1. 「カフェではない。スタバという空間」:日本進出を成功に導いた「新しいカフェ」というブランディング

「カフェではない。スタバという空間」:日本進出を成功に導いた「新しいカフェ」というブランディング

出典:www.mirror.co.uk

 1971年にアメリカ・シアトルで始まったコーヒーチェーン・スターバックス・コーヒー(STARBUCKS COFFEE)。エスプレッソをメインとした持ち歩きスタイルは、瞬く間に北米中を「Cool!」と言わしめ、シアトルスタイルカフェのブームを引き起こした第一人者として名高い。

 そんな通称スタバが初の日本上陸を果たしたのは20世紀の末、1996年。東京・銀座に開かれた第一号店は、実は北米地域以外での初となるスタバの海外店舗だった。

To inspire and nurture the human spirits

出典:Starbucks Coffee Japan

 「人々の心を豊かで活力あるものにするために」。これがスタバの掲げるポリシーだ。そして、そんなスタバの日本進出には、影の立役者・梅本龍夫氏の存在と梅本が考える経営戦略があった。それはカフェではなく、“スタバという空間”を作るという、新しいカフェへのブランディングがあったのだ。

「女性客をカフェへ」という新戦略

出典:offtoneverland.com

 20世紀と21世紀は人々のライフスタイルにおいても様々な点で異なっているわけだが、そのひとつに「カフェ=サラリーマンの憩いの場」という認識があった。カフェといえば、中年のサラリーマンがごった返し、タバコとコーヒーで一息つく場所であって、それはおそらく明治時代からの喫茶店文化に起因しているのだろう(推測の域を出ないが)。

 このように、カフェは男性のものであり、女性のための場所だと考える気風は20世紀にはなかった。無論、そういった気風は未だに残ってはいる。カフェを利用する客の多くは男性で、タバコとコーヒーをせわしなげに飲むという空間が広がっている。

 しかし、それは「スタバ以外」のカフェの話。スタバを覗いてみても利用客の大半は女性で、優雅なコーヒーブレイクを満喫している。そこにあったのがまさしくスタバの経営戦略であり、ブランディングだったのだ。

当初は、女性がターゲットになるとの予想はしていなかったんですが、その調査で特に若い女性たちにヒットしたんですよ。「これはビジネスになる」と感じました。

出典:スターバックスが成功した秘密とは? 「日本進出プロジェクト」責任者が ...

 女性誌・ウートピの取材に際してこのように語ったのは、スタバの日本進出における最高責任者を務めた梅本龍夫氏。彼は市場リサーチの結果を見て、女性客をカフェに取り込もんだらビジネスになるのではないか?と考えたという。

 そして見事に、スタバは女性が集うカフェとなった。カフェというものに対する既存の認識を打ち破り、女性客の心を掴んだのだ。しかし、それはあくまで結果の話。単なる市場リサーチを経営戦略とはいえない。

 問題はどうやって女性客を取り込んだのか。そこにこそ、梅本の経営戦略は隠されているのだ。

スタバが女性客に愛されるための「三本の矢」

「カフェ」ではない。「スタバ」というブランディング。

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 ブランディングとは、「ブランドとして認知されていないものをブランドへと育て上げる、あるいはブランド構成力を高めることでブランドに対する認知を格上げする企業組織のマーケティング手法」と仰々しく定義もできるが、要は「差別化」だ。「他のブランドとは違うのだ」という認識を顧客の中に持たせること。ブランドとは経営陣の頭の中ではなく、人々の認識の中に根付いていくものだ。

 スタバもひとつのコーヒーチェーンブランドだ。競合はいくらでもある上、日本には「カフェ=男」という固定概念も根付いていた。そこで梅本が取り組んだのがスタバというブランディングだ。

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 欧州の一角を思わせるおしゃれな外観。清潔で広々とした空間利用ができる店内。メニュー用看板から商品名まで、その全てがおしゃれでかっこいい。これはスタバを語る上で絶対に欠かせないブランド力だ。

 他のブランドでは感じられないカフェ体験、否、これはすでにスタバ体験と呼んでも過言ではないかもしれない。嫌になるほどに、スタバはスタバだ(良い意味で)。明らかに他のコーヒーチェーンとは違う。

出典:www.tripadvisor.com.mx

 これも梅本の経営戦略であったことは確かだ。ブランディングとは他者との差別化をどこまで徹底できるかに尽きる。そう、既定概念を超過し過ぎずに、かつ人々に求められるものをだ。

「スタバ勉」「スタバ写メ」というトレンドを作った。

by matthias-uhlig.photography

 これが梅本による故意の経営戦略だったのか、それは名状し難いが、「スタバ勉」や「スタバ写メ(名称は分からない)」といったムーブメントを若者の中で生んでいるのは確かだ。

 スタバ勉とは、文字通りスタバで勉強することを指している。おしゃれなスタバで勉強することで、自分がおしゃれだと感じてしまう現象を指す(勉学が捗るかどうかは神のみぞ知るだが)。これは待ち合わせなどにも利用され、粋な待ち合わせ場所としても、スタバは選ばれている。

 スタバ写メもこれに同じで正式な呼び名は分からないが、とにもかくにも女子高生・女子大生からの人気が高い。スタバに来ている=おしゃれだと勘違いしているのか、それとも純粋にSNSを彩りたいだけなのか分からないが、Twitterを検索すれば山ほどの写真が出てくる。

 今ではスタバがおしゃれなのか、おしゃれがスタバなのか、その区別をつけることすら難しくなってくる始末(無論、スタバがおしゃれなのだが)。こういった若者からの人気もスタバというブランドを底上げする大きな要素になっているのだろう。

「全面禁煙」という新しさをカフェに。

 個人的な話で申し訳ないが、筆者はスタバには行かない。ここまで熱く語ってしまった身の上、いまさら感は否めないが、筆者がスタバへ行かない理由はただひとつのポイントに起因している。それはスタバが「全面禁煙」だということ。

 スタバが全面禁煙となったのは、日本進出3店舗目からだという。今よりも喫煙率の高かった当時において、全面禁煙のカフェなどなかなかに受け入れられるものではなかっただろう。喫煙できないから行かないという私のような人が、今よりも高確率でいたのだから。それでも梅本は全面禁煙を押し通した。

私も企業戦略をやってきたので、分煙は中途半端だと思います。喫煙者を、ある意味「拒否する」ということは、自分たちにとって「お客さんじゃない人」を決めるということなんです。勇気のいることですが、それでお店が際立つわけですね。そういう「割り切り」をすることが、経営戦略的には大切です。

出典:スターバックスが成功した秘密とは? 「日本進出プロジェクト」責任者が ...

 全面禁煙にすることで、ターゲットが見えた。誰に向けてこのビジネスを経営していけばいいか、それがわかった。そして、それは女性だった。完全禁煙なスタバは清潔感もあって、女子高生・女子大生などの若年層からも人気を集めるカフェになった。


 新しいことに取り組むときは、思い切りが大切。梅本の経営戦略からはそんな考え方が感じられる。ブランドにとって重要なのは差別化だ。どれだけ他と違う良さを見せつけられるか、そこにこそブランドの真髄はあるのではないだろうか。

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