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【全文】「アルバイトから起業家へ」―決断のタイミングとは? 起業家が動き出したとき

野口直希

2014/11/12(最終更新日:2014/11/12)


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【全文】「アルバイトから起業家へ」―決断のタイミングとは? 起業家が動き出したとき 1番目の画像

 スタートアップとして新しい道を切り開きたいのなら、多くの困難を乗り越えなければいけません。立ちふさがる壁に戸惑う起業家、あるいはスタートアップにジョインしたいが躊躇している人達のために、2014年9月に開催されたのが「サーキュレーター・サミット2014」。今、最もアツい起業家達が集結し、スタートアップの心構えと強力なアドバイスを語ってくれました。

 今回のイベントでは、「ベンチャー失敗の本質とその乗り越え方」を主題にし、起業家たちが自らの足跡を振り返り、事業を始めたきっかけと資金調達について語りました。起業のきっかけと資金調達、どちらも重要なのが、絶妙なタイミングと行動力です。現在は順調に見える登壇者のみなさんも、失敗を繰り返し、そして乗り越えてきました。常に選択と挑戦を続ける彼らの頭の中は、一体どうなっているのでしょうか?

スピーカー

前田佳宏 Distty株式会社 代表取締役CEO
溝口勇児 株式会社FiNC 代表取締役CEO
山下智弘 株式会社リノベる 代表取締役社長
田口弦矢 人材コンサルタント
三木寛文 事業開発コンサルタント

モデレーター

森木恭平 株式会社サーキュレーション

見出し一覧

大手コンサルではやりたいことができなかった
仕組みを作るだけでは嫌になった
「IT×○○」の時代
人とものと金の掛け合わせ
着実にやれば成長できるのか?
日本の「思いやり」で世界と戦いたい

大手コンサルではやりたいことができなかった

【全文】「アルバイトから起業家へ」―決断のタイミングとは? 起業家が動き出したとき 2番目の画像

(写真 FiNC代表取締役CEO 溝口勇児氏)

溝口(FiNC):
 株式会社FiNCの溝口と申します。私の会社の設立は2012年4月です。社員が25人ぐらいと、アルバイトが15人ぐらいの会社でございます。専用のアプリケーションを介して、日本全国のダイエットをしたいユーザーと、専門家である栄養士やトレーナーをクラウドソーシングでつなぐ仕事をしています。アプリケーション上でマッチングして、2か月間ダイエットに導くといったサービスです。

 私は、もともと17歳の時からスポーツクラブでトレーナーをやっておりまして、プロ野球選手とかバスケットボール選手とか、経営者の方に指導することが多かった人間です。

 2012年4月に会社を作ったんですが、それは生まれてからちょうど10,000日ぐらいのときでした。私は、「人生は30,000日計画」を立てていたんですね。生まれてから10,000日目が27歳の時に訪れると知って、そこまでそれを転機にしようと思っていました。人生は30,000日で終わると言われているので、ならば10,000日を契機に、トレーナーを辞めて違うことをやろうと思っていました。そしてひょんなことから起業して、今に至っています。よろしくお願いします。

森木(サーキュレーション):
 お願いします。次は山下さん。

山下(リノベる):
 初めまして、山下と申します。僕はリノベるという、古い住宅を作り直して、もう一回流通させる会社をやっています。日本で家を買うとなると、10人のうち9人が新築を買うんですよね。中古を買うのは1人だけです。全体の13.5%という割合が、中古住宅の流通なんですね。欧米諸国などは全く逆で、9割が中古流通しています。私の前職は、新築マンションを建てる会社でした。たくさん家が余ってきているのが目に見えている。

 私がやっていたのは地上げみたいなもので、いきなり訪問して「おばちゃんどいてくれへん?」と言ってどいてもらって、大きなものを建てるというものです。それを続けるうちに、「家が余っているのに建てるのは、正しいことなのかな?」と。古いものを壊さずに、そのままもう一回使うことができれば有意義だと考えたんです。

 でも、古い建物なので中身はボロボロなんですよね。そのままじゃ住めないし、我慢するのも良くないじゃないですか。だったら、中身を自分好みにして、新築よりかっこよく作れば面白いんじゃないかなと考えました。

 私は、ラグビーを中学からずっとやっていて、高校、大学、社会人と全部ラグビー漬けだったんですね。わりと本気でやっていたつもりだったんですけど、1年で尻尾を巻いて社会人ラグビーは辞めちゃいました。

 挫折したころに、たまたま建築現場のバイトに入って、ゼネコンに入って、新築マンションを作ったんです。会社はやっと5期目ですが、人も増えて来て70人ほどです。次のステージに行こうかなというところですので、いろんなお話ができればと思っています。よろしくお願いします。

森木(サーキュレーション):
 お願いいたします。それでは前田さん、お願いします。

前田(Distty):
 Disttyの前田でございます。本日はよろしくお願いします。私共の会社は、大企業のニーズと中小企業のニーズをつなぐマッチングサービスを行っております。特にものづくりに特化しています。1年ぐらい日本の中小企業を歩いてみましたが、ほとんど情報が表に出てないんですよ。いわゆる非公開情報というのは、地元のコーディネーターが持っているんですね。

 いろんな商工会議所とか県の機関とか、あるいは市町村の機関とかを尋ねると、そこに中小企業と10年以上にわたって付き合いのあるコーディネーターがいらっしゃいます。彼らはそういった地場の中小企業とものすごく親密な関係があって、ネットには出ていない情報とか、普通に大企業のメーカーの方が電話しても出てこないような情報を持っているんです。

 非公開情報が多いので、なかなかウェブだけではものづくりのマッチングはできないと考えました。どうやってコーディネーターを軸にしてマッチングをするかを考え始めたのが、1年ぐらい前ですね。

 現在、日本全国に1200、1300名の中小企業を支援するコーディネーターをネットワーク化しています。彼らを軸に、いろんな要求に対して最適な中小企業を選ぶ事業です。今年の1月ぐらいから本格的に始めたんですが、だいたい80件やって、成功率は90%ぐらいです。

 私はもともと、野村総研でコンサルを6年半ぐらいやっていました。日本のものづくり産業を大きく変えたいと思って野村総研に入ったんですが、やっぱりピンポイントでしか支援できない。大きく仕組みを作るのは難しいなと考えて、自分でスピンアウトして大きな仕組みを作るために当社を始めました。

 この2年間で失敗をして、今ちょうど0から1に来たところですね。ここまでの苦労とか、どういった手段が良かったかなどをお話し出来ればと思います。よろしくお願いします。

仕組みを作るだけでは嫌になった

森木(サーキュレーション):
 よろしくお願いいたします。続いては、専門家の方です。田口さん。

田口(人材コンサルタント):
 田口と申します。独立をして人事領域のコンサルをやっています。もともとはインテリジェンスに新卒で入って、その後2003年にサイバーエージェントの新卒採用の責任者を担当し、9年後に独立しました。当時のサイバーエージェントは、160億くらいの売上でした。僕の社員番号は499番なんですけど、実際には120名だったと思います。そこから人事として働きました。当時は何も制度が整っていなくて、それをどうにかするために藤田さんに入れてもらいました。

 途中で辞めた理由は、ひとつのジャンルをずっとやってきたので、新しいことに挑戦したいと思ったというのが正直なところです。人事って結局、何でも屋さんになってしまうので。サイバーエージェントは子会社をたくさん立ち上げるので、子会社ごとに制度を作ったり、採用の仕組み作ったりしていました。それら子会社に全部行って、子会社の社長と話して、一個一個作っていて、折角なら子会社の事業を立て直してみたいなと思って、途中で子会社に行きました。

 サイバーエージェントの今の制度はわからないですが、外から見ると結構評価されていますが、入社当初は実際ボロボロだったし、うまくいかないことばっかりです。今は、うまくいったのだけが本に載っていますが、多くの失敗の上に成り立っています。そういう話が皆様の役に立てればな、と思っています。

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。よろしくお願いいたします。それでは最後、三木さんお願いします。

三木(事業開発コンサルタント):
 三木と申します。私は学生時代にバックパッカーだったこともありまして、最初はJTBという旅行会社に入りました。そこで法人営業をやっていましたが、もっと成長産業に行きたいと思って、2001年ぐらいからネット業界に入っています。その頃はまだ初期ネットバブルの余韻が多少残ってまして、ウェブサイト構築が数千万ぐらいで売れていました。

 そこからモバイル市場が立ち上がるきっかけとしてiモードができて、そこから少し経ったぐらいで、サイバードという会社に入りました。着メロとか待ち受けを作れば売れる時代で、市場が新たに創造され、急拡大していく現場を経験しました。その頃に携帯系で一通りのコンテンツホルダーと提携を経験しながら、2006年に当時20人のGREEにジョインしました。

 その頃、GREEはmixiにぼろ負けしていて、一か八かでモバイルに転換する頃でした。そんな時に経験者第一号ということでGREEに入りまして、そこから通信事業者との提携とか宣伝部の立ち上げ、GREEプラットホームの立ち上げ、それに中国事業の立ち上げなど、事業立ち上げを7、8年ぐらいで20回ぐらいやりました。

 こういったネット業界のいろんな荒波を見てきた中で、スタートアップがどのように事業を作るか、どのようにスピード感を持ってPDCAを回せる組織を作るか、自分がネット業界で見てきたことを還元する活動をやっています。今はベンチャーキャピタルやスタートアップに出資をしながら、個人として活動しています。

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。私はサーキュレーションのIT側の役員ですが、本日はモデレーターを務めます。よろしくお願いいたします。

「IT×○○」の時代

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(写真 Distty代表取締役CEO 前田佳宏氏)

森木(サーキュレーション):
 先ほど、自己紹介がてら皆さんの事業を話していただきました。まずは、皆さんが事業を思いついたきっかけ教えてください。

前田(Distty):
 私のLinkersは、9か月ぐらい前から本格的に始めたんですね。前職を卒業してDisttyを立ち上げた頃は、手っ取り早く成功したいと思っていました。ウェブ上ですべてを完結させたいと思っていたんですよ。

 まずは、日本の中小企業とか中堅企業の技術とか製品をウェブ上にオープンにしようということで、500社ぐらい中小企業をまわりました。その結果が、ほとんどの企業に「表に情報を出したくない」と言われました。「これだけにしてほしい」「9割がた出せない」というのが500社すべての回答でした。つまり、ものづくり産業ってウェブだけではマッチングがうまくいかないんですね。

 結局、その500社を紹介してもらったのは、いわゆる地元のコーディネーターだったんですよ。コーディネーターからはしょっちゅう、「なんでこの企業はこんな少ない情報しかオープンにしてないの? 本当はもっと面白いことをやっているよ」と何回も言われました。より人を軸にしないとうまくいかないというのが分かったのが、2013年の3月なんですね。そこからコーディネーターの数を1000人ぐらい増やしたのがLinkersです。

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。野村総研にいた頃から、「独立しよう」という思いはあったのですか?

前田(Distty):
 そうですね。入る前から結構、独立しようとは思っていたんですね。コンサルって案件数も多くないですし、ペーパーだけで終わってしまうケースが多いんですよ。実行するのは100倍ぐらい難しいと思います。そういった意味で、自分で仕組みを作るだけでなく、より実行ベースで日本のものづくり産業を変えたいと、そういう経緯がありますね。

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。今のお話で、日本はものづくり産業だとわかったと思うんですけど、そこにネットで切り込もうとする面白いスタートアップだとか、ものづくりマーケットはありますか?

三木(事業開発コンサルタント):
 投資側からいくと、去年ぐらいからベンチャーキャピタルが、既存産業をネットでどう変えるかを考えています。ここにいらっしゃる3社のような、フィットネスもしくはヘルスケア×ITとか、まさしくものづくり×IT、リノベーション×ITといった部分にも市場が拡大しているのは事実ですね。そういった市場は、ものによっては何兆円の規模がありますので、その何%かをスタートアップが取れるというのはずいぶん大きなものだと思いますね。

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。溝口さんは17歳からジムで働いていたとのことですが、どの時点でDNA、EC、流通といったネタを考えついたのですか?

溝口(FiNC):
 僕の課題意識は、今はヘルスケアに関わらず、あらゆる領域で商品、情報、サービスが蔓延しているということです。そのせいで、自分にとって何が合うかわからない。そんな中で、健康に関するキュレーションが何かを考えた。僕らはDNAとか血液の解析から始めて、そういった検査の結果に合わせたソリューションを提供したいと考えています。

 現在は商品、情報、サービスのどれも不誠実で無責任なものがほとんどです。それに振り回される人を少なくしたいというのが、スタートですね。

森木(サーキュレーション):
 トレーナー時代から尿検査とかはしてきたと思いますが、ビジネスに出来るんじゃないかと思われたのはいつごろですか?

溝口(FiNC):
 最初から、起業しても死なない自信はあったんですね。トレーナーをやったのは24歳ぐらいまでで、それ以降はヘルスケア企業とフィットネス企業の事業再生のコンサルをやっていました。

 なので、まず起業へのプレッシャーはゼロだったんですね。その中で、自分が実際にコンサルという形で独立するんだったら、今やっていることと変わらなかったら面白くないな、と思いました。どうせ事業をするなら、自分が一番になれる領域を狙いたい。自分が一番戦えそうな領域を選んだんです。

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。山下さんは、先ほどの自己紹介で土方のアルバイトをしていたという話がありました。日経のコラムも非常に反響が良く、武勇伝もたくさん出ています。いつか自分でやろうと思ったんでしょうか?

山下(リノベる):
 ちょうど日経オンラインにも書いたんですが、本当にラグビーしかしていなかったんです。自分のことを天才だと思っていたので。社会に入って1年で尻尾を巻いて、どうしようかなというところからスタートしました。

 家づくり事業は、現場の仕事が面白かったのがきっかけです。新築だけじゃなくてもっと方法があるかなとか思いながら、いろんな不動産屋や設計事務所に行って修行したんです。独立したような状態でいろんなところに行って、そのまま何となく起業しました。どうすれば成功するかは、何もわかっていませんでした。

 起業したての頃は、ラグビーの先輩と一緒に飲食店をやり始めたんですね。当時は韓国料理が流行っていたので、大当たりしました。18店舗ぐらいにワーッと膨れ上がりましたが、その後大失敗しまして。

 会社は、先輩と50%50%でやっていたんですよ。結局、お金の話でかなり揉めました。「お前と俺、どっちについてくるか、今から確かめに行こう」って社員に聞いたら、全員、どっちにもついてこずに辞められたんです。

 よく言われることですが、何をやるかよりも誰とどうやってやるかが大事だと思っています。人もそうですし、どんなバランスで資本を持ち寄るかもそうです。今の副社長は本当に大人で、僕と年は一緒ですが、「自分は社長には向いてない。僕は事業を引っ張っていくけど、株式は山下さんが持ってくれ」と言ってくれました。「その代わり、給料は一緒にしよう」と。そんな形でやっているので、とてもすっきりしていますね。その辺をいい加減にすると、あとから結構苦労するんじゃないでしょうか。

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。最近では、10年前、20年前の起業家とは質が違ってきたとよく言われます。そんな中で三木さんに、最近のスタートアップの道を少し教えて頂けないでしょうか。

三木(事業開発コンサルタント):
 一応、自分のことは投資家側ではなくて、起業家側だと思っています。最近はずいぶん環境がよくなっています。起業しようと思えば、誰でも出来るんですよね。起業家育成スクールはいっぱいありますし、チームを見つけることもできます。VCの数や金額がだんだん大きくなっていますし、国からの補助だってあります。そういう意味では、チャンスをつかむ可能性がすごく高くなっている。

 主に20代後半以上の方は、過去の業務経験から既存事業をよりよくするために起業される方が多いですが、最近は20代前半の大学生がベンチャーキャピタルのシェアオフィスへ行って、もしくはワーキングスペースで仲間見つけてそのまま起業するケースが多い気がします。

人とものと金の掛け合わせ

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森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。一回、事業の話に戻ります。投資について。事業提携の考え方、事業を仕掛けるタイミングも戦略の1つだと思います。そこで、資本構成ではなく、どういう瞬間に事業にドライブをかけるのかを聞きたいです。それと資金の調達についてもお願いします。

溝口(FiNC):
 事業は人、もの、金だと思いますが、我々の場合は人はいて、プロダクトもいけるだろうと思っていた。それでお金を集めた。けど実際は、優秀な人を採るためには、面白いプロダクトとお金がないといけない。一方で、面白いプロダクトがないとお金も集められない。鶏と卵みたいなことが常にスタートアップのベンチャーにはあります。

 それを超える力は絶対に必要です。パワープレイも全体としては必要なんですけど、僕らはたまたま人に関してはパワープレイで超えられた。それもあって比較的アーリーで価値を付けてもらって資金調達できたんです。

森木(サーキュレーション):
 この流れでDisttyさんに行きたいと思いますが、調達を2回も行っていますけど、この辺の考え方と合わせて少しいただいてもよろしいでしょうか?

前田(Distty):
 調達するタイミングは、もちろん成功事例ができてからです。けれど本当に基本的なお話をすると、全くの新しい市場に入り込んでいくのと、競合が存在する既存の事業は全く違うものだと思うんです。

 ゴールが一番の目標で、そのためにある問題がイシューだと思います。イシューを解決するための策がソリューションです。解決策をどう実行するかというオペレーションですね。競合がいる既存市場と、全く新しい暗闇の新市場とでは、ソリューション(S)とオペレーション(O)でやることは全然違うと思うんですね。

 例えば、どういった解決策、ソリューションを見つけるかは、競合がいないと1から考える必要があるんですよ。考えただけでは全く無意味だと思います。いかにオペレーションできるか。

 よく楽天の三木谷さんが右脳と左脳のキャッチボールだと言いますけど、Sは右脳、Oは左脳だと思っています。新しい市場ならいかにSを速いタイミングで繰り返すか。一方で既存市場なら、徹底的に競合のベンチマークをする。それをベースにすれば、ある程度動けると思うんですね。我々の事業は、全くのゼロベースで誰もやっていないので、S以上にOを重視しました。徹底的にOを重視して、時々Sに入って最後にO、というように。

森木(サーキュレーション):
 投資家も今のようなロジックで口説き落としているということですか?

前田(Distty):
 やっぱり熱意が重要だと思っています。特に我々のようなものづくり市場では、市役所などの年配の方が相手なんですよ。そこで山下さんの企業理念にもありましたが、感謝の気持ちが重要なんですよ。相手に動いてもらえるには、感謝の気持ちがすごく重要だと思います。私、この2年間で200通以上お礼状を書いているんです。

 話がいろいろ逸れて申し訳ないんですけど、もう一つ。関係者全員がメリットを感じられるという体制を築くことが、すごく重要だと思うんですね。感謝の気持ちと全員がWin-Winになるっていう。例えば5つのプレイヤーが参加して、1プレイヤーでもデメリットを感じる体制だったら、それは回らないと思いますね。

着実にやれば成長できるのか?

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。山下さんは全国展開を一気にされていますけど、事業を加速するときの判断軸と、あとはお金の考え方に関してお願いします。

山下(リノベる):
 僕たちは、不動産と建築というお互いに関係があるものを、ITを使ってより良くしていこうとしています。不動産会社ってあまりベンチャーでは生まれてないんですよ。やはり売買なので、大手が強いんですよね。大手が強くてなかなかベンチャーが入っていけないんです。

 それでも僕は、大手と喧嘩して、「よし、変えるぞ」ということはやりたくない。大手さんとも協力し合える方法で、どうやって商売できるかを考えています。新しいモデルなので、例えばお客様をウェブで集めて、ショールームを見せてみようということでさえも1つの仮説です。

 私たちは、1人1人によって違った家を作っています。普通なら「何LDKが欲しいですか」という質問をすると思うんですけど、僕たちは家をその方に合わせて作るサービスなので、そんな質問じゃ必要な答えは返ってこないんですよ。

 なので、「初めて買ったCDは何ですか?」とか「初恋の人ってどんな人でしたか?」と質問します。そんなことを聞きながら、その人にとって本当に必要な住宅をブレイクダウンしているんです。そうやって仮説を繰り返すと、ある程度は何が正しいか見えてくるんですね。それが分かれば後はアクセル踏むだけです。

 今はちょうどそのタイミングになってきたので、増員して、ショールームを全国に増やして、フランチャイズも始めています。調達については、数億円ぐらいかなってところですね。

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。三木さんに聞きたいんですが、今の事業を加速するタイミングとお金の関係性の昨今の流れを教えていただけますか?

三木(事業開発コンサルタント):
 お金は重要です。人を採るのもお金がなきゃできませんから。けれど、事業にはどうしてもアクセル踏まなきゃいけない時期があって、そういう時に人がいないとやっぱり事業は成長できません。サーバー買わないといろいろなアクセスが増えても耐えられないですよね。

 ただ、その時にアクセルを踏むことをためらう起業家とそうじゃない起業家がいます。前者の起業家はまずは着実にやっていこうというタイプです。それはそれで起業家の性格だし、必ずしもそれがNOではないと思うんです。けれど、二次関数的に利益が上がっているような会社は、踏み時を見越して、大型の資金調達をされてレバレッジをかけています。

 なので、大企業で働いていて今後成長する見込みがあるスタートアップに行きたいという方は、まずはちゃんと最初の資金調達ができているかどうかが、今後の選択の基準になるんじゃないかと思います。

日本の「思いやり」で世界と戦いたい

【全文】「アルバイトから起業家へ」―決断のタイミングとは? 起業家が動き出したとき 5番目の画像

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。ちょっと未来の話も少し入れて新規事業や連携など、未来の話を少しいただければなと思います。

山下(リノベる):
 僕たちは、今後もたくさんの会社とつながっていくと思います。けれど、それはどこでもいいわけじゃなくて、僕たちが大事にしているのは世界観がある会社なんですよね。それは大きい小さいとかはあまり関係なくて。世界観がある会社は、ファンがいる会社です。そういった会社と組むことによって、僕たちみたいなぽっと出の会社の情報をファンの方に届けることができます。

 新規事業については、僕たちの家の買い方だと、新築を買うのに今までの2/3くらいの金額に収めることができるんですよ。なので、そのあとにもっともっと楽しい暮らしをするためのサービスを届けようと思っています。

 例えば、青山フラワーマーケットさんとの提携はまさにそれで、お花や植物を日常的に購入する方って多くはないと思うんです。でも家を作る時にはライフスタイルを見直しますから、このタイミングで一緒に花や植物のある暮らしを提案していくと、きっと家ができてからの暮らしがより豊かになると思うんです。そんなサービスをたくさんやるつもりです。

 今後は、実は世界に出ていこうと思っていて、一発目の台北が今年末ぐらいに始まります。僕は、世界中の楽しいことぜんぶやってから死のうと決めているんです。バサーッて稼いで、仕事辞めて、遊ぶのも楽しいのかもしれませんけれども、僕は多分仕事してる方が絶対楽しいと思っています。

 安く作ることではなく、日本人が勝てるのは気づかいや思いやりです。家づくりはサービス業なので、そんなものをパッケージにして世界に届ける仕組みができれば、と思っています。

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。では、前田さんも未来の話を。

前田(Distty):
 2、3年以内に、日本ものづくり株式会社を作ろうと思っています。まずは、Linkersの今の仕組みを説明します。例えばある大企業が「こういった商品を作りたい。そのためにこういった条件でできる会社ありませんか?」と1200人のコーディネーターに投げかけると、50社ぐらいから反応があって、さらに条件を提示して20社、10社と絞り込んで、最終的に1社になるんですね。その1社っていうのは、ウェブでは引っかからないくらいの有力企業が出てきます。

 つまり、100案件あれば100社の有力企業が我々のデータベースに溜まっていきます。1000案件あれば1000社ぐらい、本当にウェブでは検索できないような有力企業が集まっているんですね。

 その1000社を束ねて、日本ものづくり株式会社を立ち上げるのです。将来的には8兆円、10兆円ぐらいの、ソニーとかパナソニックに匹敵するような本当に特殊なものづくりの会社を作ろうと思っています。その会社は、いわゆる小さい会社がたくさん集まっています。小さい会社の弱みは、ブランド力がないと売れない、物流チャネルがない、ファイナンスがない、などがあります。

 それを克服するために、政府系のファンドやファイナンス会社、あるいは大手商社と組んで大きな会社を立ち上げたいんです。それでものすごく大きなブランドを作って、世界に売り込んでいきたいんです。

森木(サーキュレーション):
 ありがとうございます。では、溝口さん、お伺いしてもよろしいでしょうか。

溝口(FiNC):
 ちょっと質問したいんですけど、健康寿命という言葉と、その定義を分かってらっしゃる方ってどれくらいいますか? 1人もいませんね。健康寿命は、すごく簡単に言うと、人の手を借りなければ生きられなくなってしまう年齢のことです。それが女性だと12年以上、男性だと9年以上あります。

 医者に人の死因を聞くと大抵、がんや心臓病や脳卒中だと言われます。ですけど、なんでがんや心臓病や脳卒中になるかというと、それには3つの原因があるんです。1つは孤独。人間はストレスに弱いです。寂しさから感じるストレスで免疫機能を低下させて、疾病リスクを得て、がんや心臓病や脳卒中になると。2つ目がたばこや酒と言われています。最後は運動不足や肥満です。

 たばこや酒は置いておいて、運動不足や肥満や孤独って、栄養に関する知識がないこととか、運動習慣がないことが原因なんです。もっといえば腰痛やひざ痛、疲れなどの体力の低下によって起きているんですね。

 結局、教育不足なんですよ。なぜ運動が必要なのか、どういう栄養をとればいいのかを知らない。みんな朝バナナみたいな、無責任というか不誠実な情報に振り回されている。判断基準がないからです。

 その対策として、検査を自宅で手軽に、しかも無料で受けられるようにしたい。いずれDNAや血液や尿などの検査サービスを1ドル、あるいは無料で配りたいですね。当時、Yahoo!がモデムを配りまくってインターネットを広げました。それをやりたいんです。そうなれば、自分の体質の健康や将来のリスクを分析した中で、自分で行動を取捨選択できます。そういう世界を作りたいと。

 日本は課題先進国と言われますが、その中でソリューションは1つも見つかっていないんですね。つまり、ソリューションを作れば世の中を変えられる。ですから僕は、こういった事業をやっていきたいと思っています。(続く)



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