1. サービスローンチで必ずぶつかる壁「利用規約」。炎上や損害賠償を避けるための利用規約の作り方:前編

サービスローンチで必ずぶつかる壁「利用規約」。炎上や損害賠償を避けるための利用規約の作り方:前編

出典:xavierleadershipcenter.com

 ベンチャー企業が最初に困る点の一つに、「利用規約」がある。契約書を読むのも不慣れなスタートアップ人材にとって、なかなかハードルが高そうに思える利用規約の作成。何かあってからでは遅いものの、何か起こるまで重要度が分からず、手薄な企業もあるだろう。

 プロに確認せず自分たちで利用規約を作ってしまうと、後々大きな失敗につながることがある。ここでは、多くのベンチャーの事例を見てきた、AZX総合法律事務所のパートナー弁護士の長尾先生による、利用規約作成についてのポイントをお届けしよう。

「利用規約」は“なんとなく”で作ってしまえるからこそ、かえって危険


 私は、ベンチャー企業のサポートを専門とする弁護士であり、数多くの新規サービスのローンチをサポートしてきました。新規サービスのローンチの際に、クライアントから最も多く相談を受けるのが利用規約についてです。

 利用規約はウェブ上で同業他社のものを多数取得することが可能であるため、弁護士等の専門家の力を借りなくともそれなりの形にすることは難しくありませんが、ポイントが分かっていないと、自らのサービスにフィットした最適な利用規約を作成することはできません。

 そこで、今回は利用規約を作成する際に知っておくべきポイントをまとめてみます。まずは、利用規約にはどのようなリスクがあるのか、いくつかの失敗事例をご紹介しましょう。

・利用規約を作成したのは良いものの、正確に同意を取得していなかったため、結局その効力をユーザーに主張することができなかった。

・類似サービスの利用規約を流用すれば良いと考え、それを元に作成したものの、参考にした利用規約の中身がスカスカで、ろくに禁止事項や免責規定が定められていなかった。いざトラブルが発生したときに、利用規約に基づく主張が何もできない状況にあった。

・他の利用規約の規定を参考に、ユーザーがサービス上で投稿したデータの権利を全て譲り受ける内容にしたところ、「サービスの性質上、プライベートなデータも多く投稿されるにもかかわらず、サービス運営者がその権利を譲り受けるとは何事だ!」と炎上した。

利用規約の目的を今一度整理する

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 利用規約を作成する前に、まずは利用規約の目的を整理しておきましょう。

 利用規約の目的を大きく分けると
①法的拘束力のある契約を成立させる目的
②規制との関係で法律関係を明確にする目的
③ユーザーからのクレーム等に対応する目的
この3つに分類することができるのではないかと考えます。

 利用規約の本来の目的は、①の「法的拘束力のある契約を成立させる目的」です。一方で、実務的な観点からは②の「規制との関係で法律関係を明確にする目的」及び③の「ユーザーからのクレーム等に対応する目的」も非常に重要です。

 ②については、「どこまでの行為を行うかによって規制の適用の有無が変わる場合があること」「プラットフォーマーとなるか直接の取引の当事者となるのかによって受ける規制が変わる場合があること」「有償サービスとするのか無償サービスとするのかによって規制の適用の有無が変わる場合があること」に注意して利用規約を作成するのが重要です。なお、ビジネスモデルの規制については、当事務所の行っているビジネスモデル無料審査で簡単な審査を受けることも可能ですので、興味があればご連絡下さい。

 ③の観点からは、利用規約の内容を詳細に定めておくことが重要です。

 例えばユーザーからサービスの利用に関して損害を被ったため、賠償してほしいというクレームを受けた際に、「民法上、当社は賠償責任を負わないので賠償に応じることはできません」と返答する場合と、「利用規約の第◯条において、その損害について当社が賠償義務を負わないと記載されているため、賠償に応じることはできません」と回答する場合を比べてみるといかがでしょうか。

 前者の回答の場合、そもそもユーザーは法律の専門知識がないのが通常であるため、「そんな答えでは納得できない」と反発され、泥沼に陥る恐れもあります。

 後者の回答の場合には、「確かに利用規約に書いてあり、また、サービスを開始する際に利用規約に同意したことは覚えているのでやむを得ない」と納得してくれる可能性が高まります。私の経験上では、日本人の国民性も影響しているのか、具体的に利用規約の規定を明示して説明すると、「確かに書いてあるからしょうがない」として納得してくれるユーザーが多いように感じます。

確実に契約を成立させるには、同意したことが明確に分かるような仕組みを作る

 利用規約の規定として、「ユーザーが本サービスを利用したことをもって、本利用規約に同意したものとみなし、本利用規約に基づく契約が成立するものとします」という内容が定められているケースが良く見受けられます。

 規定が違法なものというわけではありませんが、その有効性には気を付ける必要があります。 前述した通り、利用規約を策定する目的の一つには、利用規約の内容に従って「法的拘束力のある契約を成立させる」ところにあります。ですが、民法上契約成立の要件として意思表示の合致が必要とされているため、規定を定めたからといって直ちに契約が成立したものと見なすことはできません。ユーザーがそもそも利用規約の内容を認識していない場合には、意思表示の合致があると解することは難しいと考えられるためです。 

 失敗事例にも記載しましたが、利用規約は作成したものの、同意を取得することはおろか、ホームページの非常に分かり難い場所に利用規約が掲載されていた事案においては、ユーザーに「利用規約にこう書いておりますので……」と説明しても全く納得されません。結局ユーザー側の要求を飲まざるを得ない事態に追い込まれるといったケースもあります。従って、実際の運用としては利用規約の内容を明確に表示した上で、チェックボックスを使用するなどして、ユーザーが利用規約に同意したことが明確になるような仕組みとした方が良いでしょう。

「禁止事項」はできる限り具体的に列挙して明示する

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 サービスの運用を開始すると、様々なトラブルが発生します。トラブルになった際に適切な措置をとるためには、禁止事項を明確に定め、ユーザーが禁止事項に違反した場合のペナルティを利用規約に明記しておくことが重要です。 

 禁止事項には、他者の権利侵害の禁止・犯罪行為の禁止等、一般的な事項に加えて、サービス特有の禁止事項をできる限り具体的に明示しておくことが重要です。最近ではCtoCのビジネスが増加傾向にありますが、CtoCの場合には中抜き行為の禁止を明確に定めておくことが必須なのです。

 一方、当初の利用規約制定の段階であらゆる禁止事項を網羅することは困難であることから、「その他当社が不適切と判断する行為」などのバスケット条項は規定しておいた方がよいでしょう。しかし訴訟になった場合に、このようなバスケット条項の有効性がどの程度認められるかは予測が難しいため、想定される禁止事項はできる限り列記して明示しておくことが望ましいと考えられます。 

 ユーザーが禁止事項に違反した場合に備え、複数のペナルティを設けておくのも忘れずに。なぜなら、優良なユーザーが一度問題のある書き込みを行った場合において、そのユーザーの登録を取り消してしまうことは望ましいくはないからです。

例えば、「ユーザーの投稿を削除できる」「サービスの利用を一時的に停止できる」「登録自体を取り消すことができる」など、ペナルティに段階を設けておくのが良いと思います。また、上記の中抜き行為が行われたような場合には、会社の売上が減ってしまうこととなるため、このような行為に対しては「本来の利用料の◯倍の違約金を支払わせること」をペナルティとして定めておくのも有効です。

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サービスローンチで必ずぶつかる壁「利用規約」。炎上や損害賠償を避けるための利用規約の作り方:中編(9月8日(火)7:00公開予定)

AZX総合法律事務所 パートナー弁護士・長尾卓さん プロフィール

 ベンチャー企業のサポートを専門としており、ビジネスモデルの法務チェック、利用規約の作成、資金調達、ストックオプションの発行、M&Aのサポート、上場審査のサポート等、ベンチャー企業のあらゆる法務に携わる。特にITベンチャーのサポートを得意とする。


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