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日本で働いている90%は非リア充。あなたはリア充になれるのか? 『働き方は「自分」で決める』

中村麻人

2015/09/27(最終更新日:2015/09/27)


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by kevin dooley

 日本で働いている人たち6223人に、「生活に満足しているか」というアンケートを採った。この質問にたいして「満足している」と答えられたのは、10%に過ぎない。この数字は、20%を超える他の先進国に比べておよそ半分である。今の仕事に満足できていないという理由から、起業を考えている若者も多いだろう。だが、起業をした会社は
5年以内に2割が倒産し、10年で3割、20年で5割が倒産しているという
「起業」のことはたびたび話題に挙がるが、
この現状を人々は知っているのだろうか

 今回紹介する『働き方は「自分」で決める』では、社会学者である著者・古市憲寿の友人である起業家たちを中心にして、様々な若者の働いている姿を鮮明に写し出している。本書で写し出されているのは彼らの洗練されたビジネスモデルではなく、彼らの専門性、人間らしさ、そして「つながり方」だ。この視点から見えてきたのは、起業家たちにはある共通点があることだ。

労働に満足している3人の起業家の共通点

 本書では3人の労働に満足している起業家が紹介される。それぞれの起業家の行っている業務は大きく違う。だが、3人の起業家には大きな共通点があると古市は指摘する。それは、3人とも強大な武器を持っていることだ。その武器とは3つの資本だ。

 古市が本書で参考にしているフランスの社会学者ピエール・ブルデューによれば、人間の財産には大きく分けて3つの種類がある。一つは、お金(「経済資本」)。もうひとつは信頼や人脈(「社会関係資本」)。そして、教養や洗練された習慣(「文化資本」)だ。この3つこそが彼らの成功を下支えしている。

 3人のうちの一人、有限会社ゼントの社長・松島隆太郎は、高校時代からIT業界における伝説と呼ばれている。松島は、中学時代に携帯メールの絵文字変換サービスを無料で公開するなどして、若くして莫大な資産を築いたからだ。この松島を参考にして、資本がどのようにして彼を支えているのか見ていこう。

 古市によれば松島の親は教育熱心であり、彼が日本トップの名門私立高校である開成学園に行くことができたということが、彼の人生に決定的な影響を与えたという。また、親の年収と子供の学歴は直結すると古市は指摘する。このことからわかるように、子供を開成学園に入学させるためには、親の一定水準以上の経済資本が必要だ。

 開成学園のような名門中高一貫校に入ると、そこでは新たに社会関係資本と文化資本が作られる。開成出身者は名門大学や名門企業に就職していくことが多いため、同窓生とのつながりはそのまま強力な資本となるのだ。

 このように、いくつもの資本が彼らをトランポリンのように支えていると古市は指摘している。

 彼らは満足した生活を送れている。だが、誰もが松島のような資本を持っているわけではない。そして、誰もが起業した後、長く続けることは出来るわけではない。それでは、資本を持っていない人々は満足した生活を送ることはできないのであろうか。日本では資本の差、資本の運用の仕方によって、生活満足度が左右されやすくなったと古市は指摘する。

 あきらめにくい社会

「大衆教育社会」としてのメリトクラシ―の機能不全は、「あきらめ」の仕組みの崩壊であった。「いい学校」に行けば「いい会社」に入れ、「いい人生」が送れるという「物語」が共有された社会では、受験に失敗した人たちは少しずつ「いい人生」をあきらめていく。

出典:古市憲寿(2012)『働き方は「自分」で決める』
 資本の運用の仕方によって生活満足度が左右されてしまうのは、「いい学校」に入れば「いい会社」に入れ、「いい人生」が送れるという大衆教育社会が崩れてしまったからだ。

 現代の日本では、「いい学校」に入って「いい会社」に入ったエリートたちは、バブル崩壊後に相次ぐ破綻やリストラに頭を悩ませることになる。国家公務員の超エリートたちも例外ではない。農林水産省で働く古市の友人は、時給換算で300円とのこと。まったく笑えない状況であろう。このように、たとえ資本があったとしても、現代の日本では運用の仕方が難しくなったため満足に生活できていない人々がいる。

 かつてこの国には、エリート以外の資本がない人々は「いい会社」をあきらめ、自営業者になるという副ルートが用意されていた。しかし、その副ルートでさえも現代の日本では崩壊しているという。戦後のある時期を境に、「一国一城の主」の道は閉ざされていったのだ。その時期というのは、高度成長期以後。開業資金がバカにならなくなり、自営業者になることがどんどん難しくなっていった。開業資金は最高期に比べて安くなってはきているが、高度成長期と比べると断然高いのだ。

 副ルートに進めなかった人々の多くは、現代の日本ではフリーターとして働いている。安定を求めフリーターから抜け出そうとしても、なにをどう頑張っていいのかわからない。日本では、向上心がいくらあっても学歴がないような人々のセーフティネットは用意されていない。ヨーロッパ諸国では、失業したとしても失業保険からしばらくの期間は食べていけるだけのお金が支給される。この期間に、自分のキャリアアップをすることが出来るのだ。

 上記にあげた2種類の人々が生活に満足できていないのは2つの理由がある。高水準で、安定した生活を送ることが難しくなったこと。インターネットの普及などによって様々な成功者が瞬時に話題になり、自分と成功者を重ね自分でも成功できるのはないかと期待させる要素が多くなったことだ。

 では、満足した生活を送るにはどうすればいいのか。古市は目を凝らして「抜け道」に気づくことが大切だと指摘する。

社会に抜け道は意外とある

これからの前途を、誰となにをしながらどうやって働いていくのか。そこには無数の可能性がある。

出典:古市憲寿(2012)『働き方は「自分」で決める』
 本書で古市は、今の生活に満足し、社会の抜け道を見つけ出し「いい人生」を送っているさまざまな人を挙げる。

 例えば、大きな資本を運用しながら「新しいこと」、「面白いこと」をはじめている人々、小さい資本を運用し、消費社会や企業社会から距離を置きながら自分たちの生活や価値観を大切にしている人々だ。本書を読めば「会社に雇われて働く」という生き方が、いかに時代に限定されたものか、ということがわかる。

 本書を手に取り、さまざまな人生を送る人々と自分を見比べて「抜け道」を模索するヒントを得てみてはいかがだろうか。



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