1. サービスローンチで必ずぶつかる壁「利用規約」。炎上や損害賠償を避けるための利用規約の作り方:後編

サービスローンチで必ずぶつかる壁「利用規約」。炎上や損害賠償を避けるための利用規約の作り方:後編

出典:www.shine.co.il

 ベンチャー企業が最初に困る点の一つに、「利用規約」がある。契約書を読むのも不慣れなスタートアップ人材にとって、なかなかハードルが高そうに思える利用規約の作成。何かあってからでは遅いものの、何か起こるまで重要度が分からず、手薄な企業もあるだろう。

 プロに確認せず自分たちで利用規約を作ってしまうと、後々大きな失敗につながることがある。ここでは、多くのベンチャーの事例を見てきた、AZX総合法律事務所のパートナー弁護士の長尾先生による、利用規約作成についてのポイントをお届けしよう。

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規約の変更内容をサイトにアップしただけではNG。利用規約の変更の手続


 利用規約が法的拘束力を有する根拠は、サービス運営者とユーザーとの間に契約が成立する点にあります。契約は、相手方の同意なしに変更することができないのが民法上の原則であるため、サービス運営者が利用規約を変更した場合でも、変更前の利用規約に同意しているユーザーとの間で自動的に変更後の利用規約が成立するものではありません。 

 一部の利用規約では、サービス運営者が変更内容をサイトにアップした場合には、規約は自動的に変更されたものとみなすと定めるものがあります。しかし、その有効性には疑問の面があります。契約の変更についても、登録時の契約成立と同様、変更内容についてはユーザーの認識と同意が必要であると考えた方が安全といえるでしょう。 

 ただ、実務上、利用規約の変更を行うに当たって個別にユーザーから同意を取得するのは煩雑であり、ユーザー数が多い場合には個別に同意を取得するのが現実的ではないと考えられます。従って、この点についてはユーザーに変更内容を通知した後、ユーザーがサービスを利用した場合や一定期間内に登録取消しをしなかった場合に、ユーザーが変更後の利用規約に同意したとみなす旨の規定を定めておくのが一般的です。

 ただし、そのような規定を定めている場合でも、変更後の利用規約を認識していないユーザーには当該の規定の適用を主張することは難しいでしょう。利用規約を変更した場合には、変更後最初にユーザーがログインした際にポップアップで利用規約を表示するなど、確実にユーザーが変更後の利用規約を認識したといえる状況にしておく方が安全です。 

最初からM&Aを考慮して利用規約を作る

 日本法では、契約上の地位の移転には相手方の同意が必要と解されているため、M&Aなどでサービスの運営主体を第三者に移転させる必要が生じる場合は、その対処を考慮しておきましょう。 

 M&Aの手法として、合併や会社分割等の包括承継を選択する場合には、契約の相手方の同意を得なくとも契約上の地位が移転するのですが、事業譲渡を選択した場合には、契約の相手方の同意を得ない限り契約上の地位が移転しないのが原則です。

 しかし、事業譲渡を行う際にユーザー数が膨大な数に上っているような場合には、個別の同意を取得することは困難を伴います。 そのため、サービス運営者が事業譲渡を行う場合には、サービス運営者は契約上の地位を事業の譲受人に移転させることができる旨、及び、ユーザーは契約上の地位を移転させることについて予め同意する旨を、利用規約に規定しておきましょう。

「損害の賠償はしません」では通じない? 気を付けるべき法律、消費者契約法

出典:www.ruv.is

 最後に、利用規約を作成する上で重要な法律である「消費者契約法」について解説しておきましょう。 

 消費者と結ぶ消費者契約においては、消費者に不利な条項は無効とされる場合があります。もっとも注意しなければならないのは、消費者契約法の第8条です。同条の規定により、事業者の消費者に対する債務不履行責任、不法行為責任、瑕疵(かし)担保責任に基づく損害賠償責任を全面的に免責する条項は無効とされます。ですので、消費者をユーザーとするサービスにおいては、賠償の範囲を制限する旨の規定や、賠償額の上限を定める旨の規定を作成しておくことが重要です。

 上限を定める場合、有料サービスの場合には「過去◯ヶ月の間にユーザーから受領した利用料金の総額を上限とする」のような形で定めることが多く、無料サービスの場合には「◯円を上限とする」と直接的に記載することが多いです。賠償額の上限を定める規定は、基本的には消費者契約法でも直ちに無効とはされていませんが、事業者側の故意・重過失による責任については、一部であっても免除及び制限は無効とされています。利用規約でしっかりと免責規定や上限規定を定めた場合でも、ユーザーに損害が発生しないように運営を行うことが重要なのです。

 また、消費者契約法第9条より、契約解除の際に「同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」損害賠償の額を予定した条項や違約金を定める条項は、当該平均的な損害の額を超える部分が無効となります。

 また、年率14.6%を超える遅延利息を定めた場合、年率14.6%を超える部分について無効となります。よって、過大な違約金等を定めていたとしても、消費者相手に全額を請求できるとは限らない点に予め留意しておく必要があります。


 今回の内容は、一般的な利用規約のものであり、個々の利用規約を作成するときにはこれ以外にも気をつける事項が多数出てきます。利用規約の作成は簡単なものではありません。しかし、将来サービスの利用者が100万人を超えたような場合には、100万人に対して効力を持つ利用規約となるのです。その重要性を踏まえ、サービスローンチには充分に備えるようにしましょう。

AZX総合法律事務所 パートナー弁護士・長尾卓さん プロフィール

 ベンチャー企業のサポートを専門としており、ビジネスモデルの法務チェック、利用規約の作成、資金調達、ストックオプションの発行、M&Aのサポート、上場審査のサポート等、ベンチャー企業のあらゆる法務に携わる。特にITベンチャーのサポートを得意とする。


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