1. 【全文】政府の紙幣なんてもう信用できない:企業が持つ「ブランド」が貨幣の新たな可能性を示す

【全文】政府の紙幣なんてもう信用できない:企業が持つ「ブランド」が貨幣の新たな可能性を示す

 日本でも様々な企業が展開するポイントサービス。買い物のときにポイントを貯めているという人は多いのではないでしょうか。多くの企業が自社サービスの中で流通する「貨幣」を提供しています。「これからの時代は、失墜してしまった政府の貨幣よりも、企業が出す貨幣が大きなシェアを取る時代が来るかもしれない」と、広告の専門家である、ポール・ケンプ=ロバートソンは主張します。

 ここでは、貨幣の持つ本来の意味を問い直し、新たな貨幣の形を紹介するポール・ケンプ=ロバートソンのTEDの講演を書き起こします。経済学者ではなく、マーケッターであるロバートソンの鋭い指摘に注目です。

スピーカー

ポール・ケンプ=ロバートソン/Contagious Communications(広告の専門誌)ディレクター

見出し一覧

・匿名のプログラマーが創り出した新貨幣「ビットコイン」
・政府と銀行の失墜:銀行を信頼しているのは5人に1人しかいない
・高いブランド力を持つ企業が作り出す「評判」という新しい通貨

動画

匿名のプログラマーが創り出した新貨幣「ビットコイン」

 洗剤の「タイド」(アメリカで人気の洗剤ブランド)と汗にはどんな関係があるでしょうか?もし、このような質問をしたら、最も簡単な問いだと思うでしょう。でも、タイドと汗は複雑に絡み合っていて、デジタル化されたグローバル経済における新しい貨幣の形式の実例なのです。こう言うと、おそらく「何を言っているんだ」と多くの人は思うでしょう。ちなみに私が専門にしているのは経済学ではなく、広告です(笑)。タイドと汗の関係については後で説明します。まず別の話から始めましょう。

 タイドと汗の関係よりもかなり難しい質問があります。私は数週間前にこの質問を同僚のライターに聞かれて答えることができませんでした。「世界で最強の通貨は何でしょう?」と彼は質問してきたのです。その答えは「ビットコイン」です。ビットコインに対して馴染みのない方も多いと思いますが、ビットコインは暗号通貨であり、仮想通貨であり、そして合成通貨でもあるのです。ビットコインは2008年に匿名のプログラマーによって開発されました。開発者は「サトシ・ナカモト」というハンドルネームを名乗りましたが、彼が何者なのかは誰も知りません。彼は「インターネット界のバンクシー(イギリスで活躍する覆面芸術家)」です。

 ビットコインの仕組みについて、私が理解していることを説明します。ビットコインは、「マイニング」という過程を経て取り出されます。コンピューターのネットワークを使わなければ解読できない非常に複雑な暗号があり、その暗号を最初に解いた人がビットコインを獲得します。取り出したコインは「ブロックチェイン」という帳簿に記録され、流通を始めます。ビットコインが貨幣となるわけです。ビットコインは完全に分散したシステムとなっており、そのことが普及した理由になっています。権威や国の後ろ盾はなく、実際はネットワークが管理をしています。大成功を収めたのは、私的に利用でき、匿名で高速な取引ができるにも関わらず安価だからです。

 一方で、ビットコインの市場は乱高下するという指摘があります。実際、1ビットコインあたり13ドルから266ドルという大きな幅で変動を繰り返しています。4ヶ月間で値を上げたと思えば、6時間で価値の半分を失う大暴落もありました。そして現時点では1ビットコインは110ドル前後の価値を持ちます。(編集者註:2014年9月12日現在、1ビットコインは468ドルの価値を持つ)大きな変動はありましたが、ビットコインは市場における地位とステータスを確立したようです。「Reddit(ソーシャルブックマークサイト)」や「WordPress(ブログ作成用プラットフォーム)」のように、ビットコインで支払できるウェブサービスもあります。ビットコインのテクノロジーが信頼されていることがわかりますね。もはや伝統的な制度や通貨・お金の考え方は打ち負かされ、人々は混乱しており、徹底的な通貨の見直しが求められています。

政府と銀行の失墜:銀行を信頼しているのは5人に1人しかいない

 伝統的な通貨の失墜はEUの経済危機を考えれば驚くことでもありません。最近のギャラップ(アメリカのコンサル企業)による調査では、アメリカの銀行の信頼度は21%と史上最低レベルです。
 この写真に写っているのは自転車の一部で、イギリスのバークレイズ銀行の広告です。しかし、活動家の手によってスローガンを「サブプライムまでつき進め」「バークレイズ・ジェットコースター」という風に書き換えられてしまっています。伝統的な通貨制度への信頼が失われ始めているのです。
 エデルマンというPR会社が毎年、「信頼」の評価について興味深い調査を行っています。エデルマンでは国際的な調査が行われているので、集まってくるのは世界中の調査結果です。面白いことに既存のヒエラルキーは信頼されなくなり、逆にヒエラルキーとは関係ない信頼の構造が台頭してきています。つまり、人々は企業や政府よりも自分自身に似た人を信頼するのです。信頼の数値がイギリスやドイツなどの先進国で低いという結果が出ましたが、これは恐ろしいことだと思います。人々は、政府や指導者よりもビジネスマンを信頼するということです。果たして何が起きようとしているのでしょうか?お金について考え、お金の本質を突き詰めていくとお金が表現しているのは文字通り「価値」だということがわかります。お金は「同意の得られた価値」です。デジタル時代が到来し、さまざまな方法で簡単に価値を決められるようになりました。デジタルが普及することで、ビットコインのように価値を定量化し、ずっと簡単に新しくて有効な形態の貨幣を作ることができます。ビットコインのようなネットワークを理解するためにはお金について本質から問い直すことが重要になります。「政府がお金をコントロールする理由はまだあるのだろうか?」という問いも生まれてくることでしょう。

高いブランド力を持つ企業が作り出す「評判」という新しい通貨

 マーケティングの観点から見れば、ブランドはその評判によって繁栄したり没落したりします。考えてみれば「評判」も通貨の一種なのです。評判は信頼と一貫性と透明性に基づいています。あるブランドを信頼すると決めたら良い関係を持ってブランドと関わりたいと考えることで、すでに新しい形態の「評判」という通貨を使い始めているのです。

 ブランドへの忠誠について考えると、ミクロ経済が成立していることがわかります。たとえば利用者ポイントやマイレージがありますよね。エコノミスト誌の記事によると、未払いのマイレージの方がドル紙幣の流通額よりも多いそうです。また、スターバックスに並んでいると気づくことですが、スターバックスの支払いをスターバックスカードで済ませると、支払いの30%は「スター・ポイント」として貯まります。(編集者註:日本では未導入)スター・ポイント自体がそのエコシステム内で循環しているということになります。最近Amazonが立ち上げた「アマゾン・コイン」は興味深いものです。現在は純粋にKindle専用の通貨です。Kindle用のアプリを買ったり、アプリ内での支払いができます。

 Amazonの例を聞いてから、先ほどお見せした信頼度の数値を見てみるとどうでしょうか。政府よりも企業が信頼されていることに注目してください。Amazonはこの差をもっと広げることができると気付くでしょう。アマゾン・コインを発展させることができると、Kindleに限らず本や音楽生活用品や家庭用品などを購入することができるようになるでしょう。すると、Amazonは連邦準備銀行(アメリカの中央銀行)に匹敵するブランドとなります。

 さて、話を洗剤のタイドに戻しましょう。「ニューヨーク・マガジン」という雑誌に面白い記事がありました。アメリカでは、麻薬常習者が支払いにタイドのボトルを使っているというのです。そして常習者はコンビニでタイドを盗むそうです。タイドは20ドルですが、その空きボトルは10ドルの麻薬と同等の価値を持つのです。犯罪学者がこの不思議な取引を調査し、「タイドはプレミアムな商品で、競合品より50%も高く売れる。非常に複雑な化学薬品を利用しているからゴージャスで独特な香りがするし、P&Gの持つブランド力があり、大量の宣伝も行われている。薬物常用者も消費者なので、タイドを目にすると神経が刺激されるのだろう」とコメントしています。これが「信頼」だというのです。たしかに品質という面では信頼があると言えるでしょう。こうして通貨の一単位となった「タイド」ですが、「ニューヨーク・マガジン」によると、最近では奇妙なブランド重視の犯罪が急増し、犯罪者たちはタイドを「金のリキッド」と呼ぶそうです。

 この現象を受けてコメントした、P&Gの広報担当者の反応が面白いと思いました。ドラッグとは距離を置きつつ、「気づいたことがある。ブランドの価値は下がっていないし、上ってもいないということだ」とコメントしました(笑)。これは私の主張をサポートする話で、彼は汗もにじませず言ってのけました。

 「汗」と言えばまだ汗の話をしていませんでしたね。ナイキはメキシコで「汗をかこう」というキャンペーンをしています。センサー付きのナイキの靴や「FuelBand」は人間の動きや活動量、カロリー消費を追跡します。ユーザーはナイキの商品を使うことで、ナイキのコミュニティーへの参加を選択していることになります。広告の形はサービスやツール、アプリケーションへと変わり始めています。ナイキは幸せや健康を提供する企業として、フィットネスのパートナーとして、サービス・プロバイダーとして活動しています。ナイキの打ち出す広告はこうです。「データパネルを使うことで、走った距離やGPS情報、カロリー摂取量などいろいろ集計できます。走ることでポイントを獲得でき、ポイントを使うことで利用者限定のオークションに参加できます」。このオークションには他の方法では参加できません。ナイキのコミュニティーでペソは使えません。まさに限られたメンバーだけで行われるオークションです。

 アフリカでは通話時間が独自の通貨となっています。アフリカでは、誰もがまるで当然のように携帯で送金や支払いを行います。ブランドの観点から見れば、エジプトでの「ボーダフォン」という携帯会社が良い例です。多くの人はマーケットや個人商店で買い物をします。買い物をするとき、小銭がやっかいな問題となります。例えば10セント、20セントのお釣りが生じると、お店は少額の商品をお釣りの代わりにあげることが多いそうです。小銭が無いのです。ボーダフォンはこの消費者が抱えている問題に気付くと、「Fekka」という安価な商品を作りました。Fekkaはお店からお客に渡すものです。Fekkaを使うことでお釣り分のクレジットを携帯電話に加算することができます。Fekkaが信用を得ているのはとても興味深いことです。

 我々の調査によれば、米国の消費者は45%という大きな割合で独自のブランドによる通貨でも気にせず使うと答えています。ダイナミックで面白いことが起きているのです。新しい貨幣において資産の活用が始まり、見方が改まり、取引が盛んになります。これは大きな変化でしょうか?1860年のアメリカでは、1600の企業が銀行券(銀行が発行する通貨)を発行していました。そしてアメリカ国内に8000種の紙幣があり、政府が支配していた供給量はわずか4%しかなかったのです。銀行券が終わった理由は、南北戦争の勃発です。政府は突然お金をコントロールしたいと考えたのです。政府、お金、戦争。歴史の登場人物は変わりません。

 こう質問しましょう。「歴史は繰り返されるでしょうか?テクノロジーは紙幣を時代遅れにするでしょうか?政府とお金は分離されますか?」。ブランドが政府とお金のギャップを埋めようとしています。実際、企業なら政府と違ってギャップを埋められるでしょう。

 ありがとうございました。

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