1. 【全文】イノヴェイション大国・インド:Googleに匹敵するインド発「見えないイノヴェイション」

【全文】イノヴェイション大国・インド:Googleに匹敵するインド発「見えないイノヴェイション」

 現在、世界で2番目に人口が多い国インド。インドでは、多くの企業のビジネスを手助けするような、いわゆる「オフショアリング」と呼ばれる業務委託の請負が行われています。今後も更なる発展が見込まれるインドですが、アメリカのシリコンバレーのような、革命的なイノヴェイションを起こすことはできるのでしょうか?

 「実は、革新的なイノヴェイションはもうインドで起きている」とロンドンビジネススクールの教授であり、「世界で最も影響力がある50人の教授」にも選ばれたニラマルヤ・クマー氏は語ります。果たして、インドで起きているイノヴェイションとはどのようなものなのでしょうか?ここでは、クマー氏のTEDでの講演「インドの目に見えないイノベーション」を書き起こします。

スピーカー

ニラマルヤ・クマー / ロンドンビジネススクール 教授

見出し一覧

・「インドではイノヴェイションが起きない」という幻想
・インドで起きているのは「見えないイノヴェイション」だった
・インド発、4つの「見えないイノヴェイション」
・「見えないイノヴェイション」が示す、ビジネスの3つのポイント

動画

「インドではイノヴェイションが起きない」という幻想

 20年あまりで、インドはソフトウェア開発やバックオフィスサービスのオフショアリング(海外への業務委託)における世界の中心地となりました。インドでオフショアリングという巨大産業が開花したこの20年の間に、先進国からインドに向けてホワイトカラーの仕事が次々と流入しました。また、他国から中国へ膨大な量の製造業も流出しました。西欧諸国の労働者の苦悩は図り知れません。

 統計を見てみると、西欧での自由貿易を支持する人の数は減少傾向にあります。しかし、西欧のエリートたちによると、自由貿易への不安は検討違いだそうです。例えば、トーマス・フリードマン(ジャーナリスト)は「フラット化する世界」という本の中で、「基本的に、自由貿易への心配は間違いだ」と説きました。「自由貿易への心配は、発明可能なものがすでに出尽くしてしまったという誤った仮定に基づいている。イノヴェイションがある限り、途上国が西欧に追いつくことはない」と彼は言っています。「先進国は知的で革新的なビジネスを行うのに対して、途上国のビジネスは頭を使わないような単純労働ばかりだ」と言うのです。

インドで起きているのは「見えないイノヴェイション」だった

 さて、考えたいのは「この主張は正しいのか?」ということです。ソフトフェア開発やバックオフィスサービスの世界的な中心となったインドは、同じようにイノヴェイションの中心になれるでしょうか?私は、共に「India Inside」という本を書いたファニッシュ・プラマンと、この疑問について4年間にわたって調査を行いました。西欧のイノヴェイションモデルを支持する人々は、この調査のことを知ると、すぐに「インド産のGoogleやiPodはどこにあるんだ?インド人はとても頭がいいんだろう?」と言います(笑)。

 調査を始めた当初は、企業の取締役に質問をしていました。「インドは海外の仕事を受託する中心地からイノヴェイションの中心地に変わることができると思いますか?」と聞くと、彼らは笑って片付けました。「インド人はイノヴェイションなんかしないんです。インド人は、プログラミングや会計は得意だけど、創造性は欠けているのかもしれませんね」という回答が返ってきました。

 あるとき、「イノヴェイションが起きにくいのはインド人の素質の問題ではなくて、厳しく統制・規制された教育制度の問題なんだ。インドの教育は創造力を殺すように出来ている。真の創造力が見たいならシリコンバレーに行って、GoogleやMicrosoft、Intelを見るといい」と博識ぶって言われることがありました。その話を受け、私達はシリコンバレーの研究開発ラボの調査をすることにしました。面白いことに、調べてみるとイノヴェイションラボやR&Dセンターの所長はほとんどインド人なのです(笑)。

 シリコンバレーで所長を務めるインド人に、「教育はインドで受けていないですよね?大学はアメリカですよね?」と尋ねましたが、全員がインドの教育を受けていました。どうやら調査する対象が間違っていたようです。インドにいるインド人が、イノヴェイティブなことが出来るのかを解明すべきだったのです。

 そこでインド中を回りました。都市部に行っては企業のイノヴェイションレベルについて調査を行いました。調査が進むにつれ、西欧のイノヴェイションモデルを支持する人々が的外れな質問をしていることがはっきりしました。「インド産のGoogleやiPodはどこか?」という質問は、ユーザーの目に見えるイノヴェイションしか捉えていなかったのです。

 有名な経済学者であるシュンペーターは、「イノヴェイションとは価値を創造し、届ける新たな手法のことである」と言っています。製品やサービスだけでなく、新たな製造方法や企業の新たな管理体制もイノヴェイションに含まれるということです。

 ユーザーが対象のイノヴェイションだけに制限する理由はどこにもありません。イノヴェイションを広い視野で見てみると、インドにもイノヴェイションは十分に見られるということがわかりましたが、インドで起きているイノヴェイションは私たちの予測とは異なっていることが分かりました。インドで起きているのは、「見えないイノヴェイション」です。このインドの見えないイノヴェイションは、4つに分類できます。

インド発、4つの「見えないイノヴェイション」

 1つ目は、私たちが「顧客企業のためのイノヴェイション」と呼んでいる多国籍企業が、イノヴェイションを牽引するタイプのものです。インドには、20年間のうちに多国籍企業によって、750ものR&Dセンターが設置され、40万人超の専門職労働者が雇われています。多国籍企業のR&Dセンターは、常に本社や本国に構えることが基本とされていました。このことを考えると、インド国内に多国籍企業のR&Dセンターが750もあること自体が本当に驚くべきことなんですね。

 イノヴェイションセンターに行って何を扱っているのか聞いてみると、「全世界向けの商品だよ」と答えが返ってきました。以前のインドのR&Dセンターは、主にローカライズされた商品を開発してきましたが、現在は世界向けの商品の開発研究を行っています。

 Microsoft、Googleのような多国籍企業が、インドの都市にあるR&Dセンターから世界に向けて商品サービスを提供できるのかという質問に対しては、「Yes」という答えが正しいでしょう。しかし、商品開発がインドで行われているということは、商品を使うユーザーには分からないことです。商品に表示されるのは、開発場所ではなく企業の名前だけですから。

 「インドとアメリカのR&Dセンターでは、産み出すものの部類が違う」と企業は主張しています。そこで先ほども登場したプラマンが、アメリカとインドのR&Dセンターで開発された商品を調べることにしました。彼は、アメリカとインドにR&Dセンターを構えている企業に目を付けました。そして、アメリカで申請された特許と、インドで申請された似た特許の比較を行いました。つまり、インドとアメリカにR&Dセンターを持つ同一の企業が申請した特許を比較することで、インドとアメリカそれぞれのR&Dセンターから誕生した特許の質を比較検討することに試みたのです。

 特許の質の分析には、「被引用数」というものを使いました。被引用数とは、新しい特許が既存の特許を引用した数を示します。被引用数を調べていくと、とても興味深い発見がありました。同じ企業がアメリカとインドで申請した特許の被引用数の数値は、全く同じだったのです。つまり、アメリカとインドで特許の質が違うということはなかったのです。これがインドの見えないイノヴェイションの一つです。

 2つ目の見えないイノヴェイションは、インド企業へのアウトソーシングにおけるイノヴェイションです。今では、多くの企業が製品の開発部門の大部分をインドの企業にアウトソーシングし、そこから世界中の市場に向けて製品を販売しています。例えば、製薬業界では様々な化合物が開発されていますが、作業の大部分はインドで行われています。また、XCL Technologies(ITコンサルティング企業)も「ボーイング787ドリームライナー」という飛行機に不可欠なシステムのうち、2つをインドで開発しています。1つは空中での衝突を避けるためのもの、もう1つは視界ゼロの状態での着陸を可能にするものです。ボーイング787に乗ったとしても、システムがインドで開発された見えないイノヴェイションだとは気付かないですよね。

 3つ目の見えないイノヴェイションは、「プロセスイノヴェイション」と呼んでいるものです。プロセスイノヴェイションとは、インド企業による「知の投入」のことを指します。プロセスイノヴェイションは、製品のイノヴェイションとは違います。プロセスイノヴェイションは新たな製品へのデザインの手法であったり、開発方法や製造方法に関する革新であって、新たな製品自体ではないのです。

 何百人もの若者がコールセンターの仕事を夢見るのは、世界を見てもインドだけでしょう。なぜ若者はコールセンターの職を志すのでしょうか?西欧では、コールセンターの仕事というと、つまらない仕事だと思われています。もし、インドのように若くて優秀で志の高い人材をコールセンターに数十万人も入れたらどうなるでしょうか?すぐさまコールセンターの仕事に飽きて、イノヴェイションを始めるでしょう。上司に作業の改善策を提案し、プロセスイノヴェイションが起き、世界に出回るような製品の革新も起こります。

 24/7 Customerという会社は、一昔前まではどこにでもあるコールセンター企業でした。しかし、最近では分析ツールによる予測モデルを開発し、電話を取る前に電話の内容をあらかじめ予想することを可能にしています。電話の内容の予想を可能にしたのは、西欧ではもはや古いと考えられていた業務プロセスへの知の投入です。

 そして最後の4つ目の見えないイノヴェイションは、「マネジメントイノヴェイション」と呼んでいるものです。これは新しい製品や手法ではなく、新しい組織管理の形です。インド発のマネジメントイノヴェイションの中でも最も影響力のあるものを、私たちの間では「グローバル・デリバリーモデル(GDM)」と呼んでいます。GDMにより、一箇所に集中していたタスクの分割や分業が可能となり、技術やコスト面で有利な場所に作業を割り当て、作業終了後に任意の方法で再統合することが可能になりました。GDMがなければ、その他の見えないイノヴェイションは誕生しなかったでしょう。

「見えないイノヴェイション」が示す、ビジネスの3つのポイント

 私たちの研究結果で分かったことは、ユーザー向けの製品やサービスがイノヴェイションの氷山の一角だとしたら、インドは海面の下で見えない氷山の大半の部分を占めているということです。

 これは様々なことを意味します。インドのイノヴェイションに関する研究調査から、ポイントを3つにまとめました。1つ目は「沈んでいくスキルの階段」と呼べるものです。話は冒頭の雇用の流出に戻ります。さて、多国籍企業がアウトソーシングをインドで行うと決定して、まず初めにすることは最も単純な作業レベルの最下層にある業務をインドに移すことです。

 最下層の業務をインドのR&Dセンターにアウトソーシングしてしばらくすると、ある問題が生じます。1つ上の層の業務を行っている人を社内のどこに置くかを考えなければなりません。ここでの選択肢は2つあります。インド人を西欧に引き抜くという選択がまずあるでしょう。つまり移住ですね。もしくは、下の業務をする中でステップアップを望む人はインドに多くいますから、業務をまるごとインドに移してみてはどうでしょうか?最下層の業務を一旦アウトソースすると、徐々に業務のレベルが上がっていきます。つまり最も単純な作業をアウトソースすると、時を経て自動的にステップアップしていくのです。

 2つ目は、「トップ・マネジメント・チームの肌の色の変化」です。R&Dセンターの優秀な人材や大規模な市場の成長の拠点がインドや中国に移れば、将来の企業幹部はインドや中国から出ることになります。多くの企業はこの問題に対処しなければなりません。この2ヶ国は製品や市場におけるリーダーだからです。

 最後の3つ目にあたるポイントは、この一連の話には先進国への警告が含まれているということです。インドの増加する人口は、世界のどの国よりも若いのです。この若者層の厚さには有利な点もありますが、単純に質の良い労働力が増えるわけではありません。インドの学校や教育システムは、イノヴェイションの原動力を維持していくための高い品質の教育を十分に提供することができていないのです。企業側も教育の問題にイノヴェイションで立ち向かいますが、最終的に矛先が向くのは今日の教育構造を作り上げてきたインド政府ということになるでしょう。

 最後にある企業の数値を紹介しましょう。その企業とはIBMです。ご存じの通り、IBMは最も革新的な企業の一つと考えられていました。歴史上の特許を全てを見てみても、アメリカの民間企業が申請した特許数のトップ3には入るでしょう。
 それでは、ここ10年間のIBMの従業員数の推移をご紹介しましょう。2003年の時点で従業員の総数は31万人でした。そのうち、アメリカにいるのが13万5000人でインドは9000人でした。そして、2009年には従業員数は40万人を記録しました。その中で、アメリカ国内では10万5000人に減り、インド国内の数値は10万人に増えました。

 2010年以降、IBMは数値を公表しなくなったので、出回ってる情報を元に推測で数値を求めました。この数値が正確かどうか分かりませんが、概要はつかんで頂けるでしょう。現在のIBMの従業員数は世界全体で43万3千人です。アメリカにいるのは10万人弱で、インドの従業員数はなんと15万人もいるのです。IBMはアメリカの企業なのでしょうか?それともインドの企業でしょうか?(笑)。

 ご静聴ありがとうございました。

U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう
この記事を報告する