1. 「19歳はリフト券が無料」リクルートがゲレンデに仕掛けた企画がヒットした理由とは

「19歳はリフト券が無料」リクルートがゲレンデに仕掛けた企画がヒットした理由とは


 本格的なスキー・スノーボードシーズンを迎えている中、「19歳なら誰でもリフト券が無料」というシンプルな企画が年々その規模を広げている。リクルートが提供する、その名も「雪マジ!19」だ。 

 「雪マジ!19」は、冬季の山間地域を活性化することを目的に、2011年度にスタートしたプロジェクト。初年度にこのプロジェクトに参画したスキー場は全国で89か所だったが、4年目に当たる今年度は、スタート時点で初年度の約2倍の180か所のスキー場が参画している。また新規登録者数は初年度約4.9万人から昨年度には約15万人となり、19歳のうち、実に約10人に1人が利用したプロジェクトに育っている。

 「リフト券が無料」という、一見スキー場にとってはメリットが無いように思える企画だが、なぜここまで多くのスキー場が参画したのだろうか?

 企画を立案した観光に関する調査研究機関・リクルート じゃらんリサーチセンター主席研究員の加藤史子氏によると、スキー・スノーボード離れが顕著な若年層を取り込み、将来の利用者のすそ野を広げていくことの重要性が多くのスキー場に伝わったが挙げられるという。

 リフトを動かすための運用コストは、満席でもガラ空きでも大差がない。むしろ、「雪マジ!19」によって新たに増えたスキー客がスキー場関連施設にもたらす経済効果は大きいというメリットが、企画への参画を後押しした。

 しかし何よりも大きかったのは、当の19歳の間で、瞬く間に口コミが広がり、利用者の間で高く評価されたことだった。初年度の利用者からの高い評価により、「雪マジ!19」に対する業界の評価は一変したそうだ。

課題の当事者として、若年層を動かすことに徹底的にフォーカスする 



 最初、長野県からスノーエリアの活性化について相談された際は「スノーエリアはトレンドとして新鮮ではないからどうにもできない、という感じだった」と、リクルートが発行する『じゃらん』の営業を担当していた菅原隆氏はいう。

 実際、スキー・スノーボード人口は最盛期に比べて3分の1程度に減っている。よってゲレンデの半分以上が赤字経営だったのだ。

 「スノーエリアでは、ゲレンデを中心に宿泊施設やレンタルショップといった周辺産業が成立しています。冬場の雇用の受け皿としても、ゲレンデは欠かすことができません。『じゃらん』を通じて年間114万人を長野県に誘客している私たちとしては、短期的な集客に留まらない中長期的なスノーエリアの振興が必要だと考えました」(菅原氏)

 『じゃらん』では集客に焦点を絞った提案を行うため、観光地の中長期的な振興支援を目的とするリクルートのじゃらんリサーチセンターと協働で企画を詰めていったという。

 企画を進める中でターゲットとして着目したのはスノーアクティビティのエントリータイミングにあたる若年層だった。最初は「リフト券が無料」という業界の常識からすれば考えられない話に「リクルートは業界を破壊しようとしている」と、関係者からの強い風当たりがあったと話す。

 ゲレンデ経営者らの理解を得るために、時に厳しい言葉を浴びせられながらも業界関係者に向けて全国20ヶ所以上で「スキーエリア再活性化セミナー」を実施した。スノーアクティビティ未経験者に、無料であっても経験してもらう機会を提供する重要性を伝えていったという。

 「例えば無料ではなく半額にするという手もあります。でも、そもそも未経験者はリフト券代の相場も知らないから、半額といわれてもピンときません。『無料』という武器があって初めて動いてくれます」(加藤氏)

 加藤氏は、未経験者に「行ってみようか」と思わせるためにも重要な「無料」という点にこだわり、粘り強く地道に説得を続けていったそうだ。

2秒でシンプルに伝えられる企画にする


 企画の対象年齢を「19歳」に絞ったことにも理由があった。菅原氏にスノーエリアの課題について相談を持ち掛けられた加藤氏は市場調査を通じて、「特定の観光地にリピート訪問してもらうためには、18~24歳の間に初めて訪問してもらうことが重要」と気づいた。高校卒業後、社会人になる前のタイミング。時間はあるが、お金がない時期。そこにフォーカスしたのが「19歳」という年齢だった。 

 「彼らの生活圏は学年ごとの横のコミュニティーなのです。幼稚園くらいから始まり、クラス、ゼミ、サークル、アルバイトとどこにいっても触れる人達がほとんど同じ世代という中で、『19歳は今シーズン、どこ行ってもスキーが無料なんだって』と、2秒ほどで伝えられる内容にすることで、様々なコミュニティーで話題になります。サークルで話題になったことをまた別のグループで話題にする。そういう口コミで広まっていきました」(加藤氏)

 実際に「雪マジ!19」を知った人の95%は、他の誰かに伝えたという。約60%の利用者が1~6人に伝え、中には21人以上に伝えた利用者も5%ほどいたそうだ。

 「スノーアクティビティの場合、シーズン3回目までがリピート化のひとつの山だと言われています。「怖い」「痛い」といったネガティブな感情から、「楽しい」「爽快」といったポジティブな感情に変化するのが大体3回目頃からのようです。「雪マジ!19」でスキー場に行く利用者は、一人当たり延べ3.2回ほどスキー場に行っています。だから、19歳の1シーズン中に集中して行くことで、リピートの壁は越えられてるのかなぁ、と。ここが19歳を無料にすることの大事な部分です」(加藤氏)

 スノーエリアの中長期的な振興をはかるという観点から、追跡調査をしたところ「19歳」の利用者のうち92%が、翌年20歳になっても「有料」でスキー場に行く利用者になったという。

マーケットの不安・不満・不足……数ある「不」を企画の起点とする


 「若者のスキー離れ」をはじめとする「若者の○○離れ」と呼ばれる現象は世の中に数多く存在する。リクルートではこうした現象を「マーケットの『不』」と捉え、その「不」を解消することによって、社会に新しい機会を提供することをビジネスの基本としている。

 「今、全体的に『若者の○○離れ』と呼ばれる市場には『最初から楽しくはない』という部分で共通点があると思っています。スノーアクティビティをはじめとする、ハマるまでに慣れや学習が必要なことに対しては、経験する機会を大量に提供し、経験するためのハードルを下げてあげることが重要です。現在は、最初は『苦い』というイメージの強い『若者のビール離れ』や、『費用が高い』といったイメージの強い『若者のゴルフ離れ』など、マーケットに存在する様々な『不』の解消に取り組んでいます」(加藤氏)

 リピート化にとって重要な18~24歳の若年層に、まずは体験するきっかけ作りをしたい。それが将来の経済の活性化にも良いインパクトをもたらすと菅原氏と加藤氏は話す。今後、リクルートはそれぞれどんなマーケットの「不」に着目するのだろうか。次なる仕掛けに期待したい。



(提供:リクルート)

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