1. ハルキストが選ぶ、至極の村上春樹:おすすめ長編5作品

ハルキストが選ぶ、至極の村上春樹:おすすめ長編5作品

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 村上春樹のおすすめ作品を調べると、あれやこれや、結局全作品ではないか?というほど検索結果にあがってくる。おすすめというくらいだから、何冊かに絞ってすすめてほしいものだ。

 今回は彼のデビュー作から2000年初期の作品まで、5つの長編作品に絞っておすすめしていく。村上春樹の作品は、初期の方が断然粒ぞろいだからだ。

 天高く馬肥える秋とはよく言うが、食だけでなくぜひ書の方にも目を向けてほしい。読書の秋の一歩目に、村上春樹をおすすめしよう。

おすすめ其の1:『風の歌を聴け』(1979)

村上春樹なりの青春。小説家デビュー作。

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 冒頭、村上春樹は自身が背負ってきた苦労や思いを読者に露呈する。文章を書くときはいつも絶望的な気分になるのだと。

 続けて、それでも苦しみから救済されるいつかの日を待ちながら、自分は書き続けていくだろうという意思を明示する。

 村上春樹が選んだ最初の題材は、人生で過ごした物憂く、ほろ苦い時期、青春だ。海辺の地元に帰省した「僕」と、友人の「鼠」が過ごした1970年の夏。

 文体こそ面影があるが、近年の作品とは全く異なる構成で組まれた村上春樹のデビュー作。より物憂く、よりほろ苦くなっている。

 今よりもなぜか重く、どんよりと暑かったあの頃の夏。その頃青春を迎えていたあなたなら、忘れていたあの暑さを、この作品に揺り起こされるかもしれない。

おすすめ其の2:『1973年のピンボール』(1980)

まだ「やれやれ」とは言わない村上春樹

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村上春樹作品ではお決まりの「やれやれ」。ため息とともに、いつも主人公の諦めを吐き出している。

 この『1973年のピンボール』でも、主人公の「僕」は謎の双子姉妹にさんざん振り回される。しかしこの作品ではまだ、諦めてコーヒーを飲んだりしているのだ。「やれやれ」が色濃く彫りだす村上春樹らしさが苦手な人は、この作品なら読めるかもしれない。

 村上春樹の青春3部作のうち、2作目とされる『1973年のピンボール』。都市開発で行きつけのゲームセンターが失われたのをきっかけに、「僕」はゲームセンターで散々遊んだピンボール台を追いかけていく。
 
 これから読むという方へ。それでは、「ハヴ・ア・ナイスゲーム」。

「あなたは二十歳のころ何をしてたの?」
「女の子に夢中だったよ。」一九六九年、我らが年。
「彼女とはどうなったの?」
「別れたね。」
「幸せだった?」
「遠くから見れば、」僕は海老を呑み込みながら言った。「大抵のものは綺麗に見える。」

出典:村上春樹(1980)『1973年のピンボール』講談社 p.104-105

おすすめ其の3:『ノルウェイの森』(1987)

村上春樹の代表作:とびきりの女性が、ここにいます。

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 嫌でも目を引く赤と緑のカバーをしたこの作品こそ、言わずもがな村上春樹代表作、『ノルウェイの森』だ。

 村上春樹が嫌いでも、この作品だけは読んでいるという人が意外と多いのだ。そういった人達が口を揃えて言うのは「ミドリが素敵だった」ということ。「ミドリ」とは、作中主人公が恋する「ナオコ」の対極に、突如として現れた同じ大学の女の子だ。

 “喪失”の影が絶えずつきまとっていた1969年。主人公の「ワタナベ」は生の側にいる「ミドリ」、死の側にいる「ナオコ」の間で揺れ動く。

 まだ、私たちにとって生と死が近かった頃。あの頃感じていた心の震えを、村上春樹なりに描き出したこの作品、やはり皆におすすめしたい。

死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。

出典:村上春樹(1987)『ノルウェイの森(上)』 講談社 p.48


おすすめ其の4:『スプートニクの恋人』(1999)

偏屈な女の子が、年上女性に恋をする

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 男と女が恋に落ちることはあれど、女が女に恋する作品は村上春樹の中でも唯一、この『スプートニクの恋人』だけだ。それだけにおすすめしたい理由は多い。

 時代背景を考えてもみてほしい。出版年は1999年なのだ。まだ、今の何倍も同性愛に対しての差別や偏見が蔓延していた時代だろう。

 そんな時代に出版されたこの作品。22歳の春、「すみれ」は“広大な平原を突き進む竜巻”のような激しい恋に落ちる。

 いつも男が主人公である村上春樹の長編作品の中で、『スプートニクの恋人』が異質な点はまさにそこにある。物語の中心に据えられたのは「すみれ」であって、「ぼく」ではない。「ぼく」はただの傍観者、「すみれ」の物語を眺める人なのだ。

 村上春樹お得意の比喩表現が、この作品内では「すみれ」の恋の瑞々しさを助長する。このように一風変わった作品だからこそ、皆におすすめしたい。

22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。...(中略)... 恋に落ちた相手はすみれより17歳年上で、結婚していた。さらに付け加えるなら、女性だった。それがすべてのものごとが始まった場所であり、(ほとんど)すべてのものごとが終わった場所だった。

出典:村上春樹(1999)『スプートニクの恋人』講談社 p.1

おすすめ其の5:『海辺のカフカ』(2002)

世界一タフな15歳になりたかった少年

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 カラスと呼ばれる少年とともに、15歳の少年「田村カフカ」は家出をする。父を嫌悪し、幼いころ消えた母と姉を求めて、単身一人で生まれ育った中野区から離れていく。

 この作品をおすすめするのは、まさに主人公が15歳の少年であるからだ。その年代を過ごした誰もが経験したであろう、未熟さゆえの葛藤や、自分のふがいなさへの怒り。一貫してこの作品は、少年の精神的な成長を追い、恥ずかしくなるほど赤裸々に描き出している。

 けれどもそこは村上春樹。美しいだけの成長物語にはなっていない。「母なるもの」、「姉なるもの」を犯し、父にかけられた呪いを達成してしまった「田村カフカ」。苦悩の末に、彼が出した答えとは。

 この続きはぜひ本編で確かめてほしい。思春期に悩んだ全ての人への答えが、そこにはある。

「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」とカラスと呼ばれる少年は、眠ろうとしている僕の耳もとで静かに繰り返す。僕の心に濃いブルーの字で、刺青として書きこむみたいに。

出典:村上春樹(2002)『海辺のカフカ』講談社 p.11



  村上春樹は今なお執筆活動を続け、彼の作品は世界中の言語に翻訳されている。今回おすすめしたのは村上春樹の長編作品のみだ。短編集やエッセイももちろん執筆している。

 長編が苦手なら、ぜひおすすめしたいのが村上春樹のエッセイだ。文学は世界を広げてくれるもの。読んでみれば少しなりとも、あなたの世界は広がるだろう。

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