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【全文】「表は簡単に、裏は高度に」:BASE鶴岡裕太氏が語る、絶対に曲げないサービス設計のキモ

椿龍之介

2014/10/02(最終更新日:2014/10/02)


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 無料でネットショップを開設することができるサービスの「BASE」。それまでネットショップとは無縁だった主婦層がBASEを利用してハンドメイドの商品を売り出すなど、個人向けのショップのプラットフォームとしてその規模を拡大しています。

 ここでは、そのBASEを運営するBASE株式会社の代表取締役をである鶴岡裕太氏と、鶴岡氏を学生時代からメンターとして支え続ける家入一真氏が、サービスを開発するために必要なこだわりと、流行るサービスを作るために考えるべきことについて語った、ドリコムのインキュベーションプログラム「 Startup Boarding gate」のキックオフイベントでのパネルディスカッションを書き起こします。

スピーカー

家入一真氏/連続起業家・モノづくり集団Liverty 代表
鶴岡裕太氏/BASE株式会社 代表取締役

(モデレーター)
内藤裕紀氏/株式会社ドリコム 代表取締役社長

見出し一覧

・エンジニアは「職人」。心とプライドをケアしながらリリースを目指す
・「神は細部に宿る」。細かい部分にはこだわりが必要
・Webサービスの成功には時代の流れも重要。とにかくたくさん作ろう
・「マネタイズなんてどうでもいい」はウソか?本当か?
・ビジネスのアイデアはそこら中に落ちている

エンジニアは「職人」。心とプライドをケアしながらリリースを目指す

内藤:
失敗についてお話を伺いたいのですが、サービスが立ち上がるまでの間で、気を付けていた点や実際に失敗してしまったという話を教えていただけますか。

鶴岡:
立ち上げの時はメンバーの数も少ないので、どうしてもクリエイターとエンジニア、デザイナーに依存しちゃうんですよね。エンジニアは大切ですし、これからは比較的エンジニア側にどんどん力を入れていきたいと思います。エンジニアをいかにマネジメントするかは結構大事だと思っていて、BASEの場合も報酬がない状態に似た概念の中で、やりがいだけを担保しているわけです。途中でモチベーションが落ちていく中で、エンジニアとか作り手をどうやってケアしていけるかが重要になるでしょう。BASEの場合は、幸いなことに僕もエンジニアだったので、エンジニアの心境はなるべく理解できるようにしていましたし、僕も開発をしていました。エンジニアのモチベーションをちゃんと保ってあげることが、サービスを立ち上げる期間は大事だと思いましたね。

内藤:
エンジニアの人のモチベーションを上げる秘策は何ですか?何をしたらエンジニアのモチベーションは上がるんでしょうか?

家入:
エンジニアは職人みたいなところがあるので、職人としての気持ちを推し量ってあげることが重要です。僕もプログラミングをしていたので、何となくエンジニアの気持ちがわかるんですよね。

内藤:
3人とか4人だろうが、エンジニアが結束しないとサービスはリリースできなくなってしまいますよね。

家入:
エンジニアの中でもいくつかのタイプがあります。新規で開発することが好きなタイプもいれば、保守運用が好きなエンジニアもいるんですよね。だから適材適所というか、ちゃんと考えて配置してあげることが重要です。あとはマネジメントが重要。日本の組織は役職が上がると、最終的にマネジメントやマネージャーになるイメージがあるじゃないですか。でも、管理職に向く人も向かない人もいるわけですよね。だから、エンジニアによって違うキャリアプランを見せてあげる。「ここにいたらこういうエンジニアになることができますよ」という夢を見せてあげることが大切です。

内藤:
エンジニアのマネジメントは組織が大きくなってからの話ですよね。リリースするまでの短期決戦の場合はどうなのでしょうか。

鶴岡:
BASEでは、メインのエンジニアが途中でモチベーションが落ちて開発しなくなってしまったということが実際にありました。幸い僕もプログラミングが出来たので、僕の場合は「来なくていいよ」と言いました。結局最後は来たんですけどね。イチかバチかの勝負に出て、「ここまで手伝ったんだから、最後までやろうよ」というように説得しました。エンジニアの心が分かることが一番大事なところで、エンジニアって独特の生き物じゃないですか。プライドも比較的高い場合があるので、なるべくエンジニアの心をケアしてあげて、あとはその場に流れる雰囲気を読むしかないです。

「神は細部に宿る」。細かい部分にはこだわりが必要

内藤:
人手も足りず、期限までにリリースまでこぎつけなければいけないという場合、どうしても手抜きをしてもいいところとこだわるところを考えなければなりませんよね。全部は出来ないので、絶対にこの部分は外さないという部分も当然出てきたかと思います。BASEの場合、絶対曲げたくないこだわりはどの部分にあったんでしょうか?そしてどの部分で「ここはしょうがない」という割り切りをしましたか?

鶴岡:
僕の場合は、母親でも出来るという明確なコンセプトがありました。そこで大切にしたのは、「表は簡単に裏は高度に」という仕組みなんですけど、ユーザーに対してこの機能が出来て、この機能は出来ないという概念で作っていました。なので、機能というよりかはUIやデザインを大事にしてましたね。

内藤:
家入さんは昔からデザインに結構こだわりを持っていたと思うのですが、BASEを作るにあたって、こだわった部分とどうでもいいやという部分はどこにありましたか?

家入:
僕は雑なように見えてすごく細かいんですよ。なので、デザイン面では割と僕から口出しをすることがありました。サイトの微妙な配置のズレとかが特に気になるんですよ。

「1ピクセルずれてる」という指摘もしました。僕はそういう色やピクセルのズレなどの細部のデザインに目がいってしまう。「神は細部に宿る」という言葉があるように、細部のいい加減さがサイトの崩壊に繋がると思うんですね。なので、BASEの完成直前のときは、トップページのデザインやティザーサイトなど、デザインに関してやたら口出ししてたような記憶があります。

内藤
チームの中でも、1ピクセルにこだわろうという意識は強かったのですか?

鶴岡:
そうですね。家入さんからは細かなフィードバックを頂きましたし、僕も細かなところにこだわりを持つ志向があったので、細部に関しては大事にしたいと思っていました。インスタントアプリを使って一気にサイトを立ち上げるムーブメントがありますが、Bootstrapで作っているようなサイトは、あまりユーザーの評価は良くないと思っています。細部にこだわらないと基本的にはユーザーの視点に立てないと思います。サイトに関しては細部のデザインに関しては妥協してはいけないと思いますね。

内藤:
私もその辺は大切にしてるんです。例えばPowerPointの資料の中に、フォントの種類が違うものが混じっていたりすると、「ちょっとこのサービスはダメだ」と思ってしまうことがあります。それでは逆に、サイトをリリースするときにここは手を抜いてもいいかなと思った部分はどこですか?

鶴岡:
多少のバグには目をつぶりました。リリースした日にあたふたするのはしょうがないです。

内藤:
手入れるところと手を抜くところを分けないと、決まった期間の中でものを作ることは難しいですよね。

家入:
特に自社サービスに関して言えるのですが、どうしてもスケジュールは押しがちになってしまうんですよね。デザイナーとかエンジニアはいいものを作りたいという思いがとても強いので、立ち上げ予定日が決まっていても、「あと1週間もらえたらここがもっと良くなる」という要望が入って、「それじゃあ1週間延ばそうか」という発想になりがちなんですね。納期がないだけに。だけど、期間に関してはある程度線を引いてしまわなければいけない。だから、BASEも多少のズレはありましたが最終的にはここの段階で出そうと決めて、そこまでに間に合わせました。最低限ないといけない機能は付けましたが、あとはむしろ出した後に、「BASEはこれからこんな機能が付きますよ」と積極的に宣伝することでユーザーの期待を煽って、「まだまだこれから色々機能がついてくるのか」とワクワクさせるようにしました。逆転の発想ですよね。

内藤:
リリースした後で、「やばい、作り直そう」と思い立って0からやり直すっていうタイミングはありましたか?

鶴岡:
デザインが気に入らなかったので、全部やり直しました。でも、BASE以前に出したサービスの経験から言っても基本的にはリリースしないと分からないというのもわかっていたので、「いったん出しちゃおうかな」という感じで最後はえいっと出してしまいました。

内藤:
「気に入らない」という感覚は結構重要で、サービスを作るとき、「今までの時間がもったいないから気にいらないけどこのままいこう」と思うと、失敗してしまうというパターンが本当にたくさんあるんです。でも、「気に入らないからもう1回やろう」と周りに言うと、理解が得られないときもありますよね。0からやり直しをするときのチーム内の心境はどのような感じでしたか?

鶴岡:
僕がある日「このデザインはやっぱやめよう」と言いました。管理画面もほとんど完成した段階で一気に全部作り替えようと思い立ちました。直感ですよね。

内藤:
突然思いついたんですか?それとも日々やり直そうと思い続けていたんですか?

鶴岡:
僕は突然思い立ちましたね。六本木の家入さんのオフィスに泊まり込んで作業していたんですが、その時は徹夜で作業してて、休憩も兼ねて朝方に3時間ぐらい散歩に行ったんです。散歩しているときに、ふと「このデザイン駄目だな」と思い立って、オフィスに戻って来たときに「デザインをやり直します」と言いました。

内藤:
その時のみんなの反応はどうでしたか?

鶴岡:
意外に受け入れられました。モチベーションもそこまで変わらなかったと思います。デザインに関しては、僕がコードを書いていたという部分も大きいですね。だから「自分だけやり直します」という感じでした。

内藤:
まずアイデアの時点で「やっぱりこの企画やめよう」というタイミングと、作る中で、「やっぱりおかしい」とやり直すタイミングがあると思うんですけど、家入さんは今までのサービスで「やっぱりこれ出すのやめよう」と思った経験はありますか?

家入:
基本的にどんな場合でもサービスとして出します。でも、途中で飽きてそのまま出さないサービスも結構あります。ただ、さっきのシステムを作り直す話で言うと、エンジニアだと、たまに「1からソースコード書き直したくなる病」にかかることがあるんですよ。それをいかに防ぐかっていうのが重要ですね。

内藤:
エンジニアがもう1回ソースコードを書き直したいと言い始めたときはどうしていますか?

家入:
基本的に書き直しは許可しないです。ただ、今後の拡張性の話をされると「確かに」と思うこともあります。でも、基本的にはサービスを出して、あとはその後から考えていくようにしています。

(以下、質疑応答)

Webサービスの成功には時代の流れも重要。とにかくたくさん作ろう

Q:
BASEの立ち上げはお母さんの要望だったという話がありました。お母さんの要望というのは、ビジネスチャンスを探している中で「ビジネスチャンスが来た」と感じるものだったのですか?それともお母さんの要望を叶えることが勝手にビジネスとして成立したのですか?

鶴岡:
作っているうちにビジネスになったという印象が強いですね。BASEも当初は、家入さんと2か月に1個ぐらいWebサービスを作っていくという活動の一つでした。BASEはその中の一案でしかなかったですし、たまたま成功しただけで、これが全く使われなかったら、たぶん次のサービスを作ってたでしょう。成功させるという強い意識はなかったですね。

Q:
今のBASEがうまくいった理由はどこにあると考えていますか?

鶴岡:
ユーザーがいたということですかね。サービスが当たる理由は、基本的にはプロダクトの良し悪しがあると思うんですけど、それ以上に時代の流れや運が含む要素が強いと思うんですよ。仮にBASEを今作ったとしても、ユーザー数は増えないと思います。僕はいっぱいサービスを作るべきだと思うし、それがたまたま時代の流れにハマったらしっかりとサービスを伸ばしていくべきだと思います。

「マネタイズなんてどうでもいい」はウソか?本当か?

Q:
マネタイズに関してですが、「ユーザーをたくさん囲えれば、どうにかなる」という考えで本当にいいのでしょうか?将来的には、マネタイズできるから今は無視してもいいという考えでしょうか。それともそもそもユーザー数を重視していて、本当にマネタイズ自体を考えてないんでしょうか。

鶴岡:
作った時は「母親のために」というコンセプトがありましたが、実際に作ってみると、有名な方に会う機会ができたり、スパイラル式に自分の成長にも繋がると思います。だからサービスの成長とともに自分の夢も大きくなっていくと思うんですよね。BASEも最初は母親の為に作ったんですが、途中から決済事業をやりたい、銀行のようなものを作りたいという風に目標も変わっています。今のBASEは無料でカートが使えるんですが、これは最終的な目標を叶えるための手段かなと思っていて、だからこそマネタイズしなくてもいいかなと思ってるし、マネタイズの仕方がよくわからないので、頭のいい人がやってくれたらいいかなと思っているんですよ。

基本的に、僕は思ったことをやりたいタイプなんです。いきなり「僕、これやりたいです」ということがよくあります。やりたいものに対して「儲からないんで、お金どうにかしてください」という役割もあると認識しています。僕は人に喜ばれるサービスを作ることができればいいと思ってるし、人々の生活を変えるようなサービスを僕は作るべきだと思っています。お金を稼ぐのはその分野の人がやってくれればいいかなと割り切っているのが現状ですね。

家入:
僕は「マネタイズ」という言葉が本当に嫌いなのですが、考えなくてはいけない問題でもあります。利益は企業が走り続けるためのガソリンのようなものです。だから、企業を続けるためにマネタイズは考えなければならない。だけど、サービスを立ち上げる時にマネタイズについて考えてもしょうがなくて、マネタイズが事業計画書通りに行くことはほとんどない。事業計画書を実際に見る機会もありますが、その通りいった試しがない。先にあんまりマネタイズについて考えすぎるとよくないなと思うし、かといって考えなさすぎるのもよくなくて、マネタイズをするポイントを先の方にどっかに漠然と見据えておいてから、サービスを立ち上げることが重要なんです。だから、「ユーザーがある程度行けば、どうにかなるんじゃないですか」と軽く言うのが嫌なのであれば、「だいたい考えてますよ」と言うぐらいでいいんじゃないですか?

内藤:
結局どうしてマネタイズをしなければならないのかを考えると、会社を存続させるためなので、マネタイズをしなくてもお金さえ集められれば、大きなオフィスにたくさん人がいる会社もできます。それではお金が集まるサービスがどういうものかというと、ユーザーがとにかく集まっているサービスです。

ユーザーの規模にもよりますが、一日に1000万人ほどの人がスマートフォン向けのサービスに集まればお金も集まります。ユーザーが集まるとお金が集まる仕組みですが、どこかの会社が買収してくれるかもしれないという場合もあります。投資側からすると、たとえ利益が上がっていなくても、買収されるというEXIT戦略もあるので、ユーザーが多いほうが投資しやすいというのはありますね。

ビジネスのアイデアはそこら中に落ちている

【全文】「表は簡単に、裏は高度に」:BASE鶴岡裕太氏が語る、絶対に曲げないサービス設計のキモ 2番目の画像
Q:
家入さんが「一人のことを思い浮かべることが出来ないサービスはうまくいかない」と言っていましたが、イメージというのは身近な関係の人がいいんでしょうか?イメージできるターゲットの良し悪しの基準を教えて下さい。

家入:
あまり区切りはないと思います。相手の顔を思い浮かべて、手紙を書くようにビジネスを作れとよく言うんです。要するに、「お元気ですか?」「最近、困ったことはないですか?」みたいなメッセージが必要。容易に想像できて、相手のことを一方的に思いやることができる人がターゲットにふさわしいですね。ターゲットが最近、困っていることや喜んでくれそうなことを連想するぐらいでいいと思うんですよ。とても身近にいる人である必要はないですし、最近会っていない友達とかもいいでしょう。例えば、友達が地方で農業をしていて、サポートしてあげたいなと思うことでも十分です。なんでもいいんですよね。

よく「ビジネスのアイデアの見つけ方を教えて下さい」と聞かれるんですけど、実はビジネスのアイデアはそこら中に落ちています。自分の身近な誰かのことを思い浮かべれば、その人たちの為にやれることはたくさんあるはずで、それは別にビジネスじゃなくてもいいと思うんです。やれることは肩たたきとか、台所掃除かもしれない。でも、そういった思考からニーズが見つかり、アイデアの種が見えてくると思います。だから、ターゲットの境界線はあまり意識しなくてもいいんじゃないですか?

Startup Boarding Gateとは

 「Startup Boarding Gate」とは、起業を目指す学生が持つ「ものづくりへの想い」をカタチにするプログラムです。Startup Boarding Gateの目的は、「これまでの世の中にない価値を若者の手で生み出す」こと。ドリコムではStartup Boarding Gateを通じてイノベーションを起こす起業家の育成・支援を行っています。


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