というような数字は作っていないんです。数字での成果は狙っていなくて。よく「仕掛け人」と言われますが、その真逆。仕掛けない。あえていえば「きっかけ」をつくっているという感じですね。

成功する空間って、環境が勝手につくり上げていくもので、結果は後から伴うもの。恵比寿横丁なんかは、完全に僕の想定を超えて成長し続けています。

店を作るときは、未完成の状態でリリースすることがこだわりです。マーケティングをしっかりして、完成した状態でリリースするとその瞬間だけ一番よくても、ブラッシュアップしていかないと、どんどん下がる一方なんですよ。だから、理想はガウディの制作物のように、絶対に完成しないモノ。日々、創りこんでいくことが大切なんです。

提供するのは、飲みにくるお客さんも一緒に作り上げていく空間です。「あの店はなくなったら困る」という“地域存在店”だとお客さんたちに思ってもらえる店と環境をつくり続けたいですね。

Interview/Text: 小松田 久美
Photo: 神藤 剛(人物)


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