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起業家でも意外に知らない“IPOとM&A”の違い:起業家は上場を目指すことが正しいのか?

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2015/09/14(最終更新日:2015/09/14)


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出典:www.fastcompany.com

 起業するからには、IPO(新規公開/株式上場)を目指すべきというのは正解なのだろうか。IPOは、市場から調達した資金を成長に向けた投資に充て、企業価値を高めるといった好循環を繰り返す企業にとっては最良の選択だ。

 しかし、営業キャッシュフローの範囲内での投資でうまくいくならば、起業家は低成長であっても満足するかもしれない。またこの場合、エクイティ(株主資本)での資金調達を考える必要はなく、株主のExitを考慮したIPOを目指す意味もない。投資家たる株主もいないため、起業家にとって自由な意思決定も保証される。

 IPOとM&A、そして非上場経営。どれを選ぶかで資本政策は大きく変わってくるため、事業の成長性を良く考えた上で、どの方向に進むかを慎重に考える必要がある。今回は、スタートアップの経営者のみならず、これから起業を考えている人に対しても知っていただきたいトピックをご紹介する。

“なんとなく”IPOで後戻りできない失敗を招く

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 「IPOも選択肢のひとつだ」と言いたくなる気持ちもわかる。IPOによって、従業員のモチベーションや結束力が上がったり、取引先等からの見方も変化したりということもあるだろう。

 しかし、“なんとなく”IPOを目指した結果、最悪のケースを招くことがあることには注意をしたい。

 よく目にするのは、「非上場のまま」というのが最も現実的であるにもかかわらず、ストック・オプションや従業員持株会を導入してしまい、ゆくゆく従業員が持つ株式の引き取り先がなくなり、誰が買うのか、株価はどうするのか、といった話でトラブルになってしまうケースだ。

 挙句の果てには結局M&Aすることになり、想定外に多額のキャピタル・ゲインを従業員に持っていかれるということもある。

事業をより拡大させたいならIPO? それともM&A?

 どのExitを目指すかを決めずにやみくもな資本政策に走ることは、会社の未来を失うことに繋がりかねないということをお分かりいただけただろうか。目指す進路を決めるために、まずは、IPOとM&Aのどちらがそれぞれの事業拡大に有効なのか整理しよう。

IPO

 資本政策を誤らなければ、オーナー経営者が一定の支配権を維持したままIPOやその後のタイミングでの多額の資金調達が可能になり、事業拡大に向けた投資をスピーディーに行っていくことができる。

 しかし、上場後含め外部株主を入れることになるため、株主への説明責任が生じ、大胆な投資や事業転換が難しくなる可能性がある。また上場準備コスト、上場維持コストもある程度かさむため、上場による資金調達力の強化、事業の成長にレバレッジがかからなければ、デメリットのほうが多くなる会社もある。

M&A

 他社の経営ノウハウ・経営資源との融合によって、事業を拡大していくことができる。いわゆるシナジー効果が期待できるのだ。状況によっては、M&A前の自社単独による経営に比べ、事業を急拡大できることもある。

 また、大企業のグループに入る場合、金融機関や取引先への信用力が増し、銀行借入れなどの資金調達力が上がることもある。


 いずれも会社の成長に繋がりうる選択肢ではあるが、多額の資本を市場から集めて一気に注入することにより、継続的に拡大・成長していくことができる事業であれば、やはりIPOの方が事業をより大きく拡大していくことができる。逆に言うと、そうでない事業は上場する意味はない可能性が高く、M&Aによる資本業務提携を検討した方が良いかもしれない。

経営者個人が「儲かる」のは、IPOとM&Aどっち?

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 次は、経営者個人が金銭的に見て、IPOとM&Aのどちらにメリットがあるのか見ていこう。

IPO

 IPOの最大のメリットは、創業オーナー、ベンチャーキャピタルなどの株主、ストックオプションを持つ役職員が、IPO時とその後に、株価が上がった分の利益を確保することができる点にある。これとも相まって、IPOに向けて社内は団結し、ベンチャーキャピタルからは各種経営上の協力を仰ぐことも可能となる。

 IPO後も事業が成長し続け、市場に評価されれば、確保できる利益はその分上がっていく。しかし、創業オーナーはIPOした途端に全株を売却するわけにはいかず、一部支配権を維持しながら株式を順次段階的に売却していくことにもなる。

M&A

 M&Aは合意さえすれば成立し、成立すれば株主の株式はキャッシュ化されることとなる(株式交換や将来の業績による出来高払いのアーンアウト条項などのケースもあり)。M&Aはものの数ヶ月という短期間で行われることも多く、IPOに適さない小規模な事業や、必ずしも成長トレンドではない安定的な事業にも向いている。

 また、IPOに適した社内体制の構築を要求されないので、一般論としてIPOに比べて負担が少なくて済み、ヒト、モノ、カネ、時間といった経営資源を事業運営に集中し続けることができる。そのため、短期的にはIPOに関連するコストを抑えた利益を出すことができ、高い株価評価を得ることもありえる。


 こちらも同様に、継続的に拡大・成長していくことができる事業であれば、IPOによる段階的な株式売却の方が結果的に株主は儲かる可能性が高い。もちろん、外部株主からの目もあるため、株式を段階的に売却することは難しくもあるため、手っ取り早くキャッシュを手に入れたいのであれば、M&Aがおすすめだ。経営者に事業を拡大し続ける自信がないならば、他社へ経営を委譲することによる、短期での経営権の換金の方が儲かることも多いのだ。

非上場会社のメリットとは?

 非上場での自力・単独経営では、これまで紹介してきたような資金調達力向上や、他社との融合による急成長のメリットは享受できず、自前の経営資源による経営を行うこととなる。

 ただ、自力で会社を大きく成長させられるのであれば、誰に何を言われるでもなく自由に経営を行い、利益はすべて享受できる。例えば、会社が10億円儲かっても、上場会社のオーナーや経営者がポケットに入れられる金額には限りがあるが、非上場会社では、オーナーや経営者が文句なしに全額ポケットに入れて良いわけだ。

総合的に見て、どこを目指すのが得策なのか

 IPOの件数は2009年に19件だったのを底として、2014年には77件にまで回復しており、IPOマーケットは「過熱している」「ブーム」などといわれることもある。そのため、最近バブルがついに崩壊するのか?とも言われるわけだ。

 一方で、ベンチャーキャピタルのExitデータをみると、その7割がM&Aによる株式売却となっている。これは、大手IT企業を中心に、自社の将来の成長可能性を模索するための青田買いを多数行っているからといわれている。

 つまり成長企業ならば、今ならどの道でも選べるという状況にあるということだ。若手起業家の間では、次々と事業を立ち上げては企業に事業を売却し、より大きな資金を確保してはまた次の事業を立ち上げる、いわゆるシリアルアントレプレナーという言葉が広まっている。

 M&AによるExit、つまりIPOに比べて比較的しやすいExitを目指して起業したにも関わらず、急にIPOを目指すのは困難だ。そのような起業家は、短期成長には自信があるけれども、中長期的な成長の絵は描けない、もしくは描くつもりがないこともある。資本政策も、スピードを重視しており、中長期的な未来のエクイティファイナンスによる希薄化に対応できないかもしれない。

 一方で、IPOを目指していた企業が声をかけられてM&Aに切り替えるのはよくある話。IPOを考えて中長期的な成長ビジョンを持ち、そのために必要な投資・社内体制を整理できている企業がM&Aにシフトした方が、漫然とM&Aを目指して経営している企業よりも売却時の価値が上がるかもしれない。

 もちろん、難易度は高いが、魅力的なメリットがあるのはIPOだ(特に社会的な公器を目指すような意志があるのであれば)。しかし、IPOが容易でないのは、事業成長及び事業リスクのビジョンが第三者に説明できるレベルまで明確化、具体化されていないといけない上に、そのビジョンは中期(3〜5年)、長期(5年以上)、かつ事業のステージごとに持っておく必要があるからだ。

 
 「独立したい」とか、「なんとなく事業化できそう」という勢いで起業するケースが多くあり、その瞬間で儲かる事業に全力投球するのが普通である中、自社の事業を分析し、どのようなスピードでどこまで伸びていくものかを明確化するのは大変なことだ。しかし、成長の絵を真剣に考えるために一度IPOを構想することが、結果として具体的な事業成長につながりうるということがあり、その後の方向転換にもつながることがある。一度IPOを考えてみるのは、決して悪いことではないのかもしれない。

 外部のベンチャーキャピタルや事業会社から資金を調達し、しっかりと増やして返すという責任のなかには、上記の違いや性質は必ず理解していなければいけないのは言わずもがなである。


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