1. ルールの「見える化」で信頼が生まれる――。教師・監督・社長、異色の3人が「教育」を解き明かす

ルールの「見える化」で信頼が生まれる――。教師・監督・社長、異色の3人が「教育」を解き明かす


社会で生き抜く人材とは、どんな環境で育まれるのだろうか?

東京大学附属世田谷小学校教諭の沼田晶弘さん、現ラグビーU20日本代表監督の中竹竜二さん、株式会社クラウドワークスの代表取締役社長兼CEO吉田浩一郎さん、それぞれ「教師」「監督」「社長」という立場で、子どもや選手、社員を教育する3名に「教育」について熱く語っていただいた。

中竹竜二 プロフィール

なかたけ・りゅうじ/日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、U20ラグビー日本代表監督。
1973年、福岡県生まれ。93年、早稲田大学に入学し、同大ラグビー蹴球部に入部。4年次には主将を務める。2006年清宮克幸氏の後任として早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。全国大学選手権2連覇を成し遂げる。

沼田晶弘 プロフィール

ぬまた・あきひろ/国立大学法人 東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。1975年、東京都生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、アメリカ・インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学附属世田谷小学校へ。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が話題に。教育関係のイベント企画を多数実施するほか、企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行う。

吉田浩一郎 プロフィール

よしだ・こういちろう/株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO。1974年、兵庫県生まれ。東京学芸大学卒業後、パイオニア、リードエグシビションジャパンなどを経て、株式会社ドリコム執行役員として東証マザーズ上場後に独立。ベトナムへ事業展開し、日本とベトナムを行き来する中でインターネットを活用した時間と場所にこだわらない働き方に着目、2011年株式会社クラウドワークスを創業、14年マザーズ上場。15年には経済産業省 第1回「日本ベンチャー大賞」審査委員会特別賞受賞。著書に『クラウドソーシングでビジネスはこう変わる』(ダイヤモンド社)などがある。

子ども、選手、社員を育てるそれぞれの教育論


――みなさんは初対面ということですので、まず自己紹介からお願いします。

沼田 東京学芸大学附属世田谷小学校で先生をしていて、9年目になります。普通の学校とはちょっと違っていて、かなり自由にいろんな取り組みをやらせてもらっています。大学院ではリーダーシップ、モチベーションコントロールやコーチングを専門で学んでいました。

吉田 クラウドワークスの吉田と申します。教育と聞くと、失敗した経験ばかり浮かびますが(笑)。大学時代は劇団で食べていこうと思っていたんですけど、うまくいかず、その後も社会人として管理職や、役員として上場を経験、その後自ら起業したりしたのですが、いずれも人の部分で失敗しておりまして。そんな裸一貫の状態からクラウドワークスというITの会社を立ち上げて、3年で上場させることができました。

今は、急速に増えた社員をどう育てていくかという課題と日々格闘しています。なので、今日は楽しみです!

中竹 僕は大学時代にラグビーをやっていて、卒業後は普通のサラリーマンをしていました。ですが、突然母校の早稲田大学のラグビー部の監督に依頼され、コーチング経験がないままに就任するという経歴があります。

今は日本ラグビーフットボール協会でコーチングディレクターと、20歳以下のラグビー日本代表チームの監督を兼任しています。「フォロワーシップ」という言葉を提唱していて、おかげさまで、フォロワーシップについて、日本の中での第一人者となっています。

――ありがとうございます。では、さっそく本題に参りたいと思います。唐突ですが、みなさんにとって、「教育」とはなんですか?

吉田 「教育とは」か(笑)。

沼田 そうですねぇ。僕の考えを話すと、先生という職業にとって、教えるという行為は当たり前のことですよね。でも、先生が「子どものためになる」と思って教えていても、ほとんどの子どもにとっては、それが何の役に立つのか分かっていないんです。

たとえば、dL(デシリットル)ってみなさんも習ったと思うんですけど、一回も社会で使ったことないと思うんですよ。

吉田 確かに。

沼田 もちろん教えないわけにはいかない。でも、僕は何とかして「生徒がやりたいことをしていたら、いつの間にか勉強しちゃった!」というように持っていきたいんですよね。

足し算、引き算を教えたいと思ったら、「3万円の予算を渡すからカレーを作って」と言えば、生徒は必死でカレーの具材を計算し始めて、知らない間に足し算、引き算を学んでいる。こうした体制を作ることが、僕は教育かなと。だから、どっちかというと「教」よりも「育」を重視してるかな。

「怒らない教育」で勝手に人が育つ


中竹 僕が早稲田大学のラグビー部コーチに就任した時は、実績もなければ経験もないということで、選手との信頼度はゼロでした。話は聞いてもらえないし、注意すると下を向いて舌打ちされる(笑)。

吉田 うわ、それはヤバイっすね(笑)。

中竹 でも僕、全然怒らないんですよね。結構「鈍感力」があるみたいで(笑)。

吉田 でも、なめられちゃうと謀反みたいなものは起きなかったんですか?

中竹 起きましたね。

吉田 あ、起きたんですか!

中竹 それでも、私は怒らないんですよね。すると、選手たちの中から、「このままじゃまずい!」と自発的に考える機運が自然と高まっていったんです。「自分たちで何とかしなければ!」という危機感を持つようになって、そこからうまくいくようになったと思います。

沼田 そうなんですよね。「やれ!」と頭ごなしに言わなくても、自然と子どもたち主体で動くようになる。

たとえば、僕は掃除が苦手なんです(笑)。すると、子どもが世話を焼いて、掃除をしにきてくれるようになって。ほかにも「漢字のテストの採点したい人!」と挙手をさせたら、自ら「やりたい!」と手を挙げる子がいる。採点を経験すると、この子は一層学習内容を定着させることができるので、僕としてはしてやったりですね。

吉田 中竹さんも、沼田さんも選手や子どもを怒ることはないんですか?

中竹・沼田 ないですね。

吉田 私は、以前の会社では結構怒ってましたね。だから謀反があったり……(笑)。でも、前社の経験もあって今は「小心者マネジメント」というか、事前にコミュニケーションを取ってケアするようになりました。もともと会社員のときは自分を主張するタイプで、目標達成は当たり前。目標を達成できていない上司を突き上げるようなタイプでしたから、大きく変わりましたね。

中竹 かなり尖ってましたね。

吉田 そうですね(笑)。でも、いろいろ失敗を重ねてきた中でも、起業することに対する熱意だけは消えなかったんですよね。

失敗体験と成功体験の両方が必要なワケ


中竹 吉田社長の話を聞いて、相当おもしろいなと思ったことは「失敗から多くを学んでいる」ということですね。

僕の根本的な教育観は「いかに失敗させるか、失敗体験を積ませるか」なんです。人は失敗からじゃないと学べないので、選手には事前の指導をせず、まずは挑戦させて失敗させる。で、失敗したら何が足りなかったんだろう?と振り返って考えさせることが重要なんです。

だから、吉田社長は人生を賭けて失敗体験を積んでいらっしゃるからすごいな!と(笑)

吉田 そうですね(笑)。企業だと人数によって教育の仕方も変わっていくなと実感するようにもなりました。

社員が30人くらいのときは要望せずとも成長していくような環境でしたし、私も気づきを与えたり指導できたりしましたが、上場して人数が150人を越えた今は、社員に期待を込めて要望し、後は見守るというスタンスです。沼田さんは、要望したり、期待したりっていうのはどうされているんですか?

沼田 僕はめちゃくちゃ期待してますね。失敗体験を積ませることと同じくらい、成功体験を積ませることに重きを置いていて。失敗すると、自己効力感が高くない子は沈んでいっちゃうんですよね。自己効力感って、自己に対する信頼感や有能感のことなんですけど、現在の子どもたちは自信がない子が多い。

だから、「やればできる!」「俺だってできるじゃん!」という感覚をまずは持たせたいんです。私の仕事は、1~2年で受け持つクラスが変わり、かかわる子どもたちが変わっちゃうんですよ。この点は、会社などとまったく違いますよね。

吉田 確かに!

沼田 そのため、担任クラスが変わったばかりで信頼関係がまだできていない4月の段階では、なんでも誉めるようにしています。

――どんなことを誉めるんですか?

沼田 本当になんでもですよ。たとえば、給食を全部食べたら誉める。「よく食べたな!すごいな!」みたいな(笑)。4月の一ヵ月間で、子どもの自己承認欲求を満たしていくんです。

――中竹さんは、選手に失敗させることが大事ともおっしゃっていましたが、「やればできる!」と思わせるような仕掛けも設けているんですか?

中竹 はい。早稲田大学で監督をしていたときには、毎週練習試合があるんです。ここで、1軍~6軍までの選手を上げたり下げたりするのです。これについて「試合に勝てるようなチーム作りをするためですか」と聞かれることがあるんですが、私は練習試合を選手のモチベーションを上げるためのツールとして使っています。4軍にいた選手をいきなり2軍にしたりすることもあります。本人はもとより、周囲の選手も「頑張れば報われるんだ」と実感できますよね。

吉田 企業だと、降格などさせると「理不尽だ!」という声が聞こえてくるものですが、そういったことはないんですか?

中竹 ありますよ。でも、文句を言ってきたらそれもチャンスなんです。面談で、「どうして2軍に降ろされたと思う?」という問いかけから始まり、「あのミスは覚えているか?」といった感じで掘り下げるなど、選手個人に合わせて対応を変えています。降ろされたことに頭に来て、黙々と打ち込むヤツはそれはそれでよい。どちらにしろ、選手にとっての成長になるのです。

「数字評価」はただのツールに過ぎない


吉田 ちょうど相談したいことが(笑)。実は、9月末までにマネージャーを30人排出するプロジェクトにコミットしておりまして、今そのための準備に奔走しているんです。マネージャーの行動指針を25項目で作成しまして、毎月評価しランキング化しようか悩んでいるんですよね。誰が評価するべきなのかっていうことも悩みで。

中竹 究極的には誰でもいいんですよね。

吉田 え! 誰でも?

中竹 大切なのは、何のために評価するのか? ということ。この評価制度を取り入れた理由はなんですか?

吉田 マネージャーに頑張って欲しいということですね。

中竹 それであれば、数字評価はただのツールなんです。頑張らせたい者の評価を操作するのでもいいんですよ。

沼田 僕も似たような話がありますね。たとえば、体育の授業でハードル走の練習をするとき、頑張ってる子には、たまに「神の手」が発動して、タイムを少し早く出すとか。

吉田 これは大丈夫なんですか!?

沼田 別に早く走らせることが目的ではないんですよ。目的は頑張らせることですから、実際のタイムは、モチベーションのためのツールだなと。子どもがいちばん頑張れるように、勉強でもスポーツでも楽しんで取り組んでくれるように上手に使っています。

子どもをやる気にさせる「成功体験」の演出


吉田 振り返ると、私自身は経営への熱意を持ち続けたからこそ、ここまでやってこれたと思っているのですが、子供にはどうやって熱意だったり、やる気を出させたりしているんですか?

沼田 小学校は義務教育なので、ラグビー部や会社のように、「同じことをやりたくて来ている」というわけではないんですよね。たとえば、運動会。運動神経がよくて運動会をすごく楽しみにしている子もいれば、できれば運動会には参加したくないと思っている子までいるわけです。

吉田 確かに。私も運動会は苦手だったなぁ。運動できないとまわりに迷惑かけるって思ったりして。

沼田 そうなんです。だから、みんながやる気あるわけじゃないことを理解しないといけない。スポ根アニメみたいに、「お前ら何のためにここにいるんだ!」って鼓舞しても、子どもにはまったく響かない(笑)。

吉田 では、どうするんですか?

沼田 うちは徹底的に役割分担します。運動会だと足が速い子が目立ちがちですが、足が速くなくても体格があって力持ちな子には、棒倒しの棒を支える役割だったり。そうした頑張っているところをしっかり観察して、すかさず誉めていくということがポイントだと思っています。

カメラマンもそうした姿をしっかり押さえてくれるので、後で写真を見て、再度「頑張ったねー!」と誉めてあげると、運動会が苦手だと思っていた子でも好きになっていくんですよ。

吉田 なるほどなぁ。

沼田 クラス対抗の全員リレーのときには、足が速くない子の順に走らせていきます。すると、スタート時はどんどんほかのクラスに引き離されていきます。でも、「よし!差は半周で抑えられたぞ、よくやった!」などと誉めるんです。後半からは、足が速い子しか出てきません。その子たちも、他クラスを追いかける役割として十分に活躍します。

しかも、保護者の方にもウケがよくて。お子さんがリレーで抜かれてしまうようなことがないので、「うちの子がすいません」みたいなことにはならないんです。

中竹 すごく戦略的にやられているんですね。

吉田 えっと……うちの会社の組織図を、ご相談させていただければ(笑)。

沼田 僕は、子どもたちに成功体験を積ませることが大切だと思っています。実は今日、1年間漢字テストで100点を取れなかった子どもが初めて取ったんです。もう、クラス全員でスタンディングオベーションですよ。お母さんにも電話して「大げさに驚いて誉めてくださいね!」と伝えました。「がんばったらみんなが誉めてくれた」「お母さんが喜んでくれた」そんな成功体験ができたら、子どもはまた頑張ろうと思うんです。だから、私はあらゆる場面で誉める仕組みを盛り込んでいます。

中竹 その通りですね。学校現場であれ、会社であれ、そして部活であれ、日々モチベーション高く取り組むのは難しい。だからこそ僕は、モチベーションを高く保ち続けられる「仕組みづくり」が重要だと思っています。モチベーションに火をつけるための、全体のルール作りと、各個人への対応のふたつを重視していました。

ルールや情報の「見える化」が信頼を作る第一歩


――早稲田大学のラグビー部は6軍もあると聞きますが、個人とは、どのようにやり取りしていくんですか?

中竹 僕は選手全員と話すことを心がけ、フォーマルな面談を定期的に行い、インフォーマルな面談も数限りなく実施しました。選手たちの気持ちを吐露させ、支えたり意欲を高めたりしていきます。一方で、今は私がアプローチをしないほうがよいと判断し、あえて声をかけないという選択をすることもあります。

沼田 6軍もあると、全員で何名いるんですか?

中竹 選手は120人くらいですね。

沼田 僕らでいう、一学年の人数ですね。

吉田 なるほど。会社においてもモチベーションマネジメントは重要なんです。しかし、厳格なルールが決まっているスポーツと異なり、ベンチャーの企業は勢いで立ち上げていることが大多数なので、定まった就業規則がない会社がほとんどです。ルールがないために、不平が出てモチベーションの低下を招くといったことがあります。

たとえば、最初に問題になるのは出社時間。外に出て仕事をしている社員もいれば、会社のなかで昼夜問わずに仕事をしている人もいる。少人数のときはそれが気にならないけれど、人数が増えるとトラブルが発生しがちです。また、喫煙者が禁煙者よりも、休憩時間が多くなるということも同じように問題になりがちで。

――キリがなさそうですね。

吉田 そのため、クラウドワークスを創業するにあたっては、はじめにルールを「見える化」しました。おかげで不平不満が出ることを未然に防ぐことができたと感じています。その上で、今は毎日30分社員と面談を繰り返していて、内部の信頼関係を構築するために取り組んでいます。

中竹 それは絶対に大事ですね。ただ私が面談を続けていると、次第にコーチにも選手にも「グラウンドに出てこなくていいので、ずっと面談やっていてください」って言われはじめて。「あ、いいの?」みたいな(笑)。でも、結果的にチームがうまく回り、選手のリーダーたちが自発的に考え、練習するようになっていきましたね。

一方で僕は考えが全体に正しく浸透するよう、大事な戦略ミーティングなど、リーダーたちとの擦り合わせに時間を割いていました。実際にグラウンド上では監督ではなくリーダーに聞くのでね。

吉田 なるほど。私も非常に共感するところで、クラウドワークス創業以前、以後で大きく異なるのは、トップダウンで経営していたスタイルから、「任せる」というスタンスに変えてうまく行き出したということです。社員に100%預けてみることで、モチベーションにもつながりますし、失敗した経験がみんなの糧になり成長していくことを実感しましたね。

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Interview/Text: 宮嵜幸志
Photo: 大根篤徳

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