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初の日本人社長が仕掛けた「売らずに、売る」挑戦:『なぜ、メルセデス・ベンツは選ばれるのか?』

蓮見彩

2015/10/08(最終更新日:2015/10/08)


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by M 93: „Dein Nordrhein-Westfalen“

 「メルセデス・ベンツ」といえば、富裕層しか購入できない超高級車というイメージをお持ちな方も多いのではないだろうか。

 先述したイメージ通り、メルセデス・ベンツの経営手法は、20年前まで富裕層を対象にした高級車のマーケティング・プロモーションが主だった。しかし、2010年代頃からあえて伝統的な戦略を打ち壊す対極の手法を用いるようになり、今や世界中から注目を浴びている。

 今回は、メルセデス・ベンツを新車販売台数最高記録の2年連続更新へと導いた日本人社長・上野金太郎氏の著書『なぜ、メルセデス・ベンツは選ばれるのか?』の中から、メルセデス・ベンツが行った「売らない戦略法」成功のコツをお伝えしたい。

クルマを売らないCM

 まず、売らない戦略法の1つが「クルマを売らないCM」である。

 メルセデス・ベンツの人気モデル「Cクラス」のキャッチコピー「メルセデス史上、最高傑作のC」を耳にした方も多いと思う。このキャッチコピーには「クラスを超えた品質の高さ」という意味が込められており、メルセデス・ベンツのCクラスは、同社で販売している最上高級車の「Sクラス」に劣らない機能や内装を搭載している。

 Sクラスと同様の高品質を持った、よりリーズナブルなクルマを提供することで、以前と比較して年代や収入問わない幅広い層が利用するようになった。高級車を売る伝統的概念から、買い手のライフスタイルを売る概念へ転換が功を奏したと考えられる。

クルマを売らないショールーム

 売らない戦略法のもう1つは「クルマを売らないショールーム」である。

 クルマを買うことが目的でない人にも気軽にクルマを見てもらいたい、新しい人との繋がりを広げていきたい。そんな想いから生まれたのが「メルセデス・ベンツ・コネクション」という名の「クルマを売らないショールーム」戦略なのだ。従来主流であったクルマを売る場所を新しい人と出会うための場所に変えた戦略が、より多くの人にメルセデス・ベンツを知ってもらう契機になった。

 大衆向けのイオンモールでメルセデス・ベンツの展示をしたときには、店員と話をしたことを契機に、「メルセデス・ベンツは1000万円を超える高級車ばかりを販売しているわけではない」と認知したお客が大勢いたようだ。 

ベンツが大成功の戦略を生み出した2つのコツ

 ではメルセデス・ベンツの数々の常識を打ち破った売らない戦略は、どうやって生み出されたのか。本書ではこれらの成功を生み出す2つのコツも教えてくれている。

数字を意識する

 1つ目は、「数字を意識すること」。たとえ「売らない戦略」であっても、実際にクルマが売れなければ意味がなく、計画を実現するには様々な経費を考慮しなければならない。新しい計画を立てる上で、「いくらの収益が見込まれるか、かかる費用はいくらか、なぜその額が必要なのか」と事細かに数字を意識することが必要となってくる。

逆境にこそ思いきった挑戦を

 2つ目は、「逆境こそ思いきった挑戦をすること」。不況に立たされたときこそ、挑戦する姿勢が要求されるそうだ。メルセデス・ベンツであれば、「富裕層に高級車を売る」という伝統的な概念を「幅広い層にライフスタイルを売る」と、思いきった対極の概念へと転換したことが成功の鍵であった。つまり負けているときは守備ではなく、攻めを。まさに肝に命じておきたい一言だ。


 本著で紹介されていたメルセデス・ベンツの「売らない戦略」は、どれも予想を裏切る独創的な戦略法であった。これらの「壁」をぶち破ったコツを武器に、「クラスを超えた高品質な人間」を目指していきたい。


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