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創業者はITのずぶの素人。170カ国で通信事業を展開する『最強の未公開企業 ファーウェイ』とは

Shinpei Hayakawa

2015/09/04(最終更新日:2015/09/04)


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出典:news.i9ye.com

 あなたは、ファーウェイ(華為技術)という企業をご存知だろうか? 1987年、任生非(レン・ツェンフェイ)という通信機器製造に関して全くの素人であった男が設立した通信機器メーカーである。現在では世界170カ国を超える地域でサービスを展開し、世界人口の1/3に匹敵する顧客数を持つ。2010年には、米国ビジネス誌ファスト・カンパニーの「世界でもっとも革新的な企業」というランキングで、フェイスブックやグーグルなど共にトップ5に選ばれた。

 創業者である任生非は、中国貴州省の山奥で生まれ育った。元人民解放軍のメンバーであったということ以外の経歴は中国国内であっても詳しく語られたことがない。以前までは、創業者同様ファーウェイに関して企業名以上の情報を知る者はいなかった。

 今回紹介するのは、ファーウェイの企業アドバイザーを務める著者が、メディアには滅多に姿を現さないファーウェイという企業の実態を語った『最強の未公開企業 ファーウェイ: 冬は必ずやってくる』という一冊である。

市場で生き残る迂回戦略

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出典:k-jinji.com

 ファーウェイ創業当時の1990年代前後、中国市場には欧米企業が参入し、受注獲得競争を行っていた。しかし任生非は、欧米企業との勝負に勝ち目はないことが分かっていたため、欧米企業が手を出さないような過疎地域や田舎の郵便電話局の顧客獲得から始めた。当時、任生非が掲げた戦略は「農村部から徐々に都市部へ浸透させる」というものであった。端から順を追うようにして地域を拡大していき、10年という歳月をかけて全国規模の顧客獲得を行っていったのである。この市場戦略は、海外進出時も同様であった。

 ファーウェイは、90年代後半から香港やロシアといった中国とゆかりのある国との契約を皮切りに、世界進出を果たしていくことになる。もちろん中国での市場戦略と同様で、欧米企業が参入しないような通信インフラの整備が遅れている東南アジアなどが当初の主な契約相手であった。このように、あえて困難な環境で仕事を行い、やり遂げることで現場との信頼を築いていくのが任生非の企業スタイルなのである。

 2000年代後半には、ファーウェイは欧州市場にも進出し、スウェーデンのエリクソンやフィンランドのノキアなどと肩を並べ、大手通信企業からの受注を受けるまでに成長した。日本にもHUAWEIジャパン(ファーウェイジャパン)として進出し、ソフトバンクやKDDIなどの通信事業者に基地局や端末提供を行っている。たった数人で始めた地方企業が、地道な市場戦略によって世界規模の企業になったのである。

ファーウェイがオープンになった理由

 序文でも述べたが、ファーウェイという企業は当初メディアに露出する機会がほとんどなく、実態を知る者は少なかった。ファーウェイの事業が急速に拡大するにつれて、今後の事業戦略に焦りや不安を抱いていた任生非は、社員一丸となって事業変革や挑戦に専念する必要があると考えていた。そのため急成長によってメディアの注目が集まるなか、任生非は社外の目や意見をシャットアウトするかのようにメディアへの露出を避けるようになったのである。

 情報がおりてこないメディア側は、独断や偏見に満ちた報道をすることが多かった。当時、任生非に対するメディアのイメージは「絶対君主で独裁的である」というものであった。ちょうどこの頃、ファーウェイのエンジニアが亡くなるということが起き、メディアは過労死と決めつけ、ファーウェイへの批判や糾弾が国内で広がりを見せた。またSNSなどでは、ファーウェイ社員による批判コメントが増え始め、ファーウェイへのバッシングに拍車がかかった。

 任生非を含めた経営陣は、ファーウェイの閉鎖的な企業文化や事業戦略が組織を危機的な状況に陥らせていると危機感を募らせていた。そこで、任生非は社員専用の交流サイト立ち上げとメディアへの露出を行ったのである。交流サイトは匿名で経営に対する意見を社員が発言でき、社員の意見を吸い上げ戦略や事業変革に生かすといったもので、メディア露出に関しては事実であれば何を話してもいいという方針を打ち出した。社員がメディアで自社に対し批判や意見を述べるのは、企業イメージを悪化させるのではという懸念もあったが、この戦略は功を奏し、社員の意識や考え方を統一し、会社の意思決定は透明化するのに大いに役立つこととなった。

ファーウェイを守った顧客至上主義

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by pestoverde

 ファーウェイは様々な形でバッシングを受けながらも事業を拡大し、イメージをすぐに回復させた背景には任生非の「顧客至上主義」という企業方針があった。ファーウェイに対する顧客のイメージは「低価格で品質は劣るが、サービスは優秀」というものである。

 競合企業の多くは、とにかく顧客数向上を目指していたため、顧客増加に伴いトラブル対応などに手が回らなくなっていた。しかしファーウェイでは、トラブルやクレームを真摯に受け止め、即座に対応するということを社員に徹底させていた。ファーウェイが中国国内で市場拡大に奮闘していた頃、中国ではカスタマー・サービスという概念がまだ一般的ではなかった。そのためファーウェイの「顧客一人ひとりを相手に奮闘する」という顧客中心のサービスは、中国国内で多くの人に喜ばれ、顧客と企業の間に強いパートナーシップを生んだのである。

 ファーウェイは世界進出した現在でも、社員に対してカスタマー・サービスに関するトレーニングを徹底して行っている。顧客が増えれば、対応のコストも高くなっていく。しかし、任生非は「奮闘とは、顧客のために価値を想像するあらゆる活動において、自らを充実させ、向上させる努力の全てである。どんなに苦労しても、自分が成長しなければ奮闘とは言えない」と語り、企業や自分を成長させるためにも顧客中心であるべきということを常に社員に訴えかけている。


 ファーウェイは、どれほど手間がかかっても常に顧客を第一に考え行動する。企業利益だけを求めていては、世界では通用しないということを示す良い例である。この本を読めば、何が顧客にとって重要か学べるはずだ。



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