1. 渋沢栄一仕込みのチーム作り。北海道日本ハム・栗山監督はいかにして偉人の教えを野球に活かしているか

渋沢栄一仕込みのチーム作り。北海道日本ハム・栗山監督はいかにして偉人の教えを野球に活かしているか

他人の富のために、自分の持てる力の全てを尽くした渋沢栄一。その生き方を、小説で追体験




昨年、起業を目指す高校生がひょんなことからタイムスリップし、渋沢栄一のそばで経営哲学を学び、現代にその教えを持ち帰り奮闘するというフィクションとノンフィクションを大胆に織り交ぜた経済×エンターテイメント小説「渋沢栄一の経営教室 Sクラス」を共著した(香取俊介・田中渉 著/日本経済新聞出版社)。

渋沢栄一は富岡製糸所、理化学研究所、東京電力、東京ガス、帝国ホテルなど、500もの会社を立ち上げ、一方で600ほどの施設の創設に深く関わり、昭和時代の経済の基礎を創った人物だ。一方、農民・商人・武士として、また尊王攘夷派かと思えば、一橋慶喜に仕えたり、パリに渡り、銀行や株式に興味を持ったり、大政奉還後は大蔵省に勤務するも、大隈重信や大久保利通と対立して辞めてしまうなど…様々な「顔」を持ち、かつエピソードに事欠かない人物でもある。

天才なのに泥臭く、国民の富のためなら自分のスタンスもダイナミックに変えていった。また、歴史上の志士や政治家と対等に渡り合い「富」を決して独占しなかった。他人の富のために自分の持てる力の全てを尽くし生きたのが渋沢栄一である。

その渋沢栄一の題材としたこの小説を、北海道日本ハムファイターズ・栗山英樹監督と球団へ贈呈させて頂いた。これは栗山監督が2014年入団の8選手など、選手達にに渋沢栄一の著書「論語と算盤(ろんごとそろばん)」をプレゼントするなど、渋沢栄一の考えを好んでいる点に共感したためだ。

栗山監督はまさに、渋沢栄一の考えを実践しているリーダーといえるだろう。渋沢栄一は利益を独占せず、他人の富のために自分の持てる力の全てを尽くしたが、栗山監督の、「人のために尽くしきれるか」を自ら問い、選手一人一人のことを考えチームワークを高めることに徹している姿勢は渋沢栄一と通ずる点であると感じる。これは是非直接、栗山監督に、渋沢栄一に対する考えについてお話を伺いたいと、キャンプ地・名護へ向かった。

選手に渋沢栄一『論語と算盤」を薦めていた栗山監督。渋沢栄一と栗山監督の共通点は?


まず、栗山監督はなぜ渋沢栄一に興味を持つようになったのだろうか。

栗山監督「経済界の様々な方々が、座右の書として渋沢栄一の『論語と算盤』を挙げていて、まずそのことが気になりました。何故なんだろうと。
人のために尽くすことと、お金を稼ぐことは一見対極にありそうじゃないですか。ただ野球だって、人間として成長しなければ野球選手としても絶対に成長出来ないと感じていたので、経営でもそれが両立出来るなら、スポーツでも絶対そうなのではと思わされました。」

渋沢栄一の著書『論語と算盤』を渡していた選手の一人が、大谷翔平選手。野手としても投手としても「二刀流」として、革新的に新しい道を切り開く様は、農民・商人・武士...様々な顔を持ち活躍していった渋沢栄一と重なる部分がある。そのため大谷選手が『論語と算盤』を読んでどんな印象を持ったのか、興味を持った。

栗山監督「実は感想についてなどは、あまり話をしていないです。選手に『論語と算盤』を渡しているのも、いつか座右の書を聞かれた時に残ってくれればいいな、こんな考えがあったなと思い出してくれると良いなという感じなので。(今すぐでなくても)これから分かってくれたら良い、と思っています。これまでで一番食らいついたのは(ベテランの田中)賢介です。ただ僕も現役の頃はさすがに渋沢栄一まで発想はありませんでしたが、監督をやっていなければ渋沢栄一の考えには行き着かなかったかなと思います。監督になってから、歴史系の本ばかり読んでいますよ。正しいことは普遍だなと。選手にもそのように思ってほしいですね。

渋沢栄一は最初農民でしたが、そこから生き方や発想が日々変化・進化していって、日本に多くの会社を作り、20代の若い頃からあれだけ世の中に尽くしたわけですよね。どういう発想で、そのような人間になっていったのかと思いますし、そんな選手を育ててみたいです。

高校生が八咫烏になって、現代からタイムスリップしちゃうというこの『渋沢栄一の経営教室 Sクラス』は、ひょっとしたらこれだったら選手達もわかるかもしれないな、と感じました。

渋沢栄一は愛情と厳しさ、情熱と知性を持ち合わせている点、様々なキャリアを積み視野が広い点など、数々の似ている部分があるように感じる。その中でも特に似ていると感じるのは、冒頭でもお伝えした通り、人に尽くすことが出来るという点だ。

栗山監督「(監督として何かを決めるとき)これはブレているのか、もしくは自分の考え方が進化しているということなのか、これはいつも悩むところなんですが、渋沢栄一も今までと180度違うような変化を度々してきたからこそ、色んなことが出来たと思います。その中で(変わらないのは)利益のために動かない、人のために尽くせたからこそ多くのことをやり遂げたのだと思います。また、世の中を変えてきた人の共通点はやはり自分だけのためではないということですよね。

我々が進むべき道を歩んでくれた人生の先輩がいたということは、僕にとっては非常に大きな影響を与えてくれましたし、論語で経営ができるなら、論語で野球ができるのではないかと思っています。『論語と算盤」に即しながら、これを野球に置き換えたらどうなるんだろうということは、よく考えています。

最初はみんな自分の為に野球をやるものですが、何かの拍子に、自分を離れて、家族のため、チームの為にやる…その成熟度によって、さらに周りが応援してくれるということになるのだと思います。」

『組織を生かす、一人を生かす、一人の人生を生かす』その為の中長期ビジョンに成功の鍵があると言われる北海道日本ハムファイターズ。栗山監督は私心を消し去り、選手や球団に尽し、トップを目指す。勝つためにはどうすべきか、その勝利は選手やその家族を幸せにしているのかを、日々自問しつつ指揮をとるリーダー姿は、渋沢がかつて創り上げようとした経営者像、企業の在り方に重なって見える。 

「二刀流」で活躍する大谷翔平に大きな注目が集まる中、栗山監督が論語の教えから導き出した、人間力・組織力が生み出すチームの「強さ」にも、今シーズンは注目したいと思う。

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