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【全文】「機械の発展は“絶対に”人間を幸せにする」――MIT研究員が語る、機械と人間の未来

Yoshiaki Hiratsuka

2014/10/22(最終更新日:2014/10/22)


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【全文】「機械の発展は“絶対に”人間を幸せにする」――MIT研究員が語る、機械と人間の未来 1番目の画像
 これまで様々な作品の中で、機械が仕事を代行する世界が描かれてきました。しかし、そんな世界を想像すると私たちはゾッとしてしまいます。機械が便利になりすぎた世界では、人間はしっぺ返しを食らうのがフィクションのセオリーだからです。

 しかし、マサチューセッツ工科大学の博士研究員であるアンドリュー・マカフィー氏は、機械技術がこのように発展すれば、間違いなく私たちは幸せになると断言します。機械の発展が我々の幸せを保証する根拠とは、どのようなものなのでしょうか。そして、新しい機械時代の到来は、人間をどのように変えるのでしょうか。ここでは、マカフィー氏が機械技術のもたらす変遷について語る、 TEDの講演を書き起こします。

スピーカー

アンドリュー・マカフィー / マサチューセッツ工科大学 博士研究員

動画

見出し一覧

・R2-D2が動く時代が来た!
・「新しい機械の時代」がくる
・未来は必ず輝かしいものになる
・中間層がついに消える
・誰もがそこそこの生活ができる世界は終わる
・経済に技術が引っ張られる世界であってはならない
・人と技術を信じ続ける

R2-D2が動く時代が来た!

 小説家のジョージ・エリオットは、数ある過ちの中でも「予言」が最も余計なものだと警告しています。20世紀で言えば、この小説家に匹敵するであろうヨギ・ベラも、彼と同じ考えでした。彼も「将来についての予測は特に難しい」と言っています。今からその忠告を無視して、非常に具体的な予測をひとつしましょう。

 人類が創り出しつつある世界は、まるでSFのようになり、今あるような仕事はますます無くなっていきます。今にでも車が自動で走るようになるでしょう。そうなれば、トラック運転手は今ほど必要なくなります。

 最近では、カスタマーサービスやヘルプデスクなど、障害対応時や原因診断時に行われているタスクを、SiriとWatsonをつなぐことで自動化しようとしています。すでにR2-D2をオレンジ色に塗って、倉庫で荷物棚を移動させているところもあります。そうなれば、倉庫を右に左に移動するほとんどの人々は要らなくなるでしょう。

「新しい機械時代」がくる

 さて、これまで約200年の間、今の話と全く同じことをいろんな人が言ってきました。近い将来、多くの人々が技術革新のせいで失業する時代が来るということです。2世紀ほど前には、機械打ち壊し運動が起こり、英国の織機が破壊されました。でも、みんな間違っていたのです。先進国の経済は、これまでほぼ完全雇用を保って順調に推移してきました。

 それに対して、ひとつ批判的な質問が浮かんできます。なぜ今回は前回と違い、順調に推移していないのでしょうか? 今回がいままでと異なるのは、ほんのここ数年だけでも、以前なら絶対に不可能だったスキルを機械が習得し始めたからです。理解し、話し、聞き、答え、文章を書くスキルです。

 しかも機械は、他の新しいスキルも習得し続けています。例えば、人間型で動き回れるロボットはまだきわめて原始的ですが、国防総省の研究部門がロボットに数々の作業をさせるコンペを立ち上げています。これまでの実績が指標となるなら、コンペによる推進活動はきっと成功するでしょう。人間が行っている多くのタスクを、人型ロボットにやらせる日もそれほど遠くはないと考えられます。

 人類が創ろうとしている世界はハイテクになって、仕事はどんどん減っています。こんな世界をエリック・ブリニョルフソンと私は、「新しい機械時代」と呼んでいます。心に留めておいて欲しいのは、「新しい機械時代」が到来することが素晴らしいニュースだということです。それは近年でも、史上最良の経済ニュースなのです。別に競争が激しいわけではないですよね。

未来は必ず輝かしいものになる

 機械時代の到来が、近頃で最良の経済ニュースなのは、主に2つの理由があります。1つ目は、技術の進歩が近年の驚くべき歩みを継続可能にしていることです。この歩みでは、総生産が上がっていく同時に物価は下がり、販売量と品質はまさに爆発的に向上しています。この現象を見て、浅はかな物質主義と言う人もいますが、それは全く間違った捉え方です。これはモノが潤沢という状態で、私たちが経済システムで提供しようとしているものなのです。

 新しい機械時代の到来が素晴らしいと言える2つ目の理由は、人型ロボットがタスクを実行すれば、人間はそのタスクを行わなくてよくなるからです。人間が苦役から解放されるのです。さて、ケンブリッジとシリコンバレーの友人にこのことを話すと、彼らは「素晴らしい! 苦役も労苦もなくなって、全く違う社会になるかもしれないね。クリエイターや探究者、パフォーマーや改革者が、彼らの支援者たちと集まって問題を話し合ったり、お互いを認め合って触発したり、刺激しあったりするようになるんだね!」と言います。

 それは、まさにTEDカンファレンスのようなものです。実は非常に多くの真実がここにあります。私は、驚くべき発展が湧き上がっているのを見ています。文書を印刷するように簡単に物体を生成できる世界では、新たな可能性が驚くほどあるのです。

 職人として、また趣味で物作りをしていた人たちが、続々と革新を引き起こします。以前は作りたくても作る方法が無く、アーティストも以前なら不可能だったことが、今では可能になりました。これは絶大な繁栄の時代の訪れです。身の周りを見れば見るほど、未来の到来に対する確信は深まるでしょう。

 私たちは、驚愕的な変革期にいます。物理学者 フリーマン・ダイソンの言葉にもその自信が見て取れます。「技術は神の賜物。生命に次ぐ最大の賜物で、芸術と科学と文明の母なのです」という言葉です。いまや、これは完全な現実です。

 しかし、それでも不安は残ります。新しい機械時代に悪いことは起きないですよね? 起こらないなら、話は終わり。ファンファーレです。帰りましょう。ですが、残念ながら私たちは未来に向かって行くうえで、2つの厄介な課題に立ち向かわなければいけません。

中間層がついに消える

 1つ目は経済的なことで、ヘンリー・フォード2世と自動車労働組合の会長だったウォルター・ルーサーが交わしたとされる、真偽の怪しい会話によく表わされています。彼らは新しい近代的な工場を視察していて、フォードがふざけてルーサーにこう言います。「ところでこのロボットたちから、どう組合費を取るつもりだい?」と。ルーサーは「じゃあそっちはこのロボットたちにどうやって車を売りつけるんだ?」と言い返しました。この逸話でルーサーが抱えていた課題は、ロボットだらけの経済になったとしたら、労働者が経済に貢献することは困難になるということです。

 このことは、経済統計から見ても明らかです。過去数十年の資本収益率(GDPに対する企業収益)が上昇を続け、史上最高になっているのが分かります。また、労働収益率(経済全体の給料の割合)が史上最低になっているのが分かり、企業収益と労働収益が逆向きに動いているのが分かります。

 ルーサーには明らかに悪い知らせです。フォードにはすごく良い知らせのようですが、じつはそうでもありません。それなりに高価な品を人々に大量に売りたいなら、多くの安定した豊かな中間層が必要になります。アメリカでは戦後、ずっと存在していた中間層が、明らかに存続の危機にさらされています。

 様々な経済統計に出ていることですが、実際、アメリカでの収入の中央値は、過去15年間下がり続けています。さらに徐々に、不平等と格差を広げてしまうような、悪循環に陥る危機にさらされているのです。

 これが引き起こす不平等と共にやってくる社会課題は、もっと注目を集めるべきです。社会課題にも色々ありますが、なかには私が懸念してないものもあります。
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 例えば、こんな写真などに代表される課題です(笑)。この種の社会問題は、私が心配している問題ではありません。機械が意思を持ち始めて立ち上がり、人間に組織的攻撃を仕掛けてきたらどうなってしまうのかという、悲観的未来像が尽きることなく思い描けます。ですが、そんな心配は私のコンピュータがプリンターを自分で認識できるようになってからにします(笑)。

誰もがそこそこの生活ができる世界は終わる

 つまり、これらは本当に心配すべき課題ではありません。新しい機械の時代に起こる社会課題をお話しするために、典型的な2種類のアメリカ人労働者の人生を話したいと思います。もっと典型的な例にするために、2人とも白人男性にしましょう。1人目は大卒の専門家で、創造性もあってマネージャーやエンジニア、医者、弁護士などの労働者としましょう。彼を「テッド」と呼ぶことにしましょう。アメリカの中間層の最上部に属しています。

 もう1人は、大学に行かず肉体労働か事務員として働き、経済的にはホワイトカラーの下位職か、ブルーカラーの仕事をしています。彼を「ビル」と呼ぶことにしましょう。もし50年前に戻れば、ビルもテッドもほぼ同じような暮らしをしていました。

 例えば1960年なら、2人とも同じようにフルタイムの仕事があって、少なくとも週40時間は働いていました。しかし、社会学者チャールズ・マレーが著書にまとめたように、経済の自動化が始まります。当時、コンピュータが業務に使われ始めた頃でした。新しい技術や自動化、デジタル機器による進歩を経済に投入し続けた結果、ビルとテッドの未来は違う方向に進み始めたのです。テッドはフルタイムの仕事を続けられましたが、ビルは違いました。

 多くの場合、ビルは経済には参加できなくなり、一方でテッドはそういったこととは無縁でした。時が経ってもテッドの家庭は幸せなものでしたが、ビルは違いました。テッドの子供は両親のもとで育ちますが、ビルの子供はほとんどの場合、両親のもとでは育ちません。他にはどんなことで、ビルは社会から脱落しているでしょうか? ビルの大統領選挙での投票率は低下し、頻繁に刑務所に入るようになりました。

経済に技術が引っ張られる世界であってはならない

 このように、社会の流れに関しては幸せな話を伝えられませんし、この流れを転換するような兆候は現れていません。どの民族集団や、人口統計上のどの集団を見ても当てはまる流れです。この格差はとても深刻なものとなって、公民権運動がもたらした驚異的な進歩でさえも、圧倒する危険があります。

 シリコンバレーやケンブリッジの友人は、自分自身がテッドのひとりなのだということを見落としてしまっているのです。彼らは、驚くほど多忙で生産的な人生を送っていて、そこから得られる全てを手にしています。でも、ビルは全く違う人生を送っています。

 両者はともに、ヴォルテールの言葉がいかに正しかったかを証明しています。仕事があれば無職だけでなく、3つの巨悪からも救われるのです。「仕事をすることで、我々は倦怠、悪徳、貧困の三大悪から免れる」とヴォルテールは言っています。

 これらの課題にどう対処すればいいのでしょうか? 経済上のゲーム戦略は驚くほど明らかで、とりわけ短期的には驚くほど単純明快です。ここ1~2年で、ロボットが全ての仕事を奪ってしまうことはないでしょう。経済学入門にでてくる古典的な戦略は、十分効果があります。例えば起業を促進し、リスクがあってもインフラ投資を倍増させ、教育システムによって適切なスキルを習得した人々を輩出できるようにするなどです。

 しかし、長期的にもし技術を重視し肉体労働を重視しない経済に移っていくのなら、もっと抜本的な介入を考えるべきです。例えば、最低限の所得保障制度のようなものです。これを聞いて、この会場には不快感を覚えた人がいることでしょう。この考えは極めて左派的なものを伴い、富の再分配をかなり過激に行う政策を意味するからです。

 少しこの考えを調査しました。この結果を知れば、不快感は和らぐかもしれません。社会主義者が熱く論ずる最低限所得保障制度の考えは、実はフリードリヒ・ハイエク(オーストリアの経済学者)やリチャード・ニクソン、ミルトン・フリードマンも推奨したことがある考えだったのです。

 もし所得保障が成功を勝ち取ろうとする意欲を削いでしまうと懸念されるなら、このことはご存知ですか? アメリカ人が誇りに思っているある社会的流動性は、手厚い社会的なセーフティネットのある北欧諸国より低いのです。経済上の戦略は驚くほど単純明快な一方で、社会上の戦略の方はもっともっと難しいということです。

 私にはビルが就職できて、一生涯働ける戦略がどんなものかは分かりませんが、教育が戦略の大きな要なのは分かります。それは、私自身が直接体験したからです。学校生活の最初の数年間、私はモンテッソーリ教育(20世紀に考案された、知的水準の低い子供に効果があるとされる教育)を受けました。私がこの教育から学んだことは、世界は面白いということです。だから、私がやるべきことは世界を探検することでした。

 小学3年生のときに学校が閉校になって、公立学校に入ることになりました。そこはグーラグ収容所へ送り込まれたかのように感じました。いまだから分かるのですが、あの学校で私がやるべきだったのは、事務員や肉体労働者になるように準備をすることだったのです。でも当時は、退屈でも周りに合わせることが、自分のやるべきことだと感じていました。私たちはもっと上手くやらなければなりません。ビルを輩出し続けるわけにはいかないのです。

 改善に向けて、色々と新しい芽が出ています。技術が教育に大きな影響を及ぼしていて、小さい子供から老人に至るまで、あらゆる学習者をやる気にさせているのです。ビジネス界の著名人が大切に守ってきたものにも、考え直す必要があるものはあると言われています。我々の地域が抱える問題を解消するために、どう介入すればよいか理解しようと、本格的かつ継続的な努力をデータに基づいて続けています。新しい芽が出てきているのです。

 でも、これで十分だというふりは一瞬でもしたくありません。現代はとても厳しい課題に直面しています。ひとつだけ例を挙げましょう。5百万人のアメリカ人が、少なくとも6ヵ月以上失業状態のままなのです。モンテッソーリ教育で彼らがやり直せば、解決するわけではありません。

 私が最も心配するのは、我々が創り出す世界です。輝ける技術が傾きかけた社会に取り込まれて、機会ではなく、不平等を生む経済に技術が引っ張られていく世界が心配です。実際にはそんな方向に向かわないと思いますし、すごく単純明快な理由から、もっとすごいことをできると思っています。事実がそこまで迫っているからです。

 この新しい機械時代の現実と、経済の変化は、広く浸透してきています。この動きを加速したいなら、議会に自律型自動車のツアーを贈ればいいでしょうね。こんなことを色々やれば、世界が変わっていくことへの理解が深まっていくでしょう。そして、数々の競走が始まるでしょう。難しい課題を解決しようともしないくらいに冷酷になることは絶対に無いと信じています。

人と技術を信じ続ける

 私は今日の話を、世紀と海を隔てた、言葉を巧みに操る小説家の引用で始めました。この話を、同じくらい遠い世界の政治家の言葉で締めくくりたいと思います。ウィンストン・チャーチルが1949年に、私の母校MITで言いました。「どこの国でも広範な大衆に豊かな暮らしを送らせたければ、あらゆる工業的生産手法のあくなき改良によってのみ、達成できるだろう」と。

 エイブラハム・リンカーンはちょっと別の面から語っています。「私は人というものを固く信じています。真実を伝えられれば、人々を頼りにして国家の危機に立ち向かえます。肝心なことは、明白な事実だけを示すことです」と。

 最後に、楽観的な私の結論をお伝えします。これは大事なことです。新しい機械時代の到来は、明白な事実です。機械時代を活用して、豊富な経済を作るという挑戦に正しいかじ取りができるであろうことを確信しています。

 ありがとうございました。(拍手)

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