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「今治タオル」を存亡の危機から救った、佐藤可士和のブランド戦略『今治タオル 奇跡の復活』

中村麻人

2015/10/18(最終更新日:2015/10/18)


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「今治タオル」を存亡の危機から救った、佐藤可士和のブランド戦略『今治タオル 奇跡の復活』 1番目の画像
出典:imabari-towel.jp
 いまや全国的に知られるブランドであり、高品質なタオルの代名詞となった「今治タオル」。明治27年からその歴史が始まった今治タオルだが、一度は海外の安価なタオルに押され、生産高が5分の1まで落ちたこともあるという。

 その今治タオルの救世主となったのが、本書『今治タオル 奇跡の復活 起死回生のブランド戦略』を執筆した佐藤可士和だ。佐藤可士和は、UNIQLOのロゴや楽天のロゴを手がけたクリエイティブディレクターである。この記事では、佐藤可士和のブランド戦略による、今治タオルの復活劇を見ていこう。

本のハイライト

・輸入品の増加によって今治タオルの生産数量はピーク時の5分の1にまで落ち込んだうえ、海外ブランドのOEMに依存した代償に、企画・営業・販売という術を問屋に頼る体質になっていた。
・今治タオルの本質的価値をわかりやすく伝えるために、複雑で繊細な柄を表現できる技術をあえて用いず、様々な「最高の白いタオル」をキープロダクトとして設定した。
・3ヶ月にわたって検証された今治タオルのロゴマークは、シンボルであると同時に、商品に縫い付ける織りネームに用いられ、「安心・安全・高品質」を保証する役割を果たしている。

出典:今治タオル 奇跡の復活 | 本の要約サイト flier (フライヤー) - 1冊10分で ...

消えかけた伝統は「ブランディング」で蘇る

 今から約90年ほど前、愛媛県今治市は「四国のマンチェスター」と呼ばれるほど活気に満ちた都市だった。しかし1990年代後半にタオルの輸入量が急増し、日本のタオル業界は苦境に立たされることになる。

 こうした苦境の原因は、今治のタオルメーカーが海外ブランドのOEM(※)を中心に仕事を展開していったからだ。問屋が仕事を持ってきてくれる環境に甘えきっていた今治のタオルメーカーは、次第に企画・営業・販売の力が落ちていく。その中で輸入品がタオル市場に溢れ、国産の今治タオルは売れなくなってしまう。今治のタオルメーカーを支える四国タオル工業組合は赤字経営を続け、次第に借金を背負っていくことになるのだ。

 2006年に四国タオル工業組合は、佐藤可士和が設立した会社「サムライ」に訪れ、今治タオルの復活をかけたブランディング・プロジェクトを委託する。

※「OEM」とは、他社ブランドの製品を製造することである。今治タオルはバーバリーやセリーヌのOEMを行っていた。

クライアントの願いをカタチにする

 佐藤可士和が行っている「クリエイティブディレクション」という仕事は、自分自身のやりたいことをカタチにするわけではない。細部までクライアントの意向を読み取り、クライアントが求めていることをカタチにするのである。

 佐藤可士和がとったブランド戦略は、今治タオルの「安心・安全・高品質」という価値を、わかりやすいカタチにして消費者に伝えることだった。今治のタオルメーカーは複雑な模様のタオルを作る技術を持っていたが、佐藤可士和はあえてわかりやすさを重視した戦略をとった。今治タオルの強みを正確に消費者に伝えるため、佐藤がコンセプトとしたのは「最高の白いタオル」だった。これが効果的に作用して、今治タオルは復活していくことになる。

 ブランディング戦略においては、クライアントの「好み」を優先するのも重要なことだ。しかし、初期段階では何よりも「わかりやすさ」を重視すべきだという。本質的価値を検証し、研ぎ澄ませ、シンプルで明快なコンセプトにまとめるのだ。そして、それが世の中にもっとも伝わりやすいようにプレゼンテーションしていく。これが、基本的なブランド戦略なのである。

佐藤可士和の十八番“ロゴ戦略”

「今治タオル」を存亡の危機から救った、佐藤可士和のブランド戦略『今治タオル 奇跡の復活』 2番目の画像
出典:imabaritowel.jp
 ブランディングの仕事において、シンボルとなるロゴマークは必要不可欠。今治タオルというコンテンツを世の中に伝えるときに、ぱっと浮かぶロゴマークがある場合とない場合では、コンテンツの認知しやすさが全く違うのだ。

 今治タオルのロゴデザインは白、青、赤の3色。白は「タオルの清潔感」、青は「豊かな水」、赤は「産地の活力」表している。このロゴマークは300以上の案から選ばれた一つであり、綿密な検証のすえに選ばれたものであった。


 この記事では佐藤可士和のとったブランド戦略の一部を紹介したが、本書では佐藤可士和の仕事に対する姿勢や、ブランド戦略の組み立て方などを学ぶことが出来る。本書を読んで、あなたも“第二の佐藤可士和”を、目指してみてはいかがだろうか。



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