1. 資金調達を考えるためのステップ。ベンチャー企業にとってVCと付き合っていくことの意味とは

資金調達を考えるためのステップ。ベンチャー企業にとってVCと付き合っていくことの意味とは

出典:computing.ece.vt.edu

 IPOマーケットが加熱している。IPOに関するデータを2010年と2013年で比較すると、以下のことが分かっている。

・VC(ベンチャーキャピタル)の投融資金額が60%増加
・VC一社あたりの投資金額が47%増加
・VCのシードまたはアーリーへの出資比率は33%から63%へと増加

 全体として投資が進んでいる結果、創業間もない段階から高い株価で多額の資金調達をするケースが急激に増加している。しかし、早い段階で株式を発行して資金調達をすることは、必ずしも良いことばかりではない。
 
 創業間もない頃に株式を発行することに伴う危険性とは、一体どのようなものなのだろうか。そしてVCはベンチャー企業にとって良きパートナーとなり得るのか。この点について説明していこう。

株式による資金は無料なのか

 投資家が取るリスクと得られるリターンは、トレードオフだ。高いリスクを取れば、その分高いリターンを得ることができる。株式に投資する投資家は貸付けするよりも高いリスクを取るため、当然より高いリターンを求める。 

 上場会社の場合、一般的に借入れ利子率は1%~3%程度。株式への投資、比較的配当を受けられる可能性が高く、株式の売却の途も確保されている有価証券の投資の期待利回りは、5%~10%が相場だ。 

 それでは、創業後間もなく、ビジネスフローが確立していないベンチャー企業の株式を購入する場合は、どの程度の利回りが求められるのだろううか。

 上場企業と比較すると、未上場のベンチャー企業は売上や利益が安定していない。また、大きな成長を見込んだ上で、現在の利益水準に比べて大きな設備投資などを行う必要がある。配当も期待できないというのが一般的だ。

 さらに、買った株式を売りたい場合でも、上場株式のようにボタンをクリックするだけで売却できるわけではない。自分で買ってくれそうな人を探して打診し、交渉しなければならないのだ。 

 上場株式の期待利回りは5~10%だと述べた。ベンチャー企業への株式投資のリスクは上場会社へ投資するリスクより大幅に高いと考えると、得られるリターンもその分高い。もちろん投資家により期待利回りは異なるが、VC投資が大きく発展している米国の研究データを参考にすると、投資対象の成長ステージに応じて20%以上、ときには100%の利回りを求められることもあるといわれている。 

 投資家が期待する利回りは、企業からすると「コスト」である。そのため、投資家が期待する利回りを「資本コスト」という。ということで、株式を発行して得た資金は無料ではなく、大きなコストを支払うことになるのだ。

「スチュワードシップ・コード」と「ROE5%」

出典:ec.europa.eu

 2014年、アベノミクスの一貫として政府の強力な推進のもと、機関投資家(投資運用会社、信託銀行および保険会社など)に適用される、日本版「スチュワードシップ・コード」が制定された。それまで日本の機関投資家は、「モノ言わぬ株主」と揶揄されることもあるなど、企業経営への関与に消極的であるといわれていた。

 「スチュワードシップ・コード」とは、資産運用者として投資先に対する責任ある行動を取るためのガイドラインであり、機関投資家と投資先企業の対話を促している。

 具体的には、投資先企業のモニタリング、議決権行使の方針設定と結果の開示、ガイドラインの順守状況の定期報告などが盛り込まれている。そして、投資先との対話のためには「共通言語」が必要であり、共通言語には「ROE」(Return on Equity=自己資本利益率)が用いられている。

 すでに多くの機関投資家がスチュワードシップ・コードの適用を表明し、ROEが5%を割り込む企業には、株主総会における役員選任議案に反対するなどの厳しい対応を取るという姿勢も打ち出されている。  

 上場会社ですらROEの最低限度は5%であり、5%を切った場合は株主総会で役員交代が決定されるのだ。ベンチャー企業の経営では、より高い水準で様々な経営面の要請が求められることを覚悟しておかなければならない。

「株式の希薄化」とは?

 株式を発行すると、「希薄化」してしまうといわている。 この「希薄化」には、経済的な意味での希薄化と、経営権の希薄化の2つの意味がある。

 経営権の希薄化は、株式を追加で発行することにより全体の議決権数が増加することによって、既存株主の持分が下がることをいう。

 経済的意味での希薄化は、株式を追加で発行することによって全体の株式数が増えることで、既存株主の会社が稼いだ利益やキャッシュの分配割合が下がることをいう。

 例えば、株式の価値の目安となる、1株あたり純利益や純資産が下がる状況だ。もっとイメージしやすい例でいえば、時価総額100億円で上場しようと考えているケースで、発行済株式100株のうち50株を持っている創業オーナーは50億円分の株式を持つわけだが、上場に至るまでに増資をし発行済が150株になっていると、50株分の価値は、約30億円に下がってしまう。20億円分が希薄化し、他の株主に帰属してしまうのだ。安易な増資は、経営権も将来の上場益も失うことになる。 

起業家にとってVCはいいパートナーか?

出典:www.abperspective.com

 株式による資金調達を検討するにあたり、一般的に、創業メンバーとその関係者や取引先等の事業パートナーが第一候補となり、次に検討のされるのがVCとなる。株式発行による安易な増資は、経営上リスクとなることは述べてきた。しかし、投資家の期待利回りが高いことは必ずしも悪いことばかりではない。

 投資家は、自らの期待利回りを実現するために積極的に経営に関与してくれる場合がある。すなわちVCは、単に資金の拠出者となるだけではなく、上場という共通の目的を達成するための経営のパートナーとなりうる存在だ。ノウハウや人脈、事業提携先などのネットワークの提供、事業上や管理面での具体的な協力が得られることもある。

 そのため、VCから資金調達を行う場合は資金調達の条件のみならず、事業上どのような寄与をしてくれそうか、経営にどの程度の関与が見込まれるのかなど、パートナーとしての適格性を十分に検討した上で選定することが重要となる。 

 そして、これらを検討するための背景として、VCがどのような投資戦略を持っているか、今後どのようなExitを計画しているのかを十分に理解しておく必要がある。その他にも、ストック・オプションの発行、他のVCやその他関係者への増資をどれくらい許容してくれるかといった確認も必要だ。

 
 VCから株式による資金調達が可能であるとしても、本当に上場を目指すべきビジネスモデルなのかは真剣に考えていかなければならない。融資による個人保証のリスクとの天秤で、多額の資金を拠出してくれるVCからの提案に目が眩んでしまうこともあるだろう。しかし、まずは自社の事業の可能性を十分に省みることが重要だ。実行したら後戻りはできないのだから。 

 最後に、今回説明したとおり、VCを決めるには企業戦略とVCの投資戦略が合致しているのかについて、きちんと向き合うこと大切だ。本当にVCと良きパートナーとして付き合っていけるのか、じっくりと考えてみよう。


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