1. 「お笑い芸人」から「芥川賞作家」へ 『火花』で注目を浴びる“先生”又吉直樹の「想いと苦悩」

「お笑い芸人」から「芥川賞作家」へ 『火花』で注目を浴びる“先生”又吉直樹の「想いと苦悩」

出典: Amazon.co.jp

 その日、芥川賞の歴史が変わった。お笑いコンビ「ピース」として知られる“お笑い芸人”・又吉直樹が著した小説『火花』が「第153回芥川賞」の受賞作品に選ばれたのだ。この瞬間、史上初の芥川賞芸人が生まれた。「キングオブコント」や「M-1グランプリ」のファイナルへ進出した経験を持つ芥川賞作家というのは、後にも先にも又吉直樹ただ一人だろう。

 もともとお笑い芸人として名を馳せていた又吉が、デビュー作『火花』を通じて突如として頭角を現したということもあり、又吉は文学界の新たなスターにまでかけ上がった。

 一体、又吉直樹はなぜこのようなマルチな才能を発揮できるのだろうか。今回は、2015年7月19日放送のTBS『情熱大陸』に合わせ、又吉が作家として活動できる理由や又吉の考える『火花』の存在、そして“先生”とまで呼ばれるようになった又吉の抱える苦悩についてお伝えしよう。

「好きなこと」だからやる。

基本的には「無理しない」ようにしているんです。ネタを磨くとか文章を書くとかの努力は苦痛でないし、好きだからやるんですけど、自分を自分以上に見せる努力というのは絶対うまくいかないと思ってるんです。

出典:「好きやから」で、やってます。又吉直樹 糸井重里対談
 又吉が無類の「本」好きであることは有名な話である。本が好きだから、本を書くというのは、動機としては極めて普通なことだ。又吉が他の「本好き」と一線を隔しているのは、その“度合”にある。

 又吉は今に至るまで通算で2,000冊以上もの本を読み漁り、活字が躍り出すような夢を見てしまうこともあるとのこと。中学生のころに教科書に載っていた芥川龍之介の『トロッコ』を皮切りに本好きが始まったというのだから、今回の芥川賞受賞はなにか特別な縁を感じる。

 経験した人は多いと思うが、普通の「好き」という感情でそのモノを作り上げようとすると、大抵の場合は途中で挫折してしまう。本が好きでも、本を書こうとすると途中からそれが「苦痛」になり、完成することなく筆を止めてしまうのが定石だ。又吉にとって本を書くということは「苦痛」ではない。文章を書く努力を苦としない、そんな部分こそ又吉を芥川賞受賞まで導いたのではないだろうか。

「お笑い」も「文学」も盛り上げたい

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『火花』は若手芸人のことにもふれているので、劇場にすごく多くの芸人がいるので劇場にも来てもらって、全体的にお笑いとか文学とか、音楽とか演劇もそうですけど、そういうのがどんどん盛り上がっていけばいいなと思っています。

出典:ピース・又吉直樹の火花が芥川賞を受賞 - ログミー
 最近、「お笑い文化の衰退」というキーワードをよく耳にする。テレビで相次ぐコント番組の打ち切り、お笑い劇場の閉鎖――皮肉なことに、現実は笑えない。

 文学界隈も同様のことが言える。「活字離れ」なんていう言葉は、十年以上も前からずっと言われ続けていることだ。書籍の売り上げも、ピークだった1996年のおよそ7割にまで落ち込んでいる。

 『火花』には、この2つの業界にとって起爆剤となる可能性が秘められている。お笑い芸人の苦悩と成長を著した『火花』を読んだ人が、少しでもお笑いに対して興味を示してくれるのではないだろうか、と又吉は希望を抱く。

 それと同時に、一人の“お笑い芸人”が著した書籍としての『火花』に対する注目の高さを、文学業界全体の盛り上げに利用できるのではないかとも考えている。『火花』を通じて、「他の本も読んでみよう」と考える人を一人でも増やせたら、それは大変素晴らしいことだ。

「お笑い芸人」から「芥川賞作家」になった苦悩

お笑い芸人だからといって評価の妨(さまた)げになる訳でもないだろうが、紹介される時には、分かり易(やす)いとはいえ「お笑い芸人が小説を書いた」と必ず冠がついてくる。

出典:“お笑い芸人”又吉直樹が芥川賞!文学者へ、栄光までの苦悩
 お笑い芸人から芥川賞作家へ、又吉は一気に「一流芸術家」への階段を駆け上った。しかし、あまりに離れたこの2つの存在は、時に視聴者に対してある種の“バイアス”をかけてしまう

 『火花』の読者コメントを眺めていると、時に非常に辛辣に書かれているものがある。「芥川賞は有名だったから取れた賞」と書いてあることもあれば、「今回の芥川賞は出版業界の出来レースだ」とまで書かれていることもある。

 もちろん、芥川賞という賞は9人の選考委員によって、非常に厳正な審査がなされている。しかし、選考委員たちもまた無意識のうちに“バイアス”にかけられていたのかもしれない。この真偽に関しては、もはや確かめる術はない。芥川賞を受賞した又吉に待っているものは、全てが「賛辞」というわけにはいかなさそうだ。

『KAGEROU』作者・水嶋ヒロの例

 テレビスターが文学賞を受賞したのは、これが初めてではない。少し前に思い出されるのは「第5回ポプラ社小説大賞」を受賞した『KAGEROU』の作者、水嶋ヒロである。

 水嶋ヒロは、当時非公開だった本名「斎藤智裕」の名義で『KAGEROU』を執筆したため、今回のような「えこひいき批判」が生じることはまずありえない“はず”だった。しかし蓋を開けてみると、Amazonレビューは軒並み酷評、☆5評価の内容すらどれもネタに走ったものばかりであった。

 『KAGEROU』に対する批判の量は、『火花』に対するそれとは比較にならないくらい多い。しかし、テレビスターが文学賞を受賞して批判を受けるという点で、この2つの作品に対する社会の反応は、やはり似ている点が多いように感じる。


 芥川賞を又吉が受賞したことにより、文学界隈はかつてない盛り上がりを見せている。しかしその裏では、この盛り上がりが「ビジネス」の一環なのではないかという声が上がっている。色々な意味で、今回の芥川賞は“起爆剤”となりそうだ。


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