1. 20億円を蹴って4億円を選んだ男。黒田博樹の契約スタイルは、なぜいつも人の心を打つのか?

20億円を蹴って4億円を選んだ男。黒田博樹の契約スタイルは、なぜいつも人の心を打つのか?


 プロ野球開幕前後に、2015年の流行語大賞ノミネート決定と噂された「男気」。メジャーからの20億を蹴って、4億で広島と契約した男、黒田博樹の名は、野球ファン以外にも広く知れ渡るようになった。

 しかし、この男気契約を「プロじゃない」と批判する向きもある。1円でも多く、1年でも長く有利な契約を結び、その数字に見合った結果を残すのが本当のプロなのではないか、と。

 だが、黒田博樹という男が常日頃から何を考えてプレーし、契約しているかを知れば、その批判が的外れでもあることもわかるはずだ。

いつ選手生命が終わってもいい、という覚悟

 いわゆる「男気契約」は、何も今回に限ったことではない。たとえば、2006年オフの広島残留。「君が涙を流すなら 君の涙になってやる」というファンの横断幕に胸を打たれ、メジャー挑戦を1年遅らせたことはあまりにも有名だ。

 こうした、お金だけでは動かない契約スタイルは、日本でだけの話ではなく、メジャー時代にも徹底された黒田のこだわりでもある。

 まずは2007年12月。海外FA権を行使してメジャー挑戦を宣言した時のこと。この際、獲得交渉に名乗りでたメジャー各球団は、いずれも黒田に対して4年契約を提示。黒田はそれを「3年契約にしてくれ」と訴えたという。通常、1年でも長い契約を結ぶのが野球界の、というよりもプロスポーツ界の常識だ。ある球団幹部は「冗談はよしてくれ」と本気で返してきたという。

 だが、黒田にとっては長い契約期間は何のモチベーションにもならない。プロ入り以来、常に「今日、納得のできる投球をすること」「今シーズンのローテーションを守ること」を考えてプレーしてきたのが黒田だからだ。

《どんな試合であっても、マウンドに上がるときは責任を感じる。もっと言えば、戦場に向かうような気持ちだ。いつだって、その試合で選手生命が終わってもいい、そのくらいの覚悟と決断をもってマウンドに上がっているつもりだ》
(黒田博樹・著『決めて断つ』より)

 これほどの決意を背負ってマウンドに立つ男にとっては、3年先だって遠すぎる未来。4年も先のことを無責任に約束することなんて、それこそプロのプライドとして到底できないことだった。

「3年活躍したら、4年目、また一緒くらいのお金をもらえるわけですよね?」

 こう言って、4年契約なら総額約50億円以上のところを、あえて3年総額3530万ドル(約40億円)でドジャースと契約。10億円を蹴って「近い未来」に全てを賭けた結果、3年契約が終わった2010年オフ、ドジャースと1年1200万ドル(約12億円)で再契約を果たしている。

やっぱり野球は「気持ち」のスポーツ

 ドジャース4年目の2011年シーズン、黒田はある決断を迫られていた。この年、早々に優勝戦線から脱落したドジャース。MLBの場合、優勝が難しくなったチームの有力選手が、7月末のトレード期限までに優勝の可能性があるチームに移籍するのは恒例行事だ。

 実際この年、黒田に興味を示した球団は6、7球団あり、トレード拒否権を持っている黒田自身が、移籍するのか、それともドジャースに残留するのかを決めなければならなかった。

 この場合、少しでも優勝リングの可能性があるチームを選ぶのが常だ。だが、黒田が悩んだのは「2カ月だけ移籍して、そのチームが優勝して自分が果たして喜ぶことができるだろうか?」ということだった。

《スプリングトレーニングからやってきたメンバーと優勝することが、大切なのではないか───。そう思った。やっぱり野球は「チームスポーツ」なのだ。やっぱり野球は「気持ち」のスポーツなのだ。アメリカにはドライな部分がたくさんあるけれど、それでも一緒に戦うという気持ちの部分では日本と変わらない。その初心に帰ろう》
(黒田博樹・著『決めて断つ』より)

 この黒田の決断に対して、多くのアメリカ人が「黒田はドジャースを見捨てなかった」と驚き、賞賛をもって迎えられた。

カープに来たことが正解となるように

 なぜ、いつもこうした契約を結んでしまうのか。その一番の理由は、黒田にとってお金よりも「自分がマウンドに立ったときに、奮い立たせてくれるものは何か?」というメンタルが最も重要な要素だからだ。

《カープでプレーしたならきっと、ファンが大きな声援を送ってくれる。そうすれば、自分の心の中でワンランク上のモチベーションが発見できるんじゃないか。自分の内面から湧き出てくるパワーといえばいいのか、いろいろな力が出てきて、プラスアルフアの力が発揮できるのではないか。そうすることで、選手として成長できるのではないか、と思ったのだ》
(黒田博樹・著『決めて断つ』より)

 こうして赤いユニフォームをまとう決断をした黒田。その選択が正解だったのかどうかは、今季の黒田の戦いぶりを見れば、自ずとわかってくるはずだ。黒田は自著の中でこうも綴っている。

《選んだ道が「正解」となるよう自分で努力することが大切だと思う》

《カープに来たことが正解かどうかは分からないけれど、それを僕自身が正解にしようとしなければならない》


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