1. 【全文】元WIRED編集長 クリス・アンダーソンが語る、「集団が加速させるイノヴェイション」

【全文】元WIRED編集長 クリス・アンダーソンが語る、「集団が加速させるイノヴェイション」

 「ロングテール」や「FREE」、「MAKERS」など、数々のベストセラーで見事にWebやビジネスの未来を言い当てたことでも知られる元WIRED編集長のクリス・アンダーソン。彼はこう語ります。「YouTubeやTEDなどの動画を公開できるプラットフォームが、集団でのスキルや技術の向上を助け、新たなイノヴェイションを起こすだろう」と。

 ここでは、アンダーソンが行った講演内容を書き起こします。

スピーカー

クリス・アンダーソン/元WIRED編集長・3D Robotics CEO

見出し一覧

・わずか6歳の少年も加わる「ダンスのイノヴェイション」
・イノヴェイションに必要な「3つのダイヤル」
・動画はイノヴェイションの起爆剤:技術の進化が生む新たな展開
・動画はペンよりも強い:非言語的な魅力が人を熱狂させる
・多くの人の学びを助ける「未来の教師」はあなたかもしれない

動画

わずか6歳の少年も加わる「ダンスのイノヴェイション」

 私には心配事があります。地球の人口は今後90億に達します。どんなに楽観的に物事を捉えても、増加した人類が地球を蝕んでいくという見通しが影を落とします。でも最近では、人の集団を別の視点で見るようになりました。集団が本当にすごいことを成し遂げられる環境があるのです。その環境はどんな組織や個人でも活用することができます。このことは世界全体の未来に対する考え方を変えるものです。

 それでは、集団が偉業を成し遂げることができる環境について一緒に見ていきましょう。まずは、ちょっと変な動きをする男の子の話です。この子はウェブ上で「リル・デーモン(小さい悪魔)」と呼ばれています。男の子は動画のなかでダンスの技を見せています。多くの人がわずか6歳の少年にはできないだろうと思うような技です。彼はどうやって技を身につけたのでしょう?彼に何百時間もの練習をさせた動機は何だったのでしょう?実は動画の中にヒントがあります。


 映画監督のジョン・M・チュウがこの動画を私に送ってきました。彼は今年2月に行ったTEDの講演で、「これを見た瞬間にインターネットがダンスを発展させていることに気づいた」と述べました。ダンサーたちはオンラインでダンスの上達を競い合い、信じられないような新たな技が生み出されたのです。リル・デーモンもそこに加わっていました。まるで革命が起きたようです。ジョンは動画を見て、素晴らしいアイデアを思いつきました。YouTube上で最高に上手いダンサーたちを集め、ダンスグループを結成したのです。究極のダンサー集団、「LXD」です。ウェブでダンスを学んだLXDの集団は、とてもダンスが上手でした。LXDはアカデミー賞とTEDでもダンスを披露したのですが、私は彼らの情熱と才能に圧倒されました。

 ダンスの発展と似たような話をどこかで聞いたことがある気がしました。そして、TEDが注目を集め始めた頃、スピーカーが多くの時間を準備に費やすようになったことに似ていると気付きました。結果として素晴らしいトークが生まれました。数分間に詰め込まれた何カ月もの準備は、次回以降のスピーカーのトークのハードルを大きく引き上げました。その結果は素晴らしい物になりました。スピーカーの誰かがそうしようと言った訳ではありません。しかし、そう言ったも同然です。ダンスに関してもTEDに関しても、Web上で動画を見た人たちが改良のサイクルを推し進めたのです。

イノヴェイションに必要な「3つのダイヤル」

 現在起きていることは、「集団が加速させるイノヴェイション」とでも呼ぶべき現象の最新の事例です。集団が加速させるイノヴェイションを起こすために必要なことは3つだけです。巨大な観覧車を動かす3つのダイヤルを考えてみて下さい。ダイヤルを回すと観覧車が動き始めます。まず必要なのは「集団」、つまり共通の関心を持つ人々の集まりです。集団が大きくなるほど、より多くの潜在的なイノヴェイターがいます。しかし、実際には集団にいるほとんどの人は他の役割を果たしています。イノヴェイションが生まれるための生態系を作り上げているのです。

 次に必要なのは「光」です。集団の中でも特に最高の能力を持つ人たちの技量がオープンにされ、明らかにならなければなりません。最高の能力がオープンにされたことによって学ぶことができ、参加を後押しすることにもなるのです。

 最後に必要なのは「野心」です。イノヴェイションを起こすのは大変です。何百時間もの研究や練習が不可欠です。野心的でなければ起こるものではありません。
 インターネット以前の時代は、ダンサーの環境は画像のような感じでした。街角にいるダンサーたちは小さな集団ですが、お互いの能力はよくわかっています。この場合、社会的なステータスが野心を生むのだと思います。グループで最高の能力を持つダンサーは堂々と振る舞い、一番モテます。ここでもある種のイノヴェイションは起きているでしょう。しかし、Web上では以前よりも3つのダイヤルがうまく噛み合います。今やダンスのコミュニティはグローバルなものです。何百万人もの人がつながっていて、しかも驚くべきことに一番上手い人の技量がわかるのです。集団がトップを照らし出すからです。コメントやランク付け、Eメール、FacebookやTwitterなどの直接的な評価もあれば、視聴回数やグーグルからのリンクなどが表す間接的な評価もあります。良い動画を見つけるのは簡単ですし、見つければ何度も見返したり他の人たちのコメントを読んだりできます。Web上では様々な「光」が当たるのです。

 そして、Web上では「野心」のダイヤルは振り切れるほどになっています。Webカメラを持っているだけのただの若者でもバイラルで広まるような動画が作成できれば、観客で埋め尽くされたスタジアムのように多くの人に見られます。何百人もの見知らぬ人が動画に興奮してコメントを書きます。ちょっとしたコメントでもとても嬉しいものです。世界に知られる新たな可能性が、たくさん努力することを後押ししているのだと思います。恩恵を得ているのはスターだけではありません。だれでも最高の能力を持つ人を見て学ぶことができます。

 インターネットが生み出したシステムは、自らエネルギーを生み出します。集団が光を当て、野心に火をつけます。光と野心は新たな人を集団に呼び込む上で、決定的な役割を果たします。どんな組織でも、このシステムを使って集団が加速させるイノヴェイションのサイクルを育てることができます。集団を取り込むことで光を当て、野心を育てるのです。一番大変なのは光を当てることでしょう。オープンになり、自らの能力を全世界に公開しなければなりません。自分の最も秘密にしたいことを明らかにすることで、何百万もの人々が能力を伸ばすことに力を貸そうとするでしょう。

 ありがたいことに、ある種の人々はこのツールを活用することができません。闇の勢力は光に対するアレルギーを持っています。例えば、テロリストがオンラインに計画を公開して、「計画が上手く行くようこの日に手助けしてくれ」という事態は起こらないでしょう。皆さんはテロリストとは違い、自分の能力をオンライン上に公開できます。公開し、イノヴェイションのサイクルを回したら周りを見てみましょう。

 TEDでは、スピーカーにオープンであることを追求しています。TEDのスタッフは「徹底的なオープン性」と呼んでいますが、徹底的なオープン性に関してはいつもうまくいっています。世界に向けて講演をオープンにすると、突如として何百万もの人々がスピーカーのアイデアを広めてくれました。そして、次のスピーカーを依頼して引き受けてもらうのが容易になりました。翻訳のためのプログラムをオープンにすることで、多数のボランティアがTEDのトークを70以上の言語に翻訳してくれました。翻訳が進んだことで非英語圏での視聴者数が3倍になりました。TEDx(TEDの精神を共有するためのコミュニティ)のブランドをオープンにすることで、アイデアを広める1000以上のライブ体験が生まれました。TEDxの主催者たちは顔を合わせて互いに学びあっています。私たちも彼らから学んでいますし、TEDxからも素晴らしいトークが寄せられています。イノヴェイションの観覧車は回っているのです。

動画はイノヴェイションの起爆剤:技術の進化が生む新たな展開

 少し視点を変えましょう。イノヴェイションが集団から生まれるという話は別に新しいことではありません。「孤高の天才の閃きが世界を変える」というロマンチックな考えは、誤解を招くものだと聞きました。「巨人の肩の上に立つ」と言ったニュートンは、集団がイノヴェイションを起こすことに気づいていたようです。人間は社会的な生きものなので、互いに刺激を与え合うのです。

 インターネットがイノヴェイションを加速させるというのも、新しい話ではありません。15年にわたり、強力なコミュニティがオンラインでつながり互いを刺激してきました。プログラマーにとってのオープンソースの動きは、集団によって加速されるイノヴェイションの良い例です。ここで大事なのは、集団がつながることができるのは彼らの作品がデジタル化し、簡単に共有できる写真や音楽ソフトウェアになっているということです。だから、私はオンライン動画の興隆にワクワクしています。重要性はあまり知られていませんが、オンライン動画の技術は世界の様々な才能をデジタル化して共有することができるので、集団によって加速されるイノヴェイションを新たに作り出すことができます。初期のころ、Webにはほとんど動画がありませんでした。動画ファイルはサイズは重くて見ることが難しかったのです。しかし、この10年で帯域が100倍に広がりました。今では毎日8000万時間もの動画がYouTubeで見られています。シスコシステムズ(世界最大のネットワーク機器開発会社)は、4年以内にWeb上のデータの9割以上が動画になると予測しています。もしそれが全てペットやポルノ、海賊版の動画だとしたら暗い気持ちになりますが、そうはならないでしょう。動画が多くの容量を使うのは大量のデータを含んでいるからです。私たちの脳は動画内のデータを解読することができます。
 この動画に映っているのは、サム・ハーバーという一輪車乗りです。YouTubeが現れる前、一輪車を使ったスポーツが持つ真の可能性を知る術はありませんでした。このスポーツを言葉で伝えるのは不可能です。しかし、見知らぬ人が投稿した動画が一輪車スポーツの可能性を開きました。突如として彼は他のライダーと競い始め、革新が起きました。世界中にある一輪車乗りのコミュニティがオンラインで互いを見つけ、刺激しあってスキルを高めました。スポーツから芸術まで、一輪車スポーツと同じようなことが山のように起きています。動画がスキルを向上させるのです。私は以前、趣味の雑誌を編集していましたが、これは本当に素晴らしいことだと断言します。動画には情熱があふれています。

 もしルーブ・ゴールドバーグ・マシン(からくり装置)が動く動画や詩が読まれるような動画が好みでなければ、「JoVE」というWebサイトはどうでしょうか。JoVEは、検証済みの科学研究をビデオとして公開するためのWebサイトです。伝統的な科学論文には問題があります。紙に書かれた実験を再現するのに何ヶ月もかかるのです。それを不満に感じたのが、JoVEの創設者であるモシェ・プリツカーです。実験再現のために何十億ドルものお金が無駄遣いされていると彼は主張します。でもこの動画を見てください。
 言葉で表現するだけでなく、見せることができたら多くの問題は解決します。動画が科学の進歩を劇的に加速させる日が来ると言っても過言ではありません。

動画はペンよりも強い:非言語的な魅力が人を熱狂させる

 TEDと似た理念を持つ取り組みは他にもあります。アイデアを広める上で、動画はしばし印刷物より強力なのです。なぜ人々はTEDの動画を好んで見るのでしょう?TEDトークで話されるアイデアの大半は、既に紙で発表されています。読む方が動画を見るより早いのに、なぜわざわざ手間をかけるのでしょう?動画はただ単位に内容を話すだけでなく、見て学ぶこともできます。見せるための演出をしなくても、言葉よりずっと多くのことが伝えられるでしょう。動画が持つ魅力を考えてみると、非言語的な部分に重要な秘密があるようです。体を使ったジェスチャーや声の抑揚、顔の表情、アイコンタクトやボディランゲージ、聴衆の反応を感じとる力。実にたくさんの無意識的な手かがりから、聴衆がどれほど理解しており、インスピレーションを受けているのか、光や野心を得たのかがわかります。信じられないことに、無意識的な手がかりは数インチの画面上でも伝わります。

 読み書きというのは、実は比較的最近の発明です。しかし、互いが面と向かって行うコミュニケーションは何百万年という進化の中で発展してきました。だから神秘的で大きな力を持っているのです。誰かが話すと聴き手の脳はそれに呼応し、集団全体も活動します。対面のコミュニケーションは何千年にもわたって文化に育まれ、人々をつなぐ役割を果たしてきました。しかし500年前に強力な長所を持つ競争相手が現れました。印刷が普及したのです。世界のイノヴェイターや有力者たちは、印刷で自らのアイデアをより遠くへ広められるようになり、話し言葉の技法は大きく衰えました。でも現在は再び状況が変わってきています。グーテンベルク(活版印刷の発明者)が書き言葉にもたらしたものを、オンラインの動画は対面のコミュニケーションにもたらすことができます。

 オンラインの動画は、脳とぴったりつながる重要なメディアであり、グローバルで巨大なものです。私たちは昔の話し言葉の技法を再発明しなければならないでしょう。1人の話を何百万もの人が見る時代がやってきました。良いアイデアは注目を集め、学びたい、反応したいという強い欲求を生み出します。才能ある学生が無能な教師に才能や夢を潰されずに済むようになりました。これは人類史上初の出来事です。世界の最前線をすぐそばで感じることができるのです。時代の中でTEDが果たす役割は小さなものです。世界の大学がカリキュラムをネット上に公開し始めています。多くの個人や組織が、知識やデータをオンラインで共有しています。何千という人々が新たな学びと発信のサイクルを見出しています。

多くの人の学びを助ける「未来の教師」はあなたかもしれない

 ここまで考えているうちに、TEDが進化すべき方向性が見えてきました。TEDのトークは一方通行や「1対多」では駄目なのです。TEDの未来は「多対多」にあります。世界に存在するTEDのコミュニティーでは、「多対多」のコミュニケーションを実現するための方法を考えています。講演内容に対してコメントをしたり、自らのアイデアを披露したり、自作のトークを募り、その中から最良のものに光を当てるというのも面白そうです。巨大なストックから最良のものを浮かび上がらせることができれば、イノヴェイションの観覧車が動き出します。
 
 TEDで取り組んでいることと同じようなことが世界の教育界で起きていることをご存知ですか?骨の折れるようなトップダウンのプロセスである必要はありません。誰でも参加できる自律的なサイクルでいいのです。今は「参加の時代」なのです。学校はクローズドになってはいけません。我々は大学の卒業までで学ぶことを止める訳にはいかないのです。人口が90億になった時、人間が学びを通じて、互いに略奪するのでなく互いの役に立てるように働きかけたらどうなるでしょう?全てが変わります。前例がないぐらい多くの教師を必要としますが、教師なら至る所にいます。教師は集団の中にいます。集団が光を当てることによって、初めて教師のことが見えるようになります。集団が光を当てることで他人の集まりではなく、教わるべきことを持つ人たちなのだとわかるのです。教師は誰になるのでしょう?それはあなたです。あなたは人類史上最大の学びのサイクルを回そうとしている集団の中にいます。学びのサイクルを使えば、より賢くより良い方向へと向かうことができます。
 画像に写っているのは私が育ったパキスタンの故郷にある、近くの村に住む子どもたちです。彼らは5年以内にネット動画を視聴したり、Webに動画をアップロードできる携帯電話を持つようになるでしょう。15年後、後ろの右側にいる少女があなたの孫のために、世界をより魅力的な場とするアイデアを語っているかもしれません。そうしたことは実際に起こりつつあります。

 最後に、アフリカ最大のスラム街にいる友人のビデオを紹介します。
(以下、映像)

 私はクリストファー・マカウと言います。「TEDxKibera」の主催者の一人です。キベラ(ケニアにあるスラム)では、素敵なことがたくさん起きています。あるグループはゴミ捨て場を菜園にしました。それまでゴミ捨て場は強盗事件が起きる犯罪地域でしたが、ゴミを使って堆肥を作ることで、30世帯以上の食料を賄うようになりました。私たちは自前の映画学校を持っています。Flip(シスコシステムズが発売していた小型のビデオカメラ)で録画し、編集したリポートを「Kibera TV」というローカル番組で流しています。土地が限られているので、ずた袋で野菜を育て生活費も節約していますが、視点を変えることで変化が起こります。今では、私はキベラを別の見方で見ています。TEDの皆さんと全世界に言わせてください。キベラはイノヴェイションとアイデアの宝庫です(拍手)

(映像ここまで)

 クリストファーはいつも元気あふれる人に違いありません。初めて試みたチャレンジでしたが、私たちはスクリーンを通してお互いの顔を見ています。今、マカウとその仲間たちはナイロビで私たちのことを見ています。今日は君たちから学ばせてもらいました。ありがとう。

U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう
この記事を報告する