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なぜ“持たざる国”スイスで、優秀な起業家が生まれるのか? “起業家の国”『スイスの凄い競争力』

中村麻人

2016/04/01(最終更新日:2016/04/01)


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by MY LIU
 スイスと聞いて、なにを思い浮かべるだろうか。永世中立国、プロテニスプレイヤーであるロジャー・フェデラー、雪積る山岳風景――。スイスの歴史の中には、多くのスイスの子供たちが裕福なドイツの家庭で奴隷として働かされていたという貧しい過去がある。しかし、2007年には失業率がEU平均の半分以下になるなど、豊かな国になったと言えるだろう。

 なぜ、スイスは成り上がることが出来たのか。それは、スイスから優れたアイデアやイノベーションが生まれたからである。本書『スイスの凄い競争力』の執筆者は、チューリッヒの投資会社、ネサンス・キャピタルの創業者であるR.ジェイムズ・ブライディングだ。本書にある、起業家たちから見えるスイス成功の秘密は、驚くものばかりである。この記事では、“持たざる国”であったスイスの成功における、隠された秘密をいくつか明らかにしていきたい。

多様な文化が交わる稀有な国「スイス」

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出典:www.lahistoriaconmapas.com
 スイスは資源に乏しく外海がないため、植民地も得ることが出来ず、それぞれが独自の社会構造や特性を持ち、宗派も異なっていた。よってスイスは、移民を受け入れざるを得なかったのだ。スイスは現在も、人口の3分の1が受け入れた移民の子孫となっている。

 移民たちは、スイス人に歓迎されたわけではない。移民は、自らの価値が認められるまで疑いの目が向けられる。自らの価値を証明してこそ、ようやくスイス人にスイス人として認められるのだ。多様な文化の中で自己の価値を証明しようとする姿は、起業する姿と似通ったところがある。だからこそ移民たちは、実際に起業し、多くの成功を収めることが出来たのかもしれない。

 またスイスの特徴的な地形も、起業家精神を生むことの大きな要因となっている。スイスでは、多くの地域が孤立しており、固有の社会構造や特性を備え、教派も異なる。結果として、様々な地域で様々な製品が生み出され、それぞれが交易で結ばれてきたのだ。それでは以下で、スイスの実際の成功事例を考察を交えつつ見ていこう。

食品会社・ネスレ:器がデカい社長の買収戦略

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by Nestlé
 ネスプレッソで有名な食品会社・ネスレは、当時の社長であるヘルムート・マウハーによって、1981年に買収戦略を打ち出し、大きな成功を収めた。ミネラルウォーターのペリエや、名だたる有名企業を傘下に入れることにマウハーは成功したのだ。

 多くの買収は、買収先企業の株主価値を毀損するというのに、なぜネスレは成功を収めたのか。買収では、相手企業ではなく、その中にいる人材がすべてだとマウハーは考える。なぜ企業ではなく人材を優先するのか、マウハーはこのように答えたという。

「こういった企業が成功したのは、優れた経営陣がいたからです。私たちは、彼らを手放さないようベストを尽くします」

 この言葉が象徴するように、マウハーは買収した経営陣に同じ部門あるいは国で、ネスレがすでに展開した事業を任せるということをした。

 ほとんどの経営者は、買収先の企業を自社の「色」に染めようとする。だがマウハーは、買収先の企業の色を尊重し、その色にあった仕事を割り振ることが出来た。この器の大きさは、スイスの多様な文化の中で自己を証明する努力から培われたものである。

スイス時計産業組合:カメレオンのようなスイスの変化術

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出典:jornadafotografica.blogspot.jp
 オメガ、ロレックスなど高級時計メーカーのほとんどは、スイス発祥である。現在のスイスの時計産業は、栄華を極めているといっても過言ではない。だが、そのようなスイスの時計業界も、未曽有の危機に陥ったことがあるのをご存知だろうか。

 1960年代に入り、水晶の振動を利用した「クォーツ時計」の技術開発がはじまった。だが、スイスの時計産業はここで乗り遅れた。70年代は、安価なクォーツ時計が大量生産され、スイスの機械時計の需要は減少し、1983年のスイス人失業者は9万人に上ったという。

 スイス時計産業組合は、ニコラス・ハイエク率いるコンサルティング会社、ハイエク・エンジニアリングに助けを求めた。その結果、1991年にスイス時計産業の救世主となる「スウォッチ(Swatch)」が誕生する。スウォッチは、その安さとファッション性の高さから、1992年に販売個数1億個を突破するほどの成功を勝ち取った。スウォッチによって、スイス時計産業は救われたのだ。
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出典:www.piazzadellenotizie.it
 スウォッチの成功は、一人の天才によってもたらされたわけではない。大勢のスイス人による配慮、マーケティング戦略の結果であった。

 このようにスイスは、巧みに環境に適応することで危機を乗り越えてきたのだ。どんなに順調に行っていても、人生に危機は訪れるものである。だがカメレオンのように環境に溶け込むことが出来れば、危機を乗り越えることが出来る。

スイスに優秀な起業家が数多く存在する理由

  • 多様な文化の中で、自分の価値を証明しようとする起業家精神
  • 移民流入の歴史的背景など、スイスの持つ独特の開放性
  • 的確かつ素早い問題解決を可能にする、高い適応能力

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