1. 【全文】最新技術は10年前に予言済み―『FREE』クリス・アンダーソンの未来予想が完全に今だった

【全文】最新技術は10年前に予言済み―『FREE』クリス・アンダーソンの未来予想が完全に今だった

 私たちの世界は、10年前とは驚くほどに変わっています。テクノロジーがこれからどう変わっていくのかを予測するのが、クリス・アンダーソンです。今回紹介するのは、そんな彼が10年前に提唱したすべてのテクノロジーが辿る法則の話です。その中で例示される技術は、現代の私たちにはおなじみのものも多くあります。彼の10年前の予測が、いかに現在のわれわれを言い当てているか体感してください。

スピーカー

クリス・アンダーソン WIRED編集長(当時) 著書に『FREE』など

見出し一覧

・テクノロジーを予想するビジネス
・テクノロジーの予測で大切な「いつ」
・テクノロジーが浸透した先にあるのはコモディティ化
・限界価格を迎えつつあるテクノロジーたち
・「フリー」の時代の到来、そしてマーケットの激化へ

動画

テクノロジーを予想するビジネス

 今回話すのは、テクノロジーの動向についてです。私たちがテクノロジーの動向を追いかけるのには理由があります。まずWIREDは技術雑誌ですから、テクノロジーの動向を記事にしますし、情報も得ておく必要があります。

 月刊の雑誌でもありますから、未来のことを考なければなりません。長いリードタイムがあります。数ヶ月先の記事を考えなければならないのです。半年先に皆さんの関心がどこにあるか予想しなくてはなりません。雑誌とは、ある種の予想ビジネスなのです。

 また、製品を作り出すという点では他の会社と変わりがありません。テクノロジーの動向にそって製品を作ります。我々の製品はアイデアや情報、時にはエンターテイメントの場合もありますが、コンセプトは全く同じです。我々が理解すべきことはテクノロジーがなぜ重要なのか、どこへ向かうのかだけではありません。「いつ」がさらに重要なのです。タイミングが全てなのです。

テクノロジーの予測で大切な「いつ」

 景気の絶好期にあった1990年代の予測について考えてみると面白いでしょう。例えば電子商取引のトラフィック、ブロードバンド、採用、ネット広告等々。どれも考えは正しかったのです。しかし、「いつ」が間違っていました。どのテクノロジーも数年後に実現されました。しかし株式市場の評価における数年間の差異は誰の目にも明らかです。つまりタイミングが全てなのです。

 これはご覧になったことがあると思います。古典となったガートナーのハイプ曲線に見えますが、これはテクノロジーがそのライフスパンにおいて描く曲線です。試しにテクノロジーをいくつか重ねてみましょう。最初の高いピークを上っていたのか、あるいは失望の淵へ急降下するところだったのか、はたまた理解が広がって回復軌道に乗ろうとしていたのか等々。これはテクノロジーの盛衰の予測を行う手法の1つで、テクノロジーの現状を理解し次の変動を予測するためのものです。

 重要に思えるテクノロジーについては、こういった予測を行います。たいていは2度行いますね。最初の山は、テクノロジーに一番乗りしたいと思うマニアが評価してくれるからです。あるテクノロジーが誕生したところでキャッチするわけです。1997年にはLinuxを表紙にしました。そして再び戻ってきました。Linuxの存在はますます大きくなり、今や主流になろうとしています。Linuxブームは爆発寸前です。Linuxをもう一度取り上げるべきときが来たのです。それは去年のことでした。こうした考え方でテクノロジーの動向について把握しようとしています。

 ではテクノロジーの動向に関する考え方について話しましょう。私が未来予測の大統一理論と呼んでいるものです。本当は未来予測の「小さな」統一理論と呼ぶべきかもしれません。

 これはある推定、または観察結果に基づく理論です。重要なテクノロジーはすべてこの4つの段階の少なくとも一つ、あるいは4段階すべてを経て成長するという推定に基づきます。そしてそれぞれの段階で衝突が起こります。なにか他のテクノロジーと衝突するわけです。例えば限界価格のラインがそうです。テクノロジーとテクノロジーが、世界に及ぼす影響を変えてしまいます。これが変曲点です。この変曲点によってテクノロジーが向かえる未来を知ることができるのです。あたなが取るべき行動も知ることができるかもしれません。

 まずは、限界価格。テクノロジーの進歩における第一段階は、限界価格を下回ることにあります。限界価格を下回ればそのテクノロジーは第二段階である臨界質量に達し、市場に浸透するかもしれません。この時点で多くのテクノロジーが、別のテクノロジーの代替となります。これが第三段階です。そして最終段階として、多くのテクノロジーがコモディティ化します。寿命の終わりが近づくに従って、無料に近づきます。

 これらのポイントこそ、なにかを行うチャンスです。テクノロジーに変革をおこすならここです。分かりやすいように、最初のWi-Fiブームについて考えてみましょう。Wi-Fiは限界価格になり臨界質量に達しました。しかし、まだ代替とはなっておらず無料でもありません。つまり、まだチャンスは残っているというわけです。

テクノロジーが浸透した先にあるのはコモディティ化

 私がお伝えしたいことをDVDの話で考えてみましょう。DVD技術は全ての段階を経たテクノロジーです。DVDプレーヤーが1990年代の半ばに登場したのはご存じの通りです。当時は非常に高価でした。しかし、1998年には400ドル以下になりました。400ドルは心理的な分岐点です。そして、販売台数が上昇し始めました。見えない変曲点を経て上昇が始まったのです。

 そして一年後、臨界質量に到達しました。家庭用品では20パーセントが一般的な限界質量とされています。同時期に上昇を始めた商品が他にもあることを知っていますか?それはホームシアターです。DVDは、大型のスクリーンやドルビーの5.1チャンネルサラウンドを購入する契機になりました。機材を一式そろえてエンターテイメント機器とつなげる理由になったのかもしれません。ネットフリックス(Netflix。アメリカのDVDレンタル会社)が1999年に創設されたというのも興味深い点です。リード・ヘイスティングス(ネットフリックス創業者)は時機を捉えました。そこが変曲点であり、何かができるに違いないと考えたのです。

 DVDが次に達した段階は「代替」でした。2001年頃にDVDがVHSの販売を追い越しましたが、ここで世界にどういう事が起こったのかお分かりいただけると思います。ネットフリックスはそのビジネスモデルで大きな利益を得ました。それは、レンタルビデオ業界ではできなかった方法です。DVDには様々な利点があります。メディアが小さく封筒に入れて安く送れるという点もそうです。こういった利点はテクノロジーが進歩するまで、だれもその存在に気づかなかったのです。

 そして、最終的にDVDは無料に近づいています。Apexという無名ブランドの中国企業が、何度か米国のDVDプレーヤー販売で一位になりました。昨年の平均価格は48ドルです。DVD技術が安くなっているのは疑いようがありません。

 さらによく見ると、DVDが安くなるにつれてソニーなどのプレミアブランドがマーケットシェアを失っていることに気づくでしょう。Apexeなどの無名ブランドがシェアを奪っているのです。DVDはすっかりコモディティ化されました。これがゼロに近づく時に起こることです。ビジネス環境は厳しくなります(笑)。

限界価格を迎えつつあるテクノロジーたち


 DVDはテクノロジーがたどる4つの段階を経験しました。それでは、さらに別のテクノロジーについてもお話しましょう。我々のレーダーが捉えたテクノロジーです。同じ考え方をしましょう。この4つの段階の考え方でテクノロジーがそれぞれ開発のどの段階にあるか考えたいと思います。トップ10に入るテクノロジーである必要はありません。それぞれの段階にあるテクノロジーの例としてお話しするだけなのですから。しかしこういったテクノロジーが交差点に近づいていることについては考えるに値します。

 まず遺伝子配列解明技術について。ご存じのように遺伝子配列解明はそのほとんどがコンピュータで可能になり、価格が下落しています。ムーアの法則と同じ状況です。「年末には4000万ドルでヒトの遺伝子配列を解析できるようになる」とクレイグベンター博士(アメリカを代表する分子生物学者)なら言ったに違いありません。遺伝子配列の解析には、数年前には数十億ドルが必要だったのです。創造のツールを理解する力はますます高まっています。

 さらにおもしろいことに、発見される遺伝子の数も非常な速度で増えているそうです。きっと、どの遺伝子に対しても診断テストが可能になる日も遠くありません。将来希望すれば、何十万という遺伝子のテストを受けられる日が来るかもしれません。非常に安い値段で、自身のモザイクについても調べることができるのです。

 限界価格に近づくテクノロジーがもう一つ。WHOの調査によればジェネリック薬品が、抗レトロウイルス薬の混合薬およびカクテル療法での使用で効果を示したそうです。2000年1月時点では、その価格は1万ドルでした。一日27ドルです。ジェネリックが登場したのはたしかブラジルあたりですが、今では一日50セント以下になりました。

 この価格弾力性から、2つの関連性について考えてください。抗レトロウイルス薬の値段が下がれば、治療できる患者の数は劇的に増加します。クリントン財団とWHOは2005年までに世界で300万人を治療できるとしています。内200万人がサハラ以南のアフリカです。これには薬価の下落が多いに貢献するでしょう。

 Linuxも良い例です。Linuxは限界質量を超えました。こういったテクノロジーが限界質量を超えようとしています。Linuxを赤で示していますが、20パーセントに達しています。面白いことに以前にも交差点がありました。


 しかし、その交差点ではなく考えるべき交差点はこの青い線との関連です。線が向かっている方向をよく見てください。20パーセントに達したところでその扱われ方が変わりました。この時点でLinuxは、オタクだけのものではなくなったのです。

 最近の例としては、ハイブリッドカーがあります。プリウス2004を運転されたことはありますか?あれはすばらしい車です。この傾向をご覧になれば、2008年頃までにプリウスが自動車売り上げの2%を占めることは奇妙な予測だとは思いません。20パーセントではありません。あくまで2%です。しかし自動車産業という動きが鈍く強大な産業での話です。近いうち、あちこちでプリウスを見かけるようになるでしょう。

 ハイブリッド市場が活発になることは、電気モーターが自動車産業に持ち込まれたことを意味します。それは、自動車産業100年において初めての劇的変化です。電気モーターが使えるようになれば多くのことが可能になるでしょう。車の構造を思うがままに変えることができるのです。自動車が全く新しい世紀を迎えることになるかもしれないということです。

「フリー」の時代の到来、そしてマーケットの激化へ

 Voice Over IPテクノロジーも突然現れたものです。今のところ使い勝手はよくありませんが、Kazaaの創業者たちが作ったSkypeという会社があります。この数をみてください。彼らがビジネスを立ち上げたのは去年の8月でしたが、登録ユーザ数は400万に達しようとしています。これは限界質量です。

 これを受けて、キャリアの側でも変化が起ころうとしています。過去に存在した電気通信規格のいくつかがIPに置き換えられたのです。ティッピングポイントです。マルコムの方には申し訳ありませんが、これは経済スピード業界のプレーヤーをも変えてしまうかもしれません。こういうことになる可能性は十分にあるのです。

 そして最後にフリーについてです。フリーはデジタル化とともに到来します。なぜなら、その再生産に要するコストは実質的にフリー(無料)となるからです。IPの効率の良いプロトコル、そして光ファイバーの広大なバンド幅によってフリーをもたらします。フリーはシリコンバレーから世界への贈り物です。経済的にも技術的にも偉大なものではありますが、正しく扱わなければデフレ圧力となります。フリーは無尽蔵にあるもので、希少性とは対極にあります。これは今、最も興味深いテーマです。

 ハードディスクの容量は圧倒的に増えています。2008年には、今までに作られた全ての曲が400ドルのディスクに格納できるようになっているかもしれません。音楽から物理的な制約が取り除かれるのです。このことが分かれば、音楽産業が崩壊しようとしていることがお分かりいただけるでしょう。これは正に今起こっていることです。ハリウッドもこの未曽有の事態に立ち向かおうとしていますが、それでも必ずこの状況から抜け出せるとは限らないのです。

 最後にもう一つだけ、フリーの例をお見せしましょう。おそらく最も強力なフリーです。フリーは「あり余るということ」によって生まれます。資料によると、インドでの通話料は1990年には一分あたり2ドル以上していました。米国同様、インドでも電話システムに規制があったのです。しかし、光ファイバーがどこでも利用できるようになったのです。それによって価格は急速に下落しました。なんと、多くの場合一分あたり7セントです。

 インドへの電話の格安化がもたらしたのは、アウトソーシングです。これこそがグローバル化の中の変化でも劇的なものでしょう。そして今日の世界に存在する経済ツールの中でも最も強力なものだと思います。インドや中国、そしてその他の国々の多くの企業が我々のマーケットに参入し、国内の企業と仕事をすることになるでしょう。フリーの世界はまだ始まったばかりです。おそらくこれは、今日のテクノロジーの動向において最も重要なものといえるでしょう。ありがとうございました。

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