1. 「アディダス オリジナルス」国内初の旗艦店をデザインした男が思う、「“憂鬱”が似合う街:東京」

「アディダス オリジナルス」国内初の旗艦店をデザインした男が思う、「“憂鬱”が似合う街:東京」


世界的スポーツブランド「adidas」のシリーズとして2001年に登場したのが「アディダス オリジナルス」。

1972年から1995年までのカンパニーロゴだった三つ葉のロゴ(トレフォイルロゴ)を用い、トレンドを取り入れたスポーティなストリートスタイルのファッションを提案し続けている。

そんな「アディダス オリジナルス」の国内初の旗艦店が、今年4月原宿にオープン。その店舗のコンセプトクリエイターとして起用されたのが、れもんらいふ主宰のアートディレクター・千原徹也氏である。

アートディレクターとして国内外から注目される千原氏に、「アディダス オリジナルス」旗艦店のコンセプト設計や空間デザインへのこだわりを伺った。

千原徹也 プロフィフィール

ちはら・てつや/アートディレクター、グラフィックデザイナー。1975年、京都府生まれ。京都でデザインを始めたあと、2004年に上京。11年にデザインオフィス「株式会社れもんらいふ」を設立。広告、装丁、ファッションブランディング、WEBなどデザインのジャンルは多岐にわたる。 主なアートディレクションは、スターバックスのイベント、Zoff SMART、Zoff CLASSIC、菊地凛子web、きゃりーぱみゅぱみゅの振袖デザインなど。また、近年はラジオパーソナリティ、アーティストのMVやCMの監督など、さらに活動の幅を広げている。

東京という街を"分解"して生み出した「マニフェスト」


――最初に、「アディダス オリジナルス」の国内初となる旗艦店のデザインを手掛けられるまでの経緯を教えてください。

千原:
「アディダス オリジナルス」のお店自体は、すでに国内には何店舗もあるのですが、そのなかでも国を代表するフラッグシップショップを各国1店舗ずつ作ろうというプランが持ち上がっていました。

日本は6カ国目だったんですけど、売り上げを達成するための店舗というよりは「アディダス オリジナルス」の世界観を見に来てもらう店にしたいということで依頼をいただきました。そこで、「アディダス オリジナルス」の世界観を日本でどう表現するかというところからスタートしました。

――場所は原宿のキャットストリートということで、若者文化の発信地での勝負となったわけですが、店舗コンセプトはどのようなものでしょうか?

千原:
ブランドからのオーダーとしては、各国1店舗しか作らない店なので、その国の特色を濃く打ち出したいというものでした。そのため、「東京」と「若い人を応援していく」というブランドテーマを掛け合わせて、東京に住む若者に響くようなコンセプトを設計したいと思いました。

あと特徴的なのは、「アディダス オリジナルス」がストリート系のブランドということもあって、各国それぞれ“俺たちのスピリット”をダイレクトに伝える詞のようなものをマニフェストに据えているんです。なので、まずはマニフェストを作りましたね。

――そのマニフェストは芥川賞作家の川上未映子さんが考案されたそうですね。

千原:
最初はマニフェストも自分で考えるつもりだったんです。他の国でもマニフェストは母国語をそのままグラフィックにしていたこともあって、日本特有の世界観を出すためにも日本語を使おうというのは決めていて。

ただ、マニフェストとなると、字体のデザインでどうにかなるものではなくて、やっぱり文章が美しくないとだめだなと。そこで、以前小説の書籍デザインを担当させていただいたことがきっかけで、プライベートでも仲がよかった川上さんに連絡しました。

でも最初は、マニフェストを書いてもらおうとまでは思ってなくて、僕が書いたマニフェストをちょっと読んでもらいたいということで連絡しました。

――川上さんに添削してもらえるというのは貴重ですね!

千原:
そうですね。ただ、最初は僕が書いたものに対して色々赤字を入れてくれたのですが、やり取りをするうちに川上さんから電話がかかってきて、「もう……私が書こうか?」って(笑)。それで、東京っていう街を分解するところから始めてもらいました。

東京はやっぱりインスピレーションを刺激される街なので、その街で生まれ育ちながら、僕たちは夢を追ったり、辛いことが起きたり、夢破れたり……いろんなことを経験しながら世界を目指そうよ、みたいなベースとなる想いを、川上さんに美しい言葉でストーリーに仕立ててもらいました。

それをブランドの担当者に読んでもらったら「感動しました」と言っていただけて、一発でOKをもらったんです。

――グラフィックでは漢字を配列されていますが、デザイン上ではどのような点にこだわられていますか?

千原:
「東京」を考えたときにぐちゃぐちゃになってる方が"ぽい"かなと。「夢中」なことも「予感」も、「憂鬱」なことも全部ごちゃ混ぜな場所というのを表現したいなと思いました。なので、あえてきれいに読めない並びにしています。

――また、背景絵には和柄を配されていますよね。

千原:
「鯉」とか「松」は、外国の方から見た日本のイメージという意味で強いですし、漢字だけのビジュアルではなくて絵画的なものも入れた方がいいかなと思いました。「adidas Originals Flagship Store Tokyo」という英語と和柄のグラフィックの組み合わせがおもしろいなと。

――やはり外国から見た日本のイメージをベースにデザインをのせると、分かりやすくなるのでしょうか?

千原:
そうですね。今回の場合は、対外的なイメージから派生させてストーリーを作っていく、という感じでした。

たとえば、僕が店舗のオープニングパーティで内装を担当することが決まっていたのですが、まずはテーマを「祭り」で行こうと決めて。日本の祭りといえば「提灯」ですが、この提灯を赤色ではなく、「アディダス オリジナルス」のブランドカラーであるブルーにしたらアートになるんじゃないかなと。そして、他では見られないブルーの提灯を100個くらいぶら下げたんです。

――オープニングパーティは、1日400名ほど参加されて大盛況だったとか。


千原:
はい、ありがたいことに多くの方に来ていただけて。

オープニングでは、アートを感じてもらえる空間にしたかったので、いろんなアーティストをからめたんです。アパレルの店舗であるのですが、ただ服を買いにくるだけじゃなくて、「クリエイティブな脳みそ」になってもらいたいと思って。

それで、「祭り」や「和」、「ブルー」の流れで、富士山の銭湯絵を思いつき、日本に数少ない銭湯絵師の中島守夫さんという方に来ていただいて、アディダスのロゴが入った絵を描いてもらいました。

あとは、ロゴやマニフェストのデザインが、映像で動くウォールを作ったり。人がその前に立つと漢字が集まってきてその人のかたちになったりする、ちょっと遊び心のあるものなどを配しました。

葛藤しながらも「東京」で生きようとする若者に響くデザインを


――グラフィックは青がとても印象的なデザインですね。

千原:
「アディダス オリジナルス」のコーポレートカラーが青なので、それを活かしたいと思っていました。グラフィックは内装を随時チェックするなかで、代理店の方などから「この辺にこういうのを置きたいんですけど、千原さん何かありますか」などその都度要望をいただいて、そのなかで漢字や日本語、英訳したものを含めてグラフィックにしていきました。

字体は僕が作って、川上さんの文章のなかから印象的な言葉を抜き出してデザインを作りました。「東京」という言葉は、グラフィックとしてもシンメトリーで美しいので、それを入れたいというのがひとつ。

あと若い人が夢中になる場所だということで「夢中」という言葉は必要かなと。「予感」というのは、やはり自分への期待とか色々なことを予感させる街ということで入れました。

色々検討した結果、「東京」「夢中」「予感」「憂鬱」というのをベースにお店のグラフィックを作っていくことになったんです。

――唯一、「憂鬱」というネガティブワードが入っているのが印象的ですね。

千原:
最初、代理店の人には、「憂鬱」はネガティブな表現なので難しいかもって言われました。

でも、アディダスのブランドをグローバルに見ている担当者が、「理想の言葉だけを並べると歯が浮いたような感じだし広告的なので、やはり憂鬱という言葉があるほうが東京の若者らしい」とおっしゃってくれたんです。「常に楽しいことだけじゃなくて、うまくいかない自分に対して辛い気持ちになったりするのが、東京という街の特徴だと思う」と。

ちなみに、漢字を構成する要素っていうのが全部「鬱」に入っているということもあって、グラフィック的にも「鬱」は特別なんです。

――「東京」といっても色々な側面があると思うのですが、ターゲットは東京に住む「若者」でしょうか?

千原:
そうですね、幅広く若者を対象にしてはいるんですけど、突き詰めると東京に上京したての若者でしょうか。僕も夢を持って東京に出てきて、そこからどうするかみたいな葛藤を抱えていた時期があったんです。

「アディダス オリジナルス」は若者に支持されているブランドではありますが、個人的には自分の夢をもって悩んでいる人たちに、グラフィックやマニフェストを通して、葛藤しながらも何かを予感しながら生きていくことの面白さを感じてもらえたらいいなと思っています。

Interview/Text: 末吉陽子

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