1. 「特大ホームランの番組作りにデータは必要ない」―TBSマーケターが語るこれからの「番宣」【後編】

「特大ホームランの番組作りにデータは必要ない」―TBSマーケターが語るこれからの「番宣」【後編】


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 引き続き、TBSのマーケティング戦略について、TBSのマーケティングディレクター・山本大平さんにお話をうかがっていく。

 後半では、これからの「番宣」はどうあるべきかという問題を熱く語っていただいた。

ーー今「番宣」というと思い浮かべるのは、CMや雑誌以外だと、番組の出演者の方が違う番組に出る「番組ジャック」を思い浮かべます。そういった形式から別の形式に移行していくとお考えですか?


山本:CMと番組ジャックは、番組を認知してもらえるという点で必要な手段ではあります。ただ、需要と供給のバランスでいうと、最近は供給過多。とはいえ、それをしないと番組の情報に触れる回数が圧倒的に少なくなってしまいます。だからCMと番組ジャックをやっているんですね。

 CMと番組ジャックは否定しないし、これからもやっていっていいと思う。やるべきだと思うけど、それだけじゃ足りないので、悩ましいところですね。やはりCMジャックはウザいですかね? これについては、一度意識調査をしてみたいですね。

ーー山本さんがテレビ局のマーケティングについて考えていらっしゃることをお聞かせください。



山本これは、僕なりの今のTBSに対する考えです。ものすごく基本的な概念ですが、マーケティングには4Pという切り口があります。プロダクト・プロモーション・プレイス・プライス、この4つに対してどうアクションを起こすか、それがマーケティングをする上での基本的な考え方です。

 それをテレビに当てはめると、テレビはBtoC(Business to Customerの略。企業が一般消費者に対して商品を販売する業態のこと)ですが、民放テレビでのプライスはお客さんにとってはタダ。プレイスは「どの時間に何を放送するのか」の時間枠。「編成」ですね。プロモーションは宣伝、プロダクトは番組をどう作っていくか。

 特に、プロダクトマーケティングについてですが、うちの番組は作品性や芸術性が強いので、そもそもデータで語れる領域はそんなにないと思うんです。つまり、TBSって作品性が評価されてきたテレビ局だと思っているので、データを使って「作品」を作ろうと考えている、または作れると思っている同僚がいたら、僕は真っ向から否定します。

 その根底には、TBSは本来飛び抜けた作品を産み出せるものづくりの会社だという思いがあるからです。というか、そういった作品力に圧倒されてTBSに転職したので。最近だと『半沢直樹』や『LEADERS』、また僕が好きだった『愛してると言ってくれ』も、データ云々の話ではない。


(※『愛していると言ってくれ』…1995年7月7日から9月22日に放送されたドラマ。聴覚に障害のある画家と女優の卵の2人が、様々な困難を乗り越えながら愛情を深める様子を描く。最高視聴率は28.1%。主演は豊川悦司と常盤貴子。主題歌はDREAMS COME TRUE『LOVE LOVE LOVE』)


 あと『SASUKE』もそう。『SASUKE』は世界150カ国で放送されているんです。アメリカではあの『24 -TWENTY FOUR-』の記録を抜いた番組。すごい番組は、データの中では異常値として表れます。

 だから、特大ホームランの番組作りにデータは必要ないと思っています。むしろジャマです。ただ視聴率を意識した瞬間に、それは「作品」ではなく「商品」となるので、「商品」として割り切る場合はデータが必要になります。

 なので、僕がTBSできること、つまりマーケティングスキルをフルに活かせる領域は作品を「売ること」と、スパッと割り切っています。ただ、情報番組については少し考え方は違って、「商品」の要素も多いと思うので、企画段階から登場したりもしますが。

 つまり、TBSには特大ホームランを打てるクリエイターがいて、あとはプロモーションマーケティングをしっかり行えば、TBSの一番いい形が築けるんじゃないかって単純にそう思っています。

 『SASUKE』も、去年何もしていないときは、見逃した視聴者がめちゃめちゃ多かった。それが今回、プロデューサーと共に戦略を立てて、「ゴールデンボンバーのドラム・樽美酒研二さんが『SASUKE』に挑戦」などのトピックを数多くネットニュースに取り上げていただいたことで、Twitterでの放送前日までの言及数は例年の2倍になっていました。これが入り視聴率につながり、最終的に若者への視聴訴求に繋がっています。


(※入り視聴率...番組が始まった瞬間の視聴率のこと。楽しみにしている番組は始まった瞬間から観られることが多いので、この数字が高いことは、事前に番組が放送されることが周知されいることの重要な指標の一つとなる。)


 そういった成功体験があるので、テイストマッチングを意識して情報を出しさえすれば、「絶対これはいける!」という確信があるんです。なのでTBSのマーケティングってこういうやり方が合うんじゃないかって思うんです。

 むしろ、番組制作、特にヒットじゃなくてホームランを打ちたい場合の番組の企画段階で、データを使ってどうのこうのとやるべきではないと思っています。

 これは会社でも意見が分かれているんですが、僕はそんなことをするからテレビはつまらなくなるし、特大ホームランが出なくなるし、あまりにも商品性を求める動きになれば、それこそいわゆる「テレビ離れ」に繋がっちゃうんじゃないかと感じます。

 だから僕は、特大ホームランを打つつもりでやっているクリエイターの方々が作った作品を信じて、それを最大限に売ることが自分の仕事だと思っていますし、「TBS
のテレビマーケティングの仕事」という概念にフィットすると考えています。すみません、話が長くなりましたね(笑)。

ーーいえ、熱のこもったお話をうかがえて、とても嬉しいです。


山本 :そういえば、ネットフリックスが作ったドラマが、エミー賞をとったことはご存じですか?

(※ネットフリックス……オンラインDVDレンタルサービスと、ドラマなどのストリーミング配信を手がけるアメリカの会社。)

ーー申し訳ありません。存じ上げないので教えていただけますか。


山本:ネットフリックスが作って配信したドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』がエミー賞を穫ったんです。このドラマは、データマイニングで、例えばこの俳優さんと女優さんを出せば売れる、という検証をして作ったと聞いたんです。


(※データマイニング……膨大に蓄積されたデータの中から、相関関係やパターンなどを探し出す技術のこと)


 時々、データで「作品」を作った一例として取り上げられるケースがあるんですけど、それって頭でっかちな意見だと思うんです

 そのドラマ、脚本自体がめちゃくちゃ面白いんですよ。データと脚本のどっちが評価されたかというと、僕は脚本だと思うんです。でも、「データ分析」って言葉が一人歩きしてしまっていて、とても残念に思います。

 あと、僕は間寛平さんが好きなんですが、「寛平さんのギャグの面白さをデータで説明しろ」と言われても誰もできないと思うんですよね。また、昔『トリビアの泉』で「笑いを研究している専門家が考えた一番面白いギャグ」を放送してたんですけど、結果はご想像通りでした。

ーーそれ、見ました。確か「真面目な番組で、青年が全裸で真面目なことを言う」というものだった記憶があります(笑)。


山本:あれは「笑いの専門家がギャグを作ったけど、面白くなかった」と分かって、それをフジテレビが流しているという構造が面白かったんです(笑)。

 ゴッホの「ひまわり」を見て、「ゴッホはなぜあの黄色を選んだのか?」と考えても、多分その時の気分なんですよね。その時の気分で「これがいい!」と思っただけですよ、きっと(笑)。しかもゴッホは亡くなってから有名になってますからね。それを考えると、作品って、そういうものなんでしょうね。

 なので、やはりテレビでプロダクトマーケティングをする際は、その番組の使命が「作品」なのか「商品」なのか、決めてから行うべきだと思っています。きっとTBSのドラマは「作品」としてお客さまに愛されてきたので、周りがデータでごちゃごちゃいうのはちょっと……。

 特に、視聴率が悪いと社内でそういう話が出ますが、視聴率は番組の内容だけでなく宣伝効果、裏番組の影響、天気などの複合要因で構成されるんです。だから、そういった作品の「内容」を視聴率分析しても無意味だし、僕は制作者が命をかけて作った番組を最大限多くの方に観ていただくことで、つまり「売る」方で自分のマーケティングスキルをフィットさせてければとマジで思います。

山本大平(やまもと・だいへい)氏 プロフィール

2004年、京都大学大学院を修了後、トヨタ自動車に入社。新規開発の技術者として、品質改善業務に従事。特にデータマイニングをコアスキルとし、お客さま目線を追求した品質改善を手がける。新車開発業務に従事したのち、マーケティングに携わる。
また、トヨタの多変量解析のプレゼン大会では、最高の栄誉である副社長表彰を受賞するなどの経歴を持つ。

2012年、TBSテレビに入社。編成局マーケティング部に配属。社内ベンチャー事業「Histrend」を立ち上げると同時に、ドラマ制作部で『LEADERS』のアシスタントプロデューサー(AP)を兼務。『ルーズヴェルト・ゲーム』『SASUKE』『ナイナイのお見合い大作戦!』など番組でお客さまの目線にこだわったPR戦略を立案するなど、マーケティングディレクターとして活躍している。

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