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今のNECを創った男たちは誰か。クリエイティブな組織人になる5つの条件:『プロデューサーシップ』

Shinpei Hayakawa

2015/08/18(最終更新日:2015/08/18)


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今のNECを創った男たちは誰か。クリエイティブな組織人になる5つの条件:『プロデューサーシップ』 1番目の画像
by DC Central Kitchen

 ビジネスの市場はどんどん拡大し、競争相手も増え続けている。そうした中で企業は、勝ち抜くために独自の新たな価値を生み出すことに貪欲である。企業が社員に対し、創造性のある仕事を期待する場面も増えている。かつてコンピューター市場において無名だったNECも同じであった。初期のコンピューター市場のシェアは、当時その多くをIBMが占めていたからである。

 今回紹介する本では、創造的な活動をする人としてプロデューサーという職が挙げられている。リーダーでも管理者でもない。ただ人をワクワクさせるような目に見える何かを創造する。著者は、こうした能力をプロデューサーシップと呼び、これからのビジネスに必要なものだと語る。

 今回紹介するのは、そのようなプロデューサーシップを持った働き方の例や、プロデューサーシップを持つために必要な事柄をまとめた『プロデューサーシップ』という一冊である。

新たな価値を創造するNECのPCサーバー開発秘話

今のNECを創った男たちは誰か。クリエイティブな組織人になる5つの条件:『プロデューサーシップ』 2番目の画像
by JohnSeb

 もともとNECは、NTTの大型コンピュータを作るために設立された会社である。当時のコンピュータ市場ではIBMがシェアを占め、またPCサーバーという新規市場も現れ始めた頃だった。コンピュータ関連市場では、人気のあるIBMのシステムをベースとした開発を多くの日本企業が行っていたが、NECではあくまで独自の価値を創造することに固執していた

 しかし、米国企業にも勝てるような画期的なシステム開発という課題は、あまりにも困難でNECの開発者は頭を抱えていた。その当時、NECの専務だった登家正夫氏は、MicrosoftのWindows NTのシステムがNECの得意なシステム形式に近いことに気づき、ヒントを得られるのではと考えた。NEC同様、当時のMicrosoftは精度が低く欠陥も多かったため、Windowsのシステムを起用する企業も少なかった。しかし登家氏は、似たシステムを持つMicrosoftと共同開発することでNECの目指す画期的なシステムが作れるはずと考え、当時NEC開発事業の部長だった小林一彦氏にこれを提案した。

 小林氏は、登家氏から共同開発の提案を受け、その内容に好感を示した。ちょうどその頃、Microsoftの社員が別件で来日していた偶然もあり、彼らはMicrosoftの開発リーダーに直接提案しに行き、その場でWindows NTの改善とサーバーの共同開発の話をまとめた。これは当時のNECの独自開発という戦略に反するものであったが、登家氏と小林氏は「ここで戦略を変えなければ、いずれコンピュータ事業全体が潰れてしまう」と主張し、会社の戦略を変えさせたのだ。

 この後、MicrosoftのWindowsを基盤としたサーバーやパソコンを開発するようになったNECは、得意先だったセブンイレブン・ジャパンなど多くの企業からシステム導入の注文を受けるようになり、国内市場で誰もが知るような企業にまで成長した。著者はこの例に関して、ただ純粋に価値のあるモノを作ることを目指し、会社の戦略まで変えさせた登家氏と小林氏は、これからのビジネスに必要なプロデューサーシップのある人材像だと語る。

プロデューサーシップを持つには?

 プロデューサーシップを持つ人材になるためにはどうしたらよいのか? 日本で多く見られる会社や職業全体が既存の価値観を共有し活動する伝統指向型のキャリア形成の中では、プロデューサーシップを持った人材は育たないと著者は述べる。プロデューサーシップを持った人材になるには以下の二つのキャリア形成パターンがある。

広い人脈を持つ独創指向

 これは周囲の価値観を批判的に見ながら、自分独自の価値観を作り上げていく方法である。このキャリア形成には、会社の内外を問わず広くコネクションを持ち、様々な価値観に触れ、独自の価値観を編集することが必要となる。また独自の価値観である以上、自ら周囲の理解を得て協力者を募ることも重要となり、人を説得し協力体制を作るスキルが必須となる。

特定の仲間と価値観を作る共創指向

 これは独創指向のように様々な人と関わって価値観を作り上げるのではなく、狭い範囲で特定の人物との間に価値観を生む方法である。ただ、これは仲の良い同僚と入れば生まれるものではなく、前項のNECの登家氏と小林氏のように互いが分業し且つ一人ひとりが熱心に目標に向かっている必要がある。彼らは、ベストなサーバー開発を追求するうちに、会社の持つ価値観とは別の自分たちなりの価値観を生んだのである。

 独創指向と共創指向はプロデューサーシップを持つ人材になるためのパターンであるが、同質性の高い日本社会では独創指向には限界があると著者は述べている。そのため、日本社会では共創指向のプロデューサーシップを持った人材になることが現実的である。最後の項では、日本的な共創指向型プロデューサーシップを持つために必要な要件をいくつか紹介する。

日本型プロデューサーシップ育成に必要な5つの条件

 本書で挙げられている日本で共創指向型プロデューサーシップを目指す上で必要な5つの条件は以下である。

1. 仕事の基本をおさえること
2. 仕事のパートナーを見つけること
3. パートナーと自分という唯一無二の組み合わせを強みにした価値を共創すること
4. 上司や同僚など支援者を探し、創造のネットワークを作ること
5. 仕事に自分たちの価値観を落とし込み創造的な成果を挙げ、認めてもらうこと

 この5つの条件が重なれば、会社の至る所で創造のネットワークが生まれ個人や組織が創造性のある成果を目指す環境が出来上がる。そうなれば自分の所属するコミュニティが、自分や仲間が持つ目標や夢を互いに達成するために存在し、働くことにやりがいや生きがいなどワクワク感が生まれるのだ。

 プロデューサーシップを持つことは、何も自分の成果のためだけではない。自分の周囲にも影響を与え、全体を良い方向へ導くために重要な役割なのだ。もし今働いている会社でワクワクを感じられないのであれば、ぜひこの本を読んで自らが率先してプロデューサーシップのある人材になってみてほしい。



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