1. 「好きなことをビジネスにするのは危険」ーー 2020年に向けて、起業家は何を思う【後編】

「好きなことをビジネスにするのは危険」ーー 2020年に向けて、起業家は何を思う【後編】


 東京の地から世界を変えるスタートアップを輩出するプログラム「TOKYO START UP GATE WAY」のコンテスト部門における決勝大会「THE FINAL」が11月16日(日)に開催された。

 このイベントでは、448名のエントリー者の中から選抜されたファイナリスト10名がピッチを行ったほか、審査員や現役の起業家によるパネルディスカッションが行われた。ここでは、2名の起業家が語った、パネルディスカッションの内容をお伝えしていく。

前編はこちら

登壇者

freee株式会社 代表取締役 佐々木大輔氏
READYFOR株式会社 代表取締役 米良はるか氏

モデレーター

NPO法人ETIC 事業統括ディレクター 山内 幸治氏

見出し一覧

・ビジネスや事業が大きくなっていくイメージは全然なかった
・「特定の問題を解決したい」という思いが根底にあるべき
・インターネットやテクノロジーの可能性はここからスタートする
・好きなこと、興味のあることをビジネスにするのは危険
・2020年に向けて、起業家は何を思う?

ビジネスや事業が大きくなっていくイメージは全然なかった

山内:米良さん、立ち上げの時はどういった感じでしたか? 例えば、仲間をどうやって作ったかなど教えてください。

米良:私は事業を立ち上げた時、大学院の1年だったのですが、学生の時から先ほど話した荒井監督の資金集めの時の仲間や東大系のベンチャーにちょくちょく顔を出していたので東大のエンジニアが周りにいました。

 彼らに修士2年の秋くらいに、「あと少しで卒業だから、卒業までに何か一つ大きいことをやろうよ」というよく分からない誘い文句で誘ったら、すごく嫌な顔されたんですよ。でも最終的には、二人のエンジニアが卒業するまでの間、一緒にやってくれました。

 「READYFOR?」のサービスが開始したのは、3月29日なんですけど、その理由は彼らが卒業するから。もちろん、卒業した後に入ってくるエンジニアは決まっていたのですが、卒業する前に立ち上げなければいけないと。最終的にオチはあって、今年の春に最初に「READYFOR?」を作ったエンジニアは戻ってきました。

山内:一回卒業したけれど。

米良:卒業してDeNAで働いていたんですけど、戻ってきました。

山内:それは嬉しいですよね。

米良:嬉しかったですね。少しずつ成長させていたものを、最初に集まってくれた仲間がまた戻ってきて作ってくれるのは、一番嬉しかったですね。

山内:今、「READYFOR?」を使っての資金調達の金額がサービス開始から約3年半で10億ぐらい?

米良:そうですね。10億ぐらいですね。

山内:それってイメージしていたスピード感と比べると、どうなんですか?

米良:先ほども話をさせていただいたのですが、私は学生の時に始めたというのがあって、ビジネスや事業が大きくなっていくイメージが全然なかったんですね。どういうスピードで、誰がどういう風にやっていくか、それこそ起業家で言うとスティーブ・ジョブズなどは本当の天才。

 自分がそういうふうになれるとは全然思えないし、どういうスピード感でやっていくと事業が大きくなっていくのか、ということが見えてこない。いわゆる、エクセルを叩いて「毎月1.1倍で成長したら……」とかそういったことはやりましたけど、実際手を動かして実現していくのは自分やチームのメンバーなので、そういう感覚を掴むというのは最初全然できませんでした。

目指す理想像から逆算すると成長のスピードは遅い

米良:何をやってもなかなか数字が上がらないですし、このまま自分が信じることをやり続けていいのか、あるいは違うことをやらなければいけないのかという思いもあったので「ディシジョン(決定)」はすごく遅れていて、結構バタバタしながらやっていました。

 今はある程度ユーザー数も増え、プロジェクトを立ち上げてくれる人たちの幅も広がりを見せてきているので、そういう意味ではペースが少しずつ分かってきましたね。でも、私たちは「誰もがやりたいことを実行できる世の中」というのをミッションとして掲げているので、何か新しいことを始めたい、活動の幅を広げたいと思っている全ての人に使ってもらうという理想形から考えるとスピードはまだ遅いかなと思っています。

山内:そういう意味で、いつまでにこれぐらいの規模に持っていきたいなど、何か目標に置いているものってありますか?

米良:やっぱり、市場を作っていくのは難しいことだなと思っています。それこそ、後で話をするかもしれないんですけど、アントレプレナーシップが日本にはまだないという部分と、「READYFOR?」がやっているようなことって結構被る部分があるんですね。

 何かを始めると言った時でも、アメリカのクラウドファンディングのサービスなどは、本当にプレゼンテーションが上手で、自分がどういうビジョンを持ってやっているのかを語ることにすごく慣れている。それは別に起業家だけでなく、全体としてアメリカってそういう教育を受けてきていると思うんですね。

 一方、日本では急に自分で「こんなことやりたいんだよね」と言い始めたら、「どうしたの?」みたいな、「ちょっと恥ずかしいからやめてよ」と。そんな、思いはあるけどなかなか伝えられない人たちがたくさんいると思うので、そういう意味では事業的に数字を追いかけている部分はありますが、一歩踏み出す環境をどうやって作っていくか。

 それを「READYFOR?」だけではなく、こういったイベントに参加するような人たちの協力も得ながら、作っていくことかなと思いますね。

山内:ある意味、「ETIC」もそういったことをテーマにしながら20年間やらせていただいているんですけど、すごく問題意識は持ち続けていて、何がどういうふうに変わっていったのかは常に問答しています。なので、ぜひそのトピックについても後でお聞きできればと思います。

「特定の問題を解決したい」という思いが根底にあるべき

山内:お二人には、今回の「TOKYO START UP GATE WAY」にアイデアをブラッシュアップするためのメンター、講師として関わってもらったのですが、今回応募してきた人たちのプランなどを見た感想などを頂きたいです。

 また、最近のスタートアップの傾向、問題意識として持っているものなども、何かあればお伺いしたいです。

佐々木:こういうメンターみたいな形で参加し、相談に乗るといったことをやらせてもらったのですが、僕自身そういったプログラムを活用したわけではなかったんですね。なので、どういったニーズがあるのか分からず本当に手探りの状態だったので、難しかったなと思います。

 ただ、色んな人の話を聞いたり、今回決勝に残っている人たちを見たりすると、「こうした問題を解決したい!」っていう意識を強く持っている人っていうのは、こうした場に残るんだなと強く思いましたね。

 もちろん、「起業したい」という思いの中に様々なモチベーションがあるんですけど、何か自分が知っている問題を解決したいという思いにコミットしてやっている人は、周りの人を惹きつける力がある。また、考え方もはっきりしていて、「それを実現するにはどうすればいいか」をもとにしてビジネスプランを作っていけばいいので、色んなことをシンプルにしていくことが出来ると思うんですね。

 だから、「これかっこいいからやりたい」「これ儲かりそうだからやりたい」とかは、どこかで考え方がズレてきてしまうんですけど、特定の問題を解決したいと考えている人は、考えをまとめやすく、なおかつ人を惹きつける力があるなと感じました。

山内:人を惹きつける力って、今の時代にはすごく大事ですよね。お二人とも仲間を集める時、その思いが強かったからこそFacebookなどで人を惹きつけ、仲間を集めていくことができたんだと思います。

 そういった思いが強い人って、インターネットが発達する前の時代からそうだったのですが、改めて大事だなと感じました。米良さんは、いかがでしょうか?

インターネットやテクノロジーの可能性はここからスタートする


米良:私は、クラウドファンディングのセミナーを一度やらせていただいたのですが、3年半くらい前に、佐々木さんも登壇されたことのある「IVS」というテクノロジー系のベンチャーのイベントで、6分間ピッチをさせてもらったことがあるんですね。

 当時、私が大学院2年の時だったんですけど、初めて大学以外で話す場だったので、夜通しで準備したのをすごく覚えています。でも、あの時に自分も含めて発表したサービス・ビジネスプランよりもカテゴリーが広がってきているなと感じました。

 当時は、ソーシャルゲームが流行っていたのもあるのですが、結構インターネットの世界とリアルの世界を分けてビジネスを考える人が多かった。でも、今は「海外でこんな問題があって」というある種のイシューみたいなものがどんどん広がっている。

 もしくは、生活に根ざすような形、それにテクノロジーをどう導入させていくか、その中にインターネットがあったりスマホがあったりっていう、ある種のツールとイシューをきちんと国民に合わせて事業プランを立てている人たちがどんどん増えてきていると思います。

そういう意味では、インターネットやテクノロジーの可能性っていうのはここからスタートしていくのかなと思っています。

山内:その点、佐々木さんはどのように感じられていますか? ある種、ITベンチャーと社会起業の境界線がなくなってきたなという印象を持っているのですけど。

好きなこと、興味のあることをビジネスにするのは危険


佐々木:それはそうですね。インターネットっていうのは、昔はちょっと面白そうだなというのがバッとある感じだったんですけど、今はリアルな問題解決をするための一つのツールだよねって認識になってきたのかなと。

 あと、アメリカのトップVC(ベンチャーキャピタリスト)でインターネットブラウザを開発したマーク・アンドリーセンという人が最近強く主張しているのが「好きなことをやりなさい、自分が興味を持ったことをやりなさいっていうキャリアアドバイスは危険だ」っていう言葉がすごく好きですね。

 好きなことをやるのではなく、自分が何に対して貢献できるかを考えてビジネスを作った方がいい。その理由は、好きなことの方向性って結構決まってるんですね。例えば、サッカーが好き、野球が好き、音楽が好きといったように。

 けれども、その人の生まれ育った環境や属しているコミュニティーなど、それぞれが抱えている問題の組み合わせは、きっとすごくユニークで解決したいものの幅が広がったり、誰も目をつけていないような部分に目をつけられるようになる可能性があるっていう話をしていて、まさにその通りだなと思いました。

 そういったように、問題解決ベースで入っていくことによって、今までにはなかったビジネスの幅が広がっていくし、インターネットは楽しいものではなく単なるツールになるし、世の中が進化していくんじゃないかなと思うんですけどね。

2020年に向けて、起業家は何を思う?


山内:ありがとうございます。今日は、「日本が世界に誇るアントレプレナーシップ溢れる国になるためには?」という大きなテーマを頂いているんですけど、お二人がそれぞれやられている事業の領域、もっと広い視点からでも構わないのですが、どういった可能性を感じているのか、そのあたりの話をお願いしてもよろしいでしょうか?

米良:私は「READYFOR?」というプラットフォームを通じて、色んな人たちが何か始めたり、自分の活動を広げていったりするために使ってほしいと思っています。課題として、そういった人たちの潜在層に対してまだまだ広がってないと感じています。

 でも、2020年のように世界中の人たちが日本に注目するといった時、やはり日本から色んな活動がどんどん外に出ていく仕組みだったり、あるいはその仕組みの中で動き始める人たちが出てきたりして欲しいですね。

もっとカジュアルに一歩踏み出せる環境が作れれば

米良:私のミッションである全ての人たちが何か自分のやりたいことや、必要だと感じるものに向き合って一歩踏み出す社会を作っていくために「READYDFOR?」がどういうサービスになっていなければならないか。

 それを考えた時に、「会社」という箱を作ることによって色んな選択肢を自分から取っていける状況にできると思ったので、「READYFOR?」を独立させました。なので、「会社をやりたい」「起業したい」っていう思いは、あまり本質的ではないとすごく思っています。

 もっとカジュアルに何かを始めることが出来ればいいんじゃないかと思っていて、そういう意味では「READYFOR?」って法人格とかは一切問わない。サービスのユーザーで一番多いのは大企業で働きながら、休日に個人や任意団体などの色んな仲間と集まって教育系の何かをやっているといった人たちです。

 そういった人たちが一歩踏み出すことによって、「自分が思っていたほど上手くいってない」、あるいは「これってすごくニーズがあるから、もっと広げるために自分たちで本腰入れてやろう」みたいな決断ができると思っています。

 だから、会社を作ることが目的になるのではなく、自分がやりたいと思っていることを見つけられるような、そして見つけて一歩踏み出しやすいような環境を作っていきたいですね。

山内:ちょうど「READYFOR?」がサービスを開始した年っていうのは、3.11の東日本大震災と重なったということもあり、東北の人たちを支援するプロジェクトも多かったと思うんですね。震災があったから感じている可能性や変化って何かあったりしますか?

米良:3.11の前からサービスを立ち上げていたわけではないので、急激に変わったっていう数字的根拠はありません。でも、周りの人たちを見ていると、テレビで津波が来る映像を見て、自分たちの生活はいつ何が起こるか分からないということに気づく。

 それによって、一回きりの人生をどこに捧げていくのか、改めて自分と向き合うことができるようになった人はたくさんいると思います。震災のプロジェクトもすごくたくさんあって、最初はボランティア的な感じで被災地に行っていたものが多かったんですが、今はほとんど街づくりになっている。

 津波で大変だった街をどうやってリノベーション、新しい価値が出せるような場にしていくか、そういった関わり方をする人たちがどんどん増えてきたと思うので、自分自身と向き合う時間を持てたのが、震災を通して生まれたことだったと思います。

山内:街づくりのプロジェクトって、地元の人たちがやっているんですか?

米良:いや、地元の人たちだけでなく、それこそ東京の大企業で働いていたけれど、震災を目にして、組織の歯車として働くのではなく、もっと誰かに貢献できることをやっていきたいという思いに気づいて東北に行かれた人も多いです。

山内:ある意味、アントレプレナーシップや起業家精神って、「起業」ということだけにフォーカスされやすいですけど、もっと社会に対して当事者意識を持つことがカジュアルに広がっていけばいいんじゃないかと思ってるんですよね。佐々木さん、いかかがでしょうか?

「失敗を恐れない」カルチャーをもっと作り出していきたい

佐々木:僕は幾つかやっていかなければいけないなと思っていることがあるのですが、まず一つ目は起業する人がビジネスを立ち上げた後にしなければいけないことを簡単にする。例えば、ビジネスを始めた人が立ち上げた後、どれだけ自分のやりたいことにフォーカスできるのかはすごく重要だと思うんですよね。

 阻害要因っていうのはたくさんあって、例えば起業すると、まずは定款とかを作って、それを認証してもらうために公証役場に行かなければいけない。これは一応紙でやるんですけど、僕は紙でやるのは絶対嫌だったので、「データで出来ないですか」と聞いたら、一応そういう制度があるんですね。

 電子認証って言うのですが、「電子認証でやらせてください」って公証役場に電話すると、「ああ、そういう制度もあるんだけど止めた方がいいよ」っておじいちゃんに言われるんですよ。これでは、世の中が前に進まないのかなと思っています。

 これに限らず、行政に関する色んな手続きや経理などの手続き、プロセスもそうですけどビジネスを運営する中で大きな負担になることはたくさんあると思っていて、そうしたことを簡単にしていくことを社会全体として取り組んでいきたいなと。

 僕たちも、それはビジネスとして取り組んでいけるところでもあるので、何とかインパクトを残したい。2つ目が、失敗を恐れないカルチャーを作っていかなければいけないと思っている。

 僕たちの会社の場合、二人で立ち上げたのですけれど、立ち上げた直後に「一年経ってこれを続けていこうという自信が持てなかったらやめよう」という認識でやってたんですね。これって重要だなと思っていて、日本は会社を潰したらいけないという考え方がある。

 このモデルはもう回っていかないと分かっている中で、ちょっと別の事業をやってお金を回して、本当にやりたいことが段々できなくなっていく。でも生き残ってますみたいなやり方をするよりは、その後もう少し別の生き方をして、また挑戦しようといった考え方が広がっていくことで起業のハードルが下がっていくんじゃないかと。

 3つ目は、自分たちがやっている会社が良いスタートアップの例として、事例が出来ていくことが大事だなと思います。それはビジネスを通してなんですけど、例えばうちの会社ってカルチャーとして、毎日Tシャツを着てるんですね。普通にうちの会社のオフィスに来ても、2、3割くらいの社員はみんなTシャツを着てるんですよ。

 これって、アメリカとかに行くと当たり前なカルチャーなんですけど、日本だと「何かかっこ悪い」みたいな風潮があると思います。それを「かっこいい」と思える組織を作れたら、「スタートアップっていいよね」みたいな雰囲気を作っていけるんじゃないかと。そういう意味でも、色んな新しい象徴的なことに挑戦して、「起業っていいよね」と言ってもらえる世の中を自分たちの組織で少しでも実現していきたいなと思います。

「日本ってやっぱりテクノロジーの国だよね」って思ってもらいたい

山内:ありがとうございます。最後、佐々木さんに2020年に見てるビジョンみたいなものがあれば、その話を聞いて終わりにしたいと思います。

佐々木:2020年はオリンピックがあるので、外国人がたくさん来るだろうなと。そういった中で、例えばiPhoneが出た後にサンフランシスコに行くと、タクシーの運転手はみんなiPhoneを持ってるんですよ。タクシーの運転手が。

 あと、YouTubeがインドで盛り上がってきた頃にインドに行くと、タクシーの運転手がYouTubeで自分たちのことを宣伝してるんですよね。タージマハルに行くんだったら、俺のタクシーに乗ってくれというのをYouTubeに流して宣伝してたりする。

 そんな話で、単に海外に行って触れるものっていうのは、その国の印象に直結するほどの大きなインパクトを与えると思ってるんですね。だから2020年までに、小さな色んなビジネスをやっている人が新しいテクノロジーを活用して、「このやり方クールだね」といったことが世の中にたくさん出来てるといいなって思います。

 そんな中で、僕は会計ソフトというものをやっているんですけど、例えば会計ソフトも「インターネットを使えば、こんなによくなるよね」と皆が思っていれば、他のものにもインターネットなり、モバイル端末なりが活用したらよくなると思う人が増えると思う。そういった意味で「日本ってやっぱりテクノロジーの国だよね」って思ってもらえるような2020年を迎えられるようにしたら良いなと個人的には思っています。

山内:ありがとうございます。どうやったら日本に起業家精神、アントレプレナーシップが根付き、広がっていくのか。その中の一つとして挙げられるのが「多様性」。

 そういう意味で、起業のハードルを下げていけるか、失敗を恐れない環境を作っていけるのかという、まだまだやっていかなければいけないことはたくさんあると思いますが、我々も頑張っていこうと思います。どうもありがとうございました。

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