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世の中は不公平なことを否定してはいけない――。教師・監督・社長、異色の3人が「教育」を解き明かす

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2015/10/13(最終更新日:2015/10/13)


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前回に続き、一層白熱する教育・人材育成論。

社会で生き抜く人材とは、どんな環境で育まれるのだろうか? 「教師」「監督」「社長」という立場で、子どもや選手、社員を教育する3名が考える“教育の根幹”に注目だ。

前回の記事はこちら

「自分で考えられる人」を育成するには?

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吉田 沼田先生はひとりひとりの子どもをすごく観察して、指導をしているんですね。

沼田 そうですね。いまは毎日クラスの子ども全員と交換日記をしています。

吉田 毎日ですか!?

沼田 はい、毎日出すルールにしていて、親にも伝えない決まりとなっています。男子はほとんど悩みなんてないので、一言書くくらいですね(笑)。女子は、恋愛の話題や、人間関係でよく悩んでいます。そこから、いじめや人間関係のこじれなども早めに知ることができる場合もあります。

吉田 沼田先生のクラスの児童は幸せですね。

沼田 僕は僕で、子どもたちに支えられていますからね。今日もこの取材があったから、子どもが授業準備をしてくれているんですよ。

――子どもたちが自主的に動いているんですね。

沼田 そうそう。こんなこと言うと怒られちゃいそうだけど、最近は僕、授業していないです。この前は卑弥呼の話題を出して、「卑弥呼って魏志倭人伝にしか載ってないらしいよ。じゃあ仮説卑弥呼を考えてみようよ」って伝えて。

ただ学ぶのではなく、“自ら”学ばせることが大切

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――仮説卑弥呼ですか(笑)。

沼田 みんな卑弥呼をすっごい調べるんですけど、結局魏志倭人伝の情報しか出てこないんですよね。ここが狙いなんです。気づいたら、卑弥呼についてすごく詳しくなってて。それで学習は成立しているんですよね。

仮説、超おもしろかったですよ! 「卑弥呼、美肌疑惑!」とか、「卑弥呼がもらった銅鏡をに映っている自分の素顔を見てみたら、顔が茶色くて、日焼けが嫌になって外出しなくなったから、人と会わなくなった」とか、「卑弥呼は未来から送られたアンドロイドで、政治の仕方を伝えにきた」なんてものもありました。

でも、仮説を出す上で「卑弥呼はなんで人と会わなかったのか」という事実をもとに妄想しているので、結果的にすごい学べているんですよ。

吉田 巻き込み力、ハンパないですね! 先生というか、社長業みたいですね(笑)。

中竹 自分の頭で考えさせているわけですね。

沼田 そういえばラグビーって、監督はベンチにいなくて観客席にいますよね? 他のスポーツと比べて、監督は選手を信じて任せるようなイメージがあって。

中竹 そうですね。ルールで監督はベンチに入れないんです。もともとラグビーって自立を重んじるスポーツなんです。審判すらいなかった。全部自己申告だったんですよ。それくらい誠実でフェア精神があるスポーツだった名残で、今でも監督はベンチに入らない。そういう意味では、いかに選手が「個」として自立して、普段の練習から自分で考えて判断することを促すかは重要ですね。

沼田 自分で考えて動いてもらうって、効果が高いですよね。

吉田 自分で考えさせることは、企業経営においても重要だと感じてます。会社が大きくなるにつれて、大企業から中途で入ってくるような社員も増えました。うちのようなベンチャー起業の場合、仕事の枠組みができていない、丸投げする仕事もあるわけで、これまでは決まった枠の中で仕事をしてきた社員だと考えることができないといったことがあります。

お二人は、どのように自分で考えて動くことができる子どもや選手を育成しているんですか?

沼田 僕は最初、塾講師をしていたときは、おもしろい授業をして惹きつければいいという考えでした。それこそ、声が枯れるまで毎日教えまくる。だけど、あるとき「先生、私授業をやってみたい」と言ってきた子がいた。それで、「おお、やってみろ」って任せてみたんです。そうしたら、その子は教えるためにものすごく勉強してきたんですよ。

吉田 すごいベンチャー魂のある子ですね(笑)。

沼田 この経験から、子どもたちには「1日キャプテン」をさせています。キャプテンは担任の僕より偉いというルール。その日にあったいいこと、悪いこともすべてキャプテンがクラスの代表として責任を持つんです。

吉田 いま閃きました! うちの新卒社員に「1日社長」をやらせます(笑)。午前中に任命して準備させて、午後から社長ということにしようかな。

中竹 いや、準備にはもっと時間をかけたほうがいいですよ! 一ヵ月間くらい。「一ヵ月後の今日、『1日社長』だぞ!」みたいに任命しておく。すると、ものすごい準備しますよ。

吉田 なるほど! いやぁ、勉強になるな。定期的にこの回を開きましょう(笑)!

子どものころから「社会は不公平だ」と教える

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人間として、自立するためにはどんなことが必要だと思いますか?

吉田 今から3年前、一度目の起業を失敗して、社員も離れてひとりぼっちになった37歳のときにようやく気づいたのは、「社会とは不公平」ということと、「人と人は究極的には分かり合えない」ということ(笑)。

この事実を10代で知っていたら、もっと早く自立できたと思うんです。社会とは不公平だということを受け止めた上で、どう努力や工夫をしていくか。人と人とは分かり合えないから、人に依存しすぎてはいけなくて、自立した上で他人と接する必要があるとかを教えてほしかったなと。

不公平とか自立って、どうやって教えていけばいいんですかね?

中竹 僕は「何事も不公平だ」と言っていますね。選手選考の際も平等じゃないし、不公平が当たり前で、そことどうやって向き合うかが大事だと伝えています。

沼田 僕も小学生に「世の中は不公平だよ」と伝えます。
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吉田 小学生にですか!?

沼田 はい。福沢諭吉もそう言ってるからね、って。

吉田 どういうことですか?

沼田 福沢諭吉の「学問のすゝめ」って冒頭の有名な一文、「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずといへり」。

人間の平等性を語っているように見えますけど、実際はその後に、「平等だと言われているのになぜ不平等が世にあるのか? それは勉強してる人と、勉強していない人の差である」と言ってるんです。

吉田 勉強になるなー!

沼田 だから僕が教えているのは、「世の中は平等ではないことがほとんどだけど、どんな人にも唯一平等なのが時間。だったら限られた時間の中で、自分が得意なところを探して、そこを伸ばしていくかどうかが人の差になる」と伝えています。

「決断する」ことと「判断する」ことは、まったくの別物

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吉田 先ほどの沼田先生の「卑弥呼についての仮説をたてる」取り組みを聞いて思ったんですが、「世の中には正解がない」というのも教育ですよね!

沼田 誰も答えなんて持ってないから、何でもいいんですよね。卑弥呼が美白でも(笑)。

吉田 本当にすばらしいと思います!

中竹 僕も選手たちに、「判断することと決断することは違うよ」という話をよくしています。判断は正しいか、正しくないか。一方で、決断は未来のことを決めること。多くの人は未来のことに、どちらが正しいか判断しようとして迷っているんですけど、正しいかなんて誰にも分からないし、正解はない。腹を括って決めるしかないんですよね。

吉田 弊社の新入社員でも、失敗を恐れて挑戦できない傾向があったりしますね。能力的には優秀なものを持っているのに、入社してからまだ失敗を一度もしていない。つまり、チャレンジをしていないということなんですよね。これはどうしようかな、と思っているんですよね。

……なんか、私の相談室みたいになってますね(笑)。

社会は「リスクを取る場」を用意すべき

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沼田 僕はリスクを徹底的に教えていますね。

吉田 リスクを教える?

沼田 小さい話ですが、たとえば、給食がカツカレーだった時にカツが一枚余った。そのときに、カツを食べたい人はいるかと手を挙げさせる。そして、挙手した子どもを集めて、じゃんけんをするか、平等に分け合うかどっちがいいか考えさせるんですよ。

そのときに、じゃんけんをして、負けたら食べられないリスクはあるけど、そのリスクを冒してでも勝てば一人で食べられるチャンスを得ることができる。これが「リスクを取る」ということだ、ということはよく言ってますね。

中竹 子どもや今の若者が「挑戦しない」ということを、責めてはいけませんよね。

おそらく彼らは成長過程の中で、リスクを背負う機会を得てこなかった。失敗したら怒られるような環境だったら、もう挑戦しなくなってしまいますよね。だから、そうした機会を学校やスポーツ、企業の中において用意していく必要があると思います。

吉田 確かに、そうですよね。今の時代、みんな「どう見られるか」を意識しすぎてチャレンジしなくなっているような気もしてます。失敗したら、すぐに回りに広まってしまうからと、挑戦に対する牽制機能が働いているというか。

新入社員同士で競わせる場面を設けていきながら、リスクを恐れない訓練や勝つために考える練習をしていくとよいのかもしれませんね。

沼田 はい、そう思います。僕は、小学生だからって小学生らしい型にはめ込むことはしたくないんですよね。

たとえば、勝負といって運動会をやるなら、徹底的に勝つことを考えさせたい。スポーツでは「フェイント」というものがありますよね。小学校教育の「正々堂々と戦おう」みたいな概念からいくと、「だます」ということにも捉えられるわけです。しかし、私は「勝負は勝負だ」ということを伝えたい。勝つための最善策を考え挑戦した姿を誉めるべきです。

「へこたれないタフさ」これさえ身につけばいい

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中竹 そうですね。だから、矛盾に直面したり、挑戦して失敗したりしてもへこたれないタフさを育んでいくことが必要ですよね。このタフさを身につけさせられたら、もう教育は完成だと思います。社会を生き抜いていけますよね。

沼田 中竹さんがおっしゃっていた失敗から学ぶということにつながりますね。失敗しても何度でも挑戦できるタフネスは本当に重要だと思います。私が大切にしている自己効力感も、失敗しても「自分ならばなんとかできる!」という自分を信じ抜くタフさだと言い換えることができると思いました。

そういう意味で、吉田さんは一度会社経営に失敗したけれども、立ち上がれたんですよね?

吉田 そうですね……、生きていくのに必死だったとも言えますが。

さっき言った1度目の起業での失敗のとき、37歳でマンションでひとりぼっち。「俺に残っているものは何だろう?」と思ったときに、ふと通帳を開いてる自分の姿にハッとして。「これは寒っ!」と思いましたね(笑)。

それで、このお金は手放さないと、もう自分の人生は残されてないなという気持ちになったんです。でも逆に、財産もすべてを賭けて、すべてをリセットした状態に戻れば、またイケるんじゃないかとも思ってました。根拠はなかったんですが。

沼田 どんなに崖っぷちに立たされても、「イケる」と思える。そうやって立ち上がれるところがやっぱり強さですよね!

吉田 諦めなかったことがよかったですね。

今日は、たくさんの教育のヒントをいただきありがとうございました。定期的に開催したいくらい濃い内容でした。次回は「クラウドワークスの経営相談室」を開いてもらいましょうか(笑)。


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人を育てるというのは普遍的な課題だが、その都度求められる人材も変わったり、時代に応じてガラッと変わることもある。だからこそ難しく、永遠のテーマであり続けるのかもしれない。

それぞれの立場で人を「教育」する3名の話を聞けたことで、不透明な未来を支える、人材育成の道が見えてきた。

Interview/Text: 宮嵜幸志
Photo: 大根篤徳


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